2. 操作感がやっぱり大事

岩田

マリオに黒フチをつけたのは、
スーパーファミコンに合ったデザインにしよう、
ということなんですか。

杉山

そうです。
その前に発売された『マリオワールド』の
グラフィックに合わせようということで、
とくに『スーパーマリオ』と『スーパーマリオ2』は
だいぶ豪華な感じにしました。
ただ、もともとオリジナルのマリオのドット絵にはとても味があるので、
人によっては好みが分かれるかもしれませんね。

岩田

確かに初代ドットマリオは
今回の→「スーパーマリオ25周年」のマークにも使われていますし、
独特の味があるのは確かですね。
ただ一方で、スーパーファミコン版のときに
背景があれだけ描き込まれてくると、
黒フチをつけないと、オブジェクトがその背景に沈んでしまうんですよね。

杉山

そうなんです。それに、当時そのままで出していたら、
「何も変わっていないじゃないか」と言われたでしょうし。

岩田

「さすがスーパーファミコンだ」ということが必要だったんですね。

杉山

そうです。

実は僕、このプロジェクトには途中から参加したんですけど、
そのときはすでに、初代『スーパーマリオ』のマップの上で、
スーパーファミコンの『マリオワールド』の
とても豪華でグラデーション豊かなマリオが動き回っていたんです。
豪華な絵のマリオがジャンプして、走っているというのが
すごく強烈な印象だったのを覚えています。

岩田

それで、森さんは
その豪華でグラデーション豊かなマリオに合わせて、
背景を描き直すようなことをされたんですね。

はい。「豪華にしていいよ」と言われました。

岩田

ファミコンからスーパーファミコンになって、
1つのキャラクターで同時に使える色数が
4色から16色になりましたからね。
しかも選べる色数の元が、最大52色から、
3万2768色に変わったわけで。

ですから、つくる立場としては、
「それを全部使い切ってしまおう」といった気持ちが
あったと思います、デザイナーのなかに。

杉山

背景も『マリオワールド』に近い印象になったと思います。
しかも、デモとかもオリジナルで描きおこして、
最後のエンディングのピーチがキスするようなところとかも。

あ〜、そうだ、そうでしたね。

杉山

あれもこの『マリオコレクション』用に変えたんです。

それでいま本当に思い出したんですけど・・・
確か・・・『マリオUSA』の地下のところの、
カギが置いてあって、それを取ると、小さい鉄仮面が
マリオを襲ってくるという仕様があったんです。
で、そのときに、確かオリジナルのファミコン版の背景が
真っ暗だったので、なんか寂しいなと。
そこで、襲ってくる鉄仮面の大きいものを背景に描いてみたんです。

岩田

(スーパーファミコン版のパッケージの裏を見て)
それって、これ・・・じゃないですか?

ああ、そう、これです!

杉山

まさにこれです!

で、背景を描いて、そのときに描くだけじゃ面白くないと思って、
→マリオがカギを取ったら、この鉄仮面の目が光って、
うぉーんうぉーんと音がする
という仕様を入れていいですか?」って、
恐る恐る当時の上司に尋ねたんです。
すると「うん、いいよ」と言ってもらえて。

岩田

入社3年目なのに、自分のアイデアが認められたんですね。

ええ、なのですごくうれしかったです。

杉山

そんな感じで、BGにはけっこう手を入れていました。
→クッパの城でも、クッパの肖像画を掛けたり、
ボーナス面にはでかいマリオの顔があったり
と、
そういうところを変えています。

岩田

グラフィックをスーパーファミコンに合わせて豪華にする一方で、
変えなかったところももちろんありましたよね?

杉山

はい。コースの設計とか、敵の配置はオリジナルのままにしました。
どうしてかといいますと、操作感がやっぱり大事だと。
『スーパーマリオ』の操作感は、このゲームのキモでしたので、
そこはかなり忠実に再現するようにしました。

たとえばマリオがジャンプをするときに、
ファミコン時代に比べて
アクションのパターン数を増やすこともできたんです。
でも、それをしてしまうと操作感が変わってしまうので、
あえてやらないようにしましょうと。

岩田

スーパーファミコンの機能を活かせば、
ファミコンよりオブジェクトのパターン数を増やすことができるので、
とてもなめらかな動きを表現することもやろうと思えばできたわけですが、
たとえば、マリオが左から右に振り返るときに、
ファミコン時代は数少ないパターンで、一瞬で振り返っていたのが、
なめらかな表現をするために、ゆっくり振り返るようにしてしまうと、
同じ操作感にはならないということなんですね。

杉山

そうなんです。ならないんです。

岩田

ただ、操作感といっても、とても感覚的なものですよね。
どうやって同じ操作感になるようにしたんですか?

杉山

オリジナルの『スーパーマリオ』の横に、
開発中のソフトを並べて置いて、それを見比べながら・・・。

岩田

え?ソフトを横に並べて、かわりばんこに
触ってみるようなことをしたんですか?

杉山

そうです。

岩田

自分のところでつくった商品なのに(笑)。

杉山

ホントに(笑)。そんな感じで手作業でやっていました。

岩田

いまから考えると
とても原始的なことをやっていたように思えますけど(笑)。

やっぱり17年前のことですから(笑)。

杉山

操作性に関しては、
コントローラが変わったのが大きかったんです。

岩田

ああ、そうか。ファミコンのコントローラの右側には
ABボタンが2つ付いていたのが、
スーパーファミコンでは4つボタンに増えましたからね。

杉山

はい。しかも、横に並んでいたボタンが
斜めに配置されるようになったので、
ファミコンのような操作性にするためにかなり神経を使いました。
しかも、4つボタンのどれを使って操作するかということについても、
かなりの議論があったんです。

岩田

やっぱり『スーパーマリオ』というゲームにとって、
Bボタンを押して、Bダッシュをしながらジャンプをするというのは、
基本中の基本ワザですからね。

なのですごくもめていました。それはよく覚えています。

杉山

でも、今回のWii版は
Wiiリモコンを横持ちで操作するようになっていますから。

なので、ファミコンと同じような操作性が
楽しめるでしょうね。