社長が訊く
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社長が訊く『Wii U』

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社長が訊く『Wii U』

Wii Street U powered by Google篇

目次

5. シンクロ率

鈴木

これが普通のゲームづくりだったら、
最後の最後までネタづくりに苦労するんですけれど、
ストリートビューはもう、
最初からネタがいろんなところにある感じなんです。

岩田

道具として使われていたサービスが、
Wii Uというエンターテインメントのデバイスを通すことで、
新しいものに生まれ変わる予感があるんですよね。
それによって興味を持つ人が増えて、
地図とのかかわりかたが変わる可能性があると思うんです。

河合

まったく想定していなかった
ストリートビューの使いかたや、
楽しみかたのヒントがわいてきますね。
「ロンドンでかくれんぼ」とか
「セント・アンドルーズ(※23)でゴルフ」とか、
「ケネディ宇宙センターから打ち上がりたい」とか(笑)。
・・・たくさん、できそうなことがあります。

※23
セント・アンドルーズ=スコットランドのファイフにあるゴルフの発祥の地。

岩田

ありますね、すごく(笑)。

鈴木

プレゼンを見せてお話しした時にも、
その場でいろんなアイデアをいただいたんです。
どれも本当に、みんなやりたいんですけど(笑)。

岩田

大橋さんは、UIまわりをつくりながら、
そんな目の前におもしろいネタが次々と
出てくることに対して、どう感じられていましたか?

大橋

僕はわりと集中してやっていたので、
まわりから「すごいものつくっているなぁ」と
言われたりしながら、
けっこう淡々と作業していた気がします。

一同

(笑)

鈴木

大橋さんは僕がいつもつついているから、
かなり負担をかけてしまって・・・。

大橋

いえいえ(笑)。

岩田

でも、そういうプレゼンの場があると
目標があるから一気に進むんですよね。
いま、すごくチームがノッている感じがしますから、
「何をしたらいいんだろう?」というような
迷いがなくなるんですよね。
「こうしたらもっとよくなるに決まっている」
というところだけが見えて、
走れば走った分だけ結果につながるというか。

高橋

じつはプロジェクトの当初、
最初に企画ベースで話しているだけでは
「えっ、それは本当におもしろいの?」と、
半信半疑の人間もけっこういたんです。
でもやっぱり、動くものを見た瞬間に、
こうググッと気持ちがつかまれる感じなんです。

河合

すごくよくわかります。
Googleでも「百聞は1デモにしかず」
という格言があるんですよ。

岩田

ははは(笑)。
「とにかくつくって見せろ」ということですよね。
とくにさわり心地みたいな部分は、
どんなにおもしろそうに説明だけされても、
まったく保証されるものではないので、
チームに力があるかどうかは、
動いているものを見て判断するしかないんです。
「あとで直りますから」というチームもいるんですけれど
たいていは、あとで
「ここをあと回しにしているチームは、やっぱり筋が悪いなぁ」と
なることが多いんですよ(笑)。

河合

こわいなぁ~(笑)。

高橋

見せる時点で最低限
「こことここは気づかっておかないと」
みたいなところはありますからね。
今回Googleさんにデモを持っていったのは
そこに確信を持てたからできたのであって、
段階を踏んで「まずお話を・・・」とは
ぜんぜん思っていませんでした。

河合

いや・・・それは大成功ですね(笑)

岩田

わたしから見ると、
Googleさんへのプレゼン以前は、
「技術的には実現可能だけれども、
 本当にサービスとして実現できるか」が
わからなかったところはあるんです。
Googleさんが共感して協力してくださらなければ
ぜったいに不可能なことでしたから。
でも、それがあのプレゼンを境に、
両者ともに一気によい方向に
加速していった感じがすごくありますね。

鈴木

そうですね、それを現場ですごく感じます。

岩田

鈴木さんはこれまでいろんなプロジェクトにかかわり、
多くの外部のパートナーさんと
お付き合いをされてきましたけれど、
その中でも今回はひときわ
シンクロ率が高いんじゃないですか?

鈴木

たしかに、最初にデモを見てもらった瞬間から
「ああ、いいですね!」って
100%言ってもらえたことって、
じつは僕の中でもはじめての経験でした。

岩田

そこまで一発で受け入れられて、
シンクロ率が高い理由は、つくった側から見て
どこにあると思いますか?

鈴木

いくつかあると思いますが、
いちばん大きいのは、写真の力じゃないでしょうか。
『Touch! Generations』(※24)では、
「自分と関係がある」ということが
大切にされていたと聞いています。
それでいうと今回は、
ゲームのいつものCGではなく、
身近な自分の家や街、行ったことのある場所などが、
すべて実写でその場にいるように見えるということは、
「自分と関係がある」典型的なものだと思うんです。
それはいままではある種の制約があったんですが、
今回Wii Uのデバイスとの相性がピッタリはまって、
一気に乗り越えられた感があります。

※24
『Touch! Generations』=「いろんな世代に、新しいエンターテインメントを。」をキャッチフレーズに、老若男女を問わず、家族でも楽しむことができるソフト群の総称。『脳トレ』や『えいご漬け』『やわらかあたま塾』などがそのひとつ。

岩田

Wii U側からの視点で見たときに、
「写真という身近な素材が、
 人の心をつかめるものだった」ということですね。
高橋さんはどう思いますか?

高橋

まず、やっぱり今日のお話を聞いていても、
「多くの人に共感してもらってこそ価値がある」という
根本の部分が、Googleさんも任天堂も
一緒だったという点が、
いちばん大きいんじゃないかと感じますね。

岩田

ほんとに似ていますよね。
わたしはプレゼンの報告を聞いたとき、
「ああ、Googleさんも
 やっぱり、おもしろいことが好きなんだ」
ってすごく感じたんです。

河合

いや、われわれから見ても、
「似てるなあ」と思っていたんです(笑)。

岩田

任天堂の場合は、出口となるデバイスをつくって、
そこにエンターテインメントを提供するという流れで
やってきたんですが、それは逆に言うと
「人が共感してくれる要素がないと、
 ぜったい成立しない」ものなんです。
なにせ、娯楽は(せまい意味では)役に立つものではありませんから(笑)。
ただ、最初から手ざわりが求められますし、
UIについてはすごく鍛えられ、洗練されるんですね。
基本的に「人は面倒なことが嫌い」ですから、
そこをクリアする工夫を盛り込むわけです。

河合

なるほど。

岩田

そこでお客さんが反応してくださったとき、
その共感が広がって、苦労が報われて、
またさらに続けていけるという構造まで、
そっくりだと思うんです。

河合

おっしゃるとおりですね。
Googleの製品の場合も、
よりおもしろく、便利にする努力を続けないと、
お客さんが戻ってきてくれる保証はないので、
つねに危機感があるんです。

岩田

そこは、実用性のあるサービスをつくられていても
「飽きられてしまうかもしれない」って、
お考えになるものなんですか?

河合

そうですね、たとえば別に
Google マップを利用しなくても
利便性の高い紙の地図は最初からありましたし、
代替となる媒体はそれこそいくらでもあるわけです。
そのいろんな比較対象とくらべて、
また戻ってきてもらわないといけないわけで、
そこはある意味、同じだと思いますね。
「もっとよくできないかなあ」と
試しては捨て、ということをくり返しています。

岩田

そこも同じですね(笑)。