7. 長い長いトンネルを抜けて

岩田

最後にこれだけは伝えたい、という思いを聞かせてください。
まずは山上さんからお願いします。

山上

映画やドラマで感じるような絶妙な感情の揺れ動きを、
このゲームで感じていただきたいなと思っています。
「ゲームなんて・・・」と思われている方にこそ、
ぜひやっていただきたいんです。
「ゲームで心が動くんだ」ということを
本当にわかっていただくことができますので。

岩田

アクションゲームに慣れていない方は、遊ぶのは大変ですか?

山上

大丈夫だと思います。
まあ途中で、ほどよくゲームオーバーになることがありますが、
それでも「いや、俺がやらねばセレスが!」って気持ちがまさるので、
一度や二度のゲームオーバーはぜんぜん苦痛ではないはずです。

岩田

ところで、女性のお客さんはこれをどう遊べばいいですか?

山上

同じです。最終的に、ちゃんと志を持ったひとりの人間として、
セレスという人物像が設計されているので、
女性から見ても「この子を助けたい」って気持ちは変わらないと思います。
わかりやすく言えば、子犬を「かわいい」と思うような感覚で
セレスと接することができるので、感覚的には男性も女性も、
同じ気持ちで楽しんでいただけると思います。

岩田

では中野さん、お願いします。

中野

では僕は、ゲーム面の話から。
プレイに集中してもらえるよう、複雑なカメラ操作はなくしました。
敵にやられたときも直前のチェックポイントから
すぐにリトライできる機能を用意していますので、
アクションゲーム初心者の方でもすごく遊びやすくなっています。
自由にプレイできるなかで、自然とセレスに感情移入していく、
そんなところを楽しんでもらえればと思います。

岩田

はい。入江さん、お願いします。

入江

全体の話でいえば、ひとつひとつの要素だけを抜きだすと、
「こういうゲーム、あったよね」というものはあるかもしれません。
ただ『パンドラの塔』というひとつのタイトルを遊んだとき、
いままでさわったことのないゲームになっていると思っています。
塔でのアクションとセレスへのつくり込み、
いわば、ギャルゲーとアクションを足したような感じです。
それから、十何体かいる"主(あるじ)"というボスの
デザインすべてに、ある遊びを盛りこみました。
つぎはどんな主なんだろう、という楽しみも用意していますので、
そういった部分も期待して遊んでいただきたいなと思います。

岩田

セレスだけではなく、塔の楽しさもつくり込まれているんですね。
では芳賀さん、お願いします。

芳賀

では僕はこまかい部分のお話をします。
今回はゲームをリアルに感じてもらえるように、
細部にもいろいろこだわっています。
わかりやすいところでは、
汁気があるものをWiiできちんと表現しているんです。
たとえばセレスの唇とか、獣化がなおったときに服がぬれているとか、
人間の姿に戻ったあと、床に体液が散っているとか・・・。
ほかにもセレスのモーションのつくり込みであったり、
時間によるマップの見た目の変化であったり、
そういう、ほかのゲームではあまり見られない部分を
いっぱい積み重ねていますので、ぜひ見てほしいなと思います。

岩田

はじめてのオリジナル、という意味ではどうでした?

芳賀

そうですね・・・僕自身、
世界観やキャラクターという面はすごく苦手だったので、
山倉の草案と、途中から山上さんや中野さんのアドバイスを聞いて、
それをどう活かすかというつくり方をしていました。
だから気分的にはあまり、オリジナルらしい印象はなくて・・・(笑)。

岩田

つくり方の構造としては版権ソフトと同じだったんですね。

芳賀

はい。できるだけみんなの意見を聞きました。
だから、わりと原作付きのものをやっている感じで、
オリジナルというより、与えられたものをいかにゲームとして
表現するか、というほうに尽力していました。
だからふしぎな感じではありました(笑)。

岩田

つまり役割分担の問題ですよね。
スタートから何年でしたっけ?

山上

恥ずかしいですけど、4年以上です。
2006年12月に企画がはじまりました。

岩田

普段のゲームとはぜんぜん違うサイクルでつくられたので、
長い長いトンネルだったなと思います。
苦しさにくじけず、走りきれたのはどうしてですか?
中野さんという恋人からの電話のおかげですか?

芳賀

えー・・・苦労を共有している部分はありました(笑)。
与えられた要望を相談して、ふたりで悩みましたから。
もしひとりで抱えていたらつぶれていたかもしれません。

岩田

でも、とてもていねいにつくりきった感じがしますよ。
では最後に、山倉さんお願いします。

山倉

はい。本当に長い期間だったんですが、
わたしたちはお客さんに手にとっていただけたときのことを
ずっと励みにして、ていねいにつくりました。
そのお客さんからの期待、そして
こうしてチャンスをいただいて、すばらしいアドバイスをくださった
任天堂のみなさんにも、本当に感謝をしています。
いままで版権ソフトを中心につくってきましたが、
初のオリジナル作品である『パンドラの塔』も
大事につくりましたので、ぜひ遊んでいただきたいです。
それから個人的に、いままでプロデューサーをやってきましたが、
今回のプロジェクトはいままででいちばん、
なかに入りこんでつくりました。
ですのでプロデューサーとしてまた違う作品に携わっていくとき、
この経験を活かせるんじゃないかと思います。

岩田

得たものはどんなことですか?

山倉

・・・少し距離を置かないと見えないものがあるんだなと思いました。

岩田

ものづくりには、それはすごくありますね。

山倉

はい、なぜわからないんだろうと、いままで思っていました。
でも実際、いっしょにおどってしまうと
いっしょにわからなくなるので、
ちゃんと距離を置かないといけないんですね。

岩田

視点を動かすことがすごく大事になりますよね。
だから、はまっているときも、
すっと視点を動かせればいいんだと思います。
遊んでくださったお客さんにたくさん感謝できるよう、
多くの方に届くといいですね。
今日はどうもありがとうございました。

一同

ありがとうございました。