社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドーeショップ』

社長が訊く『ニンテンドーeショップ』

目次

4. クラシックゲームの名作を3Dに

岩田

では中野さん。
3Dクラシックス(※5)は、今日の話題の中では、
開発がいちばん早くはじまったんですよね?

※5
3Dクラシックス=往年のクラシックゲームの名作を3D表示にしてよみがえらせたニンテンドー3DSダウンロードソフト。

中野

はい。2009年の年末には着手していますので、けっこう長いですね。

岩田

中野さんはどういう経緯で担当になったんでしょうか?

中野

わたしの上司から、クラシックタイトルを
ニンテンドー3DS上で立体視を中心に再現したい、
という話がありました。
そこで、いろいろな分野の制作経験もあり、
表現方法の提案やそのアイデアの実装に
非常に心強い会社ということで、
アリカさん(※6)と共同で進めることになりました。

※6
アリカ=株式会社アリカ。東京都品川区に本社を置くゲーム制作会社。

岩田

3Dクラシックスにするタイトルが
複数候補として挙がった中で、最初につくったソフトはなんですか?

中野

アリカさんと3Dクラシックスのタイトルを開発していく際、
最初に言われたのが、じつはバンダイナムコゲームスさんの
『ゼビウス』(※7)でした。

※7
『ゼビウス』=1982年に、アーケードゲームとしてナムコ(現 バンダイナムコゲームス)から発表されたシューティングゲーム。

岩田

なぜバンダイナムコさんの『ゼビウス』を最初につくったのかというと、
とにかくわたしたちが立体視で『ゼビウス』を見たかったからなんです。
あの、宙に浮くソルバルウ(※8)を(笑)。

※8
ソルバルウ=『ゼビウス』に登場する自機。防衛軍最新鋭戦闘爆撃機。

中野

はい、そのとおりです。
今回ベースにしているのはアーケード版なんですが、
当時は平面上の画面で、ソルバルウが地面から飛んでいるシーンを
プレイヤーが脳内で想像しながらプレイしていたと思うんです。
それを3DS上で立体視を利用して実際に再現したら、
あの浮遊感を出せるんじゃないかと思って、最初に着手しました。

岩田

でも、つくりはじめると、
たくさんの矛盾と戦うことになったんですよね。

中野

ええ、そうなんです・・・。
オリジナル版では平面上でゲームが成り立っているので、
ソルバルウを本当に宙に浮かせた時点で、
いろいろな矛盾点が出てくるんです。
たとえば、地上の敵がソルバルウに対して弾を撃つんですが、
オリジナルでは同一平面上に
すべてのキャラクターが存在する構造なので、
撃った瞬間の弾はソルバルウと同じ高度に出現し
すぐソルバルウに当たってもとくに違和感がないんです。
でも3DSで本当にソルバルウが宙に浮いてしまうと、
地上から発射した弾が空中のソルバルウと
同じ高度にイキナリ「ビュッ!!」とあらわれるという・・・。
「あれ? なにかおかしいぞ」と(笑)。
“違和感ありまくり”なんです。

岩田

脳内で3次元をイメージしながらプレイしていた
2次元ゲームを3次元にしたら、
矛盾だらけになってしまった、ということですよね。

中野

はい、同じような理由で
今度はソルバルウから地上の敵に爆弾を落とすんですが、
撃った瞬間、地上に着弾してしまっているという・・・(笑)。
見た目の違和感もたくさん出てきてしまいました。

岩田

ところが、それを自然に見せようとすると
今度はゲーム性が破壊されてしまうんですよね?

中野

そうなんですよ!
実際のゲームは、2次元でつくられているので
弾を発射した時点でソルバルウに当たる、という関係性が成立します。
でも3DSでは、弾が出た瞬間はソルバルウに当たらないよう、
弾の移動時間をつくらないといけないんです。
そういったこまかな矛盾が本当に多かったんです。
どうしたらオリジナルのファンにも納得してもらいつつ
3DSで『ゼビウス』に驚きを与えられるか、
というところが大きな課題でした。

岩田

なので、パッと見は、ただの移植なんですが
じつは・・・相当手間がかかっているんですよね(笑)。
もとのゲームを移植するだけの手間にくらべて
20倍ぐらいかかっている感じですかね。

中野

はい、そうですね。
そこがちょっとくやしい部分でもあります(笑)。
こまかな部分を観察すれば気づいていただけると思いますが、
じつは絵もプログラムも、いちからすべて
アリカさんにつくっていただいています。

岩田

それと、立体の世界を
いちからちゃんとつくっていくだけではなくて、
3Dボリュームを下にスライドさせると、
2Dの昔のイメージになめらかに変化していく・・・
というところもまた、ものすごく苦労したんですよね。

中野

はい。その努力も、もう・・・惜しまずに(笑)。
最初は、やはり新しいハードということもあって
映像的にリッチな表現をゲームに取り入れてみたんですが
あまりそこに大きな驚きがなかったんです。

岩田

はい。わたしも宮本さんも
「もとに戻してくれ~!」とお願いしました(笑)。

中野

やっぱりみなさん、昔の『ゼビウス』の記憶が強くて、
「あの『ゼビウス』のソルバルウが地上から飛び立つ!」
というところに対する驚きがいちばん大きいんですよね。

岩田

ちなみに、実験したらじつはうまくいかなかったタイトルや、
逆に3Dの効果とマッチしたタイトルがあれば教えてもらえますか?

中野

そうですねえ・・・。
ひとつ、うまくいかなかったものの代表としては
ファミコンの『テニス』(※9)です。
これはもともと背景のテニスコートが
パースのかかった見せ方だったので
そのまま3Dに再現すればいけるんじゃないかと思ったんです。
でも、もともとが平面上で自然に立体に見せようと
つくられた画面だったので、実際に立体で表現しても
とくに驚きが何もなかったんですよ・・・。
「あれ? 普通すぎる!」という(笑)。

※9
ファミコンの『テニス』=1984年、ファミコン用ソフトとして発売されたスポーツゲーム。

岩田

“驚きがないという驚きがあった”ということですね(笑)。

中野

はい(笑)。
あとはプログラム的な問題で、
平面上で表現されるボールやラケットのアタリ判定を、
3Dフィールドでつくろうとすると、本当にいちから
テニスゲームをつくるのと同じくらいの労力がかかるんです。
立体になることで驚きがあればつくる価値があったんですが、
そもそもそれがないから、そこまでする価値がない、
という話になり、この話はなくなりました。

岩田

あまりにも普通すぎて、ボツになったわけですね。

中野

はい。うまくいった例としては『ゼビウス』もそうなんですが、
『エキサイトバイク』(※10)があります。

※10
『エキサイトバイク』=1984年、ファミコン用ソフトとして発売されたレースゲーム。

岩田

『エキサイトバイク』は、
今回eショップオープン記念として、
期間限定で無料配信することになったソフトですね。

中野

はい。この『エキサイトバイク』は、
単純に、キャラクターや背景画像が層状に重なって奥行きとして見える
というかたちではなく、3Dボリュームを上げていくと
パースがついたすごく立体的な世界が「ブワッ!!」と広がるんです。

岩田

ああ、あれはちょっと不思議なんですよね。
もともと『エキサイトバイク』の絵は
ななめから見た“正射影法”で描かれた絵なので、
遠くの風景や人物は小さくならないんです。
それが立体になると世界がものすごく広がりますので、
無料配信の機会を活かして、すでに3DSをお持ちの方は、
絶対に体験してほしいですね。

中野

ええ、そうですね、絶対に。
キャンペーン期間中に、
ぜひダウンロードしていただきたいと思います。

岩田

3Dクラシックスは、全部でいくつくらいつくったんですか?

中野

現在、制作しているのは6タイトルです。
そのうち、6月7日の配信日には、
『ゼビウス』と『エキサイトバイク』を予定していますので
その他のタイトルも含めて、
楽しみにお待ちいただきたいと思います。

岩田

ちなみに、それらのタイトルを選ぶポイントは何でしたか?
立体視の見た目の効果がいいことと、
つくる手間のバランスは重要ですよね。

中野

そうですね。あとはオリジナルゲームについて
ある程度は認知度がないと、それが立体視になって
変わっていくイメージとつながらないので、
どちらかが欠けてもダメだと思いました。
マイナーだけど立体視で効果的なものとか、
すごくメジャーだけどうまく落としこめないものもありましたので、
このふたつが合致したものを選定していきました。