5. 初心者にもエンディングを

岩田

これまで『ドンキーコング』から
『スーパーマリオブラザーズ』までの話を訊いてきましたが、
この先も『スーパーマリオ』の歴史を追っていくと
どんなに時間があっても足りませんね(笑)。

宮本

そうですね(笑)。

岩田

そこで、時代を一気にさかのぼって
ファミコン20周年(※17)の話に移りましょう。
2004年にファミコンミニ(※18)を発売しましたよね。
あのとき→『スーパーマリオブラザーズ』も再登場しましたが、
宮本さんはどんな印象を持ちましたか?

宮本

昔はゲームを遊んでいたのに
遊ばなくなっている人がどんどん増えているという感があって、
それは理屈ではわかっていたつもりなんですけど
実感として足りていなかったんです。
というのも、やっぱり自分もゲーマーですし、
まわりにもゲームが好きな人が集まっていますから。
だからファミコンミニのときにそういう声を聞いて、
「そうか・・・マリオのことは覚えていても
ゲームのことを忘れている人がそんなに多いのか」
ということが、とても強く実感できました。

岩田

だから、ファミコン20周年や、
そのあとにスーパーマリオ20周年(※19)に取り組んだことは
わたしたち自身にとってもすごく意味がありましたよね。

※17

ファミコン20周年=ファミコン発売から20年後の、2003年に行われたキャンペーン。「→ファミコン生誕20周年 ゲームボーイアドバンスSP」がプレゼントされるなど、数多くの企画が実施された。

※18

ファミコンミニ=ゲームボーイアドバンスで発売された、ファミコンソフトの復刻版シリーズ。2004年2月に第1弾、同年5月に第2弾、同年8月にはディスクシステムセレクションが登場し、計30タイトルが発売された。

※19

スーパーマリオ20周年=『スーパーマリオブラザーズ』が発売されて20年後の、2005年に行われたキャンペーン。ファミコンミニ『スーパーマリオブラザーズ』が再販されたほか、記念日の9月13日にはゲームボーイミクロも発売された。

宮本

そう思います。
ただ、ゲームからいくら遠ざかっても
『マリオ』で遊んだ思い出は忘れられてはいない・・・。
その頃『マリオ』も3Dに展開していましたから、
ゲーム機の進歩とともに発展していく『マリオ』と
誰でも遊べるベーシックな『マリオ』という、
2つの路線があるなという話になりました。
そんなことを手塚さんと話していたら
「次をつくるとしたら、横スクロールマリオかなあ」
ということになりまして。

岩田

それが→DS版の『Newスーパーマリオ』(※20)
なったんですね。

※20

DS版の『Newスーパーマリオ』=『New スーパーマリオブラザーズ』。2006年5月に、ニンテンドーDSで発売されたアクションゲーム。

宮本

ええ。
でもやっぱり技術を追いかけているほうからすると
「えっ、いまさら2Dで横スクロールですか?」となるんですけど、
「ポリゴンや3Dを使ってもいいから、
横スクロールでゲームをつくったほうが
たくさんの人にとって遊びやすいものになるのと違うのか?」と。
だから、「原点に帰った『マリオ』をつくろう」
という話になったんです。
そこで名前に『New』をつけたんですね。

岩田

DS版の『Newマリオ』をつくったとき、
どんなことをいちばん意識していたんですか?

宮本

やっぱり原点の『マリオ』ですから
右に進めば必ずゴールがあると。
しかも長すぎず、繰り返して遊べば
上手になっていることが実感できるということですね。

岩田

そして、経験値は自分の指にたまるんですね。

宮本

たまるんです。
けど、やっぱり新しいハードで出すには
そういう遊びだけでは地味になってくるので
思いっきり派手なものも入れようと。

岩田

それが→デカマリオですか

宮本

そうです。デカマリオがいれば、
あとはオールドファッションでもいいと。

岩田

で、実際につくってみて
「こうすればよかった」という反省があったりしますか?

宮本

強いて言えば、難易度がちょっと・・・。

岩田

誰でも遊べる『マリオ』は実現できたけど、
一方で、歯ごたえを求める人にとっては
ちょっとやさし過ぎたかもしれませんね。

宮本

やっぱり、久しぶりにゲームを遊ぶ人から
これまでの『マリオ』のゲームを遊びこんできた人まで、
すべてのお客さんに満足していただけるような難易度というのは
つくろうとしてもなかなかつくれないんですよね。
どっちかに絞っていかなきゃアカンわけで。

岩田

わたしは『マリオ』に代表される
宮本さんたちがつくる一連のアクションゲームを
“体育会系のゲーム”と表現しているんですけど(笑)、
苦労して苦労して苦労して先に進んで
「ああ、もう少しでゴールだ」と思ったところで
ミスをしてしまうんですよね。
すると「さあ、もう1回!」という声が
天から聞こえてくるんですよ。
それで、もう1回チャレンジするんですけど、やっぱりダメで。
でも、そうやって、何度も何度も失敗しながらも
経験がどんどん積み重なっていって、
その結果、クリアしたときの達成感は
ものすごく大きなものになるんですよね。
そこが、“体育会系”なんですよ。

宮本

だから、「『Newマリオ』のスーパー版をつくろうか」
という話も出たくらいなんです。
攻略しがいのある『マリオ』を遊びたい人のために。
今回のWii版の『Newマリオ』でも
いちばん大きなポイントになったのがそこで、
初めての人にも楽しんでもらえるだけでなく、
やりごたえを求める人にも喜んでもらえるような
新しい『マリオ』をつくろうと思いました。

岩田

そういうことを両立させなければならない難題を
どうやって解決しようとしたんですか?

宮本

まず、『マリオ』を遊んでいて、
どうしても自分でクリアできないと
泣きそうになりますよね。

岩田

はい。泣きそうになります(笑)。

宮本

そもそもクリアできないのには理由があって、
ゲームが本当に難しくてクリアできない場合と
ゲームを理解できなくてクリアできない場合があると思うんです。
たとえば、リフトに乗ってピョンピョン跳べば
カンタンに進めるはずなのに、
わざわざ変なコースを選んでしまうから
何度やってもミスをしたりするんですね。

岩田

正しくない手順でやっているから
自分で難易度を高くしているということですね。

宮本

そうなんです。
そんなとき、上手な人のプレイを見れば
「ああ、こうすればよかったんだ」というのがわかって、
自分で解けるようになったりするんです。
そういうことが、自宅でもできたらいいなと思って、
そこでつくったのが「おてほんプレイ」です。

岩田

「おてほんプレイ」というのは?

宮本

→ルイージがそのコースの
正しい進め方を見せてくれる
んです。

岩田

マリオじゃなく、ルイージなんですね。
でも、おてほんを見ても、
「やっぱりオレにはできない」と
泣きそうになる人もいますよね。

宮本

そこで、攻略の参考になるだけでなく、
そのコースを仮にクリアしたことにして
「先に進む」を選択できるようにしました。

岩田

つまり「おてほんプレイ」を使えば
最後まで進めることもできるんですね。

宮本

やっぱりせっかく買っていただいたものなので
エンディングまで見られたほうがいいと思うんです。

岩田

でも、そんなことをしたら
アクションゲームの醍醐味が失われませんか?
さっきも言いましたけど、苦労して苦労して
何度も失敗するからこそ、達成感も大きくなるわけで。

宮本

そこはいくつか仕掛けを考えました。
コースのなかで、クリアできない場所が1ヵ所あって
どうしても先に進めないことがありますよね。

岩田

まさに泣きたくなる場所。

宮本

「おてほんプレイ」を見て、
攻略法はわかっていても先に進めないという。
そんなときは、「おてほんプレイ」で難所を越えて
→そこから先は自分でプレイすることもできるんです。

岩田

「おてほんプレイ」の途中で、パッと代わるんですか?

宮本

難所を越えたらポーズボタンを押して、
プレイヤーを自分に切り換えられるようになっています。
プレイヤーはルイージなんですけど
ジャンプ力(※21)はいっしょです。

※21

ジャンプ力=ファミコンのディスクシステム用ソフトとして発売された『スーパーマリオブラザーズ2』(1986年6月)では、ルイージのジャンプ力はマリオよりも勝っていたが、今作では同等に設定されている。

岩田

初心者にとってはうれしい仕様でしょうね。

宮本

ただ、自分でそういう仕様を入れたんですが、
ゲームをはじめる前に「おてほんプレイを見ますか?」
と聞かれると、すごくムッとするんですよ。
ゲーマーとしては。

岩田

許せない?(笑)

宮本

絶対に許せない。

岩田

1度もやってないのに
おてほんなんか見てたまるかと?(笑)。

宮本

そうなんです(笑)。