1. 最初から一致していたコンセプト

岩田

最初にお話ししましたように、
Wiiにおける『スマブラX』というのは、
「多くの人がネットワーク化を
望んでいるタイトルである」
というところからスタートしました。
ですから、『スマブラX』が
なんらかの形でオンラインに対応するというのは
もう、前提として求められていたんですよね。

桜井

ええ。それを伝えられたのが
2005年5月のE3のときで、
それから2ヵ月後、2005年の7月7日に、
『スマブラX』の企画書はできたんです。(→企画書表示

岩田

書いたのが桜井くんですから、その企画書には、
『スマブラX』に入っている仕様のほとんどが
完成型に近い形で書かれていました。

桜井

入りきらなかった仕様もたくさんありますが・・・・。
まぁ、それはともかく。
そのとき書いた企画書のなかには、
『スマブラX』でオンラインを
どのように扱うのかということが
おおむね網羅されているんです。
たとえば、オンラインを介して対戦するときに、
「フレンドと」対戦する場合と、
「だれかと」対戦する場合がある。
「フレンドと」対戦する場合は、
ショートメッセージが送れたりする一方で、(→企画書表示
「だれかと」対戦する場合は、
名前も表示されず、記録も戦績も残らない。(→企画書表示
いってしまえば、その方向性は、
任天堂の提案するWi-Fiコネクションの
コンセプトに非常に近いものだったんですが、
自分がその企画書を書いた2005年7月には、
そういったサービスはまだ影も形もなかったんです。

岩田

なかった、というか、
まさにそういうものをつくっている最中でした。
当然、ほかの人には知らせていないし、
私が桜井くんに『スマブラ』の依頼をしたときも、
細かい仕様やコンセプトについては
まったく話していなかったんです。

桜井

ところが、互いに、
「じゃあこれが『スマブラX』の企画書です」
「これが任天堂Wi-Fiコネクションです」
といって仕様を見せ合ったとき、
その合致性というのがかなり高くて。

岩田

あれはね、驚きました(笑)。
私が思っていたのは、
世の中のオンラインゲームというのは
どうしても基本的には強者のための場所で、
ひとりの幸せな人が存在すると、
百人千人の不幸せな人が
生まれているような面があるということで。
もちろん、その構造を
全否定するわけじゃありませんけど、
その要素があるかぎり、どうやっても
一定以上は広がらないぞと思ったんです。
たとえそれがおもしろそうに見えても、
入口のところで多くの人が躊躇してしまうだろうと。

桜井

そうですね。

岩田

だから、そういう形ではなく、
たとえば親が自分の子どもに
安心してオンラインの遊びを渡せるには
どうしたらいいんだろうとか、
ハラスメントのない世界は
どうやったらできるだろう、みたいなことを
私たちはずっと議論していたんです。
その結果、友だちどうし、
つまり「フレンド」の人たちとの関わり方と
その他の人たちとの関わり方は、
明確に分けたほうがいいとか、
対戦よりは共有するおもしろさを提案するといった
Wi-Fiコネクションの概念というものが
だんだん形になっていったんです。
それが、桜井くんから提出された
一発目の企画書に見事に書かれていた。

桜井

そうなんですよね。
『スマブラ』のオンラインをやるにあたって、
やはり誰しも考えるのが、
対戦をして成績がついて、
成績によって何かが起こったりとか、
オンライン大会を開いたり
ということだと思うんですけど、
正直、それは一部の人が喜ぶだけの
サービスになってしまうだろうと。
だって、『スマブラ』って、
あるところに小さなコミュニティがあって、
そこに上手な人がいて、
それでも勝ったり負けたりすることのなかに
おもしろさがあるわけで。
それを、みんながただひとつの
高い山の頂点を目指すようにすれば、
楽しめる人っていうのはごく一部に限られてしまう
というのはもう明確ですから。

岩田

1位や5位の人は気持ちいいかもしれないけど、
「あなたは15398位です」と言われてもね。
自分のコミュニティならいちばん強いのに、
という人はちっともうれしくないですよね。

桜井

しかも『スマブラ』だと、
その裾野がかなり広くなる可能性がありますから、
コミュニティの中で楽しく遊んでいた人が
「10万番です」みたいなことになるかもしれない。

岩田

と、いうような考え方が、
ふたりで話し合うまでもなく、
ほとんど最初から一致していたんですよね。
それはやっぱり、
長くいっしょに仕事をしてきた結果というか、
ルーツが同じというか(笑)。

桜井

(笑)。