夢のハード実現までの道のり 〜ゲームボーイアドバンス 開発者インタビュー PART1〜
「アドバンスはずっと作りたかったハード」という任天堂株式会社開発技術部部長の岡田さん。今回のプロジェクトの統括者であり、さらに基本のスペックを考案したスペシャリストでもあります。初代ゲームボーイの開発も手がけた岡田さんに、アドバンスに対する思い入れを聞いてみました。

岡田智氏 任天堂株式会社 開発技術部 部長 岡田智さん

・12年間、作り続けたいと思ったハード
・いままでのゲームボーイソフトも大きな資産
・今後10年のための大決断


■12年間、作り続けたいと思ったハード

Q アドバンスの企画はいつごろからあったんですか?

A岡田氏もともとこの企画はゲームボーイカラーをやる前から考えていたんです。初代のゲームボーイは僕と横井(=故横井軍平氏)が作っていまして、横井のほうはどちらかというと、デザイン面というかインターフェースなどをやっていましたので、中のシステム自体はほとんど僕が作ってたんですね。当時は値段的な制約もありましたので、ずいぶん仕様を削ったんです。
編集長それで、ずっとバージョンアップしたいと思っていたんですよ。アイデアはいろいろ貯めていたんですけど、なかなか出すきっかけがなくて、先にゲームボーイカラーを出すことになったんです。新しいハードを開発するとなるとどうしても時間がかかってしまいますし、ユーザーに対しても、まずはゲームボーイカラーでステップを踏んでもらったほうがよいのではないかと。
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Q ゲームボーイカラーもヒット商品ですが、それとは別にまったく新しいスペックの商品も作ってみたかったということですか?

Aええ。テレビゲームの世界では、新しいスペックや新しいグラフィックがどんどん出ていますよね。そんなこともあって、若いスタッフの間でも新しいCPUで、新しいハードを作りたいという意見が多かったんです。
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Q ゲームボーイカラーを発売したあと、すぐにアドバンスの開発にとりかかったんですか?

A構想としてはずっとあったんですが、実際に手を動かしたのはゲームボーイカラーが終わってからですね。僕自身の役割は企画をうまく進行させていくことと、スペック自体の決定ですね。つまり、ゲームボーイと互換性をもたせなければいけませんから、そのためにどういうスペックにするかというところで、かなり検討を繰り返しました。

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■いままでのゲームボーイソフトも大きな資産

Q 100%新しく作りかえたほうが、より斬新なハードができるわけですよね。それなのに、いままでのゲームボーイと互換性を持たせるということに、まったく迷いはなかったんですか?

A岡田氏それは全然迷わなかったですね。互換性を保ちながら新しいものを作るということは、けっこう難しいことなんですよ。しかし、そこを保つことが技術屋の役割だと思っているんです。いままでのソフトが使えるということは、かなり大きなメリットです。ただ、それをどう実現するかというと、実際にはなかなかアイデアが出てきませんよね。その具体的なアイデアを私が出していきました。
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Q かなり細かいところまで設定されたんですか?

Aそうですね。技術的な話になりますが、バスというものがありまして、そのバスの構成がCPUのピンの数によって変わるんです。従来のバス構成だと32KBしかないんですけど、それをアドバンスでは32MBにしたかったんです。それを実現するのに、バスを2分割して時間的に切り替えて使ってるんです。
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Q 裏ワザ的な技術ですね。

Aええ、そうですね。32ビットのCPUを使うというのはすぐにできるんですけど、互換性をもたせるということになると、いろいろと技術が必要なんですね。また、古いゲームボーイのソフトとアドバンス用のソフトをどこで認識するかという点も問題になりました。そこで、アドバンス用のソフトのほうにミゾを作って、それで機構的に判断しています。これも僕の決断です。
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Q ミゾがスイッチを検出することによって、アドバンス用の回路が起動するわけですよね。

A最初は電子的にカートリッジの中身を検索して、自動認識させる方法を検討したんですが、無理だということがわかりまして。それで、僕がコネクタを設計している人間に、「こういう検出機能をつけたコネクタを作ってくれ」と言ったんです。ロクヨンのGBパックも同じ原理なんですけど、スイッチがささることによって電流が流れるようになっているんですね。

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■今後10年のための大決断

Q 開発中、ほかに岡田さんがされた大きな決断はありますか?

A岡田氏その場その場でどんどん決断していくんで、どれがと言うと悩むんですが……そうですね。最初はICがひとつだったのを、ふたつにしたことでしょうか。コストと技術と両方の面から考えても、ワンチップで作りたかったんですよ。ところが、ワンチップでサンプルを設計して、ソフト担当の人たちにソフトを作ってみてもらったところ、メモリが足りないというクレームがきまして。いままでのゲームボーイの数倍のメモリがあるので、最初はこれでじゅうぶんだろうと思ったのですが、「(グラフィックなどの)ほかの部分の性能があがっているのに、メモリだけ少ないのは辛い」と言われまして、思いきって2メガビットというのをつけたんです。結果、ICもふたつにしたんです。スケジュールにも影響しますし、価格もあがりますので、かなり悩みましたが、開発者のだれかが「ゲームボーイが10年持ったことを考えると、これくらいのスペックは必要」と言いまして。それを聞いて、決断しました。しかもスペックを公表したあとの変更だったんですよ。
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Q では、発表時のスペックと現在のスペックでは変更点があるのですか?

Aええ。色数が発表時の6万色でなく、3万2千色になっているのはメモリを増やしたためです。一度発表したものを変えるというのは抵抗があるものですよね。でも、発表した数字にこだわるよりも、性能のほうが大事だと思ってましたので。もうひとつの大きな決断は、グラフィックを2次元にしたことですね。最初、スタッフはテレビゲームみたいなポリゴン表現を考えていたんですね。そこはもう捨てよう、と。ハンディ機ということで、2次元にしようと思いきりました。
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Q 技術の面だけでいうと、アドバンスを3次元にするのは可能だったんですか?

A技術的には可能ですけど、使いものになるかどうかというとまた別問題です。要はどこかがトレードオフになるんですね。例えばバッテリーが長持ちしなくなるとか。そのうえで、ハードの値段が上限1万円と考えたら、メモリも節約しないといけない。総合的に考えると、NINTENDO64の10分の1の機能しかのせられないんですね。そのスペックで作った3Dのソフトがゲームとして成立するかというと疑問ですよね。
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Q 2次元でも、今回はいろいろなことができますよね。

Aええ。疑似3Dですね。3次元にするよりも、2次元の最新スペックをのせようということになったんです。それに、3次元のプログラムというのは非常に難しくて、プログラマの敷居が高い。やっぱり2次元のほうが開発しやすいんです。ゲームボーイやスーパーファミコン、それからプレイステーションもそうですが、それらのハードをやってきたプログラマはどっちかというと2次元のプログラムに強いんですよ。そういう人たちが参入できるような、それでいて性能としては満足してもらえるようなハードというのが今回のコンセプトですね。
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Q 岡田さん的にココを見てほしいというところはありますか?

A上面に2つのミゾがあるでしょう?なんだと思います?実は後から拡張コネクタに接続する周辺機器を固定する為のものなんです。初代のゲームボーイのときからつけたかったんですが、ようやく願いがかなった気持ちです。
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Q 最後に、ユーザーへのメッセージをお願いします。

A僕たちの気持ちは全部ここにこめられていると思います。ただ、僕らは黒子みたいなものです。このハードで、どんなソフトが出てくるのか、それが一番大事だと思います。
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