社長が訊く
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社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)

社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』

目次

3. やっぱりイカ

岩田

豆腐からヒト型、そしてウサギに替えて
その時の手ごたえはどうだったんですか?

天野

「まーまーおもしろいかな」
みたいな感じでした。

岩田

「まーまーおもしろい」ですか(笑)。

天野

つまり、みんながみんな、
「これに納得しているわけでない」
という状況だったんです。

阪口

そもそも「まーまーおもしろい」って、
本当に、たちが悪いんです。
間違ってはいないんですけど、
正しい解答にもなっていないんですね。

佐藤

ステージの雰囲気とかは
いまの『スプラトゥーン』に近いものができていて、
インクを塗ったときの気持ちよさも
表現はできていたんですけど・・・。

岩田

でも、「まーまーおもしろい」だったんですね。

佐藤

そうなんです。

天野

そのころ、野上さんが
社内営業をはじめたんですよね。

野上

社内の営業やプロモーション関係の人たちに
「おもしろいものができたので、
 ちょっと触ってみてよ」
と宣伝して回っていました。

野上

岩田

それはいつごろですか?

野上

一昨年(2013年)の11月くらいです。

阪口

プロジェクトが本格的に始動して、
3か月くらい経っていたんですけど、
このタイトルには後ろ盾がありませんでしたので、
お客さんに届けてくれる社内の人に
プロモーションをしようと。

岩田

『マリオ』や『ゼルダ』などの
人気シリーズの新作ができたときは、
社内の人たちは、すごく協力的になりますけど、
今回のタイトルは、まったく新しいゲームなので
珍しく社内営業をしないといけなかったんですね。

野上

そうなんです。
後ろ盾のないタイトルでしたから、早い段階から
存在を知ってもらう必要がありました。

岩田

でも、野上さんがかつて、
『どうぶつの森』(※12)をつくったとき
後ろ盾がなかったわけじゃないですか。

※12
『どうぶつの森』=第1作は、NINTENDO64用ソフトとして2001年4月に発売されたコミュニケーションゲーム。その後、ニンテンドー ゲームキューブでは2本、ニンテンドーDS、Wii、ニンテンドー3DSでそれぞれ1本ずつ制作され、シリーズは6作を重ねている。本作『Splatoon(スプラトゥーン)』のプロデューサーを担当する野上恒は、『どうぶつの森』第1作から『街へいこうよ どうぶつの森』(Wii)まで、シリーズのディレクターを担当した。

野上

そうですね、そう言われれば(笑)。
『どうぶつの森』はクリアするという概念を
とっぱらったゲームでしたので、
最初のころはいろんな人に理解していただくのが、
ちょっと難しいゲームだったと思います。
でも、それに比べると『スプラトゥーン』は
すごくわかりやすいゲームですので・・・。

岩田

「塗ったほうが勝ち」ですからね(笑)。

野上

はい。「たくさん塗ったほうが勝ち」
と、ひとことで言えます(笑)。

岩田

それで、社内営業をしてみて、
みんなの反響はどうでしたか?

野上

「これはおもしろい」と言ってくれる人と、
「おもしろいんだけど・・・」と
首をかしげる人もいて、評価は半々でした。

天野

「よくわからん」とか
「キャラクターに魅力がないなあ」という人もいましたし。

阪口

けれど自分たちのなかで、この時は、
「ウサギで間違ってないんじゃないかなぁ」と。
そのあと、結果的にキャラクターは
ウサギではなくイカになるんですけど、
この時重要だったのは、
「ウサギがよくなかった」という話ではなくって、
構造的に、ゲームのキーとなるパーツが、
まだ見つけられてなかったということなんですね。

天野

「なんでウサギなの?」
「なんでウサギがインクを塗るの?」
と聞かれたときに、合理的な理由を
説明できない状態だったんです。

野上

なので、「その答えはなんだろう?」と
その当時は必死で探したという感じですね。

天野

その時も、すごくもがきまして・・・。

岩田

ヒト型でもがき、
ウサギでもまたもがいたんですね(笑)。

天野

はい。もがいてばかりでした(笑)。

天野

野上

そんな、先に進めない状況のときに、
阪口さんが、このゲームのキャラクターの
本来あるべき姿や機能などを
まとめてくれたんです。

井上

「この要素は満たしてほしい」
ということが、いろいろ書いてありましたね。
たとえば「シルエット」や「等身」のように
キャラクターの見た目に関することだけでなく、
武器やアクションに関することまで
コンパクトに、わかりやすくまとめられていたんです。

阪口

これをまとめたのは、
そこに書かれた要素をすべて入れることができたら
きっと前に進めるだろうと思ったからなんです。
で、その項目のひとつに
「モチーフ」というのがあって、そこには
「インクを吐くことが納得いくモチーフ」
という文章に続いて「イカ?」と書いてたんです。

岩田

「イカ?」
と書いてあったんですか(笑)。

野上

はい。「イカ」は、ずっと前から
キャラクターの案としてはあったんですが、
「これでいこう」と言える形にはなっていませんでした。
で、ちょうどこのころ、
ひとつのキャラクターにするのではなく、
“インク生命体”と“ヒューマン体”を
切り替えられるようにしようという
話が出てきたんです。

岩田

つまり、変身できるようにしようと。

天野

そうです。“インク生命体”というのは
その名のとおり、ぺったんこのインク状になって、
同じ色のインクの上に乗ると・・・。

岩田

豆腐のときと同じく
保護色で見えないんですね。

天野

で、“ヒューマン体”のほうは
インクを発射するといったアクションができたり、
ヒトのような形をしていて、
ファッションをカスタマイズできるようにすれば
思い入れのあるキャラクターになるだろう
と考えていました。

阪口

そこで、散らかっていた機能を
“インク生命体”でできること、
“ヒューマン体”でできることを整理しなおすことにして、
ZLボタンで“インク生命体”になり、
ZRボタンで“ヒューマン体”がインクを発射する、
というように機能を振り分けました。
“インク生命体”でインクのなかに入ると、
速く移動するようにしようとか、
“ヒューマン体”で敵のインクを踏んだら、
足が取られるようにしようとか、
トレードオフになるようにしました。

野上

さきほど
「壁は塗るべきだ」「塗るべきじゃない」
ということで議論をした、という話をしましたけど、
“インク生命体”でインクのなかを移動できるわけですから、
壁をインクで塗って、のぼれるようにすれば・・・。

岩田

壁を塗る意味が出てくるんですね。

野上

そうなんです。
壁問題はその時、一気に解決しました。

佐藤

そんなふうに
“インク生命体”と“ヒューマン体”を
切り替えるというキーワードができて、
そこで一気に問題が整理されていって、
そこであらためて「キャラはどうする?」となったときに・・・。
「やっぱり・・・イカでしょう」と。

野上

誰かが言い出したというよりは・・・。

阪口

みんな、・・・うすうすと。

岩田

うすうすとイカがいいと感じてたんですね(笑)。

野上

というわけで、やっとたどり着きました、
最初の岩田さんの質問に(笑)。

一同

(笑)