3. 機能がデザインされた町

岩田

最初はコース選択画面風の機能だけだった
「空」の場所というのは、
その後、「スカイロフト」の町になって
冒険の拠点へと姿を変えていきますよね。
“空番長”の岩本さんにお訊きしますけど、
どうしてそうなったんですか?

岩本

「スカイロフト」は基本、
冒険の準備をするところなんですけど、
今回は何か成し遂げたあとに必ず帰ってくる
自分のホームみたいなところにしたいと思いました。

岩田

いちばん多く何度も立ち寄る場所ですよね。

岩本

はい。なので、ただ冒険の準備をして
また出て行くだけでは、面白みがありませんので、
町のいろんな人たちとの絡みを入れることで、
冒険とはちょっと離れて「気軽に探索する場所」
というものにしました。

青沼

「スカイロフト」でいちばん特徴的な遊びは、
地上で集めたお宝を、町に持ち帰って
いろんなものに変えていくシステムだよね。

岩本

そうですね。
→お宝でアイテムをパワーアップすることができます。
また、「→あずかり屋」というのがあって、
そこで「冒険ポーチ」の中身を入れ替えることができるんです。

岩田

「冒険ポーチ」というのはなんですか?

藤林

僕からかんたんに説明すると、
ポーチの中身を選択することができて、
地上に冒険に向かうリンクのタイプを
その都度、プレイヤーが考えて、
好みを選ぶことができるというものです。

岩田

リンクのタイプを選ぶんですか?

藤林

はい。たとえばクスリばかり詰め込んでいくと
タフなリンクになりますし、
いろんなものを集めるのが得意なメダルを
ポーチのなかにたくさん入れていくと、
お宝がいっぱい出るようなタイプにすることができます。

岩本

ただしポーチの中に入れられる数には
制限があるので、いっぱいになっているときは、
不要なものを置いていく必要があるんです。

岩田

それらを預けておく場所が、
その「ショップモール」にあるんですね。

岩本

そうです。
冒険に必要ないろんなショップがあって、
そこでは買い物をしたり、
クスリを調合したり、ものを預けたりと、
いろんなことができるのですが、
それらを1カ所でササっとやろう、
という狙いがあって、
「ショップモール」ができました。

岩田

ああ、だから“モール”なんですね。

岩本

はい。町の中に点在させると
行ったり来たりで時間がかかるし、
面倒くさいだろうということで
「スカイロフト」の中心につくりました。

久田

入り口も複数あって、どこからでも
アクセスしやすいようになっていますし、
あと、これとこれが並んでると便利だよね、
というお店も近くにしています。

岩田

町も機能優先で、デザインされているわけですね。
さて、地形のデザインをまとめた
久田さんに質問なんですが、
プランナーからの無茶な要求というのは
けっこうあったんですか?

久田

えー、あります・・・ありましたね、はい(笑)。

岩田

2回も繰り返すほどなんですか?(笑)
そんな無茶な要求を、どう受け止めて、
どう返していくんですか?

久田

突飛なリクエストがあったりすると
最初は「えーっ!?」となるんですけど、
みんなで話し合って、その本質がわかると、
実現する方法が見つかったりするんです。
たとえば、「空に浮かぶ町をつくりたい」と言われても、
最初はどこから手をつけていいかわからないんです。

岩田

誰もそんな世界を見たことがないわけですからね(笑)。

久田

でも、リンクがそこから飛び降りて
口笛を吹くと、ロフトバードが飛んできて
いろんなところに行けるようになる、
という目的がはっきりすると
「じゃあ、リンクが飛ぶ場所が必要だね」
ということになって、
どこからでも飛び降りやすいように
「スカイロフト」のあちこちに
そういう場所を用意したりしました。

岩田

これまでのインタビューでも、
デザイナーの視点で提案をしてもらって助けられた、と
いろんな人が言っていますね。

藤林

それに近い話なんですけど、
まだ初期でそれほど忙しくない頃、
デザイナーさんには
自由に空のイメージボードを描いてもらったりして、
いろんなアイデアを提案してもらいました。

岩田

そういった意味では、
デザイナー側の意見から生まれたもので
代表的なものって何かありますか?

久田

代表的なもの、そうですね・・・。

藤林

たとえば、「モルセゴ」とか。

久田

はい、モルセゴですね。
モルセゴは、人間になりたいと願っている、
悪魔族の生き残りのような存在なんですけど、
ある地形のデザイナーさんが
「町にいたら面白い人」というお題で
イメージボードをつくって、
それを見て「こういう人がいたら面白いね」
という会話のなかから生まれたキャラクターなんです。

岩田

「こういう人がいたら面白い」というのは、
ちょっと変わった存在なんですか?

久田

はい。ここで詳しくは言えませんが、
見た目と実際の性格にギャップのある
キャラクターなんです。

藤林

そもそもモルセゴを僕が最初に見たのは
岩本さんの席でなんですけど、
どう見ても『ゼルダ』じゃないものが動いていて。

久田

そうそう(笑)。

藤林

で、岩本さんは『ゼルダ』とは別の
新しいゲームをつくってるのかな?
と思ったくらいなんです(笑)。

岩田

藤林さんがそう思うくらい、
モルセゴというのは異質なんですね。

藤林

そうなんです。
屋根裏部屋みたいな、
変なところに住んでいますしね。

久田

でも、モルセゴの頼みを聞くと
いろんなものをくれるんです。
そのようなサブイベントは、
岩本さんやキャラクターデザインの人たちと一緒に、
とにかくたくさんのネタを考えました。

岩本

ネタ出しをして、まとめたときは
「これが多いのか少ないのかわからないなあ」
という印象だったんですけど、
フタを開けてみたら、けっこう量が多くて・・・。

藤林

あれだけでゲーム1本分くらいあるかもしれませんね。

岩田

え? そんなにあるんですか?

藤林

なので、空の上も“濃密”です(笑)。

岩田

わかりました(笑)。
さて、サウンド担当の水田さん、
大変お待たせしました。

水田

はい。

岩田

今回の音づくりで、とくにこだわった点は何ですか?

水田

制作初期の段階から、まず最初に
大切にしたいと考えていたのが「風の音」です。

岩田

ただ、ひとくちに風と言っても、
いろんな種類がありますよね。

水田

そうですね。
空と町をはじめとする
フィールドやダンジョンの環境音的なものから、
鳥の飛行中やダイビング中に
バーッと風を切る気持ちよい音まで、
たくさんの種類があります。
効果音の担当は5人いたんですが、
この人はここの風を、というように、
担当も分かれています。

岩田

同じ風でも担当が分かれているんですか?

水田

はい(笑)。
それぞれの地域によっても担当者が違います。
そして、もうひとつ大切に考えてたのが「剣の音」です。
今回は剣を振るアクションがこれまで以上に重要ですし、
タイトルも『スカイウォードソード』ですから、
これはもう、「剣の音にこだわろう」と。

岩田

音楽を大事にするのはたくさんのゲームが行っていますが、
効果音にこだわってエネルギーを注ぐ、っていうのは
たぶん、宮本さんチームの特徴のひとつなんですよね。

水田

そうですね。なので、そのことを
常々心がけながら音づくりをしています。
今回、後から入ってきたサウンドスタッフにも、
「剣の音」と「風の音」を大切にするように、と
意識を共有するようにしていました。

青沼

あと、新しい楽器のことも
言ったほうがいいんじゃないの?

水田

あ、そうですね。
今回は、→ハープが弾けるんです。

岩田

『ゼルダ』シリーズといえば、楽器ですよね。

水田

はい。今回のハープは
→歩きながら弾くこともできて、
そこに流れているBGMに合わせて
演奏することもできるので、
ぜひいろんなところで弾いて、
楽しんでもらえればと思います。

岩田

それは楽しみです。
さて、少し突っ込んでお訊きしますけど、
今回の音づくりでは、どんなハードルがあって、
いまに至っているんでしょう?

水田

まずは単純に、物量が相当ありましたので、
それが大きなハードルになりました。
そこで今回は、マリオクラブ(※5)
イベントシーンの映像をぜんぶ撮ってもらい、
それを全部見ながら
ひとつずつチェックしていきました。

※5

マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

岩田

つまり、適切な音が付いてるかどうかを
ビデオを見ながら確認したんですね。

水田

そうなんです。
まだ音が付いていないイベントを見つけたときに、
どのようなBGMや効果音が必要かリストアップしたり、
「この音がここで鳴ってちゃまずい」
みたいなことを発見するのに使っていました。
サウンド担当としては、やっぱり
全体のクオリティを管理したいので。

岩田

そうですよね、やっぱり。

水田

ただ、そういった工夫もしてみたのですが、
それでもやっぱり「多過ぎる!」
ということにはなって・・・。

岩田

10人いても、まだ足りないんですか(笑)。

水田

はい(笑)。
そこで、会話中に鳴る音のセレクトと実装を
プランナーの方にお願いすることになりました。

青沼

自分で音を付けるっていうのは、
僕は初めての経験でした。

岩本

そもそも今回のツールを使えば、
プランナーだけで簡単なデモを
つくることができるんです。

水田

そこにまた問題があって・・・
知らぬ間に内容が変わっていたり、
イベントができてたりすることが
多々あるんです(笑)。

久田

そうなんですよー!
何だかいつの間にか増えていて・・・。

岩本

いつの間にか知らないオブジェクトが置かれてたりとか。

岩田

いつの間に、なんですか(笑)。

岩本

はい、まさに“いつの間にイベント”
っていう感じでした(笑)。