株主・投資家向け情報

2011年7月29日(金)第1四半期決算説明会
質疑応答
Q 11-1

 3DSについてどうして今回発表があったような値下げができたのか。日本的な経営をしている会社は非常に意思決定のスピードが遅く、発売してから半年足らずで価格を1万円も下げるようなことはしない会社の方が多い。任天堂のこの決定の背景は、属人的な岩田社長の決断によるものか、それとも組織的なことか教えてほしい。また、開発リソースについても聞きたい。一つはWii UとWii、DSと3DSに開発リソースを割かれていて、特にWii Uはかなりリッチなコンテンツなので、開発人月を割かないとできない状況になっていて、そちらに社内リソースを取られているのではないか。今後3DSを再起させて、さらにWii Uを拡大するのに社内リソースをどう持っていこうと考えているのか。もう一つが、サードパーティーの方で、当社のように薄く広く売るといった戦略をとらず、限定版が初回出荷の半分以上というマニアックなビジネスをしているところが増えているので、薄く広くのゲームをサードパーティーにつくってもらえていない。この辺りはどう対応しようと考えておられるのか。

A 11-1

岩田:

 値下げを決断できた理由は、ゲームキューブの教訓でしょうか。ですから、その意味では、少々属人的、すなわち、現経営陣は全員、「ゲームキューブの時にチャンスがあったのに、それを活かせなかった」という体験をしてきたわけですから、これは私1人がということではなくて、今の意思決定をしている経営陣の中でそういう意識が共有されているということが大きいと思います。もう一つの要因としては、当社の財務体質がございます。「このビジネスは非常にハイリスクなので、流動性を厚く持たせてください。厚く持っているから、選択肢が増えるのです」ということをこれまで繰り返し申し上げてまいりました。この間、DSもWiiも良い循環で回った時期が続きましたので、「いや、そんなにお金を持っていなくても大丈夫じゃないか」というご指摘をいただくケースもあったのですが、やはりこういう局面でこれだけの決断をしても、そして同時にWii Uの開発を進め、そのビジネスリスクも同時に背負っていくということも含めて決断できるのは、そういう要素もあると思います。これが良い結果になるように最大限努力いたします。
 それからリソースの問題、開発チームの人材の問題について、当然ですが、プラットフォームの端境期というのは非常に難しいです。現状のプラットフォームの勢いを出さねばならない、勢いを維持しなければならないという部分と、これからのプラットフォームの準備をするという仕事が同時に発生する時期は当然人手が足りなくなります。任天堂の中で、そういう面で人のやり繰りに何の苦労もしていないと言えば、嘘になります。しかし、一方で私たちが「本当に社内でやらなければいけないことは何なのか」ということと、それから、「外のチームにご協力をいただきながら一緒にやるべきことは何なのか」ということについての境目を、以前よりも少し大胆に、外の力をお借りして一緒にやっていく方向に変えています。その姿が具体的に見えやすいところと見えにくいところがあって、例えば「なぜ任天堂の看板タイトルなのに内部制作ではないのか?」というように見えているタイトルに関しては、クオリティーを維持しつつ社外のチームの方にお手伝いいただくことで、品質的に高いレベルのものができるということのメドが立ったからそのようにしました。そのことによってリソースの取り合いという問題に関しては、何十人単位での大きな解決ができているわけです。そういう判断を実はあちこちでしておりますので、苦労はしておりますけれども、解決できないほど大きい問題だとは思っていません。
 サードパーティーさんの件ですが、社外のソフトメーカーさんのケースでは、DSの時には社外のソフトメーカーさんの成功例が非常にたくさん生まれましたので良い循環に回りましたが、Wiiでは海外においていくつかの成功例は出ていますが、国内はソフトメーカーさんの決定的な成功例がつくれなかった結果になっています。今、当然いろいろなソフトメーカーさんと密にお話をしながら今後の3DSやWii Uの展開を考えていますので、単純にWiiの時に起こったことがこれから3DSやWii Uで起こるということがないようにするという点では、私たちは万全の備えをしていると今は思っています。やはり、実際に何かうまくいった例をプラットフォームの初期の段階で確立することが、実は何よりも重要だと思っています。そうすると、みなさんが「あれに続け」と考えられるようになり、「自分たちのお客さんにはこうすればアピールできる」というパターンが見えてきますので、何とかそれを見えやすくするというのが私たちが今努力しなければならないことだと思います。

Q 11-2

 サードパーティーさん、モバゲーさんやグリーさんでもそうだと思うが、非常にマニアックな方向にビジネスが向いていて、当社だけがライトユーザー向けのタイトルを投入するというような状況になってしまっている。サードパーティーさんの開発の考え方を当社の方からアプローチして変えるということは可能か。できないのであれば、当社が自社でリソースを投入してそういうものを出し続けるしかないという考えなのか。

A 11-2

岩田:

 今おっしゃったように、私たちがサードパーティーの開発者の方の考えを変えるようにアプローチするというようなことは、私たちは考えておりません。むしろ、ソフトメーカーさんのお持ちになっている良い面をどうしたら活かせるのかとか、どこにチャンスがあるのかというお話し合いであれば、これは喜んですべきだと思いますし、現にしてもいます。また、逆にソフトメーカーさんのお客様で自分たちのアピールしやすい、得意なファン層をお持ちの会社さんがあったら、その会社さんと私たちのプラットフォームの間の距離を近付けるためにどうしたらいいかということを一緒に考えていくべきではないかと思います。私たちは、(先方が望んでおられないのに)他社さんに何かをお伝えして変わっていただくというような発想はしておりません。

Q 12

 アイテム課金のビジネスについて。ソフトメーカーの中にはアイテム課金のビジネスにリソースをシフトしている会社も出てきており、ソフトメーカーにとって課金を自由にできるプラットフォームの魅力が高まっていると思うが、それに対してどう考えているか。それに関連して、先ほどデジタル・ディストリビューションという話があったが、オンラインビジネスの売上高は2011年3月期は80億円だったと記憶しているが、それがどういう時間軸でどのような規模で増えていくというイメージなのか教えてほしい。

A 12

岩田:

 アイテム課金そのものを、私は全然否定しておりません。以前に私が申し上げたことがあるのは、「ゲームを無料で始めていいですよ、というやり方でアイテム課金をするというビジネス構造は、私たちがやろうとしているゲームビジネスと価値のアピールの仕方が全く違いますので、その枠組みでは自分たちのコンテンツの持つプレミアムな価値というものが傷つくのではないか」ということです。(※2
 「アイテム課金に関して、任天堂は将来どうするのか」とか、「任天堂のプラットフォームはアイテム課金への備えをどうするのか」ということについてですが、3DSでもWii Uでも、いわゆる追加コンテンツ、あるいはアイテム課金という形で課金ができるような仕組みを現在整備中ですので、3DSでは年内にそういうことが可能になる見込みです。これは、プラットフォームとして、「ソフトの作り手の方に柔軟な選択肢を用意すること」を意味しますが、「私たち任天堂がソフトの作り手としてのポリシーをどうするのか」という問題とは別です。
 では「ソフト作り手としての任天堂はどう考えているのか」についてですが、これについては一度、良いチャンスなので、お話ししておこうと思います。一般的には、「任天堂はアイテム課金に否定的である」、すなわち「任天堂は追加コンテンツやアイテム課金でお金をとるということには全く興味を持っていないのだ」と認識されているかもしれません。このことは、宮本ともずいぶん話をしていることなのですが、例えば「何かのゲームを全部遊び終わったが、もっと遊びたいので、追加ステージがあったらいいな」ということがあった時に、私たちが追加ステージの制作にしかるべき労力を注ぎ込んで、それを後から配信することでそのゲームの寿命が延びたり、話題が増えたり、売上が伸びたりするとしましょう。そうしたら、「そういうものをお客様と折り合いのつく価格で追加コンテンツとして買っていただいても良いのではないか」という話をしています。例えば、将来、任天堂の何かのゲームの追加ステージとして、「これを遊ぶためにはあといくら払っていただけませんか」ということはあって良いのではないかということです。一方で、「これは私たち任天堂がどうしたいのか、という考えであって、世の中の他の会社さんが正しいとか間違っているとかいうことを言いたいのではありません」という意味でぜひ誤解なく聞いていただきたいのですが、私たちの価値観では、「数字のパラメーターだけを触って、何かの鍵を開けるとか、何かがものすごく有利になるとかという形で課金する」ということは、クリエイティブの労力に対する対価ではない全然別の構造なので、それを追求すると確かに短期的に収益は上がるのかもしれないのですが、お客様と私たちの間での長期的な関係はつくれないのではないかというふうに思っていまして、こういう形での課金は、私たちのコンテンツに対してはすべきではないと、いうことも同時に話しています。
 それから、もう一つは、今までずっとパッケージソフトウェアというのは、最初に一定のお金を払っていただいて、それをいくら遊んでも同じ料金というのがこれまでのビジネスモデルだったわけですが、このビジネスが今後もずっと同じように通用するのかということは当然いろんなみなさんがスマートフォンやソーシャルゲームの影響も含めて議論されていることかと思います。任天堂も、コンテンツの内容によっていろんなお金の支払われ方があって良いと思っています。しかしながら、そのことを実現するためには先ほどの二つ目の質問にも絡むのですが、いかにお客様と電子的にデジタルにものがやり取りできるようになるかということが解決できないと、すなわち、別の言葉でいうとネット接続率が上がって、お客様が電子的に決済をするということがもっと一般的にならないと実現できないわけです。現時点でも、ニンテンドーDSよりニンテンドー3DSははるかにネット接続率は高いですが、それでもまだ、100パーセント満足できる水準ではありませんし、その中で有償でコンテンツをダウンロードしていただいている方はさらにその中の一部になりますから、私たちはより魅力的な提案をいくつか展開することで、お客様がデジタルに、しかも自分が得たコンテンツの価値やそれをつくるのに要した労力と、自分の払っている対価が妥当なバランスであると感じていただけるような、言い換えると、長期にわたって継続できるようなデジタルビジネスをつくりたいと考えています。これは、今はまだ『ニンテンドーeショップ』を始めたばかりで『ニンテンドーeショップ』にもまだ改善点がありますが、今までよりはるかに前提条件は整ったと思っています。これをこれから、私のイメージでは3年ぐらいでもっともっと大きな存在にしたいと思っています。これは3年でパッケージソフトがなくなるということを申し上げたいのでは全くなくて、柱がもう1本立っていくという意味です。その時に想定する(デジタルビジネスの)規模というのは、当然今の5パーセントとか10パーセント増しとかではなくて、もっとドラスティックな変化であり、また、デジタルなやり取りにおいて、お金を払って使っていただけるお客様の数そのものが増えていく、また、それが特別な抵抗なく当たり前に行えるようにする未来をつくるということに関しては非常に強い意欲を持っています。この3年が大きなポイントだと思っています。

※2 以下をご参照ください。
2011年3月2日 GDC講演(P8)
2011年4月26日 2011年3月期 決算説明会質疑応答(A6)
2011年6月16日 2011 E3 Expo アナリストQ&A セッション (A12)
2011年6月29日 第71期 定時株主総会質疑応答(A6)

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