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株主・投資家向け情報

2013年6月27日(木) 第73期 定時株主総会
質疑応答
Q 9  何年か前から、「Wiiバイタリティーセンサー」という商品が発表されていたが、その後の話を聞いていないので、どうなったかを聞きたい。発表されてから発売までかなり長い時間待たされたり、結局開発が頓挫するような場合もあるが、今後そのようなことがまた起きるのではないかという不安がある。また、知人の任天堂社員から、社員食堂の質があまりよくないという話を聞いた。社員の福利厚生や社内でのコミュニケーションのことも考えると、皆が社員食堂で仲良く食事をできるようになるのがいいのではないかと思う。
A 9

岩田:

 『Wiiバイタリティーセンサー』という商品はWii向けに開発を進めていた周辺機器で、これを使って人間の自律神経の働きを知覚することによって面白い遊びが作れそうだということで、試作のソフトはかなりのところまで作りましたし、使い方をメディアの方に一部お見せしたこともございます。「人間の脈の波形を見ると、自律神経の働きとして、どれくらい交感神経が働いていて緊張しているかということや副交感神経がどれくらい働いていてリラックスできているかということを定量化できる」ということが学術的に言われておりまして、それを前提にいろいろな開発を進めてきました。しかし、ある程度でき上がってから社内でかなり大規模なモニターをしてみたところ、その理論どおりに反応が表れないという人がいることもわかりました。例えば、「100人の方に試していただいて、90人は期待どおりに動くが、10人には期待どおりにならない」というものを商品化できるのか、ということを考えました。「発表しただけで、その後、具体的なことに言及しないのはおかしい」というご批判については申し訳なく思いますけれども、一方で、いったん発表したので、問題があると分かっていながら市場に出すというのはもっとよくないことだと思います。

 (『Wiiバイタリティーセンサー』には)いろいろな面白さがあり、ゲームと組み合わせたらこんなことができるというような実験もさまざまにいたしましたが、私どもが期待したとおりの動作に仕上げられず、適用範囲が私たちが考えているよりも狭かったため、結果的にものにできておりません。もっと技術が進み、100人のうちの90人ではなくて1000人のうち999人が問題ないという状態になりましたら、初めて商品として世の中に出したいと思います。本当は1000人のうち1000人でなければいけないとさえ私は思いますが、(生体信号という個人差のある情報を活用する以上は、)「あらゆる人に」というのはさまざまな意味で無理があるかもしれません。
いずれにしても、現在は、「商品として受け入れていただくには不十分な仕上がりだ」という判断で発売がペンディング状態になっております。「こういうことがあると、ほかに発表しているものも発売中止にならないか心配だ」というようなお話もあるかもしれませんが、なかなか発表時期というのは難しい面がございまして、発売日が近づいてから発表しますと、「そんな急に言われても計画が立たないから買えない」というファンの方の声を聞くこともあります。一方で、ずっと前からあまりにも情報をたくさん出し過ぎますと、今度はその刺激にすっかり皆様が慣れてしまわれて、発売したときに「この商品、新発売って言っているけど、ずいぶん前から見たような気がするなあ」と、いわば既視感があまりにも体の中にあふれているため(遊んでいないゲームを)すでに遊んだことがあるような錯覚さえ人は覚えてしまいます。このように、「商品の発表タイミングがどうあるべきか」ということは非常に難しい問題だと思っています。われわれも、商品の種類やその対象となるお客様によって「こんな商品はこんな時期に発表するといいのではないか」、「せっかくの機会なので、Wii Uの少し遠い未来をご説明しよう」などと、いろいろな形でお話をさせていただいています。発表したことができるだけ守れるようにというのは、企業として当然の努力だと思いますが、いったん行った発表の約束を守るということだけに終始するあまり、仕上げの品質が犠牲になったり、不完全なものを世の中に送り出したりすると、私たちがこれまで築いてきた信頼が台無しになりますので、発表のタイミングは、できるだけ、発表した内容が将来変わらない段階になってからにしたいと考えています。一方で、万が一、われわれの考えている品質基準を満たさないと分かったときには、発売を延期したり、場合によっては発売をペンディングにしたりということがあり得るということについては、ご理解いただければと思います。

 また、社員食堂の件は、社員から声を集めたときに定期的に聞かれることがある話ではありますが、これは大変個人差があって、全員がそう言っているわけではありません。それでもそういう意見は一定数存在しますので、会社としての課題として検討しております。ありがとうございました。

Q 10  昨年度、今年度の売上高は6000億円の水準まで下がっているが、2000年頃は、売上高が同じような水準でも十分な利益を上げている。昨年度、今年度と営業赤字になっているが、コスト構造が同じならその頃と同水準の利益を上げられたはずである。コスト高になっていたのであれば、リストラを行ったほうがよかったのではないか。
A 10

岩田:

 今のご質問は、第72期と第73期が営業赤字となったことに関して、過去に任天堂が同水準の売上高だった頃にはそれでも十分な利益が上がっていたのに、なぜ最近は利益が出なくなったのかという内容だと理解しました。

通期外貨売上高推移

 これに関しては、最も分かりやすい一つの側面があります。これは外貨建ての売上高の推移です。一番上の色が付いている時期(2007年3月期)と一番下の2つの直近の営業赤字になってしまった2期(2012年3月期および2013年3月期)をご覧ください。左から2列目はドル建ての売上高で、(一番上の時期の)「2.8B」というのは28億ドルということです。(直近2期を表す)下の2つはそれぞれ29億ドルと26億ドルです。ここで一番上と下の為替レートを比べてみていただきたいのですが、この28億ドルや29億ドルという数字とこのレートを掛けて円建ての売上高が決まります。ですから、同じ規模のビジネスをたとえアメリカでしていても、円高ドル安になるとその分売上げは目減りすることがお分かりいただけるかと思います。任天堂の場合、基本的に開発をほとんど日本で行っているため、開発費用というのは大半が日本で発生いたします。部品の仕入れ等については極力ドル建てにする努力をしているため、ドル安の恩恵も一部分は受けられますが、全般として円高ドル安は業績に悪影響を与えます。右側のユーロ建ての売上高についても、2007年3月期は17億ユーロ、2012年3月期は20億ユーロ、2013年3月期には15億ユーロとなっております。一番右の欄がユーロの為替レートですが、1ユーロ=150円の時代であった2007年3月期と昨今とでは全く事業環境が違います。このように、まず一つの大きな側面として、為替の影響があるということはご理解ください。先ほど申しあげたように、ドルの部分に関しては仕入れをドル建てにすることによって幾分その影響を相殺できるのですが、ユーロについてはユーロ建ての支払いを受けてくださるパートナーの方が非常に限られますので、努力は進めておりますが、現実にはまだあまり多くありません。

 それから、もう一つ当時と違うのは、任天堂の社員数です。私どもが開発をする上で必要な開発人員の規模というのは、やはり以前より大きくなっています。これは、ゲーム機がそれだけ複雑で高度な製品になったため、仕上げに必要な総人的パワーというのが当時と全く変わってきているためです。ですから、そのために社員の数が増えていて、費用が前よりかかっています。このほかにも、例えばソフトが複雑になったことにより、現地向けに英語や他の言語に変換するローカライズという作業に必要なコストも増えてまいります。

 では「なぜリストラをしないのか」ということですが、私たちは、どうしても数年サイクルで山と谷のあるビジネスをしております。もちろん、谷のときにもしっかり利益を出せて株主の皆様にしっかり還元し、株価が高い状態が維持されるというのが理想で、そこを目指すべきであるということには全くそのとおりだと思っております。ただ、短期の業績を求めてリストラをいたしますと、会社で働く人たちのモラール(士気)は下がり、その人たちが不安に怯えながら作ったソフトが本当に世の中の人の心を動かせるのかということがございます。私は、今の事業構造のままで、これからの為替のトレンドや今後のプラットフォームの普及度合いから考えて、しっかりと利益を出せる状態に変えていくことができると思っております。もちろん、無駄な経費を削減し、効率的な方法を追求するのは当然です。また、世の中ではリストラとして「たくさんの人の首を切ることによって業績を回復させる」ということもよく言われますけれども、任天堂では、それぞれの分野の社員が、それぞれの仕事の中身で貢献をして今の全体としての姿がありますので、その一部だけを取り出して「会社(の業績)が厳しいので会社を去ってほしい」とするのは、長期的に当社の力を強めることにならないと思っております。あくまで無駄な経費を削減し、より効率的な運営をするという方向性で、費用に見合った成果を出していきたいと考えております。ありがとうございました。

Q 11  「Nintendo Web Framework」によって任天堂が目指す将来像、例えば個人の開発者の方に大きく門戸を開くのかといった点について、考えを聞かせてほしい。
A 11

岩田:

Nintendo Web Framework

 「Nintendo Web Framework」について、先ほどのご説明は少しあっさりし過ぎたかもしれません。私たちは「ゲーム人口の拡大」とか「ユーザー人口の拡大」ということを申しあげてきましたが、実はこのプロジェクトは社内では「開発者人口の拡大」と呼んでおります。ゲーム機のソフトの開発というのは、規模の大きいチームでないとだんだん手に負えないものになってきました。もし、小規模なチームで短い期間で作ったものが世の中にものすごく広がる可能性があれば、それは一番夢が感じられ、多くの開発者の方がいろんなアイデアを競う場になるわけで、プラットフォームとしては一番健全な状況であるわけです。ですが、ゲーム機というのは、ある種非常に特殊なシステムで、そのゲーム機でしか使われない開発手法を使って非常にたくさんの人数と時間をかけて作らないと、お客様が何千円と払ってくださるパッケージ商品としては成立しないようになってきました。

Developer Community

 これは開発者のコミュニティーを図にしたもので、あくまで概念を示したものだとお考えください。上下の軸は規模を表し、上にいくほど規模が大きくなります。それから、左右の軸で、左側の「Embedded System」というのは日本語では「組み込み系システム」といい、専用の作法で開発する仕組みで、右側は「Open System」といわれる世の中で広く使われている仕組みを指します。例えば、皆様がインターネットで動きのあるウェブサイトをご覧になるときに、実はその裏でサーバーから動きを制御するためのプログラムがダウンロードされてきて、それが実行されることで画面が動いていたりしますが、そういうことをする技術を「Web Platform」といいます。ここには、それぞれの開発者の人口のイメージも書かれております。左上の「Dedicated Game System」というのはゲーム専用機のことで、基本的に非常に大規模な、相対的に少数の開発チームしか残っていない状況になりつつあります。ゲーム専用機の場合、専用の作法でプログラムを作らないといけないため、そのプログラムを作るための努力も大変必要で、勉強しないといけない量も多くなります。初めてニンテンドー3DSやWii Uのプログラムを作ろうとすると、学んでいただかなければならないことが非常に多くなっているので、敷居が上がってしまっていると言えます。左下の「Unity」というのは広く世界中にたくさんのユーザーがいるゲーム開発用のゲームエンジンで、これを使うと、いろんな機種にゲームが非常に簡単に作れるというものです。ゲーム開発者の人口を拡大するため、このUnityさんと任天堂でパートナーシップを結び、UnityをWii U(のゲーム開発)で使っていただけるようにするという取り組みにも着手しております。そして、ご質問の「Nintendo Web Framework」というのは、ホームページでちょっとしたものを動かすことをやっておられる方からスマートフォンやタブレット向けのゲームを作られている方まで、恐らく世界中に1000万人以上いるこの右側の「Web Platform」の開発者に対して、比較的簡単にWii Uの開発に入っていただけるようにしようということで用意をしたものです。ただ、大量の個人の開発者の方に「Wii U向けの開発をしたい」とお申し出いただいても、今すぐに対応ができませんので、「明日から個人の開発者の方に門戸を広げる」というわけではございませんが、ご興味をお持ちの会社については、規模やゲーム開発経験の有無を問わず受け付けを行っております。将来的には、個人の方の参加の可能性についても当然考えていきたいと思います。最初のステップとして、非常に大規模になったゲーム専用機のソフト作りをもっと幅広い人にしていただけるようにすることで、もっと新しいゲームのアイデアや可能性が広がっていくことを期待しております。これは2年以上前から取り組み、今年の3月に発表した試みですが、そういう流れで進めているということをご理解ください。ありがとうございました。

Q 12  任天堂としての、ゲームのネットワークに関するポリシーについて伺いたい。昨今ではソーシャルゲームとか、人と人とがかかわることによってゲームを楽しむということが多くなってきている。ニンテンドー3DSやWii Uでもネットワークの拡充によって、ネットワークを介したゲームというものが広がってきていると思うが、例えばWii Uの『New スーパーマリオブラザーズ U』にはネットワークを介して遊ぶ機能がない。これは、会社としてポリシーを持って入れなかったのか、技術的な課題等があって入れられなかったのか、そのあたりの考えを聞きたい。また、ゲームソフトというのは、そのパッケージを数千円で購入するものだが、ネットワーク対戦などについては、あまり細かい説明がなく、ホームページなどでも、そういった細かい点について記載されておらず、実際に買ってみるまでさっぱりわからない。具体的に言うと、「ネットワーク対戦可能」という記述があったとしても、それが、例えばリビングにいる私と私の家族とさらにフレンドと一緒にネットワーク対戦できるものなのか、それともローカルからは1人しか参加できないのか、ということが全然分からない。そういった問題について、どのように考えているか。
A 12

岩田:

 任天堂のゲームのネットワークポリシーということですので、非常に広い概念のお話をさせていただきます。ネットワークという仕組みを使うと、ゲームをより面白くすることができる方法がいくつかあります。その中で、最も世の中で早く普及し多くの方に知られているのは、ゲームの中で一緒に遊べる、離れた場所にいる人と一緒に遊べるということだと思います。例えば、私と宮本が別々の場所にいて、『マリオカート』をやろうと思ったら一緒に遊べるわけです。ただし、これには一つの課題もありまして、場所は共有できなくても、時間を共有できないと一緒に遊ぶことができません。Wii Uの発売時から、私たちは『Miiverse』というサービスに大変力を入れてきました。これは、基本的にはほとんどのゲームで、遊んでいる途中で中断してMiiverseというところに行くことができ、自分がゲームで遊んだ感想やゲームで自分が出遭った貴重なシーンを他の人と共有し、他の人がどのように遊んでいるのかを確認できるというものです。Miiverseは、自分がゲームを購入する前にどんなゲームかということを知ることにも役に立ちますし、自分の感動を誰かが分かってくれ、共感してくれたということを、多くの人が大変うれしく思ってくださるようです。このMiiverseの仕組みをさらに発展させると、自分が遊んだプレイデータをMiiverseに送り、Miiverseから別の人が遊んだプレイデータを受け取って、その人と別の人とが実際の時間を共有しなくとも一緒に遊んでいるような感覚で楽しめるというようなことも実現できます。

 こうしたネットワークの使い方は、ゲームによってどれが合うのかということは異なると思います。『New スーパーマリオブラザーズ U』の場合は、テレビの前で5人まで遊ぶことができますが、5人そろって遊ぶことで盛り上がるということに一番チューニングの軸を置きましたので、ネットワークのほうにはあまりエネルギーをかけませんでした。一方で、Miiverseを通じて、こんな攻略法があるとかこんなプレイができるとかいった情報を発信することも行っており、いろいろな方から反響をいただいております。また、『マリオカート』や『スマッシュブラザーズ』をこれからWii U向けに作りますが、これらのゲームでは、当然のことながら皆様が期待されているであろう、自分の家から他の家にいる人と対戦するという要望に応えたいと思っております。ただ、それだけではなく、Miiverseを使って、「時間を共有できないときにも一緒に楽しむ」、「他の人のプレイ体験で自分が感動する」、「自分のすごいプレイを他の人に見てもらってみんなを感動させる」といった循環が生じると、非常に面白いことが起こせるのではないかと考えております。「ゲームごとに、そのゲームの特性に合った方法でネットワークを活用していきたい」というのが私たちのポリシーだと考えていただければと思います。一人で遊ぶよりもたくさんの人と遊んだほうが楽しく、自分がゲームで遊んで楽しかったり感動したりした気持ちをたくさんの人が共感してくれるとうれしいということは、恐らく人間共通の感情だと思いますので、そのためにできることがあればさまざまな形でネットワークを貪欲に使ってまいります。

 また、(ネットワーク機能について)細かい説明が足りないために買ってみるまで分からないというご指摘は、大変有用なご意見でしたので、今後の商品の表示やホームページに載せる情報に関して、そういう視点で足りないものはないかということを考えていくようにしたいと思います。ありがとうございました。


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