4. 足で操作するコントローラ

岩田

ちなみに、流田さんがこの仕事をはじめたころに、
これほど会社が力を入れる商品になると思ってましたか?

流田

少なくとも、真四角のものをつくっているときは、
そんな気持ちはありませんでしたね。

一同

(笑)

流田

最初の試作品はどう見ても体重計でしたし、
デザインの余地もないだろうと思っていました。
でも、やっていってるうちに、
使いやすくなったと思います。
最終的なデザインが決まるまでの試作品を
ミニチュアで持ってきていますのでご覧ください。

岩田

こうやって並べてみるとすごいですね(笑)。
わたしは過程を見ていませんから、改めて驚きました。

流田

いろんな形に変わっていくと、
それに合わせて内部の構造も変更しなければなりません。
特に機構的に十分な強度を持たせるための苦労がありました。
でもこれらの試作品と比較して最終形を見たとき、
本来あるべき姿になったんじゃないかと思います。

岩田

それにしても、
どうしてこんな変なものをつくれたんでしょうかね(笑)。

流田

そうですね(笑)。
今回の商品は体重計として公的に認められた商品ですし、
だからこそ、それを証明するシールを貼ることになっています。
そうやって、ゲームメーカーである任天堂が、
体重計のような商品を出すことを公に認められたことで、
これまで任天堂になかった商品をつくったんだなあ
という達成感がありました。

澤野

さきほど、流田さんが少し触れましたけど、
今回の企画は、公的に体重計として認められるまでもかなり大変でした。
かなり専門的な話になりますので、くわしくは言えませんけど・・・。

流田

そういった交渉ごとは、
澤野さんたちがやってくださったんですけど、
本当に大変だったようですね。
あるとき会議があって、公的な許可が出たにも関わらず、
製造の準備やその見通しを理由に体重の表示をやめて、
BMI(※13)だけの表示にすればいいとの意見が出たことがあったんです。
その発言を聞いた宮本さんは、机をバンと叩いて
怒ったことがありました。

岩田

企画に関して納得できないときの宮本さんって
本当に恐いですからね(笑)。

※13

BMI=「ボディ・マス・インデックス」の略で、国際的に用いられている体格指数のこと。『Wii Fit』にも採用されており、肥満度が数値化されるようになっている。

流田

宮本さんは、机をバンと叩きながら、「それは違うよ」と。
「BMIが2つ減ったら標準体重ですよ」というのではなく、
「体重を3キロ減らしたら標準体重ですよ」という
お客さんの立場で考えると、わかりやすさが大事なんだと。
5歳から95歳の人たちに、Wiiを楽しんでほしいのに、
「BMI」って言われても、「それって何?」と思う人が大多数でしょうと。
みんなが親しみを持っているキログラムで表現する方向で
商品を持っていこうとしていて、
スタッフが苦労して公的な機関と交渉しているのに
それに後ろ向きなのはどういうことだと、
机を叩きながら怒ったんです。
わたしはその場にいて、そのとおりだなあと思いました。

岩田

今回の商品は、お客さんの立場で考えることが
とても大事だということですね。
『Wii Fit』は、本当にたくさんの試行錯誤があって、
世の中に出て行くということがよくわかりました。
本当にお疲れ様でした。
それでは最後に、ハードをつくる立場から
お客さんへのメッセージをお願いします。

澤野

できるだけ多くのお客さんに使っていただいて、
このボードがみなさんの健康に貢献できればと思います。
実際に「Wii Fitを使って家族で健康管理をしています」というコメントを
聞くことができたら、本当にありがたいですね。
あと、前回の「社長が訊く」で、岩田さんが話してますけど、
Wiiウエアで、いろんなソフトが出てくればいいなあと思っています。
僕は、開発の途中から、このバランスWiiボードを
足で操作するコントローラとして育てたいと思うようになりまして、
前後左右のバランスを生かせば、きっとおもしろいことができますので、
いろんな人にチャレンジしてほしいと思っています。

流田

澤野さんが言うように、
いろんなサードパーティさんとかが使ってみたいと思われて、
結果的に多くのお客さんが楽しんでくれるようになると、
開発者冥利につきますよね。
Wiiリモコンと組み合わせれば、いろんな操作方法もできると思います。

岩田

どうしてもハード関係者って、
ソフト開発者向きのコメントになってしまいますね(笑)。
野望は十字ボタンとABボタンのように、
いろんな人が使ってくれることですね。
それでは次回は、ソフト関係者の話を訊くことにしましょう。
今回とは別の視点の話が訊けそうなので、とても楽しみにしています。