3. リスがくわえたドングリの数は?

岩田

任天堂は娯楽の会社ですし、
組織自体もさほど大きくありませんので、
前例がないというのは、わりと問題になりにくいんです。
ところが、NHKさんは組織がすごく大きいうえに、
歴史や伝統もあり、しかも放送で間違いは許されませんし、
イメージもすごく大事にされていますよね。
そんななか、前例を破っていくことの大変さは
ふつうの組織以上に、並々ならぬものだったと思います。
(頭を下げながら)本当にありがとうございました。

江幡

そんな(笑)。

菅田

たとえば、どこが大変だったかと言いますと、
「ドングリの絵がほしい」となったとき、
膨大なアーカイブスからお目当ての映像を探して、
さらに権利処理をすることを考えると、
もう、自分たちで撮ってしまったほうが早いんですね(笑)。

岩田

あははは(笑)。

江幡

ですから、いくつかのものは
われわれが実際に撮ったものもあります。

岩田

そうなんですか?

江幡

まあ、それは・・・ほんの少しですけど(笑)。
あと、ドングリの話が出たので
思い出したんですけど、
リスがドングリを口のなかに6つ、7つと
くわえるシーンがあって、それがすごくかわいかったんです。
そこで、その映像を使ってクイズ問題をつくることにして、
わたしたちが数えてみますと、
7つのドングリを口に入れていたんですね。
それを自然科学班に確認したところ、
何度数えても7つなのに、
「これは6つしか入っていない」と言い張られてしまいまして。

菅田

自然科学班というのは
NHKエンタープライズのなかにある番組制作チームで、
今回は、自然に関する作問から監修まで
全面的に協力をしてもらったんですけど・・・。

岩田

その自然科学班の人が
「6つ」だと言って譲らないんですか。

野上

その映像はすでに6つで放送していますから。

岩田

なるほど。むかし放送しているので、
それを覆すわけにはいかないんですね。

野上

そこで大学の先生が書いた
リスの口にドングリが何個入るのかという
論文まで持ち出されてしまいまして(笑)。

岩田

でも、そのビデオに映ってるのが7つであることと
論文は関係ないんじゃないですか?

野上

ええ、ただ、リスの種類によって、
ドングリがどのくらい入るのか、という調査があるそうなんです。
ですから「学説的にも正しい」と言うんですね。

菅田

そういった感じで、社内のたくさんの人たちとの
折り合いをつけるのが大変でした。
その意味では、「ためしてガッテン」(※4)を入れたいというのも
あとからきた話でしたから、これが本当に大変でした。

※4

「ためしてガッテン」=『NHK紅白クイズ合戦』に収録されている、クイズゲームのひとつ。本放送は、1995年4月からはじまった生活科学番組で、現在(2009年12月)も毎週水曜の20時から20時43分まで放送中。司会は立川志の輔氏と小野文恵アナウンサー。

岩田

「ためしてガッテン」は、
あとからお願いしたんですよね。
任天堂という会社は、モノをつくっていて
「何かもうひと声、ほしい」と思うと、
途中から追加するようなこともすごく多いんです。
わたしは、任天堂のスタッフから
「『ためしてガッテン』も入れたい」という相談を受けたとき、
「NHKの番組制作の方には、
そういう文化はきっとあるはずだから、
わかっていただけるんじゃないかな」とか言いながら、
「お願いしてみれば」と言ってしまったんですけど・・・
本当にすみませんでした。

江幡

いえいえそんな(笑)。

菅田

「ためしてガッテン」はクイズ番組じゃなくて、
生活科学番組ですから、
今回の『NHK紅白クイズ合戦』に入れたいと言っても
すぐにOKが出るようなものでもなかったんですね。
ところが、この番組を最初から立ち上げたプロデューサーが
ちょうど出向でNHKエンタープライズに来てまして。

岩田

ラッキーだったんですね、わたしたちにとって。

菅田

そうなんです。そのラッキーがなければ
たぶん実現していないと思います。
そのプロデューサーは女性なんですが、
「彼女が全面的にやるんだったらいいよ」と、
現場の了解を取り付けることができたんですね。

岩田

ですから、ただでさえ
前例のないことのオンパレードのソフトなのに、
とうとう現役の看板番組のひとつまでもが入ることになって、
このソフトの前代未聞感がさらに増した感じがしています。

菅田

番組自体がいまも続いてるなかで、
司会の立川志の輔さんにも、膨大な収録をお願いしましたし、
全体の構成自体も、いまも現場で
番組をつくっているディレクターに見てもらいました。

江幡

そもそも「ためしてガッテン」は
長い時間をかけながら、ひとつのテーマを
解きほぐしていく番組です。
ところが今回のソフトでは
静止画と文章で構成することになりましたので、
彼らはいちばんそこに苦労していましたね。
ひとつの番組を通して伝えたいことでも、
一部分だけを抜き出してしまうと、
情報としてバランスを欠くものになってしまうんです。
そこで、どこを抜き出してクイズにすれば
科学的に正しいつくりになるかを考えつつ、
一方では、ゲームとしても面白いものになっているのか、
テンポがいいものになっているのかとか、
そういった部分も見ながらつくりました。

岩田

テレビ番組としては面白くても、
それをそのままビデオゲームに持ってきてもダメで、
そこでの折り合いをつけることが大変だったんですね。

江幡

ですから、齋藤さんには何度も何度も見ていただきました。
そこは、任天堂さんが伝えたいゲームとしての面白さと、
われわれとしては譲れない情報の正確さというものの
せめぎ合いの部分だったんです。

岩田

齋藤さん、どんなせめぎ合いがあったんですか?

齋藤

やはりNHKエンタープライズさんは
本当にマジメな会社ですから・・・
まあ、われわれがマジメじゃないと
いうわけではないんですけど(笑)。

岩田

任天堂もマジメなほうだと思いますよ(笑)。

齋藤

そうなんですが、さらに・・・。

岩田

輪をかけてマジメなんですね(笑)。

齋藤

はい。