株主・投資家向け情報

2014年5月8日(木) 決算説明会
質疑応答
Q 3

 次世代ハード機の導入時期について教えていただきたい。今後3年間の中で、新ハードの導入はないという前提で考えた方がよいのか。アナリストや投資家から見ると、本当に御社が巻き返しを果たすには次のハードで、というような期待が高まっているように思う。現状の競争環境などを考えると、次のハード導入時期が御社の想定より早まる可能性は高まっていると考えてもよいのか。次期ハードのコンセプトや方向性について、「今までにない画期的なもの」というのが答えになるかもしれないが、特に今までにないという面で、岩田社長が現時点でどのようなものをイメージしているのか、可能な範囲で説明してほしい。

A 3

岩田:

 任天堂は、あるプラットフォームを世に出しますと、次のプラットフォームの準備を始めます。1つのプラットフォームを開発するのには数年かかりますので、「次のハードのための準備をしているか、していないか」と問われれば、「新ハードの開発はいつも行っています」とお答えするのが正しいと思います。一方で、「新ハードをいつ出すのか」とか、「それはどんなものか」というのは、公の場で最もお答えしにくい質問でして、それについて具体的に申し上げることはできません。ただ、私たちが今、「次に何をつくっていいか分からなくて、袋小路に入り、困り果てている」ということはないと申し上げられると思います。もちろん、任天堂のプラットフォームを買っていただいたお客様に十分に(そのプラットフォームを)ご満足いただけない限り、次にハードを出しても結果は伴わないと思いますから、まず、今ハードをお持ちのお客様にしっかりご満足いただけるように、任天堂のソフト群の価値を認めていただけるようにこれからも努力していきますが、「次に向けて準備しており、自分たちなりにこういう方向でやっていこうということをある程度決めている」ということは申し上げておきます。

Q 4

 マクロの中長期的な戦略について聞きたい。岩田社長が考えるこれからの娯楽市場のキーワードを挙げるとすればそれは何なのか教えてほしい。1月の経営方針説明会で説明のあったいろいろな考え方から推察すると、おそらく「ノン・ウェアラブル」や「ハード・ソフト一体型」、そして今日話が出たフィギュアであれば「バーチャルからリアル」といったところが1つの切り口ではないかと私には思える。一方で、他社はSmartGlassやGoogleさんがやろうとしている自動運転など、流れとしては各社娯楽の再定義をした上で、機能面をシステマティックにしてQOLをどうやって上げられるかという試みを行っていると思う。そういった点からも、岩田社長が考える今後のキーワードを教えてほしい。

A 4

岩田:

 世の中にあるいろいろな実用品というのは、それぞれが人々のQOLを高める目的のためにつくられていると思いますが、任天堂の娯楽の定義には、そこに「楽しく」という一言を付け加えました。「人々のQOLを楽しく向上させる」ということを娯楽の定義として、それをなるべく広く考えようとしています。任天堂の約125年の歴史の中で、ビデオゲームのビジネスはファミコン発売以来今年で31年目になります。任天堂の歴史全体の中では、4分の1だけがビデオゲームの会社であると言えるわけですが、今、世の中の人たちも、そしておそらく任天堂の社員の多くも「任天堂はビデオゲームの会社で、ビデオゲームビジネス以外には携わってはいけないんだ」と思い込む流れにあると思います。それほど、この30年間、ビデオゲームビジネスは非常に上手く回っていたということだと思います。そのビデオゲームの定義を広くとらえるか、狭くとらえるかということがポイントで、ニンテンドーDSやWiiの時代に『脳トレ』や『nintendogs』をつくったり、あるいは『Wii Fit』や『Wii Sports』をつくったりした時に、その片りんを感じていただけたのではないかと思いますが、ビデオゲームの定義をもう一段広く考えたことからそれらのソフトができ、世界中の数多くの皆様に受け入れていただけたと思います。コンピューターとインタラクティブにやりとりをして、「自分が何かをインプットしたらそれ以上のご褒美を感じるアウトプットが返ってくる」ということをプレイヤーが自然と理解でき、繰り返し触ってしまい、それがプレイヤーにとって心地よかったり、達成感があったり、快感があったりするものをつくるノウハウが、ゲームをつくるノウハウだと思います。このノウハウの応用範囲というのは、実はもっともっと幅が広いはずだと考えています。QOLのプロジェクトで健康をテーマにするということは、その応用の1つの可能性として申し上げました。「健康のためにはこうした方がいい」という多くのことをみなさんはご存じですが、「こうしたらいいと分かっているが三日坊主で終わってしまう」という方が、世の中にはたくさんいらっしゃいます。それに対して、「私たちの『はまるノウハウ』、『続けたくなるノウハウ』、『面白くできるノウハウ』がくっついたらどういうことができるだろうか」という観点から申し上げたことです。したがって、「私たちが行う事業領域を狭くとらえ過ぎない」というのが私たちにとっての1つのキーワードです。

 もう1つは、以前は家庭のテレビにつないだゲーム機の前にいる時だけテレビゲームとの関わりが存在し、それ以外の時間帯には人々とテレビゲームとの関わりはなかったわけですが、それが、携帯ゲーム機ができてゲーム体験を持ち歩けるようになり、今は、スマートデバイスが世の中に広く普及して、人々は自分たちのすき間の時間にスマートデバイスを触るようになってきました。そのスマートデバイスを触る時間の中に、ゲームとの関わりをどう含められるだろうかということも考えるようになりました。今日お話しした『マリオカートTV』の例というのは、そこで実現したいと思っているほんの触りの部分にすぎませんが、それでも『マリオカート8』を遊ぶ人にとっては、自分のスマートデバイスを触る時間の一部を『マリオカート8』との関わりのために使っていただくことになります。将来的には、任天堂がつくるいろいろなゲームの中で、「こういう要素はスマートデバイスとの関わりの中で楽しんでいただく」ということができてくるかもしれません。つまり、1つの機械、あるいは1つの場所、1つの状態だけでゲームを触れていただくのではなくて、いろいろな場所で私たちの製品に触れていただけるようにしていくということです。「プラットフォームの定義をデバイス単位からNNIDベースのアカウント単位に変えます」ということも1月の経営方針説明会で申し上げましたが、アカウント単位に変わると、デバイスはいろいろなものに広がっていきますので、リッチなゲーム体験をしていただく時には、そのために専用につくられたゲーム専用機上で一番濃密で、かつ高品質な体験を感じていただけるでしょうし、一方で、その中のある部分を取り出して別のデバイスで遊んでいただいてもよいかもしれません。あるいは、今日お話ししたような物理的なフィギュアと触れ合うことで新しい遊びが生まれるかもしれません。そういう形で「いろいろなお客様の細分化されたいろいろな時間と機会の中に娯楽がどう入り込んでいくか」ということがもう1つの大事なキーワードだと思っています。

Q 5

 1月の経営方針説明会で、「ビジネスのやり方を変えていく」という話がいろいろあった。QOLなどは新しいビジネスになってくると思うが、時代の変化に組織的に対応するために、社内でどのような組織変更や開発手法の変更を行って、新しい事業を立ち上げていくのか、ぜひ具体例を挙げて説明してほしい。

A 5

岩田:

 今のご質問に対しては、「任天堂がこういう経営方針を掲げたことで社内組織上どのような対応をしてきたのか」というお話をするのがよいかと思います。1つは、以前にもお話ししたことですが、当社は既にハードウェアの開発部門を統合しました。統合開発本部と呼んでおり、今まで携帯ゲーム機とホームコンソールゲーム機をそれぞれ別々に開発していた部門を1つに統合しました。単に組織を一体にするだけではなく、次のステップとして、その中のマネージメント手法も変えていき、プロジェクトの組み方や運営の仕方も変えていくべきだと思っており、そういうプロセスが今着実に進んでいる過程にあります。ちなみに、開発陣を一か所に集約するための開発棟は先日竣工しまして、開発者の引越しはE3終了後の6月中旬ぐらいになる予定です。引越しをしますと、今、複数のオフィスに分かれている任天堂の開発部隊が1つの建物に集約されますので、開発者たちがより深く交流しながら、ハード・ソフト一体の開発ができるようになります。また、今、物理的に複数の部屋に分かれている開発部隊が1つの大きな部屋の中で、より一体感をもって仕事ができるようになることも期待できます。今もハードウェアの開発チームとソフトウェアの開発チームは交流しているものの、組織上彼らは別の部署に所属していますので、必ずしも自由にお互いの部屋に出入りできるわけではないのですが、特定のプロジェクトに関しては、開発系の4つの本部の関係者が集まったり、行き来したりできるような場を開発棟内につくります。そうすることで、よりハード・ソフト一体で面白い娯楽をつくり出すプロセスが進みやすい状況をつくろうと考えています。

 今のは開発部門の話でしたが、社内組織に関してはもう1つあり、この3月にビジネス開発室という部署を新たにつくりました。今まで任天堂は、ファミコンが生まれて軌道に乗ってから、基本的にビジネスの構造については大きく変える必要はありませんでした。同じビジネスの構造を続けることで十分に安定的にやってこられましたし、成長もできましたので、いわば、「任天堂は世の中の多くの会社に比べてビジネス開発のニーズの小さな会社だった」と思います。しかし、環境が大きく変わり、昨今お話ししているようないろいろな新たな取り組みを実践し、新しいビジネスの構造をつくり出さなければならないため、そのための部署を社長の直轄部署としてつくりました。社内のいろいろな分野の専門家をここに集めて、この人たちが任天堂の開発陣と協働しながら、いろいろな社外のパートナー様との窓口になったり、新しいビジネスの構造を提案して議論する種をつくったりするというような活動を既に行っています。このビジネス開発室をつくり、今後実際に社外の皆様の目に見える形で結果が出ていくものの中には、今日お話ししたような、例えばキャラクターIPの活用の将来、あるいは新興市場へのアプローチの将来、新規事業領域への将来、「プラットフォームの定義が変わるとこうなります」ということの将来、「スマートデバイスはこう使います」ということの将来の姿が、新しい社内構造からアウトプットされていくと思います。以上が今日の時点でお話しできることではないかと思います。


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