1. 「使いやすさよりもわかりやすさ」

齊藤

→前回(※1)はすみません。
今日は犬塚(太一)(※2)の反省点を踏まえて、
服装をカジュアルにしてきました。

※1

前回=「社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター篇、第17回:ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D」のこと。

※2

犬塚太一さん=株式会社スクウェア・エニックス所属。『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D』ではプロデューサーを務める。

岩田

はい(笑)。

堀井

3人とも、感じを合わせて(笑)。

藤澤

合っていますかね?

齊藤

藤澤は今朝、会社を1時間遅刻して、
このために服を買ってきたんですよ。

藤澤

お恥ずかしながら(笑)。

齊藤

写真はここ(上半身)までしか写らないから、
ここまででいいか、とかね(笑)。

藤澤

いやいや、そんなにバラさなくてもいいでしょ(笑)。

一同

(笑)

岩田

はい。じゃあ、はじめましょうか。
よろしくお願いします。

一同

よろしくお願いします。

岩田

今日は、みなさんが待ちに待った
→『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』
についておうかがいします。
ついに、発売も秒読みとなりました。

堀井

この前、ベータテスト(※3)がはじまったばかりと思ったのですが、
時間の経つのが早いですよね。

※3

ベータテスト=開発中の『ドラゴンクエストX』のテストプレイのこと。公式サイトなどでプレイヤーを募り、テストプレイしてもらうことで、不具合や不都合などを発見して解消している。

岩田

はい、まだまだ先のような気がしていたんですが、
気がついたら、発売までもうすぐです。早いですね。
時間はそれなりに経っているはずなんですけど。
今日、わたしがいちばんお訊きしたいことは、
「堀井さんがMMORPG(※4)と呼ばれる
 敷居の高いゲームを、誰でも遊べるものに
 どう変えていったのか?」や、
「変えるというプロセスで何が起こったのか?」
ということなんです。
改めてご紹介させていただくこともないのですが、
『ドラゴンクエスト』シリーズを
手掛けられてきた、堀井雄二さんです。
よろしくお願いします。

堀井

よろしくお願いします。

※4

MMORPG=Massively Multiplayer Online Role-Playing Game。マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲーム。多人数同時参加型オンラインRPG。

齊藤

『ドラゴンクエストX』の
プロデューサーをしております、齊藤です。
よろしくお願いします。

藤澤

ディレクターの藤澤です。
よろしくお願いします。

岩田

はい、よろしくお願いします。
まず『ドラゴンクエスト』をオンライン化するにあたって、
堀井さん自身、「何かのオンラインゲームにグッと引き込まれた」
みたいな経験はされていたんですか?

堀井

彼(齊藤さん)がつくった『クロスゲート』(※5)や、
『FFXI』(※6)を遊んだりしていましたね。

※5

『クロスゲート』=2001年7月に運営を開始したMMORPG。

※6

『FFXI』=2002年5月に運営を開始した『ファイナルファンタジー』シリーズ初のMMORPG。

岩田

堀井さんの、もののつくられかたは、
自分で遊ばれたものの中から、
人を夢中にさせるエッセンスを見つけだすだけでなく、
普通の方がとまどうようなことを上手に整理されて、
誰でも遊べるものに変えていかれますよね。
今回もその技が遺憾なく発揮されていると想像しています。

堀井

そのへんの感覚は、
彼らがすごくわかってくれていて、
いっしょにいろいろつくってきました。

齊藤

わたしたちがよく話していることを言葉にすると、
「使いやすさよりもわかりやすさ」ということなんです。
たとえば、普通ならメニューは使いやすく、
階層は浅くしがちなんですけど、
階層が深くても、リズムがよければOKなんですね。
わかりやすく、誰でも簡単に操作できるところが
『ドラクエ』感なんだと思っています。

堀井

もともとボク自身が、マニュアルをぜんぜん読まないんで、
「読まなくても操作が感覚的にわかるように」というのを大前提に、
操作性を構築していくところがあるんです。
確かに、いろんなコマンドがあるのは便利だけど、
かえって最初はわけがわからなくなりがちだから、
「そこは抑えて抑えて・・・」とお願いしています。

藤澤

それにオンラインゲームは長時間遊ぶゲームなので、
究極まで使いやすさを突き詰めたものが多いのですが、
そうすると画面に出る情報量がとても多くなるんです。

岩田

画面を見ただけで「もう無理!」と思われてしまう、
ということですね。

藤澤

はい。そうなると「これは『ドラゴンクエスト』じゃない」
という印象が強くなってしまうので、開発スタッフには
「画面上に余計な情報は一切出さない」ということと、
「小さな字は絶対に出さない」という、
2点を言いつづけました。
逆に言えば、ゲーム画面を1枚の静止画で見たときに、
字が大きくて、無駄な情報が表示されていない画面なら、
「ああ、いつもの『ドラゴンクエスト』だ」
という安心感を感じてもらえるだろうと思ったんです。

岩田

ファミコン初期から同じ画面なんですよね。
昔はドット数も少ないから究極にシンプルでしたけど、
いまはその気になれば、いくらでも細かくできますから。

堀井

ひらがな、カタカナ、漢字もそうですよね。
コマンドを漢字で書くのはたやすいんだけど、
あのコマンドを漢字で書いた途端に、
見た目が難しくなっちゃうんですよ。
でも、ひらがなだと、「なんかやさしい感じ」が
でるんですよね。

齊藤

あと「しらべる」「どうぐ」「そうび」などのメインコマンド。
通常は4つ並んでいるのが2列なんですけど、
「今回は5×2でいいのでは?」って話をつい最近までしてましたね。
けっきょく、いつもの形で落ち着きましたけど。

堀井

見た目にコマンドが多いと、
面倒くさそうな感じになってしまって。

藤澤

はい。多少、階層が深くなっても、
「いままで通りがいい」という判断になりました。

岩田

理屈で言うと、5×2と4×2が
それほど違うと思わないのに、
感覚的には、ものすごく違って見えるんですね。
ちなみに『ドラゴンクエストX』は、
どのような体制ではじまったんですか?

齊藤

『X』のプロジェクトがはじまったとき、
藤澤はちょうど『VIII』(※7)を担当していて、
まだプログラマーもいない状態で、
3人ほどのブレインストーミングからはじまったんです。
その後、もうちょっと人数を増やして、
みんなで合宿をしたのが本格的なスタートでした。

※7

『VIII』=『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』。2004年11月にプレイステーション2用ソフトとして発売されたRPG。『ドラクエ』シリーズ8作目。

堀井

「いかに敷居を低くするか?」ってことを話し合ったよね。

藤澤

はい。
「『ドラクエ』のオンラインゲームとはどうあるべきか?」
ということを、ひたすら話し合いました。
たとえば「プレイヤーのキャラクターの名前が重複したらどうしようか」とか。
でもけっきょく、名前の重複を許すかどうかという議論も、
「『ドラゴンクエスト』としてどうあるべきか」
という哲学の答えを探す時間だったように思います。
「自分の好きな名前をつけられない『ドラクエ』でいいのか?」
というような基本的なことに、
ひとつずつ答えを出していったのが最初でした。