4. いろいろなアイデアが活かされたトレーニング

岩田

それでは『Wii Fit』のソフト部分についてお訊きします。
普通は体重計のソフトをつくろうとすると、
「体脂肪率も計れたほうがいいよね」
という方向に行くのが普通ですよね。

宮本

実は体脂肪率に関してはだいぶ粘っていたんですが、
最後に捨てました。
バランスというキーワードが出てきたところで、
それを活かすことに集中しました。

岩田

ソフトづくりのテーマをしぼって、
パッとまとめてしまうのがひとつのカギになっているんですね。
バランスWiiボードで出来そうなことがいろんな方向に展開されて、
あるものは「バランスゲーム」(※13)で、
あるものは「有酸素運動」(※14)に、
あるものは「筋トレ」(※15)
そして「ヨガ」(※16)に整理されたわけですけど、
最初からそのような分類はあったのですか?

※13

「バランスゲーム」=バランス感覚を養うゲーム。

※14

「有酸素運動」=体内の脂肪の燃焼を促進させる運動。

※15

「筋トレ」=身体の部位を引きしめる運動。

※16

「ヨガ」=身体を引きしめ姿勢を改善する運動。

宮本

最初のころは、そこまで分類していませんでした。
まずいろんな実験をしていく中で、「ゲーム」はあるだろうなと。
それから「ヨガ」も入れようと。
もともと「ヨガ」は『Wii Fit』とは別の企画だったんです。
企画会議のときに、ヨガが流行っているので、
そんなソフトをつくりたいというスタッフがいまして。
でも「流行りだからといっても、
そんなに簡単に商品がまとまるわけじゃないし、
企画の目のつけどころはいいけど、
商品としてはぜんぜんアカン」と冷たくあしらっていたんです。
ところが、『Wii Fit』をまとめることになったとき、
「あの『ヨガ』を考えたスタッフも入れよう」って(笑)。
「ヨガのようなソフトは、バランスWiiボードを使ってこそ
意味が出てくるんだ」という話をしたんです。結果的には
ヨガに限らず全体の製作に関わってくれました。

岩田

ボスざるは噛んだあとも
エサも与えなアカンということですね(笑)。

宮本

(笑)。
それで、「ヨガ」はひとつのジャンルとして成立するんですが、
ほかの3つのジャンルとのバランスをとるのに苦労しましたね。
まず、バランスWiiボードを使ってできるトレーニングの
メニューをたくさん考えて、松井薫さんという
専門のトレーナーの方に監修をお願いして
あまり効き目がなさそうなものを判断していただいて、
一方で、オススメのメニューを提案してもらいながら、
収録するトレーニングをどんどん決めていきました。

岩田

いまの話は『脳トレ』(※17)にすごく似ていますね。
あのソフトはとにかくたくさんのトレーニングをつくって、
脳の活性化にどれが効いて、どれが効かないかを
川島先生(※18)に評価してもらって選んだんです。
『もっと脳トレ』をつくったときは、少し慣れていたので、
どういうことをすれば脳が活性化するかということが
開発サイドである程度わかっていたので、
検証の結果、かなり高い打率で採用されたんですけど、
初代のときは、かなり採用されなかったトレーニングが
あったんですよね。

※17

『脳トレ』=2005年5月にニンテンドーDS用ソフトとして発売された『脳を鍛える大人のDSトレーニング』のこと。

『脳を鍛える大人のDSトレーニング』

※18

川島先生=東北大学の川島隆太教授。『脳トレ』『もっと脳トレ』を監修。

宮本

今回は、僕が水泳をかじっていたり、
ジムに行ってトレーニングをしたりしてましたので、
「有酸素運動」は外せないと思っていました。
ですから、はじめ→「踏み台リズム」は、
「バランスゲーム」に入れていたんですが
「有酸素運動」としてまとめようと。
さらに→「フープダンス」も「有酸素運動」に入れようと。
そうすると「有酸素運動」がだいぶ形になってきたので、
もうちょっとメニューに何かほしいなと思ってるときに、
別チームの『Wii Sports』のスタッフが
たまたま実験しているのを見てしまったんです。

岩田

それが、リモコンをポケットに入れて走る
→「ジョギング」になったんですね。

宮本

そうです。それはそれでおもしろいと思っていて、
『Wii Sports2』を出すとも決まってないし、
陽の目を見ないこともあるので、ディレクターを呼んで、
「このアイデア、すごくいいんだけど、『2』を出すかわからないので、
『Wii Fit』にちょうだい」って(笑)。
それで『Wii Fit』のメンバーには、
「いまさら大変だけど、これを入れようよ」ってことで、
「有酸素運動」のメニューがきれいにまとまったんです。

岩田

アイデアの活かし方の典型のような話ですね。

宮本

それで、『Wii Fit』のメンバーは手一杯になっていましたので、
『Wii Sports』のディレクターに、
「プログラマーも一緒に貸してよ」って頼んで(笑)。
本当に開発の最後の最後のことだったんですけど、
そういうことができるのが、情報開発本部のいいところですね。
担当が違っても、いろいろ協力してくれるし、
仲良くやってくれてますからね。

岩田

普通は、システムが違うからイヤだとか、
あいつに手柄を取られるのがイヤだとかいう話になるんですけどね(笑)。

宮本

そのへんは、わりとスムーズにみんなやってくれましたね。

岩田

ちなみに、わたしはあの「ジョギング」で毎日走ってます(笑)。

宮本

バランスWiiボードを使わないので
制作ルールからは逸脱してるんですけど、
ボードを使わなくてもいいゲームがいくつかあって、
おもしろければボードを使わなくてもいいかなと思ったんです。

岩田

このあたりが宮本さんのおもしろいところですよね。
「全部バランスゲームにしろ」って言ったくせに(笑)。

宮本

(笑)。

岩田

その基本を自分で崩しちゃうんですね(笑)。
その崩し方のバランスが、逆にバリエーションを感じさせるんです。
あと、「フープダンス」が「バランスゲーム」にあるのと、
「有酸素運動」にあるのとでは、印象がすごく違う気がします。

宮本

お客さんにどう見てほしいかということは
すごく大事だと思うんです。
だから、取扱説明書をつくることに関しても、
もともと僕はすごくうるさいんですけど、今回は特にそうでしたね。
つくった人はお客さんにこれをどう見てほしいの?
ということに、すごくこだわりたいんです。

岩田

『Wii Fit』は、これまでにない新しいソフトですし、
そこで新しいお客さんが入ってきて、
ゲームの説明書なんか読んだことのない人たちが
読むものなんだからと、今回はとくに力説してましたよね。
その意味で、バランスWiiボードに乗ると、
テレビ画面のウィーボ(※19)が、
いろんなことを言ってくれるじゃないですか。
わたし、あれがたまらなく好きです(笑)。

※19

ウィーボ=バランスWiiボードを擬人化したキャラクター。ふにゃふにゃした柔らかい動きが特徴。

宮本

バランスWiiボードの電池が減ってくると、
聞き取りにくいんですけど、何か言ってくれたりしますしね。

岩田

あのセリフは、ぜひお客さんにも聞いてほしいですね(笑)。

宮本

最初のころは、「どうしてボードに乗ったときに音が鳴らないの?」
という話をしていまして・・・。
そこで、ボードに乗ると「ドンドン」って鳴る実験をやったんですけど、
足で音を鳴らすのって、結構うれしいんですよね。

岩田

何もしゃべらなかったら、ただの体重計なんですけど、
毎日、バランスWiiボードに乗って、ウィーボの声を聞いていると、
いつの間にか、愛着が生まれるようなところがありますね。