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2014年1月30日(木) 経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会
任天堂株式会社 社長 岩田聡

すなわち、任天堂とお客様のつながりは、これまでデバイス単位であったと言えます。プラットフォームごとに、お客様とのつながりがバラバラであるため、いくつかの課題がありました。


ここにお示ししているのは、過去10年間に登場した任天堂のプラットフォームですが、まず、携帯機とコンソール機は、ソフトを通じた連携などにはチャレンジしてきたものの、基本的に、携帯機とコンソール機とは、任天堂とお客様のつながりが完全に分断している状態になっていました。
また、携帯機どうし、コンソール機どうしの関係でいえば、ソフト資産を引き継ぐために前のハードのソフトをそのまま使っていただくことができる互換性によって、ハードの乗り換えを促進するようなことには取り組んできましたが、任天堂とお客様とのつながりがデバイス単位であるために、ハード切り替えのたびに、お客様とのつながりが切れてしまうという課題がありました。


Wii Uでは、ニンテンドーネットワークID、略してNNIDを導入しました。お客様とのつながりを、デバイス単位ではなく、アカウント単位、つまりお客様単位に変え、個々のデバイスの寿命による制限を受けずに、長期にわたって、個々のお客様とのつながりを築いていくことを目指し、その第1歩として導入したものです。これからのプラットフォームは、お客様とのつながりをデバイス単位ではなく、アカウント単位で築いていきます。
昨年12月から、第2ステップとして、ニンテンドー3DSもNNID対応になりました。もともとデバイス単位の管理になっていた仕組みを、後からアカウント対応にしましたので、未成熟なところはあると思いますが、携帯機とコンソール機でお客様とのつながりが一元化されたという意味で、一歩前進しました。
当然、将来新しいハードが用意される際には、これまでのように普及台数を一から積み上げるという形ではなく、このNNIDを通じて一度できたお客様とのつながりをしっかりと維持していきたいと考えています。
そして、もうひとつ、これまで任天堂のハードだけで構成されていた任天堂のプラットフォームに、スマートデバイスをどのように組み入れるのか、ということも大きなポイントになります。
これまでのプラットフォームの定義では、「任天堂のハードをお持ちでない限り、お客様と任天堂のつながりがつくれない」という制約がありましたが、これだけ、お客様の時間とアテンションを取り合う競争が厳しくなった今、スマートデバイスをどのように活用していくか、ということは非常に重要になると考えています。ただし、誤解のないように強調しておきますが、これは、「任天堂のこれまでつくってきたソフトを、単純にスマートデバイスにも供給する」という意味ではありません。「任天堂ハードをお持ちでない方々も含めて、世の中の多くのお客様に対して、スマートデバイスを通じてお客様とのつながりをつくり、それを通じて任天堂プラットフォームの娯楽の魅力をお伝えし、任天堂プラットフォームに参加していただくきっかけをつくる」という目的で、スマートデバイスを積極的に活用していきたいと考えている、という意味です。後ほど、さらにお話しします。
このように、お客様とのつながりは、今後NNIDで一元管理していくことで、このNNIDを通じたお客様とのつながりを、今後の任天堂プラットフォームと再定義していきます。
別の表現をすれば、「プラットフォームがハードに縛られずバーチャライゼーション、仮想化される」ということになります。


「任天堂は、自社コンテンツをスマートデバイスに供給すべき」とのご意見は、この数年、大変多くの方からいただくようになりました。「スマートデバイスがビデオゲーム専用機よりも遙かに大きな台数普及している今、スマートデバイス上でビジネスをしないのはおかしい」という考え方が、その理由だと思います。
多くのみなさんが「スマートデバイスのアプリとして任天堂のゲームソフトを移植すれば、ビジネスが拡大するはずだ」とおっしゃっているのですが、ハード・ソフト一体型のビジネスという任天堂の強みを活かせない場では、任天堂の目標とする規模のビジネスを中長期にわたって持続させることは困難ではないかと、私達は認識しています。
そこで、任天堂自身は、スマートデバイスで直接ビジネスを展開するアプローチではなく、スマートデバイスでお客様とのより強いつながりをつくることによって、自社プラットフォームのビジネスを拡大するアプローチを優先することにしたいと考えています。
ただし、お客様との強いつながりをつくるという目的は、お客様に頻繁に起動していただかなければ実現しません。これは、決して容易なことではないと認識していますので、


コンパクトなチームではありますが、社内の精鋭人材を投じて取り組みます。また、私達は、スマートデバイス向けアプリの中でアテンションを集めることは容易ではないと認識していますし、先ほど申し上げたように、自社のゲーム資産をそのまま移植したとしても、それはスマートデバイス向けの娯楽として最適ではないと考えていますので、このようなアプローチを採ることは一切想定していません。ただし、このようなスマートデバイスを取り巻く環境の中で、任天堂が本当に得意とするところでお客様に価値を感じていただけることをご提供しなければ、多くのお客様にご支持はいただけないと思っていますので、開発チームには、ゲームをつくることも、自社のキャラクターを使うことも禁じていません。ただ、これをもって、「マリオをスマートデバイスに供給」と報道されますと、完全にミスリードになってしまいます。スマートデバイス上のアプリとして、何らかのサービスを、今年中に開始したいと思っていますので、お客様のアテンションを引き寄せ、自社のプラットフォームの魅力をお伝えしていくというアプローチがどうなるか、ご覧いただきたいと思います。
また、スマートデバイスの活用という意味では、もうひとつ、これまでゲーム機上で実現してきたサービスの中で、スマートデバイスで実現したほうが、使い勝手やお客様の体験をより改善できるサービスについては、重点をスマートデバイスに移していく、ということを積極的に推進したいと考えています。これは、英語ではon device serviceと呼ぶゲーム機上で実現するサービスと、off device serviceと呼ぶゲーム機以外のPCやスマートデバイスで実現するサービスについて、両方に同じようにエネルギーを投じるのではなく、改善の意義がより大きな側により明確に重点を置くようにしていくということです。
例えば、ソフトをダウンロード購入するための環境については、今後、on device側で改善するよりも、off device側で改善することを、より積極的に行うべきではないかと考えています。


また、プラットフォームの定義をデバイス単位から、NNIDを元にしたアカウント単位に変えることで、これまで当たり前であった、ゲーム専用機のハード・ソフトの売り方も変えていきたいと考えています。
今のビデオゲーム専用機のハード・ソフトの売り方は、30年前にゲーム専用機のプラットフォームビジネスが確立されたときから、大きくは変わっていません。ゲーム専用機は、ハードを200ドルとか300ドルでお買い求めいただき、ソフトを30ドルから50ドル位の価格で、買いきりのパッケージの形で買っていただくという、シンプルでわかりやすいモデルで、これまで幅広いお客様にご支持をいただき、今のような市場を築くことができました。しかし、人々のライフスタイルが大きく変化しつつある今、今後も未来永劫このモデルがこれまでどおり機能し続けることは期待してはならないと認識しています。
任天堂が、今日お話ししている「プラットフォームの再定義」を実現することができれば、アカウント単位でお客様とのつながりがはっきりします。例えば、年に1タイトルだけゲームソフトを楽しまれるお客様も、年に5タイトル、10タイトルとゲームソフトを楽しまれるお客様も、ソフト1タイトルの価格は同じであることがこれまでは当たり前でしたが、もし、アカウント単位に、特定の条件を満たすお客様を対象に、ソフト価格を柔軟にすることができたら、「遊べば遊ぶほどソフトが安く楽しめる」というようなことが実現可能になります。この特定の条件というのは、ソフトを多く買っていただく、ということだけではなく、例えば、友達同士で誘いあって一緒にゲームを始めるというようなことも条件として含めることもで きます。このような販売方法が実現できれば、一つひとつのソフトのプレイ人数が増えたり、一緒に遊べる仲間が増えたりすることが期待できますし、それは、結果、プラットフォームの稼働の維持につながります。プラットフォームの稼働が高い水準で維持されれば、その上で動作するソフトに注目していただきやすくなり、結果、より多くのソフトを楽しんでいただくことができるようになります。現在、お客様全体を平均すれば、年間に楽しんでいただいているソフトのタイトル数は2〜3タイトル程度ですが、お客様の出費を大きく増やすことなく、年間により多くのタイトルを楽しんでいただき、今よりプラットフォームの稼働を高め、お客様にとっても、ソフトの作り手にとっても両方にメリットのある新しい販売方法を目指していきます。
任天堂は、このような新しい売り方に中期的に取り組んでいきますが、早期にWii Uで実験的な取り組みをはじめたいと考えています。


また、任天堂が持っている豊富なキャラクターIPの活用に関しても、今後はより積極的に活用していきたいと考えています。
任天堂が今のように「豊富なキャラクターIPを持っている」と言っていただけるようになった背景には、どちらかというとキャラクターの価値の毀損のリスクも大きいキャラクターIPのライセンスビジネスに対しては消極的なアプローチを採り、自社の厳選したソフトを中心に登場させることでじっくり育ててきたアプローチが、これまでのところ運良く実を結んでいる、という側面があると思います。
しかし、今後は、これまでとは方針を変えていきます。


より具体的には、自社キャラクターIPのライセンスビジネスに対して、適切なパートナーを能動的に探すことも含め、より積極的な展開を行うということです。実際に、アメリカでは、キャラクターマーチャンダイズの商品展開を、1年ほど前から積極的に展開しています。
また、これまでライセンスしないと決めていた分野、例えば、デジタル分野におけるライセンスなども、直接の競合関係ではなく、Win-Winでやっていけるものについては、例外とせずに柔軟に対応していきます。
このような活動を世界で進めていくことで、任天堂キャラクターを、ビデオゲーム・プラットフォーム以外の場でも、より多くの人の目に触れるようにしていくことを目指していきます。


また、インフラの未整備や、所得面、法制面などにより開拓が遅れている新市場については、これまでのアプローチを変更します。
これまでの新市場開拓は、すでにビデオゲーム市場が確立している先進国の市場で展開しているのと同じ製品を、ローカライズして発売するという手法を採ってきました。かつては、この手法で一定の市場開拓はできていたのですが、昨今は、ハードウェアコストの上昇、ソフトの高度化・複雑化に伴うローカライズコストの上昇のために、投資の回収が以前より遙かに難しくなってきています。
もちろん、新市場においても、ハード・ソフトに関して、すでにビデオゲーム市場が確立している市場と同じ価格を受け入れていただける大変熱心なゲームファンのみなさんがおられ、これは大変ありがたいことなのですが、新市場の大多数のお客様にとっては、今のビデオゲームのハードやソフトの価格は、受け入れていただくのは難しいようです。
新市場開拓においても、ハード・ソフト一体型のビジネスという任天堂の強みを活かすために独自のハードウェアを活用することは、我々の選択肢としてなくしてしまうつもりはありませんが、少なくとも、新市場における真の意味でのユーザー拡大は、ハード・ソフト共に、先進国におけるゲーム機ハード・ソフトと全く価格体系が異なる製品群があってはじめて実現できると考えています。
また本日お話しした、新しいプラットフォームの定義、ならびにスマートデバイスの活用の話を思い起こしていただきたいのですが、「任天堂は、任天堂のハードをお持ちになる前のお客様と、まずスマートデバイスでつながりをつくっていく」ということを目指していますので、このことは、新市場開拓においても重要な意味を持つことになると考えています。このような形でお客様とのつながりができれば、スマートデバイスは、情報の流通、そしてコンテンツの流通の重要なインフラとしても活用できるようになります。この新しいアプローチでの市場開拓が本格化するのは2015年からになる予定ですが、今後のIRイベント等に順次アップデートをしてまいります。


さて、最後にひとつ、任天堂の伝統的な事業とは異質な話をしたいと思います。
もちろん、任天堂が、ビデオゲーム専用機プラットフォームを経営の中核とする意志は、全く揺らいでいませんが、



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