4. 世界はでかく、密度も濃く

岩田

竹田さんはシナリオを書き上げてから
仕上がっているものを実際に触られたんですか?

竹田

はい。実は最近触ったばかりなんです。

岩田

竹田さんはシナリオを書かれた方ですから、
もちろんこのゲームの構成や設定といったことは
全部わかっておられるわけですが、
そのような人が触ると、
どんな印象になるんですか?

竹田

当たり前の話ですが、
シナリオを書いているときは、その世界がすべてなんです。
ところが実際にゲームを触ってみると、
シナリオには書かれていない空気感ですとか、
町の人の様子や、いろんなものが本筋の外側にも膨大にあって、
自分はかなりのボリュームを書いたつもりだったんですけど、
この巨大な世界のなかでは、ほんの一部だったんだと、
本当に圧倒されました。

岩田

シナリオを書いた人でも圧倒されてしまうんですか(笑)。

竹田

そうなんです。
たとえば→コロニー9という場所があって、
そこの巨大感がものすごいんです。
僕がシナリオを書いているときは
従来のRPGに出てくるような町のイメージで書いていたんです。
ところが実際に触らせていただくと、
この町だけで1つのゲームができると思えるくらい、
豊富なしかけがたくさん入っているんです。
なので、開発の終盤になって
「なんと巨大なプロジェクトだったんだろう」ということを
いまさらながらに実感しました。

岩田

そうでしたか。
ただ、一般的なものづくりで言うと、
世界をでかくすればするほど、
その分、密度は薄まることが多いですよね。
でも、今回の高橋さんが求めたのは
「世界はでかくする一方で、密度も濃くする」
ということだったんですよね。

高橋

そうです。
たとえばマップの端っこまで行っても
そこに何もないということはないようにしようと。
行った先には必ず何かが置かれていて、
それはたとえば目的のものがあったり
→クエストがあったり、→強いモンスターがいたりします。
それに、場所にもよりますけど、
「こんなキレイな場所がこの世界にあるんだ」
と感じていただけるような、→秘境も用意しています。

岩田

つまり、お客さんがプレイした行為に対しては、
リターンを必ず用意するようにされたんですね。

高橋

はい。ですから、クエストで集めるアイテムの数なども
めちゃくちゃ多くなってしまいました。
というのも、クエストを担当したスタッフが
「400個はつくります」と言うので、
「そんなにたくさん、本当にできるのか?」と
念を押したくらいなんですから。

岩田

「誰か止めて」と言いたくなりますね(笑)。

高橋

はい、まさに(笑)。
本来は僕が止めるべきなんですけど、あまりに熱心なその姿を見て、
「本当にこれ、できるんだろうな」とあらためて念を押して、
「できなかったら承知しないぞ」とまで言ったりしてました。

岩田

(笑)

高橋

すると「大丈夫です、走らせてください」と言うので、
「じゃあ走りなさい」みたいな。

岩田

あ〜、それはまさにもう、
“売り言葉に買い言葉”の世界ですね(笑)。

高橋

でも、けっきょく最後までやりきってくれて
全部を入れ込むことができたんです。
だから「よくやった」とほめたんですけど(笑)。

岩田

はじめは「誰か止めて」だったのが
最後は「よくやった」になったんですね(笑)。

高橋

はい。そういった「誰か止めて」的なことは、
それに限った話ではなく、さまざまなところでありました。
たとえば、今回の戦闘では
→パーティーの仲間がいろいろ声をかけあうので、
すごく賑やかになっているんです。

岩田

1人プレイ用のゲームなのに孤独感がなくて、
仲間といっしょに戦っている感じなんですね。

高橋

その通りです。
しかも、プレイヤーが失敗しても
仲間から「何をやってるんだ」と責められることはなくて
いつでもほめてくれるんです。

岩田

失敗してもほめてくれるんですか?(笑)

高橋

はい。それに「落ち込むなよ」とか慰めてくれたりもするんですけど、
そのようにしたのは、自分のことを仲間がちゃんと見ていると
お客さんに感じてほしかったからなんです。

岩田

でもセリフの数がたくさんあると、収録も大変だったでしょうね。

高橋

それはもう、正直、うんざりしたくらいでした。
長時間収録しても、「ああ、まだこんなにセリフが残ってる」
と感じたくらい、たくさんのセリフを用意しました。
でも、録音したものを会社に持ち帰って、
担当に渡すときに「せっかく録ったんだから絶対に使えよ」と。
「使わなかったら承知しないぞ」と。

岩田

それもまさに“売り言葉に買い言葉”じゃないですか(笑)。

高橋

(笑)。
ところが全部を入れてみると、
「ちょっとしゃべり過ぎでうるさい」という声も聞かれましたので、
最後の最後でそこは調整してもらいました。
でも、ゲームのなかにいる仲間たちがワイワイ言いながら
いっしょになって一生懸命に戦っている姿に、
共感してくださるお客さんも多いのではないかと思っています。

岩田

それにしても「誰か止めて」と言いたくなるくらい、
物量的にも大きく、密度の濃いものになったということですが、
高橋さんとしては、それをどんなふうに受け止めていますか?

高橋

もちろん僕が、これまでに直接手がけてきたもののなかでは、
ダントツにスケールの大きいものになったと思います。
でも、これは変な話なんですけど、
つくっていて、すごく楽だった部分もあるんです。

岩田

それは高橋さんご自身がですか?

高橋

そうです。というのは、
シナリオに関しては竹田さんというパートナーがいたので
全幅の信頼をおいて、いっしょにやっていけましたし、
モノリスソフトという組織も、設立からちょうど10年経ちまして、
頼りになるメンバーが育ってきたんです。

岩田

いろんな仕事を任せられるスタッフが
会社の中で育ってきたんですね。

高橋

そうなんです。
大抵のことはスタッフ個々人に任せておけば大丈夫だったので、
僕が見なくてもいいところもたくさん出てきたんです。
そのおかげで、僕は僕の得意な分野に注力できるようになりましたし、
今回はすごく大きくて大変なプロジェクトではあったんですけど、
気持ちの面では、こんなに楽だったのは初めてと言っていいくらいでした。

岩田

高橋さんはかつて、
今回ほど巨大なプロジェクトではないにしても、
大きなプロジェクトをまとめるために、
1人でエネルギーを出していた時代もあったんですよね。

高橋

そうですね。会社を設立した当初は、
「人を集めなきゃ」というところからはじまりましたし、
スタッフのほとんどが新人だったこともありましたし。

岩田

今回は、会社ができて10年経ち、
人がどんどん育つとともに、気心も知れるようになり、
いろんな人が、それぞれの得意な分野を担当して、
総監督の高橋さんを助けてくれたという感じなんですね。

高橋

そうです。
いろんな人に助けられたプロジェクトだったと思います。
かつては無駄なところにも
エネルギーを割かないといけなかったんですけど、
今回はそういうことがいっさいありませんでしたので、
それぞれのスタッフが、それぞれの持ち場で頑張って
世界をでかくする一方で、密度を濃くすることもできて、
モノリスソフト10周年にふさわしいソフトになったと思っています。