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◆ ゲームキューブで『バイオハザード』を発売することを決められたのはなぜですか。
三上:まずは任天堂さんのゲームに対する考えかたに共感したからですね。ひとことで言うとそうなりますけど、理由はたくさんあります。
◆ 以前、三上さんは「三上工房」「ゲーム職人」という言葉を使っていましたが、それが任天堂のゲーム作りの思想と共通しているのかなと思いました。
小林:「三上工房」というのは僕らが言ったんじゃなくて、宮本茂さんがつけてくれたんですよ。
三上:そうなんです。和風のイメージが定着していたので、そのまま使わせてもらっているんですよ。ゲーム作りの現場というのは、少なからず工房的なテイストがあると思うんです。僕のところに関して言えば、クオリティに対してマルではなく、二重マルに近いところをめざそうということですね。工業製品のように、完全なる分業制で効率化をはかるのではなく、やはり僕たちがおもしろいと思うものを純粋に作っていきたいんです。
僕らはサービス業でエンターテイナーですから、その着地点が必ずユーザーを満足させるものにしたい。そう考えたときに、できるだけ息の長いハードでやりたいと思ったんですよ。いまのハードは、大きな作品を2作品作ったらもう終わりなんですよね。そのたびに、職人たちに求められるものが変わっていくんです。
みなさんの想像に反して、ゲームの世界は、まだまだ家内制手工業なんです。ハリウッドの映画制作のように50年以上の歴史があって、手法も確立している世界ではないんですね。毎回毎回、ソフトの中で新しいチャレンジが必要になるんですよ。それなのに、ハードまで変わっていくと、すごくロスが大きい。
◆ それは『バイオハザード』シリーズで実感してきたことなんでしょうか。
三上:『バイオ』シリーズだけではなくて、過去に何度も経験しましたね。僕も一応、業界歴は12年あるので、その12年間で僕なりに考えるところがあったんです。その中で、もう一度ゲームの原点を見直したかったんですよ。データで見ても、任天堂のハードが一番息が長いですし、新しいソフトはゲームキューブで作っていきたいと思ったんです。
小林:将来を見たうえで、ゲーム作りに一番いい環境を選びたいから、ゲームキューブを選んだということですよね。
◆ 開発者から見たゲームキューブの魅力はどこでしょうか。
三上:比較論になってしまうんですが、とっつきはいいほうです。
小林:スタートしてから絵が出るまでは、いままでのハードに比べてかなり早かったですね。
三上:ただ、どのハードも一長一短があるんですよ。最新のゲーム機は僕らクリエイターにとっては、すでに要求する一定水準以上のものは満たしているんですね。ハードがいいからいいゲームが作れるのではなく、僕らがなにを作りたいかですべてが決まってしまう時代になってきていると思います。
任天堂さんがゲームキューブのスペックを発表したときに、技術者が「数字がいくつ、ということはもう言いません」とはっきり言いましたよね。「あ、やっと作り手側に理解を示してくれたんだ」と思ったんです。いままでは発表されたスペックに、作り手が振り回されていたんですね。実際に作り始めると、言われていたスペックの半分も出なかったんですから。
小林:そういう意味では、今回のゲームキューブは、スムーズにいったことは確かです。去年の1月から始めましたけど、わりと順調に制作できたと思います。
◆ やっとここまでハードが進化したということでしょうか。
小林:うーん、望むことはもっと大きいですけどね。
三上:大きいんですが、やっとクリエイターがコンテンツで評価される時代に戻ったかな?と思います。ファミコン、スーパーファミコンの時代には、いいゲームを作ることが、僕の中での売れる・売れない、評価される・されないということの9割を占めていたんですね。それが、32ビット機が出た頃から、作品自体が持つポテンシャルが7割で、あとの3割はプロモーションや付加価値という雰囲気になってきた。そこをもう一度見直すときですよね。それは当然、『バイオ』単独でできるものではなくて、今後、三上工房やその他のクリエイターさんたちが作っていく新しい試みの中で築き上げられていくと思います。
小林:健全なスタンスでモノが出ていない中で、純粋に作れるところで作ろうというのが、ゲームキューブを選んだ基本姿勢ですね。
三上:ですから、物量に走ることが基本でないゲームキューブが適していたのかなと思います。といっておきながら、『バイオ』はビジュアル系ですし、ディスク2枚組みだったりしますけれど(笑)。でも、評価は『バイオ』だけでしてほしくないんです。いま、オリジナルの企画も2本走っていますので、期待してほしいですね。
小林:今回の『バイオ』に関しても、先行情報ではビジュアル面をクローズアップされがちなんですが、実際にプレイしてみたらゲームとしてすごく深いんです。触わっていただければ評価が変わってくるんじゃないかと思います。
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◆ ゲーム内容について具体的にお聞きしたいと思います。ビジュアルの面では、大きく進化したと思うのですが。
三上:96年発売の第1作目ではホラーの中にあってもきらびやかさを感じさせるスタイリッシュな演出をめざしました。今回は映像も大幅にクオリティアップしていますが、きらびやかさよりも、生っぽさ、臨場感を優先させて作っています。いまのスタッフのスキルであれば、もっと美しく見せることは可能だったんですが。
小林:一度描いたグラフィックにわざとノイズをかけたりして、生っぽい表現をしているんですよ。
三上:やはり空気感というのが一番大事なんですよね。単に怖い映像というのではなく、『バイオ』の持つ空気感、世界観を大切にしています。
◆ 床やガラス窓への映りこみもすごいですよね。
三上:今回はなにも指示を出さなくても、スタッフが自分でやってきましたね。水たまりの映りこみとか、床の映りこみとか、すごいですよ。
◆ 演出の面では最初の「1」を出したときと変えているんですか。
三上:基本的にはあまり変えていませんね。
小林:ただ、カメラの置きかたも変えていますし、キャラクターが演技をするところも、ちゃんと本物の役者さんをモーションキャプチャーしていますので、新鮮だと思いますよ。
三上:イベントシーンはかなり変わっていますね。昔、“人形劇”と言われていたところが、クオリティ、見せかたともに大きくレベルアップしています。
◆ システム面でも新しい試みがありますよね。例えば、今度のゾンビは一度倒しても生き返ってきます。
三上:そうですね。このネタは当初、伏せておこうかと思っていたんですよ。でも、あまりに情報を抑えていたら、「今度のゲームキューブ版は単なる焼き直しじゃないか」と言われ始めて。それで、発表することにしたんです。本当は「実はゾンビが生き返っていた!」というのは、『バイオ』マニアのユーザーさんへのショッキングなお楽しみのために作ったんですよ。でも、おまけモードも充実しましたし、隠しておかなくても新作としての鮮度は維持できると判断できたので、発表したんですね。作品の世界観を崩すことなく、新しいアクセントとして楽しめると思います。
◆ 「生き返る」と知っていても、実際にゲームをプレイしてみると、びっくりしてしまいますよね。
小林:ええ、追い越して戻ってくるでしょう?
三上:また、声が怖いんですよね。
◆ そうなんですよ! 最初は本当に驚きました。新しい要素としては、緊急回避アイテムもありがたいですね。
小林:それは最初からあったアイデアなんです。スタンガンやナイフを使ってプレイするのはなかなか楽しいですよ。
三上:回避アイテムは少し数が多すぎたかなとも思ったんですが、最初にプレイする人にとっては、作品自体がちょっと難しいんですよね。そのへんの調整は難しかったです。今回、ユーザーの中にすでにやっている人と初心者がいるので、それぞれで調整するとまったく違うゲームになってしまうんですよね。でも、甘くしすぎないようにはしているんですよ。『バイオ』の魅力というのは、単なるホラーではなくて、恐怖のプレッシャーを自分で破壊して、ほっとできるという部分にあると思うんです。映画の『ジョーズ』のラストシーンみたいに、恐怖が極限になったときに、バーンと破壊できる、そのメリハリが魅力なんですよね。ある種マゾテイストなゲームなんですよ。だから、突き放す部分が残っていたほうがいいと思うんです。
小林:マゾゲーですよね。でも、昔のゲームってそういうものばかりでしたよね。キャラクターがすぐ死んでしまったり。それでもみんな繰り返しプレイしていたんですよ。
◆ 『バイオ』にも繰り返しやっても飽きないようにという工夫をすごく感じます。
三上:それは最初に「1」を出したときに完成されていたんですよ。そこは今回それほどいじってはいないです。やはり一番難しかったのは、難易度の設定でしたね。
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◆ クリアしたあとのおまけモードには、どんなものがあるんですか。
小林:女性と男性でエンディングが違いますし、しかもマルチエンディングになっていますから、何通りも何通りもやってもらえたらいいなあと思います。
◆ おまけモードにはかなり力を入れたんですか。
小林:時間が無い中でゲーム1本ぶんくらいのアイデアは入っています。
三上:詳しくは言えないのですが、本当に僕が作りたかった難解モードも入っていますよ。スタッフに「やめたほうがいいんじゃないですか」と一蹴された、すごく難しいモードです(笑)。
◆ それは『バイオ』ファンなら、ぜひプレイしてほしいですね。
小林:また、最初に出るおまけモードで、アイテムボックスがつながっていない「リアルサバイバル」っていうのがあるんですよ。本来、それが「1」のプロトタイプだったんです。これもおススメですよ。
三上:この「リアルサバイバル」で「クリス」を選んで、「ハード」というのが個人的には一番おススメですね。これも相当難しいので、あくまで個人的なおススメですが(笑)。
小林:あとは前回と同じくコスチュームチェンジや、無限ロケットランチャーなどが入っています。
三上:コスチュームチェンジで着られるジルの衣裳は、「3」の衣装なんですよ。でも、今回はすごいですよ。異様に身体にまとわりつくスカートなんです。
◆ 普通の衣装のときも、女性の身体の丸みがリアルに表現されていて驚きました。
小林:前回の「1」のコスチュームと今回のジルの衣装は腕の露出部分が同じなんですが、肌の部分は、かなりリアルに造形されていると思います。
三上:テクスチャーの違いというよりも、グラフィックのスタッフの造形センスでしょうね。
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◆ ちなみに今回のスタッフは、最初の「1」のときのスタッフが多いんですか。
三上:いえ、「1」からいるスタッフは1人くらいじゃないですか。
小林:あとは「3」のときのスタッフが少しいるくらいです。
三上:各セクションでリーダー格にあるスタッフは、「1」のときには一ユーザーだった人間ですね。だから、ユーザーとしてのこだわりが強いんですよ。「これがないと『バイオ』じゃない」というセリフを、いろいろな場面で言われました。「ゾンビを新しくしようと思うんだけど」と言ったら、「え、そんなの『バイオ』じゃないですよ!」と言われて。制作者の僕が変えるんだから、いいじゃないかと思うんですけど(笑)。
◆ みなさんの中で自分なりの『バイオ』観ができていたんでしょうね。
三上:でも、それがゲームの魅力ですよね。やっぱり出来上がってしまえば、半分はユーザーのものですから。
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◆ 技術的な面で、ゲームキューブだからできたことはありましたか。
三上:やはりテクスチャーの容量をたくさん持てたというのは、アドバンテージとしてあったと思いますね。そういうことと、画面のちらつきが他のハードに比べて抑えられていたということ。逆に言えば、コントラストが弱めなので、鮮烈な映像は出しにくいんです。メリットはデメリットにもなるので、そのへんはなんとも言えないんですよ。先ほども言ったように、ハードの優劣が作品のクオリティに影響しない時代になっていますよね。
◆ では、やはりゲームキューブを選んだ理由というのは、先におっしゃっていた“ゲームを作れる環境”ということですか。
三上:そうですね。ゲーム専用ハードだったというのも大きいですね。いま、情報化社会の中で新しいものが次々と出ていて、みなさん忙しいですよね。疲れて帰ってきてわざわざ一番エネルギーの必要なゲームをやるか?というと難しい。でも、そのまま楽なほうに流れると、ゲーム業界はダメになってしまうと思うんです。
小林:僕たちとしても、本当にゲームの好きなユーザーさんと付き合っていかないと、先がないんですよね。
三上:ゲームをしたいからゲームキューブを買ったという人たちに向けて、ソフトを作っていきたいんです。
いまはもう、スペックではなく、自分たちのビジョンやスタンス、スタイルでハードを決めていく時代です。クリエイターは新しいものを作っていく役割を担っているのだから、ユーザーの足元を見るのではなく、僕らが先を見てリードしていかなくてはいけないんですよ。どういうマーケットを構築していくかというのは、ソフトの力が大きいですから。
◆ また、『バイオハザード』が出ることで、ゲームキューブの新しいユーザーも増えますよね。
三上:どれくらい増えるかは全くの未知数ですけどね。僕たちはもともと一般の企業のように長期安定でやっているわけではなくて、やっぱりベンチャービジネスだと思うんですよ。ヒットする予感はクリエイターの中でかすかに匂っているだけで、やはり出してみなければわからない。そういうベンチャーの原点に帰ろうよ、という気持ちがあります。儲けたいんではなくて、今後のゲーム業界を真剣に考えていきたいんですよね。
ゲームはもっともっと可能性をもったメディアであったはずです。僕自身、ゲームが好きですし、ゲームを大事にしていきたいという思いが強いんです。その中で、一番共感することの多かったマーケットやハードメーカーさんと、本気でパートナーシップを組んでやっていこうということです。『バイオ』はその第一弾に過ぎません。今後、長い目で三上工房で作られる作品に注目してほしいですね。
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