6. うまい人には“勲章”を

宮本

最初、「おてほんプレイ」は
はじめからメニュー画面で見られるようにしていたんです。
でも許せないから、いろいろ考えた結果、
3回ミスをすると、初めてヒントブロックが出てくるようにして、
それを叩くと、「おてほんプレイを見ますか?」
という表示が出てくるようにしました。

岩田

3回挑戦して、それでもうまくいかない人が
「おてほんプレイ」が見られるようにしたんですね。

宮本

そこで実際に自分でもやってみたんです。
でも、それでもムッとしたんです。

岩田

(笑)

宮本

「このオレをなめてんのかー!」みたいな(笑)。
最初からヒントブロックが出ているときは、
「余計なことせんといてほしい」くらいなんですよ。

岩田

最初から出ていれば「オレには関係ない」で
すんじゃうんですね。

宮本

そうなんです。
でも、3回ミスをしてそれが出ると・・・。

岩田

かなりムッとする?

宮本

(声を荒げて)ほっとけよ!!と。

岩田

あははは(笑)。
泣きそうになって出るんだったらいいんだけど、
まだまだやるぞと、やる気満々のときに出ると、
「いまオレは燃えてるのに、なんだよ」と思うんですね。

宮本

そうなんです。

岩田

結局、何回ミスをしたら
ヒントブロックを出すようにすればいいのか、
そのタイミングがすごく大事なんですね。

宮本

そこはすごく悩みました。
5回がいいのか、それとも10回だったらいいのかと。
で、僕は10回がいいかなと思ったんですけど、
その中間を考えている人がいて、
「8回がいいんじゃないでしょうか」と。

岩田

ほぼ真ん中をとったんですね。

宮本

ゲームは最初、マリオは5人ではじまります。
でも、少し進めば何回か1UPしますから、
ひとつのコースを1〜2ゲームプレイして、
それでも先に進めないのなら
次のコースに進んでもらってもいいんじゃないかと。
そこで、8回ミスをすると、
ヒントブロックが出てくるようにしました。
でも、ここが不思議なもので、8回で出るとなると
「オレは1個も出したくない」と思うんですよ、僕は。

岩田

そこは、ゲーマーとしてのプライドが(笑)。

宮本

許せないんです(笑)。
だから、なんとかそのコースを
7回以内でクリアしようとするんですね。

岩田

自分で「おてほんプレイ」の仕掛けをつくっておきながら、
「出したくない」とムキになるというのが面白いですね(笑)。

宮本

すると、ヒントブロックを出さなかった人に対して
何かわかるようなものを入れたくなるんです。

岩田

じゃあ、がんばった人に対しては?

宮本

はい。がんばった人には、タイトル画面で
“ヒントブロックを出してない勲章”というのが
わかるようにしました。

岩田

なるほど。

宮本

で、そういうのを入れると、
1度でもヒントブロックが出ると
セーブデータを全部消して、
もう1回、はじめからやり直したくなるんです。

岩田

つまり8回ミスをすると
ゼロからやり直すんですね(笑)。

宮本

はい、途中のデータに戻してやり直す(笑)。
そういうスタッフも多いですし、
そういう遊び方をするとけっこうしびれますよ。
それまでは無造作に遊んでいたのが
襟を正して遊ぶようになりますから。

岩田

まさに毎回真剣勝負(笑)。

宮本

真剣勝負です。
そういったことは「おてほんプレイ」を考えなかったら
思いつかなかったネタで・・・。

岩田

マリオクラブ(※22)の猛者たちは
どんな感想を言っていましたか?

※22

マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

宮本

彼らは「おてほんプレイ」は実際、関係ないんですよね。
ゲームがうまいですから。
あるとき「このコースは難しいですね」と言うので
その人のデータを見たんですよ。
そしたら3回しかミスをしてないんです。

岩田

3回ミスをしたくらいで難しい(笑)。

宮本

マリオクラブには、それこそパーフェクトを狙うような
猛者がいっぱいいるんですけど、
今回、その猛者中の猛者の→スーパープレイが見られるようにしました。

岩田

スーパープレイを見られるというのは?

宮本

やっぱり『マリオ』ですから、
いつものようにスターコインが
各コースに3枚ずつ置いてあるんです。
もちろんこれは、「おてほんプレイ」では取ってくれないですし、
取り方も教えてくれないので自力で取らないといけないんですね。

岩田

だから、攻略プレイだけでは絶対に終わらないし、
本当にうまい人だけが
ちゃんと違いをアピールできるようになっているんですね。

宮本

うまい人はスターコインを自分の腕で集めることで、
スーパープレイばかりの「おたからムービー」を
見られるようになります。

岩田

マリオクラブの猛者中の猛者の超絶プレイを見てもらって、
うまい人がさらにうまくなるための
「おてほん」にしてもらおうということですね。

宮本

そうです。
さらに、スターコインを集めて、ある条件をクリアすると
新たに9ワールドのコースに挑戦できるようになります。

岩田

そこまでやった人なので
9ワールドはそれなりにすごいんでしょうね。

宮本

全部が全部、難しいわけじゃないですけど、
ちょっとユニークなコースとか
難しいコースも用意しています。

岩田

容赦しないコースですね?

宮本

はい、容赦しません(笑)。
だから、『マリオ』が初めての人だけでなく、
うまい人も存分に遊び尽くせる仕組みになっていますから、
ひとりでもとことん楽しんでもらえると思います。
それに今回は→マルチプレイがあるので、
これがまた、遊ぶたびに違うコースのような感じで
楽しんでもらえると思います。

岩田

ちなみに、マルチプレイの実現は
最初からお題にしていたんですか?

宮本

はい。

岩田

宮本さんは『マリオブラザーズ』以来ずっと
マルチプレイの『マリオ』を志向していて、
毎回チャレンジするけど、なかなかうまくいかない・・・。
『マリオ64』(※23)のときも、
マリオとルイージの2人が走り回るところから
はじまっているんですよね。

宮本

ええ。
2画面に割って、別々にお城に入っていって、
マリオとルイージが通路で出会うと
すごくうれしかったんですよ(笑)。
それにカメラを固定して、マリオが遠くに走っていくと、
どんどん小さくなっていくというモードもありました。

岩田

そうでしたね。

宮本

あれは、マリオとルイージが走りながら、
どんどん離れても2人が見えるようにするという実験の名残なんです。
でも、なかなか収拾をつけることができなくて・・・。

※23

『マリオ64』=『スーパーマリオ64』。NINTENDO64と同時に発売された、マリオ初の3Dアクションゲーム。1996年6月発売。

岩田

そのように長年のテーマだったマルチプレイが
今回どうして実現できることになったんですか?

宮本

それはもうWiiの処理能力のおかげです。
圧倒的にCPUが速いですし、
グラフィック能力は高いですし、メモリはたくさんあるし。

岩田

宮本さんの長年の夢が
Wiiでようやく実現されたんですね。

宮本

はい。