1. スクランブル態勢

岩田

さて、今回は『バンブラDX』発売後の反響を
ぜひとも読者のみなさんにご紹介したいと思い、
発売後に再び「社長が訊く」を収録するという
初めての試みとして、2人に来てもらいました。
それではまず、西田さん、お願いします。

西田

はい。企画開発本部 環境制作部の西田です。
今回わたしはゲームづくりの現場からはちょっと距離を置いていました。
『バンブラDX』では、好きな曲を100曲までダウンロードできますが、
任天堂が用意した楽曲だけでなく、
お客さんが自分で制作して投稿してくれた楽譜の中から
審査に合格した楽曲も選べることが特徴の一つになっています。
その楽譜の投稿や楽曲をダウンロードするシステムを
JASRAC(※1)さんやニッポン放送さんと協力しながら、
円滑に運営するための仕事を担当しました。

岩田

西田さんは初代『バンブラ』(※2)のときは
現場でゲーム開発をするディレクターでしたが、
今回はプロデューサーとして、JASRACさんやニッポン放送さんと
調整するのが主な仕事だったんですね。

西田

そうです。今回はゲームづくりに関しては、
北村さんたちにお任せしていました。

※1

JASRAC=「ジャスラック」と発音。社団法人日本音楽著作権協会のこと。楽曲の著作権を持つ作詞者、作曲者、音楽出版者などから著作権の信託を受け て、音楽の利用者に対する利用許諾(ライセンス)、利用料の徴収と権利者への分配を行う団体。音楽文化の振興に資する事業等も行う。

※2

初代『バンブラ』=『大合奏!バンドブラザーズ』。ニンテンドーDSと同時に発売された音楽ソフト。2004年12月発売。

岩田

発売直後にどんなことがあったか、お話してもらえますか?

西田

楽譜の投稿は『バンブラDX』の発売と同時にスタートしました。
発売日の木曜と翌日の金曜日は、予想どおりの投稿数だったんです。
とても順調な滑り出しで、わたしとしても
おだやかな週末を迎えることができそうだと思っていたんです。
そうしたら・・・

岩田

週末にとんでもないことになったんですよね。

西田

ものすごい数の投稿が土日に寄せられまして。
それこそ津波のように押し寄せてきて、
しかもどんどん膨れあがっていったんです。
それで月曜日の朝になってすぐに、
岩田さんから連絡をいただいて。
「スクランブル態勢です」って・・・。

岩田

わたしも、週末に自宅で様子を見ていたのですが、
もし、スタート時と同じ態勢で審査を続けると、
投稿から結果が出るまでに1ヵ月や2ヵ月待ちの状況に
陥りそうでしたからね。
お客さんが熱い気持ちで投稿してくださっているのに、
そんなに長くお待たせするようなことは
到底できないと思いました。

西田

ただ、楽譜をつくるには、とても手がかかりますし、
誰もがそうカンタンにできることではないんです。
ですから、審査は多くても1日あたり100曲程度だろうと想定して、
その数に対処できる態勢をつくっていたんです。

北村

西田

しかも週明けの月曜になっても、
どんどん送られてきて、これはもうダメだと。

岩田

急きょスクランブル態勢をとることにして、
審査体制が軌道に乗るまで、
社内のサウンドスタッフを大量に動員して、
対応することにしたんですよね。

西田

おかげですごく助かりました・・・。

岩田

でも、間違いなく他のゲームの音楽制作に
影響が及んだでしょうね(笑)。

西田

それは本当に申し訳なかったです・・・。

岩田

ちなみに、どんな審査方法になっているのか
カンタンに説明してもらえますか?

西田

3つのステップを踏むようになっています。
第一段階は、コンピュータでの自動処理です。

北村

JASRACさんに登録されていない曲や
作品コードが間違っているものについては、
自動的にはじかれるようになってるんです。

西田

第二段階では、ニッポン放送さんにご協力いただき、
楽曲のチェックをお願いしています。
世の中にはたくさんの楽曲がありますから、
投稿されてくる曲のすべてをわかる人っていないんですよね。
そこで、いろんなジャンルの音楽をご存知な専門家の方に、
原曲を正しく再現できているかどうか
実際に耳で聴いてチェックしていただいています。

北村

ニッポン放送さんには
とても大きなCDライブラリーがあるんです。

西田

そのライブラリーから原曲を探してきて、
投稿された曲と一緒に聴きながら、
「これは合格」「こっちは不合格」というように
決めていくようになっています。
そして第三段階は、
任天堂社内で最終チェックを行います。

北村

歌詞の誤字などをチェックしたあと、サーバにアップして、
そこではじめてダウンロードできるようになります。

岩田

第二段階と第三段階は、人力(マンパワー)に頼るしかないので
時間がかかってしまうわけですね。

西田

そうなんです。
しかもバンブラで楽曲を作るためにはアレンジが必要で、
原曲の雰囲気に合っているかどうか、
ニッポン放送さんとその都度、やりとりしながら
確認作業をしていきますので、その分、
どうしても審査に時間がかかってしまうんです。

北村

しかも、ライブラリーにない曲が投稿されることもあって、
そんなときは新たにCDを買い足すようにしているのですが、
廃盤になっている楽曲も少なくないんですよ。

西田

ちなみに、第三段階の最終チェックの仕事は
北村さんたちにお願いしています。

北村

わたしたちは投稿者さんたちの「しもべ」(※3)なんです(笑)。

一同

(笑)

※3

「しもべ」=前作『大合奏!バンドブラザーズ』ホームページにて連載していたマンガ内でゲームのキャラクター「バーバラ・バット」がスタッフを呼ぶときに使う呼称。

岩田

しばらくの間、『バンブラDX』チームの周辺は
すごくハイテンションになっていましたよね。
あまりにテンションが高いものだから、
まわりのスタッフからはお祭り騒ぎをやってるように見えたようで、
「僕はあのお祭りに参加できなくて寂しい」って
いう話も聞きましたよ(笑)。

北村

うれしい悲鳴とはこのことだと思いました。
どんどんどんどん投稿が送られてきて、
それを審査するのはとても大変なんですけど、
どの楽譜もクオリティがすごく高いんです。
しかも曲に対する愛がとても感じられる曲が多くて。
そういった投稿者さんたちの情熱に応えたかったので
スクランブル態勢の指令はうれしかったですね。

岩田

最大で、どのくらいの投稿が審査待ちになったのですか?

西田

2500曲くらいです。
でも、ニッポン放送さんのスタッフを増やしていただいたり、
みんなのがんばりもあって、なんとか落ち着いてきました。

岩田

ところで、ダウンロードできる楽曲を見ていると、
たまに同じ曲がまとまってアップロードされることがありますね。

西田

そこは効率を優先させました。
ただでさえ審査待ちの曲が多いですから、
同じ時期に投稿された同じ曲をまとめて審査するようにしています。

北村

それにお客さんからも、
「同じ曲をまとめて出してほしい」という声があるんです。
聴きくらべをして、自分がいちばん気に入った曲を
ダウンロードしたいということなんだと思います。

岩田

なるほど。
ところで新曲への対応はどうなんですか?
『バンブラDX』の発売後にも、どんどん新曲が発売されてますが。

西田

たとえば「崖の上のポニョ」は、
映画が公開される前に投稿が送られてきたんです。

北村

そこで、映画の公開日のタイミングにあわせて
ダウンロードできるようにしました。

岩田

しもべたちががんばったんだ(笑)。

北村

実は「ポニョ」が投稿されたときも、
たくさんの曲が審査待ちだったんですけど・・・。

西田

そこは急ぎに急いで、審査をどんどん早めました。

岩田

ということは、審査待ちの曲を脇に置いて、
「ポニョ」を優先させたわけではないんですね。

北村

審査の順番はかたくなに守っています。
それがしもべの基本方針なんです(キッパリ)。

岩田

バーバラは基本方針についても
とても厳格なんですね、北村さん。

北村

はい(笑)。