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2012年1月27日(金)経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会
質疑応答
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Q 1-1

 宮本専務に質問させていただきたい。世の中を驚かせるという視点でこれまでもソフトを開発されていると思うが、ネットワークの仕組みを使うという点について、何が魅力的だと感じているか。その魅力を維持したまま、任天堂らしいデジタルビジネスの課金という話もあったが、それはどんな形になりそうなのかという点についてもう少し詳しく教えてほしい。

A 1-1

専務取締役・情報開発本部長 宮本 茂:

 いきなり大きな質問をされて…そうですね、これは開発の立場からいくと、ノーコメントというのが基本なんですね。ですから、それにどうお答えしようかと。任天堂はここ何年もネットワーク接続率を上げるということに一所懸命努力をしてきました。私たちの努力以外の要素として、携帯電話は全部最初からつながっているというように、ネットワークは日常に普及してきました。(先ほど岩田が説明したように)ニンテンドー3DSのインターネット接続率は約60%(※)になりましたし、非常に環境が整ってきた手ごたえは感じています。一方で、みなさんにネットワークを使っていただく上で、任天堂はやはり「安全で安心で信頼していただけるネットワーク」だということが非常に重要と思っています。私たちは今までパッケージソフトをつくって、それを遊んでいただくというところに集中してものを売ってきたわけですが、ネットワークという環境で大勢の人がいるから面白いと感じておられるお客様もいらっしゃると思います。メールやチャットがその典型例です。任天堂では『うごくメモ帳』というのが、これはみなさんあまりご存じないかもしれませんが、ひそかなヒットになっています。実はインターネットの世界にあまり出てこない、子供たちの間で『うごくメモ帳』は何百万というユーザーに利用されています。その中で子供たちが自由にやりとりするのを、いかに安全に私たちが運営できるかという仕組みなど、いろいろと今チャレンジしています。その意味では非常にネットワークの可能性を感じていますが、任天堂らしいというところをまだ試行錯誤しています。

※注:説明会当日の質疑応答では、ニンテンドーDSの接続率としてお話ししましたが、ニンテンドー3DSの趣旨でしたので、このように記載させていただいております。

Q 1-2

 その任天堂らしいサービスの提供と課金の仕方のバランスに関しては、何か今までにないものができるという形をイメージとして持っているが、何か解決策や面白いアイデアが既にあるのか。

A 1-2

宮本:

 課金に関しては私が答えるより(岩田を見る)、

取締役社長 岩田 聡:

 では私が答えましょうか。先ほど(Wii Uの)NFC(Near Field Communication)対応のお話をしました。日本では主にFeliCaの規格が一番使われていますけれども、その規格での電子マネーというのは今、非常に広く使われるようになったと思います。もしそのようなもので代金支払いの決済ができたとしたら、今の「クレジットカード番号を入れてください」とか、「お店に行ってニンテンドープリペイドカードを買ってください」ということよりも、劇的に敷居が下がるのではないかと思います。やはり、安心である、信頼いただけるというためには、「いつの間に通信」は構いませんが、いつの間にか課金されるのはいけないと思いますので、それを考えますと、お客様に意識してお支払いいただき、かつそれがすごく手軽で、その時のハードルや手間が非常に少なくなるしっかりとした仕組みを作ることが一つの答えと思っています。

 また、先ほどお話しした「ニンテンドーダイレクト」からソフトの体験版をご利用いただくまでの流れですけれども、「ニンテンドーダイレクト」を『ニンテンドーeショップ』でご覧になる方が実は非常に多く、これほどたくさんの方々が(『ニンテンドーeショップ』経由で)見てくださるのかというのが私たちにとっての新たな発見でした。『ニンテンドーeショップ』の中にある動画を見る機能を使って「ニンテンドーダイレクト」を見ていただいて、それでそのまま『ニンテンドーeショップ』の中からソフトの3D映像をご覧になったり、体験版を味わっていただくというところまで、一連の流れがスムーズになりますと、これは強力な仕組みであると思っています。このようなことも含めて、今までの任天堂のネットワークビジネスが期待した規模になかなかならなかったのはなぜかという反省の中に、やはり「一つ一つのステップが手軽ではない。(ネットワークビジネスでは)何か一つのステップをはさむたびにお客様の数が10分の1ずつ減っていく」とよく言われますので、その一つ一つをどう変えていくのかということが課題です。

 一方で、先ほどご質問されたことは、「ネットワークで世の中を驚かせるアイデアは何か」ということですが、私たちが商品を実際に出すまで最もお話ししにくいことでして、「次はこうやって驚かせます」とお客様に発売のかなり前から申し上げておいて、実際に出したときに驚いていただけるのかというと、それは難しいですから、お答えしづらいことはどうかご理解ください。

 ちなみに(ニンテンドーDSi向けの)『うごくメモ帳』とはまた違う試みとして、『いつの間に交換日記(※)』というソフトがニンテンドー3DSにあります。これはニンテンドー3DSでフレンドになった人同士で、手書きの日記に写真や音声を貼り付けたものをやりとりするもので、今まで3Dの面白い写真が撮れても、それを他の人と共有するのは簡単ではなかったのですが、このような手段ができたことで非常に積極的に使っていただいており、これを一例として、たくさんのお客様同士の交流の場をどんどん増やしていくことも、もう一つの重要なポイントです。さらに申し上げますと、交流の場とゲームに関する新しい情報を知ることというのがうまくつながって回りだすと、皆様からもよくご指摘を受けている「任天堂がソーシャル時代に対応が遅れているのではないか」ということに対して、非常に重要な答えが一つ出せると思います。なお、「任天堂がネットワークに慎重だ」、あるいは「否定的だ」、「保守的だ」という論調に関し、一言でいうと、私たちは「機が熟したら、もっと踏み込んでやりたい」と思っています。機が熟さないうちに行いますと、インターネットに接続されていない人はお客様でなくなってしまいます。可能な限り多くのお客様に私たちがつくったものを受け入れていただきたいと私たちの開発者は思っている関係で、今までそれほど踏み込んできませんでしたが、先ほど申し上げたように、例えばニンテンドー3DSが今までの携帯型ゲーム機よりもかなり高いインターネット接続率になってきたとか、先ほどの『ニンテンドーダイレクト』を見ていただける方々が大勢いらっしゃるということが分かってきますと、「やれることは大きく増えそうだ」という意味で、土台が整ってきたという印象を非常に強く持っています。

※注:本ソフトは一部サービスを停止しております。

Q 2

 グローバルな会社を日本円で評価するというのはフェアではないような気もするが、売上高が6,600億円もあって営業赤字が出てしまうという状況は異常と思う。その中でネットワークの話をされたが、一度値下げしたハードの値段を上げるのは難しいと考えると、やはりソフトでより多くの付加価値をとっていくというのが自然な考え方だと思う。今後オンラインでのチャージもできるようになる中で、どのように付加価値を増やしていくのか教えてほしい。今まで御社はパッケージのソフトを売るという売り切りのビジネスで勝負してきたが、ARPU(Average Revenue Per Userの略で、1ユーザーから得られる平均収入)を高めてより多くのお客様から付加価値をとるといった議論を今後していけるのかという点についてコメントいただきたい。

A 2

岩田:

 私が社長に就任した約10年前の任天堂は、売上高が5,000億円規模で、その時に営業利益は約1,000億円出ていたわけですから、売上高が6,600億円あって営業赤字は異常だというご指摘は、もちろん理解できます。今期このような結果になったのは、「ニンテンドー3DSで大きな逆ざやを抱えてでも本来あるべき普及の軌道に戻さないと未来が開けないと考えた」、あるいは「(3DSプラットフォームの)未来のビジネスのサイズが縮小してしまう」と考えたからで、その判断が今期の収益を犠牲にしてしまったという一方で、以前と環境がかなり違うという面でご理解いただきたいことがあります。

 これは過去5期分の外貨建ての売上高と(その売上高を円換算する際の)為替レートです。表の上の方にある、ちょうどWiiが出たばかりの頃の為替と今の為替の水準は大きく異なります。当社は売上高の約8割を海外で上げていますが、円高になったらゲーム機を値上げしても通るのかというと、これはなかなか通りません。例えば業務用の製品で、「世界でオンリーワンで、ほかに絶対に代わりになる製品がない」ならば、極端な話、「円高の場合は値上げをさせていただく」ということが通用するビジネスもあるのですが、私たちの商品はそうはいきません。お客様にとっての199ドルは(為替レートがどうなろうと)今も昔も199ドルなので、それが日本円に換算していくらであるかは、アメリカのお客様には何の関係もないことで、これはユーロでも同じだと思います。ですから、その意味で、まず為替レートが利益に大きなインパクトを与えていることはご理解ください。さらにスマートフォンのような今までになかったタイプのデバイスの普及も環境が変わった一つと言えます。これらのように環境が変わったのだからと言って「利益が出せなくても仕方がない」などと申し上げる気は全くありませんし、環境が変わっても利益を出さなくてはいけないと考えています。ただ、明らかに言えるのは、来期3DSハードの逆ざやを解消することはできるにしても、3DSのハードで非常にたくさんの利益を上げることは難しいため、私たちはソフトで稼いでいかないといけないわけです。ソフトで稼ぐには二つの考え方がありまして、一つはたくさん売ることです。同じ開発費でつくり、同じマーケティング費でソフトをよりたくさん売ることです。それからもう一つは、一つの製品からよりたくさんの収入を得ることで、先ほどおっしゃったARPUをいかに増やしていくかという考え方です。

 このどちらを優先して考えるべきかは、ゲームの種類にもよりますし、お客様の対象にもよります。ただ、私たちはARPUを上げる、すなわち、ひとりのお客様からより多くの収入いただくというところばかりにフォーカスを当て過ぎますと、任天堂の強みは活かせなくなると思っており、あくまで任天堂の基本的な考えは「お客様を増やす」ことにあります。お客様が増えて一つの商品が長期にわたって非常に多く売れ、その結果、収益性の良い状態にしていくという考え方です。しかしながら、今年度のように、プラットフォームの端境期では、その新しいプラットフォームはまだ普及していないので、力があるソフトが売れたとしても、ハードの普及台数が上限になってしまいます。しかし、力があるソフトは逆に長い期間にわたって売れ続け、例えば今期発売した『スーパーマリオ 3Dランド』や『マリオカート7』は来期も再来期もかなりの額の収入を会社にもたらしてくれるはずです。一方で、デジタルビジネスが可能になったならば、さまざまなことができると思います。今までであれば、お客様が遊び終わってそれに飽きてしまわれますと、それは遊ばれなくなり、社会の話題になりにくくなります。本来もっと新しいお客様に買っていただけるポテンシャルはあるものの、以前に買っていただいた方々がもう遊ばれなくなっているので話題にしていただくことがなくなり、古いものになり、新しいお客様に買っていただきにくくなります。ところが、追加コンテンツのようなネットワークの仕組みを使えるとしたら、例として、以前にもお話ししましたが、『スーパーマリオ』をしっかり遊んだお客様がいらっしゃったとして、その『スーパーマリオ』を全部遊んでしまい、「もっと遊びたいが、もう今のコースは全部飽きてしまった」という時に、そのようなお客様に追加のコースをご提案したらどうかという発想です。これは、新たな収入を会社にもたらすというポイントのほかに、その商品の寿命が延び、それを遊んでいただけ、それが社会の話題として維持され、ものが古くならないということを同時に生み出しますので、単純にARPUが上がるということだけではなく、同時に「ソフトの長寿命化につながる」、あるいは「ソフト販売本数の拡大につながる」というように活かすべきではないかと思います。あるいは、任天堂は以前に『Wii Fit』という商品を出して、その後『Wii Fit Plus』という商品を出しました。これは『Wii Fit』のグレードアップ版だったわけですが、こういうようなものは、今のネットワーク環境になればディスクのみが新しい供給の手段ではなくなって、『Wii Fit』を遊んでいただいたお客様に将来「新しいトレーニングはいかがですか」、「新しいこんな遊びはいかがですか」、そうしたら、「今のトレーニングに飽きたあなたはもう一回、新鮮な気分で続けられませんか」という提案が可能になります。そうすれば、『Wii Fit』という商品の寿命がもっと延び、場合によっては続けていただいた方々からはもう少しずつ収入をいただくことができると思います。

 任天堂はあくまで、幅広いお客様にアピールできる商品をたくさんの方々に受け入れていただいて、それを長期に売るというのが基本です。それを実現するために「追加コンテンツ等の仕組みをうまく利用し、結果として、ARPUも今よりも高まる」ということを軸に考えるべきで、ARPUをいかに上げるかということだけに注力してしまいますと、どんどんお客様の幅を狭めてしまって、結果として長期的にはうまくいかないのではないかと思います。

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