N.O.M No.103 『ウィッシュルーム 天使の記憶』大特集!
『ウィッシュルーム 天使の記憶』開発スタッフインタビュー


『ウィッシュルーム 天使の記憶』■発売日:2007年1月25日 ■希望小売価格:4,800円(税込) ■プレイ人数:1人 ■ジャンル:アドベンチャー ■DS振動カートリッジ対応

“さわれる推理小説”をコンセプトに、ニンテンドーDSの機能を随所に活用したアドベンチャーゲーム『アナザーコード 2つの記憶』。このタイトルの開発に携わったスタッフが送る最新作は、ハードボイルドな世界観を持つアドベンチャーゲームです。スタッフの方々が手がけた『マンハッタン・レクイエム』など往年の名作に夢中だったミステリーファンの1人として、興味津々のインタビューとなりました。果たして大人も楽しめるミステリーを作るのに必要なものとは?
■株式会社シング プロデューサー:宮川卓也さん ■株式会社シング シナリオ・ゲームデザイン:鈴木理香さん ■株式会社シング ディレクター・キャラクターデザイン:金崎泰輔さん



心の琴線に触れるアドベンチャーゲーム
 N.O.M   アドベンチャーゲームと言っても、ひとことでは言い尽くせないところがあるかと思いますが、『ウィッシュルーム 天使の記憶』は、どんなテーマを持ったゲームなのでしょうか?
 宮川 宮川さんまず、事件や殺人を扱わず、ストーリーを重視したアドベンチャーゲームにし、加えて大人の方にも楽しんでいただけるようなものにしたいと思っていました。また、ゲームをすることでプレイヤーの方に何か感じていただきたい、という思いもありました。そこで今回は「誰にでも願いがある」ということをテーマに、このゲームを考えました。
 鈴木 私たちはゲームを作るときにはいつも、“人の心の琴線に触れるようなゲームを作りたい”という強いポリシーを持って制作してきました。みなさんがゲームをされる上で、ゲームに求めていることというのは、色々あるかと思います。例えば、敵を倒す爽快感であったり、謎を解いたときの達成感であったり。なかでもアドベンチャーゲームは感情を揺さぶるような体験を伝えやすい、むしろ自由に伝えられるジャンルだと思います。『ウィッシュルーム 天使の記憶』は、そうした部分を前面に押し出したゲームではないかと思います。
 金崎 もともと、我々は映画が好きなのですが、80年代の西ドイツの映画に「バグダッド・カフェ」というものがありまして、この映画がすごく良かったんです。この映画に感じた雰囲気の良さに、鈴木が以前考えた友人を探すような小さな物語を組み合わせて、本来のゲームとは違う「心の琴線に触れる」、「プレイヤーに色々と想像の余地を残す」というようなテイストを持った作品を世に送り出したい、という気持ちを抱いて開発を進めました。
 N.O.M   『ウィッシュルーム 天使の記憶』というタイトルはどのようにして生まれたのですか。
 宮川 まず設定として、ホテルを舞台にしようということになりました。そのホテルには「願いがかなう部屋」と言われる不思議な部屋がある。それに、先ほどもお話したとおり、「誰にでも願いがある」というテーマを伝えたい。このことがパッと心に響いてくるようなフレーズとして「ウィッシュ」、そしてホテルが舞台ということで「ルーム」を組み合わせたタイトルがいいのではないかと、けっこう早い段階で決まっていました。最初は開発におけるキーワードだったのですが、ゲームのタイトルとしてもそのまま残ったわけです。
 N.O.M   ミステリーにありがちな○○○殺人事件という案などはまったく無く?
 宮川 そうですね。あまりにも露骨に“○×事件”としてしまうと、どうしてもそのイメージが強くなってしまいます。ゲームの中で殺人事件があるんじゃないか、というように想像してしまう。本来表現したいことから違うイメージをもたれてしまうと、実際ゲームを遊ばれたときに受け止められ方が違ってくるので、それは避けたいと思っていました。
 鈴木 鈴木さん私はミステリーのシナリオをいくつか手がけてきましたが、いつもその作品世界のなかで伝えたいイメージをタイトルに込めるようにしています。『アナザーコード 2つの記憶』もそうですね。ただ、“○×殺人事件”というタイトルではないからといって、ゲーム中に全く殺人事件が全く起きない訳ではなく、ドラマの背景としてそういった事件が関わってきます。ゲームを進めていくと、人の死や生臭いこと、欲望も見え隠れします。
事件というのはきっと人の欲望から生まれてくるものだと思うのですが、それには宮川が言いましたように「願い事」とでも言うような何か理由があるはずなんです。なぜその人がそんなことをするに至ったのか、という原点は欲望という言葉ではなくて、心のなかにある願い事が叶えられなかったときに叶えたいと思って、人が本能のまま動くことが事件となり、人の心の闇になるのではないかと思います。今回、そういうことを正面からとりあげた物語を作りたいと思いました。
 宮川 『アナザーコード』のときもそうですけど、人間のドラマを描きたいとは思うのですが世の中には色々な殺伐としたことが多くてテーマを選ぶのが難しい時代になってきました。そのような状況で誰かの心のなかにあるもの、本当に望んでいることって何だろう? 『ウィッシュルーム 天使の記憶』のシナリオをスタートさせるときには、ずいぶんその辺を皆で考えていた覚えがあります。


ストーリーと世界観
 N.O.M   主人公「カイル・ハイド」がホテルへたどりつくところから始まりますが、どういう経緯でこのホテルへたどりついたのでしょうか。
 鈴木 カイル・ハイドは、友人を捜すという目的をもって刑事をやめ、男の気概をもっていました。けれども、そう簡単に友人は見つからず、かといって今の仕事もやめるわけにはいかないし、後に引けなくなってしまう。どうしようかなって思っているときに、仕事で「ホテル・ダスク」へ行くことになり、そしてドアを開けた・・・というのがドラマの始まりです。
 N.O.M   ホテルという閉鎖された舞台設定が効果的に機能していると思いますが。
 鈴木 閉ざされた舞台ながら、そこにいる人を通してその人が見てきた外の世界を感じることができる。限られた登場人物が世界をどれだけ広げてくれるか……ホテルはそれに最適なところだと思って選びました。カイル・ハイドという男が1人やってきて、さまざまな人たちと出会う。見知らぬ者同士が部屋のなかで会話を重ねておたがいを理解し合うときに、その人を通じて世界が広がっていく、というのは非常に面白いことだと思いますしゲームにも向いていると感じましたね。
 N.O.M   舞台に1979年のアメリカ西海岸を選んだ理由は?
 鈴木 1979年というのが私の青春時代だったというのもあるのですが、アメリカではベトナム戦争が終わり80年からレーガンが大統領になった。時代が、アメリカが一度自信をなくして、もう一度がんばろうとしているころだったと思うんです。 刑事をやめて友人を捜す覚悟を持った男が、ちょっと迷いながらホテルにやってくる……という時代設定は、私のなかでは79年の西海岸だったのです。でも、その時代設定だと携帯電話などは無くてポケベルぐらいしかない。メールもなければ、コンピュータも普及していない。
 N.O.M   そのことにデメリットを感じなかったのですか?
 宮川 宮川さんはい。あえて試してみるのが面白いだろうと。若い人には新鮮かもしれないし、30代・40代のユーザーさんには懐かしさを感じてもらえるのではないかと。鈴木が「ポケベルって出してわかるかな?」とか言いながら魅力的な人々が集まるシナリオを作り出してくれました。
 鈴木 ホテル物というのは以前からやってみたかったんです。ホテルって入口のロビーに立つだけでドキドキしますよね。豪華ではない、ごく普通のホテル。そこに集まる様々な想いをもった人たち、その一晩の物語が『ウィッシュルーム 天使の記憶』なんです。


グラフィックと密接に関わる操作感
 N.O.M   独特のタッチで描かれたグラフィックですよね。
 金崎 金崎さん『アナザーコード』では主人公が女の子だったので少しかわいらしい雰囲気でした。今回は大人の男性を中心に描きたいと思っていたんです。それでいて特定のユーザー層だけにウケて終わるのではなく、多くの人に遊んでもらえるように間口も広くと心がけました。
 N.O.M   登場人物たちがモノトーンで描かれています。
 宮川 そうですね、プレイされる方にある程度想像してほしいんです。そういう意味で、あえて色がないモノトーン調で描くことで、見る人によって色々と感じてもらいたい、という狙いがあります。
 鈴木 金崎がこだわった独特のタッチは、雑誌などでは伝わりにくいかも知れません。やはり実際に動いている画面を見てもらいたいですね。ゲーム全体におけるハードボイルドな空気感を作ってくれたので、私としてはシナリオを書く原動力になりました。
ゲーム画面
 金崎 じつは考えてみたものの実行はできないだろうと思っていたアイデアなんです。でも、任天堂の開発担当者もプッシュしてくれて。
 鈴木 ユーザーさんがゲームに期待している新規性というのはすごく大きいと思うんですよ。未体験のものを遊びたいという。それが一番わかりやすいのはビジュアルだと思うので、まずその部分が開発初期で固まったのは大きかったですね。
 金崎 ちなみに、塗り残しは決してバグではないですよ(笑)。わざとペイントしている部分と下書きが残っている部分を分けて味わいを出しているんです。
 N.O.M   ニンテンドーDSを縦に持って遊ぶスタイルは、小説のように読み進めていくようなイメージから生まれたのですか?
 宮川 じつは最初は横型で開発を進めていました。でも、会話シーンがどうもしっくりこない。5ヶ月ほど試行錯誤したのちに縦型も試してみたんです。ただ、最初はバランス調整が大変でした。キャラクターの配置はどうするかだとか、閉塞感は出ないかだとか、左利きの人はどうするんだとか、色々議論はありました。
 金崎 ニンテンドーDS 縦型でも縦型にしたことで会話中の雰囲気がすごく良くなったんです。横型だと上下にキャラクターが分かれるので2人が対峙している様子が画面から感じ取れない。加えて全体像を入れたいときに、横型では画面の縦横の比率からキャラクターが小さくなってしまって、魅力がわからなくなってしまう。縦型に変えたことで目と口の表情だけじゃなくて、身体全体を使った動きのある演出が可能になりました。
 鈴木 ただ、謎解きを作る場合、左右に並んだ縦画面というのは面白くもありネックにもなるところがありました。テキストの幅も違うし、謎解きの演出なども縦長の画面で展開させなくてはならなかったので。
 金崎 開発チーム全体の意見からすれば正直横型のほうが作りやすかったかもしれません。ただ、横型で進めていたら、我々のやりたいことが表現できなかったのではないかと思います。
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