アナザーストーリー

「紫の日記」にまつわるもう一つのストーリー

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  • プロローグ 放課後・旧会議室
  • 第一話 陰気な男
  • 第二話 顔の無い少年
  • 第三話 人形になった女
  • 第四話 呪文
  • 第五話 図書館の闇
  • エピローグ

WEBサイト限定 アナザーストーリーとは? 開発スタッフが書き下ろした、「紫の日記」に関わった人々の物語です。

図書館の闇

旧校舎1階奥。正門から見て学校の一番奥でもあるこの場所に、図書館はある。 私はその日、旧会議室ではなく図書館に来ていた。ある調べものをする為に…。 …それに、ここなら中庭が見えることはない。

裏山の生い茂った木々が室内にまで影を落とす、学内で一番薄暗い場所。今時の女子高生はこんな場所はお好みではないのか、放課後ここに来る生徒はほとんどいない。その日も、私を含めて数人、いわば「常連」だけだった。一応、私も今時の女子高生なんだけど。どこで道を間違えてしまったのか。「常連」たちはそれぞれ不干渉を決め込み、自分のナワバリで思い思いに時を過ごしている。

日の当る山側の窓辺に座り、人の気配といつもの空気に少し落ち着くことができた私は、図書館に来た目的を先送りにし、ぼんやりと最近のできごとを考えていた。「先輩」こと長谷部先生は、結局学校に来ることなく、教育実習期間を終えてしまった。先生からは「体調が回復せずに、大学を休学して入院した」という話を聞いた。それが本当なのかはわからない。こちらから聞いて回るような話でもない。依子じゃあるまいし。…その依子が、ここ数日、体調を崩して休んでいる。いや、私の思い過ごしだろう。考えすぎだ。少なくともここは、いつもと変わらない。私は木の香りがする風を吸い込み、少し伸びをした。

その時だった。薄暗い図書館の、薄暗い書架の間から、こちらを見る視線があることに気付いたのは。図書館の中でも一番古い本が並べられている、それこそ女子高生など絶対に近づかない場所。その薄暗がりに、溶け込むように立っていたのは…『依子?』思わず間の抜けた声を上げてしまった。周囲の「常連」たちの咎める視線が私に向けられる。その視線にさらに間の抜けた愛想笑いで応え、私は依子に視線を戻した。薄暗がりに俯いて立つその姿は依子に間違いない。学校は休んでいたはずだ、家を抜け出して、私に会いに来たのだろうか…

だとしたら、確かめなければならない。…依子も「アレ」を見たのか。そして、相談しなければ。どうすればいいのか…私は立ち上がった。ガタン、と木製の重い椅子が音を立てる。周囲の視線が再びこちらを向くが、気にはしていられない。大きな閲覧机を回り込むと、書架の間に立つ依子の姿は見えなくなる。依子のいる書架までは数メートル。私はそこでふと足を止めた。書架の間から、あの空気を感じたからだ。あの「陰気男」から感じた空気。いや、それを濃くしたような、暗い、闇の様な気配。

鼓動が高くなり、耳鳴りがする。今すぐ逃げ出したくなるような気持ちを抑えながら、私は書架の角まで近づき、そっと、書架の間を覗き見た。…そこには、誰もいなかった。私は、大きくため息をついていた。 そう、依子がここに居るはずはない。帰りのホームルームでも、彼女の姿は見なかった。きっと目の錯覚…そうに違いない。さっさと調べものを済ませよう。この書架には、民俗学の中でも異端とされている、いわゆる「奇本」の類が並べられている。「神秘化学」だの「異界」だの…「呪い」…だの、私ではなく依子の専門だ。ここなら、日記について何かわかるかもしれない。

そう思い、書架に並んだ背表紙に目を走らせた。そして、色の褪せた背表紙が並ぶ本の中に。…私は、見つけてしまった。  あの、クレマチスと同じ色の…  『あれを見て……、いや、調べてはいけない。』  あの陰気男の言葉は、正しかったのだ。 エピローグへ続く

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