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期待の新作『ギフトピア』大特集
2『ギフトピア』開発スタッフインタビュー有限会社スキップへ突撃!!
西健一さん
有限会社スキップ ディレクター 西健一さん
ひかりんさん
有限会社スキップ ペインター ひかりんさん
マッポ 吉田俊介さん
有限会社スキップ プログラマー 吉田俊介さん
谷口博史さん
有限会社スキップ コンポーザー・アレンジャー 谷口博史さん
有限会社スキップ プロフィール:母体となったのは『MOON』、『U.F.O』などのゲームを制作した開発会社「ラブデリック」。現在はスキップとして、ゲームキューブを中心に数本のゲームを制作中。


ネイティブアメリカンの伝承がヒントに
●なぜこういうゲームを作ろうと思ったんですか。
西 数年前に『L.O.L.』(※)という作品を作ったんですが、環境問題などに突っこみすぎてしまって、「ゲームなんか作るのは世の中のためにならないのではないか」という気持ちになってしまったんです。電気も使いますし、ゴミも出ますし。それで、いまひとつ本気でゲームを作る態勢になれなくて、次のタイトルも全然決まらなかったんです。
取材風景 そんな時、セガ系のクリエイターの水口哲也さんと、ネバダの砂漠に行ったんですよ。ネイティブアメリカンがオトナになるための儀式で「ビジョンクエスト」というのがあるんですが、それは飲まず食わずで4日間砂漠をさまよう儀式なんです。砂漠で1人でいると、狼の遠吠えも聞こえますし、殺されるかもしれないし、本当に怖いんですね。その4日間にあったことを長老に全部報告すると、「よし、お前は天翔ける鷹だ」とか、名前をもらってオトナとして認められるんです。そういう伝承が好きで、よく水口さんとも話をしていたので、砂漠に行って1日だけ断食をしてみたんですね。そうすると、幻覚が見えたりして、本当に怖い。そんなこともあって、「オトナとはなんだ?」というゲームを1本作ってみたいと思ったんです。それで、その企画で『シーマン』を作った斎藤由多加さんとコラボレーションすることになったんですよ。
ある程度進んだときに、任天堂さんに連絡をしたら、ちょうど宮本茂さんが東京に来て見てくれることになったんです。その時は僕の原案とはかなり違うゲームになっていたんですが、宮本さんが「ところで西くん、これはどういういきさつで作ることになったの?」と聞くんです。それで、さっきのようなことを全部話したら、コラボレーションする前の原案を見せてくれと言うんです。それを見せたら、「僕は君の作風を見てみたいから、君1人で作りなさい」と。それで、最初の原案に戻して作ったのが『ギフトピア』だったんです。
※「L.O.L.」=2000年にドリームキャストで発売されたゲーム。人間と別の生命体との「共生」がテーマ。音楽家の坂本龍一氏とのコラボレーション作品。
●任天堂に企画を持ちこんだのには理由があったんですか。
西 僕もファミコンで育ってきた人間なので、わけのわからないエンターテインメントをやっているつもりはなくて、ゲームを作っている自覚はあるんですね。キューブを発表した時に、岩田社長が「これはゲームマシンだ」と断言していましたよね。それで、作るならゲームキューブでやりたいと思いました。それから、ゲームキューブの開発ツールに「sysdolphin(シスドルフィン)」というものがあって、ライブラリも揃っていたんですよ。
吉田 僕はプログラマーとしてはサポート的な立場だったんですが、メインプログラマはsysdolphinのおかげで負担がすごく軽くなったと言っていました。自分でも今ちょっとずつ勉強しているんですが、やはり色々揃っていて開発はしやすいですね。
●グラフィックはいかがですか。
取材風景 ひかりん 3Dのグラフィックを実機であまり差がなく表示できるので、かなりラクでした。絵はパソコン上でソフトイマージというソフトで作っているんですが、そのフォーマットがsysdolphinにそのままサポートされているんですよ。
西 最初に宮本さんが来て「やってみれば?」と言った1週間後には、開発機材がひと揃い送られて来たんですね。そういう対応も早かったんです。2日後には絵が出ていましたね。
●ゲームの企画としては西さんのおっしゃっていたネイティブアメリカンの儀式がもとになっていたんですか。
西 いや、そこにインスパイアはされていたんですが、舞台も違いますし、また違う世界です。そこを元に最初は5人のメンバーでいろいろ考えていって、3ヶ月間でサンプルを作ったんですね。この作品は、任天堂のベンチャービジネス支援の第一弾ソフトだったんです。サンプルを見せて、通れば本契約という形だったので、社長の岩田さんや専務の宮本さんなど、そうそうたるメンバーの前でプレゼンをやりました。
それで、プレゼンが終わったら、みんなお互いに顔色をうかがっている感じだったんです。これはダメかなあと思ったんですが、わりとすんなり「このままでいいでしょう」と言われたんです。京都のかたってあんまりハッキリものを言われないので、本当にいいのかな?と思ったんですね。それで、最後に「いいんでしょうか、悪いんでしょうか。ハッキリ言ってください」と聞いたんですね。そうしたら、岩田さんが、「西くん。任天堂のこのメンバーを揃えた所で、反対意見が出ないというのは素晴らしいことなんだよ」とおっしゃるんですよ。「それは決まったっていうことですか」って言ったら、「そう受け取ってもらって問題ないでしょう」と。
それで、会社で待っていたスタッフに電話をして、本契約が決まったことを話したんです。そうしたら、涙ぐむヤツとかもいて。
ひかりん 決まるかどうかというのは、半々だなと思っていましたから。
西 会社としては初めての任天堂タイトルですし、任天堂ユーザーはお子さんも多いじゃないですか。もちろん、そこを意識して作ってはいたんですが、今まで僕らが作ってきたものはオトナ向けのソフトだったので、不安はありましたよね。
●オルタナティブRPGというジャンルになっていますが、これはどういう意味ですか。
取材風景 西 ロックでオルタナ系とよく言われますが、「代わりの」とか「取って代わる」という意味なんですよね。RPGって、スタンダードはマザーやドラクエですよね。だけど、そのスタンダードではない、取って代わるものを作っていこうと。僕らのような小さな企業がスタンダードで勝負してもかないませんし、逆にこういったソフトは僕らでなければ作れないと思うんです。
●では、通常のRPGっぽいシステムはあまり入っていないんですね。
西 そうですね。主人公に役割があって、成長するという意味ではRPGですが、バトルもなければ武器もないゲームですから。
●ゲームの目的としては、オトナになるということですよね。西さんの中では、オトナの定義はあるのですか。
西 人のために生きられるか、ということでしょうか。でも、ゲームの中ではお金を貯めるだけでも、オトナにはなれるんですね。現実の社会でも、歳をとれば成人式があって表向きはオトナになれるじゃないですか? ただ、最終的に僕が思ったのは、オトナになるというのは、国が決めてくれるわけでもなく、誰かが決めてくれるわけでもなく、自覚の問題だと。
●そのへんはゲームをプレイしていて、ひしひし感じるようになっているんですか。
西 いえ、終わったあとに感じる、くらいなんです。ゲーム自体はライトなんですよ。『ギフトピア』というタイトルも、贈り物+ユートピアという意味なんですが、贈り物というタイトルでありながら、贈り物が出てこないゲームを作りたくて。そうすると終わった時に「あれ、何が贈り物だったの?」という疑問が残りますよね。振り返ってみると、自然の環境で食べ物もあって、自分と仲良くしてくれる人たちがいる。そこに生きていけるだけで、それが贈り物じゃないかと。そういうことをセリフで言わせているわけじゃないんですが、なんとなく感じてほしいなと思っています。


アイテムが“腐る”プログラム!?
●みなさんの作業についてお聞きしたいんですが、前例のないRPGですから、特にプログラムには苦労があったのではないでしょうか。
吉田 僕のほうは本当にサポート役だったんですが、メインプログラマは大変だったと思います。僕自身は2D関係のプログラムや、スクリプトでできないことを隠れてちょこちょこやったりしていました。
●スクリプトでできないこととは?
取材風景 吉田 ゲームの中でアイテムのやりとりがあるんですが、アイテムが腐ったりするんですね。それはプログラムのほうで「これは腐っている」というプログラムを組んで表現するんです。ドアを叩いたら音が鳴るとか、環境音を鳴らしてみたりとか、そういう細かいものをたくさん作りました。
●そういう細かいところは作りながら決めていくんですか。それとも西さんのほうで指示しているんですか。
西 僕はなにも言っていないですよ。
吉田 それぞれが、こうしたほうがいいんじゃないか、ああしたほうがいいんじゃないか、とか言いながら作っていきましたね。
●グラフィックはどう進めていきましたか。
取材風景 ひかりん サンプル制作の時点で、フリフリカンパニーさんの絵を使うことは決まっていたので、私のほうでフリフリさんのマップ担当のかたと密にやりとりをして作っていきました。今回、大きなテーマだったのが、マップジャンプなしにつながっている島を作ろうということだったんです。途中で、これは計画的にやらないとダメだと思って、島の全体図を描いて、スケジュールを立てて進行していきました。
最初は今の何倍もの大きさがあったんですよ。広すぎるのはわかっていたのですが、とりあえず絵を出してみるしかなくて、少しずつ小さくしていったんです。結局、当初の予定の10分の1のマップになりました。それでもかなり広いと思います。
最終的にデータがどんどん増えて大きくなってしまったので、山とタウンの2つのマップに分かれてしまいましたが。
西 でも、常時マップを読みこむようなゲームではないので、そのへんは違和感がないと思いますよ。
ひかりん あとはフリフリさんからあがってきた家とかのデザインをこちらで修正して配置して、という流れでやっていきました。
●フリフリさんの絵になった理由はあったんですか。
取材風景 西 僕がフリフリさんの代表の程さんというかたと個人的に知り合いだったんです。宮本さんに来ていただいて企画が通った時には、スタッフが1人ぬけ、2人ぬけして、3人くらいになっていたんですよ。本当にシビアな話、給料も30%カットだ、とか。サンプルを作る時間は3ヶ月しかなくて、どういう絵柄にしようか迷っている時間もなくて。
フリフリさんというのは絵柄ができあがっているところなんで、ある程度できあがりも想像できますよね。それで、程さんに描いてくださいとお願いしたんですよ。サンプルに払うお金はないけれど、本契約したら払えるから、力をかしてくれと。「いいですよ」と言ってもらえて、そこから、前にいたスタッフにも「頼むから戻ってきてくれ」と電話をしたんです。結構みんな戻ってきてくれたので、うれしかったですね。


いつもの任天堂ソフトとはちょっと違う魅力
●サウンドはどの時期から関わっていたんですか。
谷口 サンプルを作る段階からですね。最初に、最低限必要な効果音とタイトル曲を作りました。
●音楽的なテーマはあったんですか。
取材風景 谷口 ミュージカルとオペラの中間みたいなものをやりたかったんですね。普通、ゲームのサウンドはインストなんですけど、そこに歌声をのせるとおもしろいのではないかと。このゲームをやる前に、僕が実験的にそういう曲を書いたりしていたんですが、これが周囲に評判がよかったんですよ。それで、今回やってみようということになりました。
歌は自分で歌っているものと、女性シンガーに歌ってもらったものを使っています。オペラでは人数が欲しいので、その声を加工して、多重録音で大勢で歌っているように作っています。女性シンガーには、本当のオペラのような発声じゃなくフラットな歌い方で歌ってもらってます。なので聴いた感じはミュージカルの方に近いかも。
●どういう時にオペラの曲が流れるんですか。
谷口 イベントで流れます。インストもありますが、重要なシーンでは、ほぼ歌が入っていますね。キャラクターボイスがわけのわからない不思議な音声なので、歌詞もそれに合わせて、響きにウェイトを置いてイタリア語とドイツ語の中間みたいな、オペラっぽい言語を作って入れています。
西 任天堂ホームページでもタイトル曲が聞けるようになっていますので、ぜひ聞いてください。名曲ですよ。
●リテイクとかはあったんですか。
取材風景 西 それはほとんどなかったですね。マップに関しても、そんなに訂正はなかったです。だいたい骨になる部分は3ヶ月のサンプルで作っておいたので、あとは大丈夫ですよね。
今までのタイトルでは、僕の現場での作業が忙しすぎて、全体を統括できないところがあったんですね。でも、今回はディレクションに徹して、とにかくゲームをやりこんでいって、細かく修正していくということをしました。ただ、あまり話はしなかったですけど、だいたいスタッフもわかってきているんで、通じるんですね。ちょっと違う方向に行きそうなときだけ軌道修正すればよかったんですよ。
●人数も少ないですし、少数精鋭制ですよね。
西 ゲームキューブのタイトルで、こんなに小規模で作っているものはないと思います。みんな1日15時間くらい働いていましたけど。外注もほとんど使っていないんですよ。
●最後に、ひとことずつユーザーのみなさんへお願いします。
取材風景 西 動かしてみて、さわってみて、聞いてみると、よさがわかるソフトだと思うんです。そのよさというのは、今までの任天堂のオーソドックスな路線からズレ気味のよさだと思うんですよ。この記事を読んでもらって、ちょっとでもピリッときたら、買ってほしいですね。5800円で安いですしね。
取材風景 谷口 ちょっと違った感じを求めたい人や、意外性を求めたい人には、かなりおススメだと思います。音の面でも変わった切り口を出しているので、ラブデリック、スキップのファンは楽しめると思いますし、未経験のかたには「こういうやりかたがあるんだな」と、新鮮に遊んでもらえるんじゃないかなと思います。
取材風景 ひかりん あまり気構えなくやってもらえれば、意外に個性があっておもしろいということに気づくと思うんです。あとは、フィールドが広いので、できるだけ動いて、その広さを体感してください。とにかく、走って、食って、「生きろ」というゲームです。
取材風景 吉田 僕は任天堂好きなので、普段から任天堂のゲームをすごくやりこんでいるんですよ。この作品は、それとはまったく違うゲームなんですね。最初は主人公に足かせとかあって辛いし、キャラクターもアクが強くて、僕もあまり好きじゃなかったんです。でも、今は町の住人1人1人が生きている感じがしているし、主人公のポックルもピカチュウより愛らしく見えているので(笑)、やっぱり島をじっくり味わってもらえたら、変わってくると思います。ですから、ぜひ任天堂ファンのみなさんにもプレイしてもらいたいですね。


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