社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第23回:『レイトン教授VS逆転裁判』

目次

3. 「巧さんの好きにやってもらいたい」

岩田

先ほど日野さんが
「『逆転裁判』を研究しました」という
お話をされていましたが、
「ここがよくできている」と
思っている点は具体的にどのあたりですか?

日野

まずやっぱり、キャラクターや
シナリオの魅力に尽きますね。
“逆転”という文字どおりの、
予想を裏切る展開が本当に見事です。

岩田

ファンの方はみなさん
そこを必ず最初にあげられますよね。

日野

つねに予想した展開の一歩先をいく感じで、
毎回それぞれのシナリオが
細かいところまで練り込まれているんです。
それからもうひとつ見事なのが“演出”ですね。
登場人物のアクションだったり、
画と音がシンクロしたテンポ感が、
小気味よく絶妙に構成されているんです。
この2点に関しては、
本当に携帯ゲーム機のお手本として
『レイトン教授』はとても影響を受けています。

岩田

でも、おそらくは両方のシリーズを遊んだ方でも
『レイトン教授』が『逆転裁判』から
インスパイアを受けてできたものだとは、
まず気づいていないでしょうね。

日野

そうですね、得られる感覚は近いものでも、
そこにいたるインターフェイスであったり、
アプローチのしかたはけっこうちがいますから。

岩田

もっと奥深いところに
通じる感覚が込められているんですよね。
巧さんは『レイトン教授』を見て、
どう思われていました?

僕は最初に『レイトン教授』を知ったとき、
子供の頃に多湖輝先生の“頭の体操”(※13)シリーズを
すべて制覇するくらいの洗礼を受けた世代なので、
「これはすごいところを持ってきたな!」
と思いました。

※13
多湖輝先生の“頭の体操”=光文社から発売されている、パズルを集めた書籍のシリーズ。『レイトン教授』のナゾは、著者の多湖輝さんの監修によるもの。

岩田

それで言うと、じつは任天堂の中でも、
2005年に『脳トレ』を発売する前から、
「“頭の体操”がテーマにならないか」っていう
検討をしていたんです。それがきっかけで、
『やわらかあたま塾』(※14)が生まれているので、
日野さんたちとわたしたちとは、
ある種の同時性を持って動いていたんですよ。

※14
『やわらかあたま塾』=ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年6月に発売された脳活性化ソフト。

ああ、そうだったんですね。

日野

先ほども話題になりましたけど、
『レイトン教授』はDSの『脳トレ』を遊ばれている
ライトユーザーの方に向けてつくったゲームだったんです。
その方たちに対して、
「『脳トレ』の次にナゾトキはどうですか?」という
アプローチを行ったわけです。

岩田

実際、『脳トレ』の次の1本として
買っていただいたお客さんが非常に多くて、
それがトータルとしてシリーズが大きく育った
ひとつの背景ですよね。

日野

そういう視点から言うと、
『レイトン教授』と『逆転裁判』は、
外見のゲームデザインとしては正反対なんですよ。
ゲームをふだんしない方に向けてつくられた『レイトン教授』、
ゲームファンの方に向けてつくられた『逆転裁判』。
でも、外側に向けたインターフェイスの部分は
かなりちがうけれど、じつは、
内包された核の部分が同じゲームなんです。

岩田

たしかに、そうです。

じゃあ今回は、全方位ですね。

日野

そうです。全方位向けです。

岩田

DSの初期、『脳トレ』
『もっと脳トレ』(※15)がヒットした直後は
DSの市場の大きさに対して、
お客さんの傾向が少し、かたよっていた部分はありましたが、
いまニンテンドー3DS自体は、おかげさまで
全方位に向けたハードに育っていると感じていますので、
今回は本当にいい状態で、
十二分な反響が期待できると思います。

※15
『もっと脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年12月発売。

日野

そう思います。

岩田

ただ、核は同じとはいえ、
シナリオを担当された巧さんからすると、
もともと融合しないはずのものを
今回ひとつに構成するという仕事は、
きっと大変でしたよね?

えーと、はい(笑)。

岩田

今回のコラボレーションでシナリオは
どのようにつくられていったんですか?

最初の半年くらいは、
僕がレベルファイブさんの東京オフィスに
お伺いして、日野さんを入れて顔を突き合わせて、
みんなでアイデアを出し合ってやっていました。
そこで“魔女裁判”の話を詰めたり、
レベルファイブさん側から
「書いたことが本当になる物語を書く、
 究極の犯罪者」といった案が出てきたり、
お互いから出し合ったアイデアを
融合してつくっていくやりかたですね。

岩田

アイデアを出し合うときって、
「こうきたか、じゃあこれはどうだ?」って
ある意味競いあいたくなるような
ところはありませんでした?

うーん・・・僕個人としては、
競争意識はなかったと思います。
ただ、いつもならシナリオは自分の中だけで
集中して深いところに入って、
自分でぜんぶコントロールするんですけど、
今回そこにほかの方の要素が
入ってくるのが、いちばんちがうところでしたね。
自分の引き出しにはない場面を
書いてもらったり、アイデアをもらったりで、
そこはおもしろい経験になりました。

岩田

そしてそこに、日野さんの
推進エネルギーがグイグイくる感じで、
一気に全体が進んでいったわけですか。

日野

そこは、もちろん一緒に開発は進めるんですが、
僕からの視点で言えば、
巧さんが名実ともにメインスタッフとして
最も力を発揮できるように、
すべての作業を調整していったんです。

岩田

「巧さんがつくった」と言うのと
「巧さん監修」と言うのとでは、
やっぱりぜんぜん意味がちがってきますからね。

日野

ぜんぜんちがいますね。
開発の初期段階で、巧さんディレクションによる
『レイトンVS逆転裁判』の裁判デモを
見せていただいたときがあったんです。
それが、いろいろ新しく変わってはいるけれど
すごくワクワクする仕上がりになっていて、
本当にひさしぶりに『逆転裁判』を
遊んだ感覚を思い出したんです。

岩田

まぎれもない、『逆転裁判』の空気を
そのデモで感じ取ることができたんですね。

日野

まさに“巧節(たくみぶし)”を感じましたね。
「おおっ、効いてる~!」みたいな(笑)。

岩田

“巧節”ですか!(笑)
そういう意味では今回、巧さんのスイッチが
本格的に入ったのはいつ頃だったんですか?
さっきの話だと、わりと初期に
入っているようにも聞こえるんですけど。

こう言うと怒られてしまいそうですけれど、
本当の意味で最終的に
「このゲームに全力をそそぐぜ!」となったのは、
今年に入ってからかもしれません。
お互いの会社でそれぞれのパートを
集中してつくりはじめたあたりからですね。

岩田

けっこう後半になってからなんですね。

はい。いま振り返ると
その覚悟を決めるまでに、
時間的な猶予を自分に許してしまったので、
そこが大きな反省としてあります。

岩田

そうなんですか。

やっぱり文化のちがう会社が一緒にやるわけで、
最初はお互いゆずったりゆずられたりしつつ、
様子を見ながらはじまるんですね。
でもだんだんと本音と本音を
ぶつけあうようになって、
本当の意味でせめぎ合いになるまでに
ちょっと時間がかかった感があります。

日野

僕は本当に最初から最後まで
「巧さんの好きにやってもらいたい」という
スタンスだったんです。
うちのスタッフと意見が合わない場面も
けっこうあったんですけど、
「じゃあ巧さんのやりたいように
 やってもらえばいいじゃない」って
何回か指示を出しましたから。

岩田

「巧さんのクリエイティブを活かすため、
 好きにやってもらいたい」というのが、
今回の日野さんのプロデューサーとしての
最大の使命だったわけですね。

日野

本当にそうですね。
今回は巧さんをいい意味で刺激して、
エンジン全開でいってもらうことに専念しました。
そういう意味では今回巧さんが、
だんだんパワーアップしていったというか、
巧さんの影響力が尻上がりに上がっていって、
プロジェクトも後半から加速度的に
うまくまわっていった気がします。