アナザーストーリー

「紫の日記」にまつわるもう一つのストーリー

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  • プロローグ 放課後・旧会議室
  • 第一話 陰気な男
  • 第二話 顔の無い少年
  • 第三話 人形になった女
  • 第四話 呪文
  • 第五話 図書館の闇
  • エピローグ

WEBサイト限定 アナザーストーリーとは? 開発スタッフが書き下ろした、「紫の日記」に関わった人々の物語です。

顔の無い少年

『紫の日記で一番有名なエピソードといえば、「顔の無い少年」ね。』同意を求められても困る。まあ、どうせ同意してもしなくても話は続くんだろうけど。私は目だけで『ふーん』と答えた。

『その少年は、昔、行方不明になったんだけど…』オチを先に言ってしまった。依子の話はそれなりに面白いのだけど、演出が足りてないせいでかなり損をしていると思う。新聞部の私がオカルト研の演出の心配をするのもどうか、と思うので指摘はしないけど。依子の本業は「地域伝承研究会」、通称「オカルト研」。この通称を誰が名づけたのかは知らないけど、少なくともこの話は「地域の伝承」では無さそうだ。

「紫の日記」の都市伝説は、一つの要素を中心に複数の物語、 つまり「被害者」が存在するタイプの都市伝説。それも、被害者が被害者を呼ぶ、「増殖型」の都市伝説だ。「顔の無い少年」はそのエピソードの中でも比較的有名なもので、概要は私でも知っている。

日記に挟まれた、古い写真。そこには、一人の少年が写っている。その少年の顔は黒く塗りつぶされているらしい。「少年」は、裕福な家の末っ子で、とても可愛がられていた。しかし、彼はある理由で、家族から一人だけ離され、田舎の小さな村で生活することになる。その理由は色々な説があるが、まあこの手の話に良くあるパターンばかりだ。突然訪れた一人だけの生活。人々に馴染めなかった彼は、いつも泣いてばかりいたという。そんなある日、村で行われたお祭りに出かけた彼は、お面をかぶって帰ってくる。知らない「黒い服のお姉さん」に買ってもらった、というお面。

次の日から彼は、いつも「お面」をかぶって暮らすようになった。それからは泣くこともなくなり、次第に村の子どもたちと打ち解けて、よく「かくれんぼ」をして遊ぶ姿が見られるようになったという。数日後。「かくれんぼ」をしていた彼と、村の子どもたち全員が戻ってこなくなる、という事件が起きる。村人たちが必死に捜索した結果、子どもたちは村の外れで次々と発見された。「顔が削がれた」、無残な姿で。しかし、一人だけ、「彼」は発見されなかった。そして、村人は気付いた。誰一人、「彼」の顔を覚えていなかったことに。

現代版「のっぺらぼう」、といったところか。今時、のっぺらぼう程度では私たち女子も怖がらないと思った誰かが、彼の顔に「孤独」という「お面」をかぶせた…とまとめれば、綺麗かもしれない。『最後の部分には、別の説もあるわ。私はそっちの方が好き。』依子が嬉しそうに言う。そうか、私とは好みがあわない。私は両方、好きじゃない。

かくれんぼをしていた彼は、ある日一人だけ戻らなくなった。親類や村人は彼を探そうとするが、誰一人「彼」の顔を覚えていないことに気付く。誰にも覚えられなかった彼は、存在しなかったことにされた。彼の「かくれんぼ」は、今も続いている。

『そして、唯一残っていた少年の写真は、いつの間にか、黒く塗りつぶされていた…』妙に雰囲気を出して、依子が語る。『紫の日記』で「顔の無い少年」の写真を見た人の元には、彼が現れ、かくれんぼに誘うのだという。そして、見つけられなかった…つまり「探しに来なかった」人に、その隠された顔を見せて、こう言うのだ。『次はお前が “隠される” 番だ…』 第三話へ続く

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