5. ニオイをマーキングする

岩田

では坂口さん、『ラストストーリー』の仕上がり、
そして任天堂とものづくりをすることについて、
どのように感じていますか?

坂口

最初は高ちゃんと同じように、
「ロマンをお願いします」って話はありました。
でも世のなか、男と女しかいないわけですから、
男と女がゆえのドラマこそ入れたいと思っていたので、
キーワードに関してはまったく問題はなかったんです。
むしろ、つくる過程でだんだん意識が変化していって、
いまでは“仲間”の意識のほうが大きいゲームなんですよ。

岩田

とはいえ、もともと考えていた
ストーリーやテーマは変わってはいないわけですからね。
ものづくりの過程で生まれたノリやライブ感という手応えを、
どんどん貪欲に取り入れていった感じがします。

坂口

そうですね。思わぬところに芽が吹いて、
水をやったら森ができたのでラッキーだったな、という感じです。
それから任天堂さんとのお仕事についてですが、
『FFIII』を制作していたとき、
当時、マリオクラブという名前ではありませんでしたが、
任天堂さんのなかでソフトを評価する
“評価システム”がありましたよね?

岩田

はい、ありました。

坂口

そのとき「いつか僕もこういう仕事をしてみたい」
って言ってもらえたことがあるんですよ。
このこと、じつは誰にも言ったことがないんですが。

岩田

あのころは、まだマリオクラブのような組織はなくて、
社内の人間が評価を書いていた時代なんです。
だから開発者も混じっているから、
そういう表現になったんでしょうね。

坂口

ああ、開発の方も混ざっていたんですね。
じつはそのことへの想いが強くて、
任天堂の人は最終的にはわかってくれるはずだみたいな、
変な自信になっているんですよ(笑)。
それくらいうれしいショックだったんです。
だからマリオクラブに4日間おじゃまさせていただいたのも、
そういう気持ちがあったからなんです。

岩田

坂口さん自らがマリオクラブに4日間こもられて
意見を貪欲に取り入れようっていうのは、
やっぱり任天堂にとっても新鮮な驚きでした。
そこでたくさんのインプットがあったと思うんです。

坂口

あのときは、自分がインプットを受けるのが第一目的なんですが、
第二の目的もあって。それは僕が発しているものを
マリオクラブに残していきたかったんです。
そうすれば、最終調整のときに
僕のニオイが残っているはずなので・・・。
あの場に“共感”が生まれているはずなので、
最後まで同じ目標に走れるような気がするんですよね。
だから、ニオイをマーキングさせてもらいました(笑)。
おかげで本当に最後までいい関係だったんです。

岩田

だから「9カ月もデバッグを続けたマリオクラブの人が
おわったときに涙した」というエピソードが生まれたんですね。
自分たちも開発スタッフの一員なんですよ、きっと。

坂口

そうですね。そこまで作戦を立てたわけじゃないですけど、
よくも悪くもクセで、そうやって巻き込んでいく
ところがあります(笑)。

高橋

坂口さんは本当に雰囲気をつくるのがうまいんですよ。
そこが、僕がなかなか到達できない部分ではあります。
いつかそういうふうになりたいなあ、と思うんですが・・・。

坂口

そうですね・・・。変な自信なんですよね。
思い込みというか、超楽観主義なんですけど。

岩田

エネルギーの放出量の大きい人は、
どこかでエネルギーを得ているわけですよね。
わたしはそのことを“ご褒美”という言い方をしますが、
坂口さんにとっては、それがエネルギー源のひとつなんでしょうね。
たとえば『ラストストーリー』プレゼンテーションは
大変なプレッシャーだったと思いますけど、
一方で、ああやってお客さんが反応してくださると、
ものすごい元気をいただけるじゃないですか。

坂口

はい、いただきました。

岩田

高橋さんも、『ゼノブレイド』が発売されてだいぶ経つのに
遊んでくださった方々がいまもなお話題にしてくださるということは、
すごいエネルギーにつながるんじゃないでしょうか?

高橋

はい、もちろんです。
・・・でもじつは、もっとけなしてくれとも思います。
わりと負のエネルギーで動くタイプというか・・・(笑)。

岩田

なるほど(笑)。

坂口

そうなんだ!

岩田

ということはみなさん、
どうにかしてほしいことは言ったほうがいいようですね(笑)。

坂口

ほんとに来ちゃうよ、そうしたら(笑)。

高橋

微妙なバランスですけどね・・・。

岩田

でも、どんなにやりつくしたことでも、
必ずやり残したことはありますよね。
おわってはじめて、次につながっていくんですよね。

坂口

そうですね。つくっている最中に、
いいアイデアが思い浮かぶこともあるんですけど、
たいてい0の時点からスタートしないとできないものです。

岩田

やはり忙しいときのほうが
頭のなかにあるバラバラのものをつなげて見ているから、
いいアイデアが浮かびやすいんでしょうね。

坂口

一見無関係なものとの組み合わせから
何かが生まれるんでしょうね。
あとはね、ぜひ高橋さんとも仕事してみたいです。
すみません、突然・・・(笑)。

高橋

やっていないですよね、10年くらい。

岩田

おふたりが組んだら、どんな刺激を受け合うんでしょう?

坂口

どっちかだね。最初の2カ月でプイッと別れるか。

高橋

その期間を乗り切れば最後までいくか、どちらかですね。

岩田

両方同じことを言っていますね(笑)。よっぽど確信が・・・。

坂口

波長があったときはピタッといくよね(笑)。
そういう意味では、スクウェア時代に、
お互いに波長が違うものをつくりたがっていることを
理解しているんですよ。

高橋

全然違うジャンルでやってみたら、意外といいかもしれませんね。

坂口

いいかも、パズルゲームとかね。
グラフィックス的にはちょっと幾何学的なほうにいくとか、
物理シミュレーション系とか、面白いかもね(笑)。