社長が訊く
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社長が訊く『ゼルダの伝説 風のタクト HD』

社長が訊く『ゼルダの伝説 風のタクト HD』

目次

4. 考古学

岩田

がらっと話題は変わりますが、
ゲームキューブとWii Uの
ソフトづくりというのは、当然ハードの
しくみから何からぜんぶちがうわけで、
普通、ゲームキューブのソフトを
簡単にWii U用に直せるものではないですよね。
その話を、堂田さんと滝澤さんに
お訊きしたいんですけれど。

滝澤

開発のきっかけからお話ししますと、
Wii Uを開発していく中で、
「Wii Uの新しい『ゼルダ』はどうしよう」
という話があったんですが、
それを考える過程で・・・。

岩田

『ゼルダHD エクスペリエンス』(※18)
つくりましたからね。

※18
『ゼルダHD エクスペリエンス』=2011年のE3で公開された、Wii Uのハード性能を紹介するために『ゼルダ』の世界を元につくられたデモ映像。

滝澤

はい、あれは『トワイライトプリンセス』を
順当進化させつつ、写実というよりは
イラスト調なテイストを実験したものでした。
それとは別に、いままでの『ゼルダ』を
データはそのままでWii UのHD画質で出したら
どんな感じになるのか、実験をしたんですね。
まあ、実作業としては堂田さんに
ゴリゴリとやってもらったんですが。

岩田

画の資産はあるので、
プログラマーががんばれば、
けっこういろんなことができるんですよね。

滝澤

そうですね、それで『エクスペリエンス』と
『スカイウォードソード』、
そして『風のタクト』のリンクを並べて
同じ舞台に置いてみたんです。
ほぼ同じシェーダー(※19)をつかって、
陰影表現も同じように出したんですが、
その時の『風のタクト』のリンクの存在感の
圧倒的な強さといったら・・・!
なんというか、異様な“圧”を持って
迫ってきたわけです。

※19
シェーダー=おもに光や影などの表現を行うグラフィックス処理回路やプログラムのこと。

岩田

何もしてないのに、それだけで強いんですか?

滝澤

はい。しかも、違和感がまったくなくて。
「これはちょっとすごいな」と思ったので、
次に『風のタクト』の海と島までセットにして
Wii Uに画を出して調整してみたんです。
そうしたら、絶妙にコントラストのきいた
日差しの強い、いい画ができたんですね。

岩田

滝澤

そうですね。

堂田

僕はその作業をやっていたんですけど
青沼さんから僕にいきなり
メールが飛んできたんですね。
「これ、やったらどれくらいでできるの?」って。

岩田

ここで青沼さんが動いた、と。
しかもいきなり核心をつく質問が(笑)。

堂田

そうですね(笑)。
じつは自分たち的にも
水面下で見積もってはいたので、
「おそらく、2013年の秋には
 発売できるようにつくれます」
っていう返事をしたんです。

岩田

すると青沼さんとしては、
「えっ、1年かけずにこれができるの?」
ってなりますよね。

青沼

そうですね(笑)。もしその時
「時間がかかります」って言われてたら
たぶん僕は「やろう」とは言いませんでしたが、
1年かからないってすごく魅力的じゃないですか。
それに『風のタクト HD』をつくることは
Wii Uの『ゼルダ』の画づくりを検証する意味でも
意義のあることだと考えたんですね。

岩田

たしかに。

青沼

それですぐ、宮本さんたちにも話をして、
「なんとかこれをつくらせてもらえないか」と。
その後ちょうど、さきほどの
ゼルダ・サイクルの話も追い風になって、
「短い期間でつくれるなら」ということで
開発のGOサインをもらったんです。

滝澤

いやいや・・・、ちょっといいですか。
現場ができると言っていても、
僕がプロデューサーなら
少しは余分に期間をとりますよ(笑)。

一同

(笑)

堂田

今回のチーム構成はちょっと特殊で、
社内のデザイナーが少ないんですよね。
というのも、テクスチャーの高解像度化など、
「よーいドン!」で一気に進められるような作業については
外部の多数のデザイナーさんにご協力いただきましたが、
それ以外のリファインワークについては、
基本的には滝澤さんと有本さんともうひとり、
合計3人の主力デザイナーを中心に進めていたんです。

堂田4

岩田

デザイナーが3人?
期間を考えたら、リメイクとはいえ
一つひとつのデータを
手で修正していくのは、とうてい無理ですよね。

堂田

はい。じつは、リファインするうえで、
オリジナルのデザイン意図やデータにくわしい、
などの条件があって、
社内でも今回の仕事に携われる
デザイナーさんは限られていたんです。
もともとそういった事情から、
あまり人手に頼ったつくりかたはできないということで、
それをしくみでカバーしていくアプローチを考えたんですね。
3Dモデルのデータにはほとんど手を入れずに、
ゲームキューブの画をWii U用に出し直して、
かつ、画がよりよく見えるような
しくみをつくったんです。

岩田

そのしくみって、最初からあったんですか?

堂田

最初からはないですね。
そこまでWii Uでつちかった表現のノウハウを
いろんなところから寄せ集めて、
昔つくられた画を『風のタクト HD』用に
きれいにレンダリングされた画として出るように
調整していきました。

岩田

でも、そのしくみだけでは、
すべての画がゲームキューブよりも
きれいに見えるようにはならないですよね?

堂田

はい。そこはさすがに個別の作業になるんですが、
個々のデータにもともと残っている設定から
つくった人の気持ちを読み取って、
Wii Uのシェーダーに載せ替えるということを、
いろんなデータと格闘してやりました。

岩田

「昔のデータから気持ちを読み取る」って、
なんか、考古学みたいですね。

一同

(笑)

滝澤

いや、堂田さんがやってたのは
そういう仕事でしたね、本当に。

堂田

そうですね。データを見ると明らかに変なのに
オリジナルの画を見るときれいに出てたり。
じゃあそれをWii Uではどう再現していくか、
みたいな作業を延々とくり返していって。

岩本

次から次へと出てましたよね、そんなものが。

堂田

やればやるほど、出てきました。

有本

10年以上前の懺悔(ざんげ)になるんですが
デザイナーのデータがですね、
なかなか当時、整理してつくる習慣が
あまり根付いてなかった時代で・・・。

岩田

ああ、担当者ごとに、
ぜんぜん作法がちがったんでしょうね。
みんながそれぞれ自分の担当キャラクターを
きれいにするために、
それぞれが“オレ流”で
がんばった結果なわけです。

堂田

そうですね。

滝澤

堂田さんから
「滝澤さん、これちょっと
 環境マップの設定としては
 ありえないんですけど見てくださいよ」
って問い合わせがくるじゃないですか。
「どれどれ?」って見に行くと、
自分がつくったデータなんです(笑)。
「うわ、これはひどい。よろしくね」
って、つくった張本人ですとは言わずに。

滝澤4

一同

(笑)

堂田

実際データだけでなくて、
当時のゲームキューブの3Dエンジンで
そういう画を出していたものもありますから
当時のエンジンの仕様を知る関係者のところに
聞き取りに行ったりもしました。
社内全体の関係者をいろいろかけまわって、
それでようやく、リンクの目が
ちゃんと動くようになって・・・。

青沼

いちばんの誤算だったのは、
当時のゲームキューブで
「こんな表現はほかにない」っていう
トゥーン・シェーディングをやっているわけで、
それはもうみんな、手づくりなわけです。

岩田

いろいろ複雑に設定をいじってるうちに
「こういう画が出たから、じゃあこれでいこう」
みたいなところも、きっとあったんでしょうね。

堂田

はい。実際、バグで画が出ていたものもありました。
そういったものも含めて・・・。

岩田

再現したんですか?

堂田

そうですね。
「自分は何をやっているんだろう?」
って思いながら・・・。

岩田

そうか、バグを再現するための
シェーダーを書いたりしたんですか。

一同

(笑)

岩本

ゲームの仕様に関しても同じで、
誰もわからないような仕様もあって、
プログラマーさんに解析してもらって、
教えてもらいながらつくったりしていましたね。

滝澤

そこは本来なら
デザイナーが多少なりとも事前検証をしてから
やりとりしていく部分なんですが、
今回はデザイナーの数が圧倒的に少ないので、
ちょっと失礼な
仕事の進めかたではあるんですけれど・・・。

青沼

でも、その流れのしくみをつくってもらえたことが
『風のタクト HD』ではものすごく大きいですね。
今回は、この特殊な開発手法にだいぶ助けられています。