社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.6 『おどる メイド イン ワリオ』編

第3回 「見ている人に『ちょっと俺に貸せ』と言わせたい」

岩田 収録されているプチゲームの数は
いくつくらいなんですか?

阿部 200種類以上ですね。

岩田 それだけの企画を考えていくとなると、
だんだん似たものばかりになっていくとか、
マンネリ化してくるとか、
そういうことはありませんでしたか?

阿部 それは、ありました。
作っていくうちにどうしても
「これとこれは、やっていることが同じじゃないか?」
というものができてきますので、
できるだけバリエーションを持たせようとしたんですが、
バリエーションがありすぎると今度は
やるべきアクションがわかりづらくなってしまうので、
そのあたりのバランスは難しかったです。
ゲームに入っているのは200個ですが、
案自体は1000個くらいは出しているので、
それを200個に絞り込む段階で、
できるだけいろんなバリエーションが楽しめるように、
バランスをとりながら選んでいきました。

岩田 いま「1000個」っていう数字を
ずいぶんあっさり言いましたけど(笑)。

阿部 ああ、はい(笑)。

岩田 1000個考えるわけですか。
つまり、1000個、絵コンテを描いて?

阿部 はい、描きますね。

岩田 何人がかりで?

阿部 何人でしょうね。
えーと……スタッフ全員で20人ぐらい……
もうちょっといるかもしれませんが、
絵コンテを描くだけだったら、
もっとたくさんの人が参加したかもしれない。

坂本 これは『ワリオ』チームの特徴なんですけど、
誰でも思いついたら絵コンテを出していいんですよ。

岩田 ふつうのゲーム作りというと、
企画を担当する人がアイデアを出して、
それを担当者が形にしていくという感じですけど、
『ワリオ』チームは、おもしろいことを思いついたら
誰でもそれを提案していいんですね。

坂本 そうです。『ワリオ』シリーズは、性質として、
おもしろさの断片だけで十分成立するというか、
脈絡や必然性というのがあまり要らないので、
「これ、おもしろいと思うんだけど」というレベルで
どんどん提案していくことができるんです。
ですから、きちんと絵コンテを描く人もいるし、
ちょっと大きめの付箋紙に書いて
それをぺたっと貼りつけるだけの人もいるし。

岩田 それは『ワリオ』チーム独自の文法ですね。
たしか、その絵コンテを
貼っておく場所があるんですよね。

坂本 そうです。
だから、極端にいえば、チーム以外の人が、
本当に通りすがりに企画を書いて貼っていったり。

阿部 ありましたね(笑)。
で、そういう絵コンテが貼ってある場所に、
プログラマーが来て、
作りやすそうな企画を剥がして持って行って、
作ってみるという。

岩田 「作りやすそうな企画を」(笑)。

阿部 いや、もう、本当にそういう感じなんですよ。

岩田 その秩序のない感じがすごいなあ(笑)。
その絵コンテっていうのは、たとえば、どういう?

阿部 ですから、そうですね、たとえば
「鼻の穴に指を突っ込む」ゲームだったらもう、
鼻の穴の絵があって、そばに指が描いてあって、
「入れろ」としか書いてないんです。

一同 (笑)

阿部 それは、最初の『ワリオ』のときでしたけど、
本当にそういう感じだったんです。
最近は、さすがにひとりの規模で
ひとつのプチゲームを仕上げるのは難しくなってきたので
もうちょっとちゃんとしてますけど(笑)。

坂本 でも、基本的には、そういう流れですね。

阿部 そうですね。
そういうやり方をしているとおもしろいのは、
3人くらいの人が、ぜんぜん別のところで、
まったく同じアイデアを出してたりするんですよ。

岩田 あ、そういうこと起こるんだ。なるほどね。

阿部 1000個も企画が出ると、
そういうことがあっておもしろいんですよ。
『さわる』と『まわる』を並行して作ってたときは、
同じような題材のものが両方で偶然作られていたり。

坂本 なんか、どっちのゲームでも
「トイレットペーパーを巻き取る」
っていうプチゲームが動いてたりね。
なんでそんなにトイレットペーパーを
巻き取らせたいのか、という(笑)。

阿部 いや、「トイレットペーパー」のアイデアは
初代の『メイド イン ワリオ』のときから出てたんです。
ただ、実現できなかった(笑)。

坂本 そうかそうか。技術的に無理やったんや。

岩田 「技術的に無理」(笑)。

坂本 はい。ゲームの技術が進歩することによって、
我々は、トイレットペーパーを
巻き取れるようになったんです!

阿部 やっと実現できましたね!

岩田 「技術の進歩でトイレットペーパーが実現」(笑)。

坂本 『ワリオ』シリーズも
重厚長大になってきましたよ(笑)。

阿部 豪華絢爛です!

岩田 いや、ええと、マジメな話ですけどね……。

坂本&阿部  ……はい。

岩田 実際、『ワリオ』というゲームは
軽薄短小なゲームではないんですよね。
お客さんに求める時間という意味において
軽薄短小というだけで、
作るほうはぜんぜん軽薄短小ではないというか、
チームもわりと大規模なほうですよね。

坂本 そうですね。

岩田 ただ、1個1個の企画を小さく分けて作れるので、
『ゼルダ』のような大規模プロジェクトとは
また違う運営になるんですけれども。
チームを総合的に統括する坂本さんも
そのあたりを意識されてか、
個々の開発者の個性を尊重しているというか、
のびのびと作らせてあげているように
私には見えるのですが、いかがですか。

坂本 そうですね。いや、本当に、あの、
統一感とかいうのは、
本当にないほうがいいぐらいのものなので。

岩田 「ないほうがいい」(笑)。

坂本 おもしろかったらいいよ、という形で
好きにやってほしいというのがあるんで、
プログラマーが何気なく描いた絵に
すごく味があったりすると、
もうそのまま採用したりもしますし、
「おもしろい」というところだけを最低限の共通項にして
まとめていっているという感じですね。
幸い、『ワリオ』シリーズというのは
その受け皿としてすごく理想的なものなので。
ですから、このゲームの開発を通して
自分の個性をどんどんみんなに提案していくというのは
作っていていい経験になると思いますよ。

岩田 まあ、そうはいっても、
自由に作るなりの苦労はきっとあるんでしょうね。

坂本 ええ……まあ……そりゃあ……。

阿部 うん……きっと……。

岩田 こういう苦労を乗り越えた、とか、
このプチゲームができたときに
新しい方向性が見えた、とか、
そういうことはありますか?

坂本 そうですね…………。

阿部 ええと…………。

岩田 …………苦労が、ないんですか?

坂本 いやいやいや!
ありましたけど、苦労、あったけど、
なんやろう? なんかあったかな?

阿部 あらたまって訊かれると、困りますね。

岩田 いや、まあ別に、苦労しましたってことを
アピールすることが目的ではないんですけど(笑)。

阿部 あの、あとから考えると大きかったな、と思うのは、
メインで使うコントローラを
Wiiリモコンひとつに割り切ったことですね。
本体にはヌンチャクも同梱されるし、
ふたりで遊んでいるときに、
それぞれひとつずつ持てたほうがいいかな、
とも思ったんですが……。

岩田 うんうん。

阿部 もう、「1本でいいや」と。

岩田 ……根拠は?

阿部 ええと……。

坂本 「1本でとにかくみんなで楽しもう!」と。

阿部 はい!

岩田 根拠になってないけど、まぁ、いいでしょう。

阿部 まあ、部分的にはヌンチャクが使えたりはするんですが、
メインはもう、Wiiリモコンというか、
「作法棒」のみで全部遊べるようにしようということで。

岩田 ええと、フォローするわけじゃないですけど、
たとえば、いまコントローラを持っていない人が
まわりで見ていたとしても、
その場にいて、それを見ているだけで
十分楽しいはずだという確信があるからこそ、
その決断はできるわけですよね。

阿部 ああ、そうです、そうです。

坂本 おっしゃるとおり!

岩田 …………。

阿部 いや、でも、本当に、
「見ている人が楽しい」というのは、
作るうえで大きなテーマでした。

坂本 あの、昔の、ファミコンのころのゲームって、
見ていた人もおもしろかったと思うんですよね。
やり方がよくわからないようなときも、
コントローラを持っている人が
「え、これどうするの?」って迷うようなときに
必ず「違う違う、貸してみぃ!」っていう人がいて、
わからないことさえも、みんなで遊ぶ楽しさに
変換されるっていうことがあったと思うんですよ。
それって、すごく重要かなと思って。

岩田 ああ、それは坂本さんと話していて
よくテーマになりましたね。
「まわりで見ている人に
『ちょっと俺に貸せ』と言わせたいよね」っていう。

坂本 そうそう、そうなんです。
なんか、ゲームという遊びから、そういう部分が
どんどんなくなっている感じがしていて。

岩田 見ている人も楽しめるように、
さまざまな苦労をした、と。

阿部 はい。そういうことに……。

坂本 しておいてください。

岩田 (笑)。
まあ、たしかに、まわりで見ている人が
楽しめるような工夫は随所に施してありますよね。
初めて登場する「お作法」には
妙な外国人なまりの日本語できちんと説明があったり。

阿部 はい。あれはカナダの方にしゃべっていただきました。

岩田 カナダ? なんでカナダの人に?

阿部 ええと、その、「お作法」を仰々しく説明するのに、
「外国で放送されてる日本語講座」みたいな感じの
雰囲気が出るといいなあと話してまして。
で、「誰にしゃべってもらえばいいかな」って
坂本さんといっしょに考えていた、そのときに……。

坂本 まさに「どういうしゃべりがいいのかな」と
言ったその瞬間に、カナダ人のスタッフが、
ぼくらが会議している部屋の窓の外を通ったんです。

岩田 え?

坂本 で、ぼくがパッとそれを見て、
「あの人、しゃべってくれへんかな?」
と言ったのがすべての始まりで。

岩田 え?

坂本 まあ、無理かなあ、と思いつつ頼んでみたら、
あっさり快諾していただけまして、
そんでしゃべってもらったら、よかってんね、すごく。

阿部 よかったです。非常によかった。

岩田 その人は、本来は……。

阿部 いちおう、企画の部分に参加していただいていて、
絵コンテとかも描いてくださってるんですけど。

岩田 絵コンテは描く予定だったと思いますが、
まさか「お作法」について説明するとは……。

坂本 思ってなかったでしょうねぇ。

阿部 っていうか、チームへの貢献度としては
ナレーターとしての仕事のほうが圧倒的に高いですね。

岩田 うん、まあ、そうかもしれませんが……。
窓の外をちょうど通っただけで……。




(……つ、続きます)
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