2. 這ってでも襲いかかってくる巨神

岩田

五十嵐さん、今回の『斬撃のREGINLEIV』の
世界をつくるうえで、何を考えましたか?

五十嵐

本間さんが言いましたように、
「斬って面白い」ゲームにすることは
最初に決まっていたのですが、
それをどのような世界にするかまでは
はじめの段階では踏み込んで考えていなかったんです。
とにかく「斬った、やっつけた、楽しい」と、
そこがこのゲームでは肝心ですので、
そこをしっかりつくることで、それに見合う世界観は
あとからついてくるだろうと。

岩田

はじめに世界観、はじめにお話ありきではなく、
順序として、爽快に斬りまくるゲームがあって、
そのためにどんな世界が合うのかを考えたんですね。

五十嵐

はい。
そこで、たとえば和風の世界で侍が妖怪を斬るとか、
現代風にして、魔物を高校生ヒーローが斬るとか、
いろいろ考えてみたんです。
でも、新しいモンスターを登場させて
聞いたことのない名前をつけたり、
主人公にはこういう背景があって、能力はこうですと
いちいち説明するような世界にするよりも、
有名な神話の聞いたことのある神様が登場したり、
伝説のモンスターと登場人物が戦うことにしたほうが
多くの人にわかりやすいだろうという結論になりまして、
最終的に神話の話にしました。

本間

ただ、神話にもいろいろあって、
たとえばギリシャ神話(※5)でしたら、
その世界に登場する神々が、どんな格好をしていて、
どんなモンスターがいるのか、
なんとなくイメージできると思うんですけど、
今回採用した北欧神話(※6)というのは、
ひじょうに有名な神話でありながらも、
明確なビジュアルイメージがなかったりするんです。

※5

ギリシャ神話=「イリアス」と「オデュッセイア」に代表されるギリシャ民族が語り伝えた神話・伝説。ヨーロッパの美術・文芸に大きな影響を与えた。

※6

北欧神話=デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドなど、北ゲルマン人の間に伝えられた神話。天地創造や神々の英雄的な行為を扱うほか、世界の終末(ラグナロク)では、神々と巨神族との壮絶な闘いが語られている。

五十嵐

しかも、わたしたちはこれまで
町を町らしくつくることを得意にはしてきましたけど、
今回は自然地形のなかで戦うゲームになりましたので・・・。

岩田

ああ、舞台が自然の地形になりますから
「町をつくって壊す」という、
サンドロットさんお得意の手法が使えなくなったんですね。

五十嵐

そうなんです。
あるときスタッフのひとりが
イチョウの木をつくっていたんです。
でも、やっぱり北欧ということで、その地域の植生を調べてみたら
イチョウの木は北欧に生えてないという話になりまして。
そういう地域の特性にも気をつけながら、
→針葉樹が針葉樹らしく見えるような地形をつくって、
北欧神話らしい世界

できるだけ再現するようにしました。

本間

その一方で、今作の重要な敵のひとつである、
北欧神話にも登場する
「霜の巨神族」(※7)がどんな姿をしているのか、
共通のイメージがまったくないんです。

岩田

自然地形なら、北欧の風景が参考になるけれど、
モンスターをデザインするのに参考になるような、
決定的なイメージがなかったんですね。

※7

「霜の巨神族」=大自然の精霊集団の一員として、北欧神話に登場する巨神。恐ろしく醜悪な姿をしていたと伝えられる。

本間

そうなんです。そもそも「霜の巨神族」は、
神話のなかではドラゴンと同じくらい重要な位置にいるのに、
なぜか、これだというビジュアルがないんです。
ですから、「霜の巨神族」のビジュアルを決めるために、
とてつもない時間がかかりました。

五十嵐

本当に時間がかかりましたね。
数え切れないくらいにイメージスケッチを描いてもらいましたから。
できあがるたびに「なんか違うよね」ということで
何度も描き直してもらいました。
やっぱり「霜の巨神族」は、
遊ぶときに長時間、その姿を見ることになりますので。

岩田

だからこそ、デザインにこだわったんですね。

五十嵐

そこをはずしたら、絶対にダメだと思いました。

本間

それに、わたしたちが“これが「霜の巨神族」だ”と言って、
それがイメージとして定着することにもなるので、
へんてこなものをつくるわけにもいかなかったんですね。
ですから、デザインを決定するまで
とても真剣に何度も話し合いを重ねて、
最終的には、広いテーブルが埋まってしまうくらい、
イメージスケッチを描いたんです。

五十嵐

それは「霜の巨神族」だけの話ではなくて、
→人や神様たちはいったいどんな格好をしていて、
どのような生活をしてるんだ
というところから
まず考えていく必要があったんですね。
今作は対象年齢が17歳以上の方々ですので、
そういった人たちが感情移入できるような
キャラクターにしたいと思いまして、
「この人だったら、絶対に描けるはずだ」と思って、
イラストレーターのHACCANさん(※8)にお願いしたんです。

※8

HACCANさん=イラストレーター。ファンタジー小説、ライトノベルなどの表紙や挿絵を手がけてきたほか、ゲームやカードゲームのイラストも手がける。

本間

でも、とてつもなく時間がかかりましたね。

五十嵐

・・・かかりましたね。

野口

しかも、デザインが決まってからも、
それを動かすのがすごく大変だったんです。

本間

たとえば「霜の巨神」を1体動かすのに、
何ヶ月もかかりましたから。

野口

まず、軽く動かす段階にいくまで、
2〜3ヵ月くらいかかってますし、
さらにそこから、巨神を制御するだけでも
かなりの日数をかけました。

本間

今回は「霜の巨神」のような敵と戦うとき、
腕や足などの部位切断ができるようになっているんです。
他のゲームでも、部位切断ができるものはありますけど、
斬られても、その後の行動に支障が出ないように、
しっぽや角のような部分が斬られることが多いんですね。
で、たとえば足を斬られて片足になると、
その敵は歩けなくなって、
あとはただやられるだけの状態になるのがふつうなんです。
でも、「霜の巨神族」は決してそうはならないんです。
→腕がなくなろうが、足がなくなろうが、その後も行動を続けるんです。
足がなくなっても、這いながら襲いかかってくるんです。

五十嵐

「霜の巨神」のモーションデータは
半端な数ではないんです。

本間

「霜の巨神」を動かすだけで、
他のゲームの敵キャラクターの数体分あると思います。
しかも、これまでの巨大な敵と戦うゲームというのは、
巨大なものがちっちゃいキャラクターに対して攻撃するとき、
正確には狙えないんですよ。
大ざっぱに適当に攻撃を繰り出して、
たまたまちっちゃい人に当たったという感じが多いんですけど、
今作の「霜の巨神」は、正確に自分を狙ってくるんです。
そのときの絶望感といったらないと思います。

吉川

あれ、ゾッとしますよね(笑)。

五十嵐

自分は「あ、ばれた・・・」と思った瞬間があったんです。
村人たちの群衆に紛れながら、
こっそり近づいたつもりだったんですけど、
巨神のそばに近寄ったときにギロリと睨まれたんですね。
あの恐さといったらもう(笑)。

本間

本当に恐いですよね(笑)。

五十嵐

開発初期の段階から
敵がこっちを睨むような行為を入れてほしいと
野口さんに頼んでいたんですけど、
それがすごく効いているんですね。
生き物と戦うのは本来こういうことなんだと思います。

本間

今回は難易度が5段階から選べるようになっているんですけど、
難易度を上げると、あの巨大な「霜の巨神」が
フェイントのようなことをかけてきたりするんです。

岩田

フェイントまでかける仕組みが入っているんですか?

吉川

難易度が変わると、行動のプログラムも変わるんです。
だから単純に、敵の強さだけを変えてるんじゃないんですよね。

野口

でも、正確なフェイントってわけじゃないと思いますよ。

本間

ただ、実際に戦っていると、
フェイントにしか見えないんですよね。
巨神が回し蹴りで襲ってきたりもしますしね。
それに、プレイヤーとの距離をはかりながら
巨神のほうで攻撃方法を変えて
イヤらしいくらいに襲ってくるんです。

野口

しかも、そのイヤな敵が
10体くらいで襲いかかってくることもありますからね。
「お前ら、いいかげんにしろよ!」と言いたくなるんです。

岩田

つくった本人なのに(笑)。

一同

(笑)