4. “驚きと楽しさとあたたかさ”をテーマに

岩田

それでは後半をはじめます。
いまここに並んでおられる4人は、
わたしがハル研時代につきあっていた人たちなので、
自己紹介をしてもらわなくても
わたしはわかっているのですが(笑)、
世の中の人はもちろんそうではないので、
先に自己紹介と何をしているのか、
お話ししてもらおうと思います。では、山本さんから。

山本

ハル研究所の山本です。
いまはキャラクタープロデュース課というところで、
『カービィ』に関しての世界観であったりですとか、
現場のプロデュースなどを担当しています。

石川

ハル研究所の石川と申します。
サウンドを担当していまして、
音楽をつくったり、効果音をつくったりしています。

岩田

多くのみなさんが知っている初代『カービィ』の音楽は、
石川さんが中心になってつくられましたので、
カービィサウンドの創設者といっていい人ですね。

石川

はい。

安藤

ハル研究所のサウンド担当の安藤です。
ふだんはゲームのなかのBGMと効果音の作成が仕事です。

岩田

安藤さんは、『カービィ』シリーズの2作目、
→『夢の泉の物語』(※7)の音楽を担当されたんですよね。

安藤

その通りです。

※7

『夢の泉の物語』=『星のカービィ 夢の泉の物語』。ファミコン用ソフトとして、1993年3月に発売されたアクションゲーム。シリーズ2作目。

池上

ハル研究所の池上と申します。
僕はもともと、サウンドの担当だったんですが
最近はどちらかと言うと、マネージャーとか、
そういったお仕事を数多くやっています。

岩田

ありがとうございます。さて・・・
もともと『毛糸のフラッフ』だったソフトが
『毛糸のカービィ』に変わっていくなかで、
どのようなことを考えながら関わりを持つことになったのか、
まず最初に山本さんにお訊きします。
山本さんはキャラクタープロデュース課という組織の他に、
ワープスターという会社にも所属されていますが、
この会社のことをちょっと説明していただけますか?

山本

はい。ワープスターという会社は、
『星のカービィ』のアニメーション(※8)をつくるときに、
カービィのキャラクターの管理をする組織が必要ということで
任天堂とハル研究所が出資して
2001年に設立された会社です。

岩田

アニメの放送は終わっていますけど、
ワープスターという会社はいまも
カービィのキャラクター管理をするために、
存続しているんですね。

山本

はい。で、今回『毛糸のカービィ』がつくられることになって、
ある部分ではハル研のキャラクタープロデュース課として、
ある部分ではワープスターとしてこのソフトの監修をしました。

※8

『星のカービィ』のアニメーション=2001年10月から2003年9月まで、TBS系で放送されたアニメ番組のこと。全100話。

岩田

でも、いきなり『毛糸のカービィ』の話が舞い込んできたわけで、
そのときはどんな印象を持ちましたか?

山本

まず最初に、まだカービィが動いていない
開発中のソフトを見せてもらったんですけど、
それがすごくよくできていたんです。なので
「ここまでできているものを、これから『カービィ』にするのか?」
と驚きました。

岩田

「ひどいことをするなあ」と思われませんでしたか?

山本

あそこまで世界観ができていましたので、
スタッフのなかには、ガッカリする人もいるのではないかと。
というのも、わたし自身が1995年に
→『ポケモンスナップ』(※9)をつくったときのことを思い出したんです。

岩田

NINTENDO64ソフトの『ポケモンスナップ』は
もともとはポケモンではなく、
ふつうに写真を撮るゲームとしてつくられていたんですけど、
遊びの動機がはっきりしなかったんです。
そこで、写真を撮ったらうれしいものは何だろうということで
後から「ポケモンを撮る」という方針に、けっこう強引に変えたんですよね。

※9

『ポケモンスナップ』=1999年3月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたカメラアクションゲーム。

山本

そのときわたしはデザイナーとして参加していまして、
自分たちの描いたキャラクターでないものが採用されることに
ちょっとネガティブなイメージを持った経験があったんです。
でも、前半のインタビューで初めて聞いたんですけど、
このソフトの開発が当初は迷走していたという話があって、
それはかつての僕らも同じだったんです。
僕らのときはポケモンの世界を取り入れることで
やるべきことや目指す方向が明確になって、
ポケモンも好きになりましたし、
それで救われたような気持ちになったんです。
ですから今回、グッド・フィールさんの気持ちは理解しつつも、
だからこそ「どうやってカービィを好きになっていただこうか」と
考えるようになりました。

岩田

でも「カービィを好きになってほしい」と思う一方で、
キャラクタープロデュース課の監修するミッションとしては、
けっこうキツイ要求もしなければならないこともありますよね。

山本

そうです。
『カービィ』が誕生して、あと2年ほどで20周年になりますけど、
いろんな開発スタッフの考えでシリーズを積み重ねてきたものですので、
「『カービィ』とはこういうものだ」と、
パシッと1本の線で引くことがひじょうに難しい世界観なんです。
で、時代とともに移り変わっていかなければいけないところもありますし、
絶対に踏み外してはいけないところもあるんですけど、
困ったときにはいつも
“驚きと楽しさとあたたかさ”をテーマに考えるようにしているんです。

岩田

今回の『毛糸のカービィ』はどうでしたか?

山本

最初にビジュアルを見たとき、
“あたたかさ”はすでに確立されていると感じました。
あとは“驚きと楽しさ”なんですが
毛糸を使った仕掛けにはたくさんの“驚き”がありますし、
先ほども“楽しさ”という話も出たくらいですので、
とてもスムーズに開発を進めることができたと思います。

岩田

とは言え、これまでの『カービィ』シリーズとは
まったく異なるビジュアルになりますよね。
カービィが毛糸で表現されることについて、
山本さん自身はどう受け止めたんですか?

山本

これまでのカービィというと、ドット絵からはじまり、
それがポリゴンで表現されるようになり、
さらにセルのアニメーションになったカービィがいたんですけど、
わたしとしては、異なる表現手段として、
別のチャンネルがほしいと思っていたんです。
そんなところに“毛糸の世界”というご提案をいただいたので、
すごくありがたい気持ちでした。

岩田

山本さん以外のハル研の人たちは
当時、どのように受け止めていましたか?

山本

最初は他社さんが『カービィ』をつくることになるので、
「なかには抵抗を感じる人もいるのかな」と思ったんですけど、
それはまったくの杞憂でした。
みんなが「これはいい」と言ってくれて、
反応はものすごくよかったと思います。

岩田

今日来てもらっているサウンドの人たちからも
第一印象の話を訊いてみましょうか。
池上さんはどう思いましたか? この絵を最初に見たときは。

池上

僕は最初に見たとき、「カービィにピッタリだ」と思いました。
たとえば、毛糸というテーマを使えば、
『毛糸のマリオ』のように『毛糸の○○』というかたちで
いろんな展開の可能性があると思うんです。
それくらい、土台がよくできているなと印象をもちましたので
「そんななかでよくぞカービィに声をかけてくれた」という、
本当にうれしい気持ちでした。

岩田

他のキャラクターに
“毛糸の世界”をとられなくてよかったと思ったんですね。

池上

はい(笑)。
でも、そう思うと同時に・・・
本音の部分では「やられた」とも思いました。
「どうしてこんなアイデアがうちで出せなかったのか」という
つくり手としての悔しさが、その次にありました。

岩田

ああ、「やられた」と思う気持ちはすごく大事ですよね。
ものをつくるという仕事をしている人はとくにそうだと思います。

池上

なので、つくり手としては悔しい気持ちだったんですけど、
同時にこのプロジェクトに関わることになって、
とてもありがたいという気持ちになりました。

岩田

安藤さんはどう思いましたか? 最初に見たときは。

安藤

僕も「これに関わることができる」というのがすごくうれしくて。
というのは、絵にとてもインパクトがあったからなんですけど、
要するにふつうのグラフィックの進化みたいな話になると、
よりリアルな方向に行くじゃないですか。
でも、それは多くのお客さんの想像の範囲であって、
そこには驚きが・・・。

岩田

意外性がないんですよね。

安藤

ええ。でも、今回の“毛糸の世界”には驚きがあって、
そこにすごく感動したんです。
で、音楽も同じで、ゲーム機の進化とともに
ゲーム音楽も、だんだん豪華な方向に進んできたわけですけど、
それはお客さんの想像の範囲だったりするんです。
なので今回は『毛糸のカービィ』のグラフィックと同じように
想像の範囲を超えて、驚きのある音を考えないといけないなと思いました。

岩田

安藤さんは音をつくる人として、
グラフィックから挑戦状を受け取ったような気持ちになったんですね。

安藤

はい。先ほども話にありましたけど
『カービィ』のテーマのひとつは“驚き”ですので、
そういうものは、お客さんが期待するのとは
ぜんぜん違う場所にあったりするものじゃないですか。
だからと言って、ぜんぜん関係ないものをつくったら、
それは驚かせるけども・・・。

岩田

驚かれるかもしれないけど、
同時に呆れられるかもしれないわけで(笑)。

安藤

そうなんです。
「『カービィ』と何の関係があるんだ?」みたいな。
そこをうまく見つけることが、われわれの仕事だと思いました。