社長が訊く
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社長が訊く『スティールダイバー』

社長が訊く『スティールダイバー』

目次

3. 何度も「ダメ!」と言われて

岩田

3つのモードがあるうちの
まずは「潜水艦モード」について訊きたいんですけど、
これは2004年のE3用につくった、
テクニカルデモが元になっているんですよね。

杉山

そうです。
潜水艦の動きには、慣性がありますので、
この「潜水艦モード」では、
自分で潜水艦を操作するような気持ちになって、
面白さを見いだしてほしいということでつくりました。
それに、ミッションクリアモードになっていますので、
何度も遊んで、自分のテクニックを磨いてほしいと思っています。

岩田

操艦技術を磨いてほしいということですね。

杉山

そうです。

岩田

今村さんは先ほど、
「ステージを追加した」と言いましたけど、
このモードをつくりなおすにあたって、
どんなことを考えましたか?

今村

杉山さんたちがつくったのは、
テクニカルデモということもあって、
もともとコースが短かったんです。
そこで、ステージの長さを3倍くらいにしたんですけど、
尺が違うと、遊ぶ感覚まで変わってしまったんです。

岩田

間が持たなくなってしまったんですね?

今村

そう、そうなんです。
そこで杉山さんに
「アイテムを取れるようにしたほうがいいんじゃないでしょうか?」
と何度も言ってみたんですが、
それはもうストイックに「ダメだ」と。

岩田

ダメ出しされたんですか。

今村

僕としては、派手できらびやかな世界の、
冗談抜きで、『マリオカート』の潜水艦版でも
いいんじゃないかと思っていたんです。
ところが、杉山さんは「NO!」と。

岩田

ゲームの元をつくった杉山さんと、
それをパッケージにしようとする今村さんとの間で、
とても大きなギャップがあったんですね。

今村

すごくありました。

杉山

僕は最初、たとえばラジコンを操作しているような感覚で、
操作を楽しんでいただきたいと思っていましたので、
そこにかなりこだわっていました。
少なくともアイテムを取るゲームではないと・・・。

宮本

ただ、もともと僕がイメージしていたのは、
ラジコンよりも、もっと本物っぽい、
それも大型の潜水艦を動かす、という感覚だったんです。
でも、旧来のアクションゲームをつくる姿勢で進めると、
まず小型の潜水艦をつくって、
レスポンスよく動くようにしていくんですね。
その方向で突き進んでいくと、
操作性がどんどんお手軽になっていって、
「どうしてスライドパッドで動かせないの?」
というような意見まで出てくるようになります。
そして最終的に『マリオカート』のようになったら・・・。

岩田

個性がなくなってしまいますね。

宮本

そうなんです。
すると、平凡な横スクロールゲームになってしまって、
それなら、ほかのゲームを遊んでいればいい、
ということになりかねないんです。
僕は今回、そこは譲れない部分でした。
なので、小型の潜水艦をつくるときは、
やりすぎにならないよう、
注意しながら見ていたんです。

岩田

小型だからといって、
スイスイ動かしたらダメなんですね。

宮本

それだと潜水艦じゃなくなっちゃいますから。

今村

なので、今回は潜水艦の動きを制御するパラメーターを
最後の最後まで、ずっと触っていたんです。
でも、ずっと向き合ってやっていると、
「ここのパラメーターは、ここまで上げたほうが、
スピードが出るし、気持ちいいのになあ・・・」とか、
「十字ボタンで操作できたらなあ・・・」とか、
そんな誘惑に負けてしまいそうになるんです。
でも、そんなときでも、杉山さんが要所要所で
「ここはこれでいけ!」みたいな感じで・・・。

岩田

今村さんをちゃんと引き留めてくれてたんですね。

今村

ええ。ところがやっぱり負けてしまって・・・。
「レバー操作はもっと軽いほうがいい」と思って、
実は杉山さんには内緒だったんですけど・・・。

岩田

こっそり軽めにしたんですか(笑)。

今村

そうなんです。
ところがそれを杉山さんに見せたら、
「これ、変えたやろ」って、すぐにバレてしまって(笑)。

岩田

あははは(笑)。

杉山

軽いとやっぱり気持ちが悪いんです(笑)。
ああいうものは・・・。

岩田

潜水艦のように大きくて、重いものを
操作している感じがしないんですね。

杉山

はい。どこか抜けた感じになるんです。

ジャイルズ

ゆっくり動かないと、
潜水艦の重さが感じられないですし。

杉山

ただ、マリオクラブ(※11)からも
「遅くて反応が悪いです」と
指摘されたこともあったんです。

今村

あ、ありましたね。

※10
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

杉山

そこで、一度言うとおり軽めになおしたんですけど、
やっぱり触ってみると、船体の動く速さと合わなくなりました。
結局、元に戻したんですけど、
どうしてもみんなは「軽く」とか「速く」とか・・・。

宮本

モニターをしてくれる人たちは
「より便利に、より速く」としか
言わないですからね。

岩田

「より便利に、より速く」することで、
実はリアリティが喪失してしまうこともあるんですよね。

宮本

そうなんです。
なので僕の理論は、そんなことを言われたとき、
「いいよ、便利に速くしても。
その代わり、難しくするからね」って(笑)。
「便利に、速く」すると、
それに合わせて敵の動きも速くしないと
バランスがとれなくなるんですよね。
「がまんして、がまんして。
楽しさがだんだんわかってくるから」と。

ジャイルズ

タッチスクリーンに
たくさんの計器が並んでいますけど、
それを使いこなせるようになると、
本当に潜水艦を操作しているような気がするんです。

宮本

道具化しているんです。
けっこうプレイヤーである艦長は忙しいんですけど(笑)。
いろんなことをして、いろんな指示をして、
全部自分のせいなんです。
それにレバーもスススッと動くんじゃなくて、
ギギッギギッと動く感じがあって。
そこは今村さんたちが演出でこだわったところだよね?

今村

はい。そこも杉山さんから口酸っぱく言われましたので(笑)。

宮本

だから、遊び終わったあとで、
「もっと大型の潜水艦で遊ばせてくれ!」
という気持ちになるのが理想なんです。

岩田

操縦術を身につけると、
もっと重いもの、もっと難しいものを動かしたいと、
そんな気持ちになれるんですね。

宮本

そうです。

岩田

ちなみに、開発で遊びこんでいると、
大型の潜水艦でも、狭いところをひょいひょいと、
思うように通り抜けられるようになるんですか?

今村

実は最初に、この「潜水艦モード」をどうまとめるか、
ということでずいぶん考えたんですけど、
自分としては『F-ZERO』にしようと思ったんです。

岩田

『F-ZERO』ですか?

今村

はい(笑)。
何が『F-ZERO』かというと、
たとえばシケイン(半径の小さなカーブ)があって、
そこを通り抜けるときに、どうしても慣性が働くので、
早めに機体をガーッと傾けながら、
ドリフトするような感じを・・・。

岩田

はいはい。

今村

つまり、遅い『F-ZERO』みたいな(笑)。

岩田

スローモーションの『F-ZERO』なんですね(笑)。

今村

そうなんです、はい。
「潜水艦モード」はそういう仕上げにしようと思いました。