N.O.M Nintendo Online Magazine No.143 June 2010
クリエイティブディレクター Tancred Dyke-Wells(タンクさん)
スーパーバイザー 宮地 香緒里
プロデューサー 寺崎 啓祐
2. 教えることは難しい
---

ゲームの中のレッスンでは少しずつステップを踏んで、自然に絵が上達するようになっていますよね。

タンク

いきなり真っ白なキャンバスを目の前にすると、何から始めたらいいのかわからなくておびえてしまいます。しかし、ひとつひとつステップを踏んでいけば、実はすごく簡単なんです。結果的に驚くような絵が描けるようになっています。

---

レッスン全体の構成はすぐに決まったんですか?

寺崎

いや、それは全然決まりませんでした(笑)。任天堂にも絵を描けるスタッフはたくさんいるんですけど、DSiウェア版スタート時から関わっていたスタッフは皆ド素人だったので、Kujuが絵の先生で、私たちがその生徒の気分でした。それで「こんなレッスン難しすぎる」みたいな感じで、わかりやすいレッスンになるように何度も作り直してもらいました。

タンク

注文の多い生徒たちでしたよ(笑)。

寺崎

よく覚えているのは、最初の頃にカラーの写真を見ながら鉛筆でモノクロの絵を描くレッスンがあったんです。「でも、それはタンクたちにはできるだろうけど、私たちにはできないよ。同じような明るさの別の色をどうやって白黒で描いたらいいのかわからないから。」そう言ったら、タンクがビックリしていたのを覚えています(笑)。

タンク

そうなんですよね。私たちは実際の風景を見ながらでも鉛筆で当たり前に描けちゃうけど、やっぱりそれは難しいことなんだなというのがわかりました。

---

わからないことがわかったわけですね。

タンク

ちなみに「ベーコン」という犬がモチーフに登場するのですが、実は、この犬が白黒の犬になったのも、そういうやりとりの結果だったりします。

一同

(笑)。

photo2
---

ひとつのレッスンは短いので、ちょっと空いた時間を使って描くこともできますね。

タンク

そうですね。ステップごとに5分、10分と、少しずつでも進めることができます。
あと、ゲームデザイナーとしては、ステップごとに「なぜそれをするのか」を説明するのが重要なんだなと気付かされました。単純に「次に青色でぬります」という説明だけでは、プレイヤーにとって、それは単純に色をぬるだけの作業になってしまう。
私たちは常に「どこでも使える絵のスキル」を生徒に教え、その特定のレッスンだけでなく、他でも応用できるように心がけました。

---

ちなみに、一番印象に残ったレッスンは?

タンク

どれも思い出深いんですが、少しずつステップを積み重ねていくものなので、やはり学んだことのまとめとなっている、風景を描く最後のレッスンですね。レッスン中、キャンバスに絵を描いていると、まるでその場にいるような環境音が流れるんですが、このレッスンでは風の音や羊の鳴き声なども聞こえてリラックスできますよ。

photo3
レッスン10:風景画(DSiウェア版では「後期」に収録)

寺崎

私が印象に残っているのは、プロトタイプであった青リンゴのレッスンですね。今回の『絵心教室DS』では赤いリンゴに変わりましたが、ほぼ同じ内容が体験版として収録されています。それともうひとつ、赤青黄の3色の線だけで夕焼けの海が描けるレッスンですね。絵を描くのが苦手で嫌いだったけど、こんなに簡単に描けるんだと、自分が別人に生まれ変わったような気がしました(笑)。

photo4
レッスン2:基本Part2(DSiウェア版では「前期」に収録)

宮地

私は波のレッスンですね。描いてる途中は「これ、ちゃんと波になるのかな」って不安に思いながらなんですが、完成するとすごくしっかりした絵になるので満足感がありましたね。

photo5
レッスン6:波(DSi
ウェア版では「前期」に収録)

寺崎

アルバムで自分が描いた波の絵のサムネイルを見たときは、自分は天才なんじゃないかって思いましたよ。

一同

(笑)。

---

レッスンにも出てくると思いますが、絵を描くのにちょっとためになるポイントをお教えください。

タンク

“最初からディテールを描こうと思わなくていい”ということですね。まず大きなブラシを使ってモチーフを全体的にざっくり描くようにすると良いと思います。その段階ではうまく描けなくても良いので、基本的な部分をしっかりぬるようにしてみてください。
少し抽象的・哲学的になりますが、絵を描くというのは、自分の目に映るものを理解することだと思うんです。マニュアルに沿ってやるようなものではなく、もっとメンタルなものなんです。多くの方は絵筆を思ったように動かせないことを心配しがちですが、本当に大事なのは自分が何を見ているのかを理解することなんです。

---

なるほど。

タンク

それと“黒を使うときは気をつける”です。真っ黒というのは、自然界では本当にまれなものなんです。黒に見えるものは、ほとんど何かしら別の色が混ざっています。したがって、黒をそのまま入れてしまうと、絵の雰囲気がなくなってしまう。可能であれば、何か他の色と混ぜながら使うことをオススメします。そうすると、絵がまるで生きているかのようになります。