3. 開発の終盤にできた、「ながらモード」

岩田

それでは、ソフトに関して話を訊くことにしましょう。
『Wii Fit』では、トレーナーが登場して、
「ヨガ」の指導をしてくれたりしますが、
→男女2人から選べるようになっていますよね。

松永

最初は、女性1人だけだったんです(笑)。

宮本

男ばかりのメンバーでつくっていたからでしょう(笑)。

一同

(笑)

宮本

だから、僕は「いろんなお客さんがこのソフトをプレイするんだから、
男性のトレーナーもいれなアカンやろ」って言ったんです。
そしたら、「えっ、新たにもう1人つくるんですか?」って(笑)。

松永

あのトレーナーはすごく凝っていますので、
2人もつくるのは、とても大変なんです。
モデルさんの動きを、モーションキャプチャー(※5)で取り込んで、
自然な動きになるようにしていますが、
とくに「ヨガ」は、呼吸することも大事な要素になります。
でも、お腹の細かな動きまではキャプチャーできませんので、
あとから、お腹の動きを手で調整しているんです。
そんな風に、1人をつくるだけでも手間がかかってるのに、
2人もつくるのは作業量的にすごく大変だったんですね。

※5

モーションキャプチャー=体の各部位にセンサーをとりつけ、人体の動きをコンピュータに取り込む技術のこと。

岩田

わたしは、男性トレーナーを選んでトレーニングしているんですが、
ある日突然、女性トレーナーが現れて、
「今日は彼の代理で来ました」って言われて、
すごい衝撃を受けました(笑)。
こんな演出も用意されているんですね。

一同

(笑)

松永

岩田さんに、そんなに喜んでいただけたのなら、
男女2人にしてホントによかったと思います(笑)。

岩田

(笑)。トレーナーの先生が登場する部分って、
メニュー全体からすると一部ですよね。
そうじゃないところもたくさん収録されてますけど、
それらはどうやってできていったんですか?

松永

初期段階では「バランスゲーム」として
くくられたものを試作していきました。
僕らはこれまでゲームばかりつくってきましたので、
とっかかりとしては、やりやすかったんです。
そこで、宮本さんから出されたお題の中には
→「スキー」が入っていて、それからつくりはじめました。
それとは別に、僕らの間でもネタ出しするようにして・・・。

岩田

うまくいくと思っていたのに、
そうは問屋が卸さなかったネタってありますか?

松永

試作品の中に「トランポリン」というのがあって、
僕は最初「これは絶対にいける!」と信じていました。
ボードの上で屈伸の動きをすると、
キャラクターがトランポリンをするという仕組みでした。
ところが、実際に試作品をつくってみると、
空中に飛んだときの挙動をつくるのが難しくて、
何よりも、「それをやってどこがおもしろいの?」って(笑)。
それで、ゲームとしてまとめることができずにボツにしました。

岩田

「トランポリン」とは逆に、最初はダメだと思っていたものが、
やってみたらすごくおもしろかったというものはありますか?

松永

企画の段階では→「フープダンス」は、
「これってどうなの?」という感じで、
担当スタッフも、最初は乗り気じゃなかったんですけど、
実際につくってみたらおもしろかったですね。

岩田

「フープダンス」は運動にもなりますし、おもしろいですね。
最初にはじめたころは、右回しと左回しはこんなに勝手が違うものかと
ショックを受けたくらいです。

杉山

「フープダンス」は、やってる人の姿を見ているほうが
実はおもしろかったりするんですよね(笑)。

岩田

たしかに、あんなに腰をぐるぐる回すようなことは、
あんまりないことですよね(笑)。
ちなみに、今年のE3(※6)で『Wii Fit』を初公開するときに、
宮本さんは、ステージの上でNOAのレジーさん(※7)に、
どうしても「フープダンス」をやらせたかったようなんです。
それで、E3の事前の打ち合わせのときに、
「フープダンスをやって」って頼んだんですけど、
レジーさんは恥ずかしがって断られてしまったんです。
それでも宮本さんは懲りずに、打ち合わせをするたびに
「レジーさん、やって」って頼んでは、断られてるんですよ(笑)。

一同

(笑)

岩田

それで、あろうことか、
E3の発表会直前のリハーサルのときも、また頼んでるんです(笑)。
宮本さんの執念はすごいなあと思いましたね。

宮本

そのときは、さすがにレジーさんも
「腰に病気があるんだ」と言い訳してましたね(笑)。

一同

(笑)

※6

E3=2007年7月にアメリカ・サンタモニカで開催されたゲーム展示会のこと。このショーで『Wii Fit』を初出展した。

※7

レジーさん=Reggie Fils-Aime。Nintendo of America.Inc社長。アメリカでの発表会ではステージに立ち、プレゼンテーターもつとめる。

岩田

でも、人が「フープダンス」をやってる姿を見るのは、
すごく魅力があるというのは間違いないことで、
先日の任天堂カンファレンス(※8)でも実証しましたよね。
宮本さんは、アメリカで果たすことのできなかった夢を、
数ヵ月後に、日本で実現させることができたんですね(笑)。

宮本

でも、スタッフから「社長だけはやらないほうがいいです」
って言われましたよね(笑)。
その意味で、レジーさんにやらせなかったのは、
NOAとしては、賢明な判断だったかもしれませんね(笑)。

一同

(笑)

※8

任天堂カンファレンス=2007年10月10日に幕張メッセで開催された発表会のこと。ステージの上では、司会の中井美穂さんや、ゲストの森末慎二さん、相沢紗世さんが、「フープダンス」を披露した。

岩田

「有酸素運動」には→「ジョギング」も入っていますけど、
これはもともと別の開発チームでつくられていて、
かなり終盤になってから入れることになったそうですね。

松永

もともとは、「バランスゲーム」に入っていた
「フープダンス」と→「踏み台リズム」
「有酸素運動」として別のくくりにできないかという話があって・・・。

杉山

メタボリックシンドロームのことが
世間ではとても話題になっていましたし、
長い時間続けられる運動が求められてると思いました。
そこで、「有酸素運動」として新たなジャンルをつくることにしたんです。

松永

その「ジョギング」の話がきたのは、
今年の7月くらいのことでした。
宮本さんから「手応えがすごくいいから、ぜひ入れたい」と。
でも、そのときはすでに『Wii Fit』の仕上げに入ってる時期だったんです。
しかも、「ジョギング」はまだ実験段階で、
走る地形も仮のものしか入っていませんでしたので、
新たに作り直す必要がありました。だから・・・、
(あきれた表情で)「いまからですか?」って
言うしかありませんでしたね(笑)。

岩田

7月って、ほんの少し前のことじゃないですか(笑)。
「ジョギング」は、バランスWiiボードを使わずに
Wiiリモコンをポケットに入れてトレーニングしますよね。
「全部をバランス系にしろって言ったのは、宮本さんじゃないですか!」
って、叫んだりしませんでしたか?(笑)

杉山

はい、心の中で(笑)。

一同

(笑)

松永

でも、いざ入れることが決まってからは、
スタッフの作業はすごく早かったですね。
それに、社内でも「ジョギング」の評判がとってもいいんです。

岩田

わたしも毎日走ってるくらいですからね(笑)。
目の前に何も表示されないで走るより、
テレビ画面を見ながら走ったほうが、格段にいいんです。

宮本

僕は家族のMiiを登録したとき、現実感がかなり出てきましたね。
「ジョギング」をやってるときに、
家族が出てくるとうれしかったりしますよね。
単身赴任しているお父さんが走ってると
「お父さんもがんばってるんだなー」と思えますしね(笑)。

岩田

でも、家族のMiiが自分を抜いていくときに、こちらを振り返って、
ニコッって笑うので、すごく悔しかったりするんですよね(笑)。

一同

(笑)

杉山

有酸素運動では、「ながらモード」もオススメですね。

岩田

「ながらモード」は
もともとアイデアとしてあったんですか?

宮本

いつか使ってみたいという
アイデアとしては、僕の中にはありました。

杉山

「ながら踏み台」というのを一種類予定していましたが、
「ジョギング」まで、「ながらモード」を入れることになったのは
終盤の土壇場でした(笑)。

宮本

だから、完成の直前だったんです。
というか、ついこの間のことで(笑)。

一同

(笑)

杉山

どちらかと言うと「ながらモード」って、
中高年向きなのかもしれないですね。
おもしろいからやるというより、運動不足を補うためにやる感じで、
僕なんかもけっこう気にいってやってます(笑)。

岩田

みなさん忙しくて、運動をするための時間がないということも
けっこう問題だったりしますよね。
その意味で、「ながらモード」は、
ほかのことをしながら運動できるのがいいんでしょうね。

宮本

「ながら腕立て伏せ」とかを入れておけば、
筋肉をつけられて、よかったかもしれませんね。

岩田

それはムリです(笑)。

一同

(笑)