3. 魔法の技術で70人とチャンバラ

岩田

宮本さんのアイランド構想に基づいて
舞台となる島をつくることになって、その後は?

山下

アイランド構想が決まったのは、
2008年の4月上旬くらいだったと思います。
で、当時のメモを見ると、
「E3(※6)に出しますよ」と書いてあるんですね。

※6

E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテイメント エキスポ)の略。米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市。

岩田

「E3に出しますよ」と言ったのは宮本さん?

山下

そうです。

岩田

2008年のE3は7月開催でしたね。

山下

はい。

岩田

わずか3ヵ月後のE3に出展しようと。

山下

そのときは、太田さんがつくった人形があるだけで、
そのほかに何もなかったんですけど・・・。

岩田

宮本さん、なかなかすごいことを言いますよね。
その時点では影も形もないソフトなのに、
3ヵ月後のE3はこれで勝負だと。

一同

(笑)

宮本

ま、スタッフの力量が読めてますのでね。
それに、先ほど嶋村さんがちょっと話してましたけど
最初のWiiソフトの構想のなかには
『Wiiスポーツ2』のアイデアもすでにあったんです。

岩田

初代『Wiiスポーツ』でいろんな実験をして、
そのなかに料理をしきれていないものもあって
それを『Wiiスポーツ2』で出そうと。

宮本

だから、まったくゼロからの
スタートではなかったんですね。

山下

たしかにゼロではありませんでしたね。

宮本

そのときは、ウインタースポーツとか、
マリンスポーツを扱うようなものができないかと。

山下

そこで、島を舞台にすることになりましたので、
マリンスポーツや、南の島で遊ぶのに適した種目を
たくさん考えて、そのなかの3つを
E3でお披露目することにしたんです。

岩田

「フリスビードッグ」と「チャンバラ」と・・・。

山下

「マリンバイク」の3つですね。
でも実際は、4つ目の種目もつくっていたんです。

フリスビードッグ、チャンバラ、マリンバイク

宮本

「アーチェリー」ね。

岩田

どうして「アーチェリー」を
お披露目しなかったんですか?

山下

あの時点では、「アーチェリー」のような種目が
実際に実現できるかどうかわからなかったんです。

嶋村

→「アーチェリー」は、
弓に見立てたWiiリモコンを左手で構えて、
右手に持った弓、つまりヌンチャクを
グググーッと引くような操作
なんです。
とりあえず仮でつくってみたんですが、
ゆっくり動かす限界のような種目ですので、
その時点で本当に実現できるかどうか
まだわからなかったんです。

岩田

つまり、その時点のWiiモーションプラスは、
速い動きはセンシングできるけど、
遅い動きをとれるかどうかについては、
まだハッキリしていなかったんですね。

嶋村

今回はWiiモーションプラスの開発と
ソフト開発が同時に進行していましたので、
とりあえずつくってみるようなところもありました。

岩田

「アーチェリー」のほかには?

山下

たとえば「チャンバラ」もそうですね。

嶋村

もともと「チャンバラ」は、
Wiiリモコンをかまえた姿勢が
画面のなかの剣と一致しますし、
Wiiモーションプラスに向いていると思って
つくることにしたんです。

山下

→寸止めもできますし(笑)。
そこで、実験をはじめてみたのですが、
なかなかうまくいかなくて・・・。

岩田

それはどうしてですか?

佐藤

Wiiリモコンを何度も振っていると、
少しずつずれてくるということが起こったんです。

岩田

「温度ドリフト」が起こったんですね。
前回の「Wiiモーションプラス編」で訊きましたけど、
温度や湿度などの変化によって
ゼロ点がずれてくるという話で。

佐藤

そうなんです。
しばらくチャンバラをやっていると、
プレイヤーが持ってるWiiリモコンの向きと
画面のなかの剣の向きがずれてくるんですね。
それがどうしても解決できなくて、
これではゲームはつくれないと。

山下

そこで、みんなで話し合って、
剣を1回だけ振るゲームにしてみようかと。

岩田

剣を1回だけ振って
それがゲームになるんですか?

山下

向かってくる相手に、剣を1回だけ振って、
斬られた人がパタッと倒れるみたいな。

嶋村

一撃必殺です。

一同

(笑)

岩田

むかし『まわるメイドインワリオ』(※7)をつくったでしょう。
このソフトでもジャイロセンサーを使ってたんですけど、
やっぱりゼロ点がずれていくんですよね。

※7

『まわるメイドインワリオ』=2004年10月に、ゲームボーイアドバンスソフトとして 発売された、まわる瞬間アクションゲーム。

嶋村

そのときはどうやって解決したんですか?

岩田

あのゲームは5秒で終わるから(笑)。

一同

(笑)

岩田

プチゲームがひとつ終わったらリセットして
次のゲームに移れば何とかなったんですね。
だから「これは相性がいいな」ということで使ったんですけど、
長く使うゲームには「これはムリだねえ」と言ってたのを、
よく覚えているんです。

山下

最初はもうムリだと思ったんです。
でも、太田さんなら何とかしてくれるかもしれないと思って。
そうしたら本当に何とかしてくれたんです(笑)。

佐藤

太田さんがつくった補正技術で、
ズレがなくなるようになりまして。

山下

それが、想像できないような解決方法だったので、
どんな魔法を使ってるのかなあと。

一同

(笑)

山下

振ってるうちにだんだん正しくなるんです。

岩田

普通は振ってると誤差が蓄積されて、だんだんずれますよね。

山下

ところがだんだん正しくなったんです。

佐藤

振れば振るほど正しくなるんです。

岩田

へえ〜。

宮本

魔法の仕組みはナイショです(笑)。

山下

その他にも、佐藤さんが開発した技術や
ゲームのルールを工夫することで
最終的には70人の相手と
チャンバラができるようになりました。

チャンバラ(組み手)

岩田

最初は相手は1人だけで、
しかも一撃必殺だったのに、それが70人に。

嶋村

でも、企画案には
「1000人斬り」と書いてあったんです。

岩田

どうやって実現するか、
メドも立ってないのに。
とりあえず「1000人斬り」と書いておけと(笑)。

山下

はい。大きく出たほうがいいかなと思って(笑)。
でも、1000人相手にチャンバラをするなんて
どう考えてもムリですよね。

一同

(笑)