1. 大きな回り道から

岩田

みなさん、今日はよろしくお願いいたします。

一同

よろしくお願いいたします。

岩田

やっと・・・。

青沼

はい(笑)。

岩田

終わりつつありますか。

青沼

そうですね。
いま、まさに終わろうとしています。

岩田

さみしくないですか?

青沼

あははは(笑)。
そうですね・・・完全に終わると
さみしくなるでしょうね。
だから、きっとまた、つくりたくなっちゃうんです(笑)。

岩田

(笑)
で、その『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』ですが。

青沼

はい。

岩田

まず、Wiiモーションプラス(※1)というものができて、
それはのちにWiiリモコンプラス(※2)として
Wiiリモコンに一体化していくんですが、
それを使うことで「『ゼルダ』がどう変わるのか」ということが、
今回のチャレンジのひとつだったわけですね。

青沼

はい、そうです。

※1

Wiiモーションプラス=ジャイロセンサーを内蔵した周辺機器で、Wiiリモコンに接続して使用する。

※2

Wiiリモコンプラス=2010年11月に発売された、Wiiモーションプラスと一体型のWiiリモコン。

岩田

今日はそのことを軸にお訊きしようと思いますが、
その前に、みなさんそれぞれの自己紹介と
何をしたかをお話しください。
まず青沼さんからお願いします。

青沼

はい。プロデューサーを担当した青沼です。
開発がスタートして5年近く、
いろんな紆余曲折がありながらも、
この『スカイウォードソード』が完成するまで、
藤林ディレクターといっしょに
「どうすればいい方向に進んでいくのか」を話し合い、
スタッフのみんなをフォローしつつ、
宮本さんと相談しながら
『ゼルダ』をつくってきました。

岩田

「紆余曲折」と言いましたけど、
今回は前作の『トワイライトプリンセス』(※3)に比べると
回り道をすることは少なかったと聞きましたけど・・・。

青沼

いや・・・。

※3

『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

岩田

決して回り道がなかったわけではない、ですか?(笑)

青沼

はい(笑)。なかったとは言えないです。
それを今日、お話しできればと・・・。

岩田

でも、わたしの印象なんですが、
たっぷり時間をかけてつくった要素を
ムダにすることなく詰め込むことができたので、
中身がたっぷり詰まっていて、
ゼルダシリーズのなかでも
“ネタ密度がものすごく特別に濃い”という
感じがしているんです。

青沼

そうですね。
回り道はしましたけど、
終わってみれば、いままでの『ゼルダ』とは
比べものにならないくらい
いろんな遊びを入れることができたと思います。

藤林

ディレクターの藤林です。
ゲームの骨格、システムからシナリオまで、全体的に担当しました。
Wiiモーションプラスを活かしたものができるたびに、
宮本さんや手塚さん、青沼さんに見せて
意見を聞いて、
「いいね」と言われるまで
つくり直すようなことをしていました。

岩田

藤林さんは、この『スカイウォードソード』の前は
『夢幻の砂時計』(※4)をつくったんですよね。

藤林

はい、サブディレクターとして参加しました。

※4

『夢幻の砂時計』=『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』。『ゼルダ』シリーズ初のニンテンドーDS用タイトルとして、2007年6月に発売された、ペンアクションアドベンチャーゲーム。

岩田

『ゼルダ』の携帯型と据置型の両方を経験して、
何が違いましたか?

藤林

やっぱり作業量が違いました。
据置型だと、なかなか修正がきかないんです。

岩田

据置型の場合は、ものすごく
たくさんの人たちがかかわっているので、
一度出してしまった指示は
あとからなかなか修正がきかなかったりするんですよね。

藤林

そうです。それがいちばん大きかったです。
ただ、今回は、据置型が初めてということもあって、
最初はかなりプレッシャーを感じていたんですけど、
いざ、つくってみると
「あんまり変わらなかったな・・・」
という実感もありました。

岩田

実際につくってみると、
同じ『ゼルダ』だったということですか?

藤林

そうです。
「ディレクターとしてゼルダをつくる」
という意味では違いはありませんでした。

小林

デザインリーダーを担当した小林です。
今回の『スカイウォードソード』では、
いろんな敵やさまざまな住人が登場したりしますけど、
それらをまとめるリーダーがそれぞれのセクションにいて、
僕はその全体をまとめる仕事をしていました。

岩田

小林さんは『ゼルダ』とのかかわりは長いんですか?

小林

僕は、入社して5年目の頃に
ゲームキューブの『風のタクト』(※5)
敵を担当するデザイナーとして参加したのが最初で、
今回は『ゼルダ』との2回目のかかわりになります。

岩田

久しぶりの『ゼルダ』なんですね。

小林

はい。そうです。

※5

『風のタクト』=『ゼルダの伝説 風のタクト』。ゲームキューブ用ソフトとして、2002年12月に発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

田中

UI(ユーザーインターフェイス)の
セクションをとりまとめた田中です。
いま小林さんが、リーダーがそれぞれいると言いましたけど、
僕はそのリーダーのひとりとして、
今回のプロジェクトに参加しました。

岩田

田中さんのようにUIのセクションの人が
いきなり第1回に登場するというのは
あまり前例のないことなんですが、
そこがWiiモーションプラスを使った
『スカイウォードソード』たるゆえん、と
言えると思うんです。

田中

そうですね。
Wiiモーションプラスの新しい操作性を
どのように画面に反映させ、
いかにお客さんにとって
わかりやすいものにできるかということを
考えてつくりました。

岩田

さて、今回の『スカイウォードソード』ですが、
青沼さん、開発はどのようにしてはじまったんですか?

青沼

『トワイライトプリンセス』が終わったあと、
新しい『ゼルダ』の企画検討をスタートしはじめたのですが、
しばらくして、『夢幻の砂時計』をつくり終えた藤林さんが
企画書を持ってきて「僕がつくりたいです」と手を挙げてくれたんです。
そこでディレクターを担当してもらって、ちょうどその頃に開発された
Wiiモーションプラスを使って、「自由に操作できるものを考えよう」
という話を進めていったんですけど、
その後、半年くらい、いや〜なムードが漂っていて・・・(笑)。

岩田

はい(笑)。

藤林

当時、Wiiモーションプラスでいろんな実験をしたんですけど、
すごくクセがあって・・・。

岩田

Wiiモーションプラスは切れ味はバツグンなんですけど、
ちょっとクセがあるんですよね。
まるでじゃじゃ馬みたいな感じで。

青沼

そう、じゃじゃ馬なんですよ。
なので、いくら実験をしても、
なかなか乗りこなすことができなかったんです。
そんなとき、Wiiモーションプラスに初めて対応した
『Wiiスポーツ リゾート』(※6)が出てくるわけです。

岩田

はい。

※6

『Wiiスポーツ リゾート』=『Wii Sports Resort』。初のWiiモーションプラス対応ソフトとして、2009年6月に発売されたスポーツゲーム。12種目のレジャースポーツが楽しめる。

青沼

それを触って、
「おお、なるほど、こんなにいろんなことができるんだ」
とは思ったんですが、『Wiiスポーツ リゾート』には
「チャンバラ」とか「アーチェリー」 といった
さまざまな遊びが入っていて、
それぞれが独立したゲームとして遊べるようになっていますけど、
『ゼルダ』は同じフィールド上で遊ぶゲームなので・・・。

藤林

そうなんです。
『ゼルダ』は剣で戦いながらも、
次の瞬間にフックショットを使ったり、
弓を射たり、バクダンを投げたりしますので、
そういったことをWiiモーションプラスを使って、
しかも同じフィールドで、スムーズに実現させるのが
とても難しかったんです。

青沼

なので、「やっぱりWiiモーションプラスを使うのはやめよう」と
スタッフには提案しました。

岩田

ああ、青沼さんは、
一度、諦めかけたんですか。

青沼

ええ。そこで従来のWiiリモコンとヌンチャクだけで遊べる
『ゼルダ』をつくりはじめたんですけど、
その後、ほかのプロデューサーの人たちから、
厳しいプレッシャーを受けるようになったんです。
「青沼さん、なぜWiiモーションプラスを使わないの!?」と(笑)。

岩田

「逃げるな!」ということですかね(笑)。

青沼

そうなんです(笑)。
そこで、「これはもうやるしかない!」ということになり、
スタッフをみんな集めて、
「これをどうしていけばいいかを考えよう」と。
その結果、小林さんたちが
大変な思いをすることになったんです(笑)。

小林

・・・はい(笑)。

岩田

小林さんは、どう大変な思いをするんですか?

小林

いま、青沼さんが言ったとおり、
Wiiモーションプラスは使わない方向で
企画自体は進んでいたんです。
そこで、ボタン操作を使った戦闘に関しても、
基本的なものはすでにできていて、
あとはどんどんバリエーションを増やしていけばいい、
というところまで開発は進んでいたんです。
ところが突然、青沼さんから呼び出しがあって・・・。

青沼

本当にごめん(笑)。

小林

「ああ、やっぱり来たか」と(笑)。
そこでゼロから・・・というよりは、
まったくノウハウのないところからはじめたので、
マイナスから実験をはじめた、という感じでした。

岩田

ということは、開発の最初から
回り道をしてしまったんですか(笑)。

青沼

はい。とても大きな回り道でした。