3. Wiiハンドルの試作品の数々

岩田

駆け足で『マリオカート』の歴史を振り返ってみましたが、
そろそろWii版の話題に移ることにします。
今回の『マリオカートWii』の最大の変化は、
やはりWiiハンドルを使った操作だと言えます。
芦田さん、どうしてWiiハンドルをつくることになったのか、
話してもらえますか?

芦田

そもそものはじまりは、2006年の年末だったと思います。
紺野さんから内線電話がかかってきて、いきなり
「ハンドルを考えてるんですけど」と言われまして。

岩田

Wiiが発売されてホッとしているところに、
「次はハンドル」と言われることを予想していましたか?

芦田

Wiiザッパー(※11)については、
初期の段階から構想がありましたが、
ハンドルに関しては、話が出ていただけで、
試作品をつくるようなことまではしていませんでした。

※11

Wiiザッパー=Wiiリモコンとヌンチャクを装着して使用する、ガンタイプの周辺機器。5月1日発売の『リンクのボウガントレーニング』に同梱予定。

宮本

でも、やっぱりハンドルってわかりやすいですよね。
ちっちゃいころに、足踏み式の子ども用自動車に乗ったり、
遊園地で本物のカートに乗ったりして、
ハンドルを握った経験のない人はほとんどいないと思うんです。
ハンドルを右に回せば右にカーブするということは
誰もが知ってることなんです。
それに、たまには大きな箱の商品があってもいいとも思いましたし(笑)。

岩田

『Wii Fit』を出したばかりで、
ぜんぜん「たまには」じゃないと思いますけど(笑)。

一同

(笑)。

岩田

で、ハンドルをつくりたいんだけどという話がきて、
芦田さんはどんなことからはじめたんですか?

芦田

Wiiを発売した直後の2007年初頭に、
『マリオカートWii』の試作品を触らせてもらったんです。
すでに紺野さんが独自で用意したハンドルに
Wiiリモコンが組み込んであり、プレイできる状態になっていました。
これまでにない操作感を味わうことができて、
直感的に「これはいける!」と思いました。
これまで、ハンドルタイプの周辺機器は、
いろんなタイプのものが発売されてきましたよね。

岩田

なかには、アミューズメント施設に置いてあってもいいような
立派なハンドルもあったりしますよね。

芦田

今回はそのようなものとは違って、
ハンドルに軸のない、いわば「空中ハンドル」です。
とても手軽で、実際に触ってみると、何より楽しかったんです。
そもそもわかりにくい商品というのは、
最終デザインがすぐにイメージできないことが多いのですが、
今回はすぐに商品イメージを思い浮かべることができました。
デザイン検討していたときのハンドルの試作品を持ってきたので
見てください。

岩田

Wiiハンドルを初めて見た人は、
「ちっちゃい」って感じるかもしれませんけど、
最初の試作品の段階から小ぶりなサイズだったんですね。

芦田

本物のカートのハンドルも、このくらいちっちゃいんです。
それに、子どもさんからおじいちゃんまで、
家族みんなで遊ぶということを考えたとき、
このくらいのサイズが理想的だと考えました。
最初につくった試作品がこれなのですが・・・。

岩田

Wiiリモコンが少し出っ張ってますね。

芦田

もともとこれをつくったのは、
実際にハンドルを握ったときに、
Wiiリモコンをどんな位置にレイアウトするのがいいのかを
見極めるためでもあったのですが、変なデザインですね(苦笑)。
でも、これらの試作品をつくることで、
どの指を使ってハンドルを握るのかを知ることができました。
また、当時はBボタンを使うかどうか決まっていませんでしたので、
ハンドルの裏には何もない状態でした。
それで、実際に本物のカートのハンドルを調べてみると、
実は丸型ではなく四角い形状が主流であることがわかったんです。
そこでつくってみたのが、これです。

岩田

Wiiリモコンの出っ張りがなくなって
スッキリしたデザインになりましたね。

芦田

ええ。さらにハンドルの裏側に穴をあけて、
Bボタンも押せるようにしました。
また、Wiiメニューを操作する必要がありますので、
ポインターの部分に窓もつけました。

岩田

このときが、最終商品の原型になってるんですね。

芦田

そうですね。
やっぱり、『マリオカートWii』を楽しむお客様には一般的な
丸型ハンドルの方が分かりやすいと確信しました。
それでデザインと共に使い勝手をさらに見直して、つくったのがこれです。

芦田

このような試作品をつくりながら、試行錯誤を繰り返しました。
とくにBボタンは、ハンドルにただ穴を開けただけでは、
小さなお子さんの手だと届かないんです。
そこで、ハンドル自身にお子さんの指でも届く位置にBボタンを付け、
そのボタンがWiiリモコンのBボタンを押すような機構を考えました。
それを紺野さんのチームで実際にゲームで動かしてもらって、
検討を重ねていきました。

紺野

試作品のハンドルを握って、違和感を感じるような意見があると、
即座に芦田さんに伝えるようにしてました。

岩田

つくっては試し、つくっては試しを繰り返していたと。
最終形に至るまで、何種類くらいの試作品をつくったんですか?

芦田

30種類くらいはつくったでしょうか。
重量に関しても、ゲームをする為に相応しい重さは
何グラムなのか慎重に検討を重ねました。
耐久性のことを考えると、
素材を厚くして丈夫なものにしたかったのですが、
わずか30グラム増えただけでもかなり重く感じます。
長い時間ハンドルで遊んでも疲れにくいように、
なるべく軽く感じられる設計にしました。

岩田

カラーリングを白にしたのは、どんな理由からですか?

芦田

白いハンドルというのは、実際のクルマには無い色ですよね。
ですから、ハンドルに見えるデザインを求めて、
このようにツートンカラーを検討したこともありました。

芦田

Wiiの周辺機器のデザインは、
Wiiの開発を行っているときから、その可能性を考えていました。
そして、クラシックコントローラから始まってWiiザッパー、
バランスWiiボードと次々に現実に商品化していく中で、
Wiiハンドルも真っ白にする事は自然な流れでした。

宮本

でも、裏面にはブルーのリングがついてるんです。
これ、ちょっとお金がかかってて(笑)。

岩田

試作品を見ると、ずっと表にWiiのロゴが入ってますけど、
最終的な製品では、裏面にロゴを配置したのはどうしてなんですか?

芦田

プレイヤーがいつも見る方が表面だと言えるんですけど、
空中ハンドルですし、ほかの人が遊んでる人の姿を見るときは、
裏面のほうが表面になるとも言えますよね。
それなのに、ネジ穴しか見えていないと、ちょっと寂しいなあと。
見た目にも、ブルーのリングがついたハンドルで遊んでいる方が
楽しそうでしょ。

岩田

その結果、ブルーのリングは
『マリオカートWii』のロゴにも採用されたんですね。

宮本

お金をかけたぶん、元をとろうということですね(笑)。