2. 「やられた!」と言わせたい

岩田

阿部さんとしては
アレの話に触れたくないんですね。

阿部

できればここで明かしたくないんです。
アレは手品のようなものだと思っていますので。

岩田

なるほど、手品ね。

阿部

ネタをバラしたくないという気持ちが強いんです。
何も知らないで遊んでもらって、
遊んでみたら「やられた!」という気持ちを
味わってほしいんですよね。

岩田

でも、手品もそうだと思うんですけど、
実際に聞くと見るのでは大違いだとは思うんですけどね。

阿部

確かに見たときのインパクトは
すごく大きいとは思うのですが・・・。

岩田

じゃあアレの話に触れないで、
どんな話ができるのか、
話し合うことにしましょうか。

一同

(笑)

やっぱりDSiに手を触れずに遊べる点は
おもしろいかなあと。

岩田

それでキャッチフレーズが
『さわらない!? メイドインワリオ』なんですね。

阿部

今度の『うつすメイドインワリオ』では、
自分の顔や手をカメラに写すと、
画面のなかではシルエットになるので、
そんな遊び方はとてもいいなと思ったんです。
というのも、これまでも
自分を写して遊ぶゲームがありましたけど、
ちょっと恥ずかしかったりするんですよね。
それで今回は、
4つのモードで遊べるんですけど、
遊んだときの反応は
「ああ、なるほどなるほど」という感じなんです。

岩田

わたしもそうでした。

阿部

ですよね。
「ああ、おもしろいおもしろい」ではなくて、
「ああ、なるほどね」という感じの反応で・・・。
でも逆に、そういう反応を見てるとうれしいんですね。
シルエットにしたからこそ、
最後のアレがすごく活きてきますし。

岩田

最後にアレを見たときのカタルシスがでかいんですね。
というか、どうしてもアレの話になりますね(笑)。

阿部

ですね・・・。

岩田

もうアレの話から
逃げないほうがいいんじゃないのかなあ。

阿部

でしょうか・・・。

岩田

アレの話を語らずに、
『うつす』のドラマはないでしょう。
だってアレ、試作品をつくって、
片っ端からいろんな人にやってもらって、
みんなで盛り上がったに決まってますからね。

阿部

そうですね。

岩田

わたしの部屋にもイタズラしに来たくらいですし。

一同

(笑)

岩田

アレには、実におどろいたんですよ。
最初は、シルエットを動かしていろんなお題を
クリアしていくだけだと思い込んでいたら
実は、自分の顔がしっかり撮影されていて
お題をクリアした後で、プレイ中の無防備な
自分の顔をみせつけられるんですから(笑)。
そもそも、どうやってこの企画が生まれたんですか?

阿部さんが先ほどお話しされましたけど
企画が煮詰まった時期がありまして、
もう崖っぷちに立たされた状態だったんです。
それで、最後の企画書を提出することになって、
その直前に、たまたまプログラマーと帰っていたら、
「実は、プレイ中もずっとカメラは動いてるんだよね」
という話を聞いたんです。

岩田

つまり、画面にはシルエットとして写ってるけど、
映像としてちゃんと撮影されているということなんですね。

ええ。だったら、ステージクリア後に
その写真が見られるようにすると
うれしいんじゃないかなと。
ご褒美のように。
そこで企画を提出する前日に、
ダメもとでおまけのところだけを継ぎ足したんです。

阿部

おまけのところには、変な写真といっしょに
「プレイ中の顔は意外におもしろい。
なるべくかっこよくプレイしたいものだ」と
書かれていいたんです。
それを読んで、なんかすごくおもしろそうだなと。

あの変な写真、社員旅行で沖縄に行ったときに、
水中カメラで撮ったものなんですね。
水中で写真を撮ると、みんな変な顔になるんです。
自分の顔を撮られるのを
最初はみんな嫌がるんですけど、
気になって見に来るんです。
その心理っておもしろいなあと思っていまして、
それが『うつす』の企画と結びついたんです。

岩田

でも、そのときは企画書だけで、
実際に動くものはなかったんですよね。

はい。

岩田

紙に書かれただけのおまけに
阿部さんがパクッと食いついたと。

見事に食いつかれまして(笑)。
あのとき阿部さんが食いついてくれなかったら、
崖っぷちから奈落の底に落ちてると思います。

阿部

もちろん企画書だけでは判断できませんから
動くものをつくったんですけど、
実際にやってみると、本当におもしろかったんです。
そこですぐに岩田さんに見てもらうことにしたんですね。

岩田

見てもらうんじゃなくって
イタズラに来たんでしょ(笑)。
ちなみにそれができるようになったとき、
イズさんの社内ではどんなことが起こりましたか?

杉岡

もうどこに行っても爆笑でした。
ふだん笑わないような生真面目な人でも、
イヤだイヤだと言いながらも、
最後に自分の顔が写ってるのを見ると、
大笑いしてるんです。
わたしはこれまでゲームをつくってきて、
こんな経験をしたのは初めてでした。

岩田

いまから考えると、
阿部さんがわたしの部屋にやってきて、
このゲームをさせようとしたとき、
すごくニヤニヤしてましたよね(笑)。

阿部

すみません(笑)。

岩田

怪しいなあと思うんだけど、
わたしには、開発を次の段階に進めていいか
決済する役目もありますから、
触らないわけにはいかなくて。
でもあれが社長になってからいちばん
「やられた!」と思う出来事でしたね。

一同

(笑)

岩田

しかも阿部さんは、すごくうれしそうに
DSiを持って帰ったんです。
みんなが楽しみに待ってますって。
やっぱり見たんでしょう、

もちろんです(笑)。
必ず持って帰ってきてくださいと
お願いしてましたから。

杉岡

僕も見せていただきました。
もう・・・感無量でしたね。

岩田

作り手冥利につきるでしょうねぇ?

それはもう(笑)。みんなで回し見もしましたし!

岩田

これ、仕事なんでしょうかねぇ?(笑)

一同

(笑)