社長が訊く
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社長が訊く『スティールダイバー』

社長が訊く『スティールダイバー』

目次

4. スローモーションの『F-ZERO』

岩田

それにしても、『F-ZERO』とこの『スティールダイバー』を
頭のなかでくっつけて考えてる人は
ひとりもいないと思うので、
すごく面白い話だなあとは思うんですけど(笑)。

今村

でも僕は、そのつもりでつくったんです。

杉山

僕は初耳です。

ジャイルズ

僕も初めて聞きました。

今村

(とぼけた表情で)そうなの?

岩田

あははは(笑)。

宮本

でも、ふつうだったら、大型の敵が現れて、
それを倒すために、魚雷のパワーをもっと強くして、と
そういう方向にいきがちなんですけど、
今回のソフトはそういうものじゃないんですね。
言ってみれば“究極のタイムレース”なんです。
動きがスローモーションなので、ワザも多彩になりますし。

岩田

コースを攻略するのに、ワザが使えるんですね。

宮本

たとえばひとつのコーナーを曲がるときに、
潜水艦を傾けるべきなのか、
推進力で浮かせるべきなのか、
それとも空気を入れるべきなのか、
ワザの組み合わせが無限にあるんです。

今村

それに、いかにふくらまずに
コースを曲がれるかといったことも、
まあ、地味に思われるかもしれないですけど、
けっこうゲームのキモになっているんです。

宮本

だから、自分でいい結果が出せたつもりになっても、
それがベストスコアなのかどうか、わからないんです。

今村

ですから同じコースに何度もトライして、
ひとつのコースを遊びぬいてほしいですね。

宮本

そういう、タイムレースという意味では、
まさに『F-ZERO』なんでしょうね。

今村

はい。それにレースゲームと同じように、
すべてのステージで
ゴーストのセーブができるようにしました。
ただ、潜水艦はゆっくり動くうえに、
ゴールにたどり着くまで時間がかかるので、
セーブデータをとるのに、すごく苦労したんです。
まあ、そこも地味かもしれないですけど(笑)。

岩田

ああ、確かに地味なポイントですが、
結局、ゴーストというのは、プレイ時間分の履歴データなので、
ゆっくり動く長尺のゴーストを残すということが、
いかに大変だったかというのは、
プログラマーとしてよくわかりますよ。

今村

やっぱり、完全にプレイヤーの挙動を残そうとすると、
セーブデータの容量が足りなくなってしまうんです。
そこで、ジャイルズさんと話し合いながら、
何度も調整を行いました。
結果、とても自然なかたちで
ゴーストで遊べるようになったと思います。
スタッフゴーストをオンにすると、
ベストラインがわかって、そのあとをついていくと
うまくいく、みたいなこともできるようになっています。

岩田

ゴーストの動きを参考にすることで、
そのコースの攻め方がわかるんですね。

今村

そうです。

岩田

でも、かんたんにはついていけないんでしょう?

今村

そうですね。
今回はスタッフゴーストがひとつのコースに
金、銀、銅の3種類入っているんですけど、
金に対しては、かなり頑張って
トライしないと勝てないと思います。

ジャイルズ

金はかなり難しいですね。

今村

最初に出てくるのは銅クラスなので、
ついていくのは、わりとかんたんだと思います。

岩田

だから、1回クリアして終わりという
そんなゲームじゃ、ぜんぜんないんですね。
“自分との闘い”という感じがします。
わたし自身、いまの話を訊いて
自分が想像していたよりずっと長く
遊びこめることがわかって、ワクワクしました(笑)。

今村

やっぱり、ひとつのコースを
何度も遊んでいただきたいんです。
そこで「デカール」という
パワーアップパーツを付けられるようにしました。

岩田

「デカール」というのは
プラモデルに貼るシールのことですよね。

今村

はい。今回は潜水艦に貼るシールを
実際に貼るシールと同じ「デカール」と呼ぶようにして、
30種類ぐらい用意しました。
この「デカール」はボーナスゲームで
集められるようになっているのですが、
たとえば、あるデカールを貼ったら、
もっと速いタイムが出せるとか、
別のデカールを貼ると、機雷のダメージが減ったりとか、
それぞれのデカールに対応した
特別な能力を発揮できるようになるんです。

岩田

つまり、コースに応じて、
デカールを貼り替えると、より速いタイムを出せたり、
気持ちよくコースを通り抜けることができるんですね。

今村

そうです。なかには
戦艦を楽に倒せるようになったりするデカールもあるので、
それぞれ発見していただいて、
遊びこんでいただけるとうれしいですね。

宮本

あと、この「潜水艦モード」では
物体同士が衝突する判定・・・
いわゆるコリジョンもけっこう難儀したんだよね?

今村

そう、そうなんです!
よくぞコリジョンの話をふってくださいました。

宮本

(笑)

今村

なんせ動きが遅いので、
潜水艦が壁などに接触したときとか、
まったくごまかしがきかないんです。
なので、岩にちょっと食い込んだだけでも、
すぐ指摘されるんです。

岩田

ああ、なるほど。
動きが速いと、見逃されちゃうようなことでも、
潜水艦の動きは遅いので、すぐにバレてしまうんですね。

宮本

そうなんです。
しかも、動きは遅いうえに、
複雑な形状をしているでしょう、潜水艦は・・・。

ジャイルズ

潜水艦には潜望鏡とか
いろんなものがはみ出てますから。

岩田

ああ、それは確かに大変そうですね。

宮本

だから、潜水艦をやめて、
コンテナにしようかって思ったくらいなんですよ(笑)。

岩田

コンテナですか(笑)。

宮本

コンテナのように四角い物体が
潜って走るのなら、ぜんぜんいいんですけど、
潜水艦はへんに潜望鏡が飛び出していたりするから、
コリジョンがすごく難しくなるんです。

今村

そうなんですよね。

宮本

そもそもマリオが、ぽっちゃりした体型なのは、
あの当時のゲーム機のコリジョンが、
四角いボックスでしかとれなかったからなんです。
なので、もともと「かわいくしよう」と思ったわけではないんですね。
解像度が低いので、顔を大きくしたりだとか、
当時のゲーム機の性能に合わせた結果、
あのようなデザインになったんです。
でも、最近のゲーム機では
丸とか変形のコリジョンをとれるようになりましたけど、
それでも潜水艦のような複雑な形状だと、
やっぱり難しかったりするんです。

ジャイルズ

そこで、点とか
シガー(葉巻き)みたいな形を組み合わせたりして。

岩田

いくつかの形を組み合わせて、潜水艦の形と違和感のない
コリジョンをとれるようにした、ということなんですね。

ジャイルズ

はい。そうしないと岩にハマってしまうとか、
そういうよくないことも起こりますので・・・。

岩田

それにしても、潜水艦のように複雑な形のものを
ゆっくり動かすのはいろいろと難しい、というのは、
今日話を訊くまで、ぜんぜん気づきませんでした。

宮本

だから、ジャイルズさんに頼んだんです(笑)。
そういうことを解決してもらうために。

今村

彼には今回もすごく助けられました。

ジャイルズ

いえいえ(笑)。
僕は本当に情開に入ったときと同じ感覚で・・・。

岩田

いっしょにやっている、って感じがあったんですね。

ジャイルズ

はい(笑)。