社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.5 『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』編

第2回 「機能の面からの発想」

岩田 もともとこの『トワイライトプリンセス』は、
2005年の年末発売を予定していたのですが、
完成に向けての追い込みに入ろうという時期になって
発売時期を1年延期することに決めました。
この決定は、現場のみなさんにとっては、
目前に迫っていたゴールが延びることでもあるわけで、
さらにWii版も開発するという課題も増えましたし、
いろんな苦労があったと思うんです。
そこで、1年の発売延期をどのように感じたか、
延びた期間がどう影響したかということを
教えていただけますでしょうか。
じゃあ、まず、尾山さんから。

 
尾山 延期が決まったときは、
詰め切れていないところをまだ作り込める、
というホッとした部分と、
もう1年やらなきゃいけないという部分があって、
どっちの比率が高かったかというと
やはり「もっと作れる」という
うれしい気持ちのほうが圧倒的に大きかったですね。
やはり、2004年のE3ではじめて
『トワイライトプリンセス』の映像を公開したときに
期待されるものがものすごく大きい
というのを感じていましたから。

岩田 史上最高の『ゼルダ』を
世界中から期待されてるわけですからね。
その期待に応えなきゃというプレッシャーは
ものすごいものがあったと思います。

尾山 開発するものの物量としても、
『オカリナ』を凌駕するものがありましたし、
「はい、ここまで」と終わりを決められて
急いで詰め込むのではなく、
じっくりやりたい気持ちがありました。

岩田 西森さんはどうでしたか。

西森 「まだ磨かせてもらえる」という気持ちでしたね。
そもそも『ゼルダ』というゲームは、
期限が来るからこそ開発が終わるというか、
期限より前に余裕をもって完成するということが
ほぼ、ありえないソフトなんです。
つまり、時間があればあるほど
磨き続けるプロジェクトなんですね。
しかも、最後の時間を使って
微調整のようなことをしていくだけではなく、
新しい要素をできるかぎり追加していって、
どんどん磨きをかけていくんです。
ですから、時間はあればあるだけうれしい。
ただ、延期が決まった当時というのは、
自分の作業がどの段階で、
最低限、あとどのくらいの期間が必要なのか
ということがよくわかっていない状況でしたけど。

岩田 これだけ大きなプロジェクトになると、
ペースがわからないんですよね。
やらなきゃいけないことの総量も
最初は見えていなかったでしょうし。
北川さんはどうでしたか?

北川 正直、ぼくも期限が延びて
うれしかったひとりなんです。
ぼくの担当はダンジョンなんですが、
開発当初、ディレクターの青沼(英二)さんに
「このくらいの数のダンジョンを」
と言われていたんですけど、
当初の期限ではそれだけの数を作りきれなかったんです。
それが、発売時期が延びたことによって
それだけの数のダンジョンを作るための
現実味のある計画がたてられましたから。
もちろん、量だけではなく質の意味でも
1年延びたことはありがたかったです。
『ゼルダ』のダンジョンというのは
遊びの部分がいちばん大きい要素なので、
外側の設計ができただけでは意味がないんですね。
いろんなアイテムをどう使わせるかとか、
どの角度にカメラを置くかとか、
プレイしてもらった人から
いろんなフィードバックをもらって
何度も練り直していくものなんです。
ですから、1年延びたことでそこをすごく磨けたというか
満足がいくところまでやり遂げることが
できたんじゃないかなと思います。

岩田 宮城さんはどうですか。

宮城 1年延びたことに関しては、ぼくはそもそも
「このままではできるわけがない」
と思っていたほうなので、当然だと思ってました。
品質の面でも物量の面でも足りてなくて、
それに対するロードマップも
はっきりしていないような状態でしたから、
延期が決まったときには、
ここからなんとかしなきゃいけないという気持ちでした。
ただ、そこに至るまでの
「このままじゃできないですよ」という期間に、
個人的にはそうとうエネルギーを失っていたので、
いろんな意味で自分のコンディションを調整することが、
けっこうたいへんだったように思います。
あと、延期する前までは、目先の締切に向かって
日々の作業をこなしているような状態だったんですが、
発売延期という仕切り直しがあったことで、
大量のものを仕上げる仕組みそのものを
根本的に考え直すことができたのは大きかったですね。

岩田 時間がないと、とりあえず目先の、
「明日、データを出すこと」に
すべてのエネルギーが行っちゃいますから、
大局的に見てこっちのほうが最終的に得だ
という判断ができないんですよね。

宮城 そうですね。
なので、正直なところを言うと、
「1年延びるなら、最初から
そう言ってくれればよかったのに!」と(笑)。

岩田 はい(笑)。
冨永さんはいかがでしたか?

冨永 私の場合は、チームに参加したのが、
延期が決まる直前だったので、
とくに実感はなかったんです。
「なんか、たいへんだな」くらいのものでした。
むしろ、そのあとの、Wii版を作るとか、
ワールドワイドでほぼ同時発売になるとか、
そういう決定のほうが慌てましたね。
ただ、任天堂って、そういうぎりぎりのときは
とくに全社が一丸となって協力しますから、
そのあたりは、この会社はすごいなあと
他人事のように感じましたね。

岩田 京極さんは?

京極 私もスケジュールが延びたときは
やっぱりホッとして、まだできるという思いでした。
ただ、私の担当しているのはテキスト部分なので、
全言語にローカライズして、ほぼ同時発売というのは
一年延びたとはいえ、たいへんでしたね。
テキストって、最後の最後まで修正が利きますから。
だから、本当のことを言うと、いまでもまだ
あと1ヵ月延びるなら……と……。

岩田 それは私は困りますけど(笑)。
でも、あれですよね、
終わりなく磨ける場所は見つかるんですね。

京極 そうですね(笑)。

岩田 それまでゲームキューブで作っていたものが
Wii版も作ることになった
ということについてはどうですか?
苦労があったのは当然だと思いますが、
Wii版の手応えなども教えてください。

尾山 正直、最初は本当にできるのかと思いました。
なにしろ、デバイスがまったく違いますから。
チームの中でも最初は反発があって、
やっぱり慣れているゲームキューブの
コントローラのほうがよく思えるんですね。
どんなにいいものを提示されても、
「慣れてるものがいちばん」
っていう気持ちって、あるじゃないですか。
とくに調整をしているあいだというのは、
それこそ毎週のように操作感が違うものが
回ってきたりしたので、大丈夫かなあと思ってました。
でも、ディレクターの青沼さんが試行錯誤の結果、
今年のE3のあたりに仕様を固められたものを触ってみて、
「あ、おもしろい!」ってなってからは
すごい速さで調整が進んだと思います。

岩田 西森さんはどうですか?

西森 しっかりと作り上げたという達成感はすごくあります。
Wii版を初めて触った人から、
「これが最初はキューブ用に作られていたとは思わない」
というふうによく言われるんです。
最初からWii版として開発されたと感じるくらい
よくできているという意見が多くて
それはすごくうれしいですね。
Wii版が決まった当初は、こんなボタンの数で
『ゼルダ』ができるわけないじゃないか、
と思っていたんですが、結果的に、
Wiiのリモコンで操作することで、
遊びの幅がさらに広がるような形に
落とし込めたので、すごくよかったと思います。

北川 そうですね。
やっぱり、弓矢とか飛び道具系のアイテムを、
リモコンでポイントしながら使ったときに、
画面の中のリンクと自分にすごく一体感があるんです。
だから、いまぼくがどちらかのコントローラを
ひとつ選ばなければならないとしたら、
もう、断然Wiiです。
剣を振ったり、弓矢を使ったり、回転切りをしたり
というときの入り込み方がぜんぜん違いますから。
最初はけっこう戸惑ったんですが、
実際に触ってみないとこのコントローラのよさは
わからないな、というのが正直な印象です。

岩田 食わず嫌いはよくない、ということですかね。

北川 そうですね(笑)。

岩田 宮城さんはどうでしたか?

宮城 自分は個人的にゲームがあまりうまくないので、
ゲームキューブのコントローラを使った操作は
ちょっと難しいんじゃないかという印象を持ってまして、
Wiiのコントローラで操作することで
ボタンが少なくなって
むしろよくなるのではないかと感じていました。
Wii版を作ることが決まった当初はチーム内の空気としては
「いまから遊びの手応えを
イチから作り直すのはどうだろうか」
という雰囲気があったのですが、
個人的には、早くそっちに移行して
作り込んでいきたいという思いが強かったです。

西森 たいへんだった部分としては、
当たり前のことですけど、
両方をきちんと調整しなくてはいけないということです。
ゲームキューブ版もWii版も操作性に関する調整は
とことん追求しなくてはなりませんから、
単純にいって、そこでの作業量は倍になる。
ですから、1年延びたとはいえ、
余裕があるという感じではなく、
最後の最後まで一所懸命やったという感じでしたね。

岩田 なるほど、それぞれに苦労と手応えがあったようですね。
さて、それではいよいよ
宮本さんの「ちゃぶ台返し」について(笑)。
みなさんから見た「ちゃぶ台返し」はどんなことでしたか。
その経験があれば、自由に話してください。

尾山 あの、ぼくのところでは、
とくに大きなものは発生しなかったんですよ(笑)。
ですから、「あれ? こんなものかな」という……。

岩田 もっとすごいかと思ってた(笑)?

尾山 そうですね(笑)。
具体的には、敵の強さについて、
「もうちょっと易しめに」とか、
「ちょっと弱すぎる」とか言われたんですけど、
アドバイスそのものよりも、
「ふつうの人はこう感じる」という話をうかがったのが
すごくためになりましたね。
ぼくらはもう、毎日毎日、
ずっと敵ばっかりを触ってるんで、
そのあたりのバランス感覚がおかしくなるというか、
どうしてもエキスパート向けの快感を
追求してしまう傾向があるんです。
ところが宮本さんというのは、
いつも「ふつうの人の目線」を維持していて、
そのあたりがさすがだなと思いました。

岩田 なるほど。西森さんはどうでした?

西森 ぼくも、宮本さんのいろんな伝説を聞いていたので、
「ちゃぶ台返し」におびえながら調整をしてたんですけど。

岩田 「おびえながら」(笑)。

西森 自分の近くの席が青沼さんで、
そこにときどき宮本さんがこられて
いろいろなことをおっしゃっていくので
それをずっと横で盗み聞きしてたというか、
今回は何を言い出すんだろうと
ドキドキしながら聞いてたんです(笑)。
でも、ぼくも尾山さんといっしょで、
リンクのデザインやモーションに関しては
それほど大きな「ちゃぶ台返し」はなかったんです。
どちらかというと、作っていく過程で
うまく誘導してもらったというか、
「ここはこうしたほうがいいよ」という形で
進めてもらったという感じですね。
ひとつ覚えているのは、
狼のデザインについてアドバイスされたことです。
今回のリンクは、狼のようなケモノに変身するんです。
つまり、四本足のキャラクターが
プレイヤーの操作するキャラクターとして
動くことがあるんですけど、そのデザインを検討していたときに
「四本足の動物をずっと後ろから
見続けてもおもしろくない」と言われまして。
たしかに、四本足の動物って、
横や斜め横から見ると足の動きがわかりやすくて
見ているぶんにも動きがあるんですけど、真後ろからだと、
人間にくらべてかなり退屈な絵になってしまうんです。
で、「狼の背中に誰か乗せなさい」とおっしゃって。
最初の段階ではすごく控えめなキャラクターを
乗せようとしていたんですけど、
最終的にはそのキャラクターがゲームの中で
すごく大きな存在になっていったんです。

岩田 なるほど、なるほど。
その話ですごくおもしろいのは、
宮本さんが「機能から語っている」ということですね。
物語的にこういう人を登場させたいということではなく、
「動物を真後ろから見るだけではつまらない」
という機能としての理由から「何かを乗せる」という
発想が始まっているのが非常におもしろい。
そのあたりは、インダストリアルデザインを
やっていた人の発想だなと感じますね。
ちょっと脱線しますが、
昔、宮本さんが『スーパーマリオワールド』で
マリオをヨッシーの上に乗せたときも、
発想のはじまりは「機能」だったんです。
どういうことかというと
スーパーファミコンという機種は、スプライト
(※画面に絵を表示するための技術的な仕組み)を
横にすごくたくさん並べることができなかったんですね。
ヨッシーがどうしてああいう形になっているかというと、
あれは、マリオといっしょに重ねたときに、
横に並ぶスプライトの数を制限できる形なんです。
ヨッシーの設計図を見るとわかるんですが、
もう、純粋に機能からデザインしているんですよね。
だから、ヨッシーを恐竜のような形にしたのは、
マリオを恐竜に乗せたかったからじゃなくて、
機能として許される形が恐竜に似ていたからなんです。
あ、すいません、脱線しました(笑)。
ええと、北川さん、「ちゃぶ台返し」はありましたか?

北川 ぼくも正直、「これぞ、ちゃぶ台返し!」
というくらいのことは経験していないんです。
いま振り返って、どうしてかなと思うと、
やっぱり1年延びたことによって、
チーム内のプランナーの中で
「ちゃぶ台返し」をされないくらいに
アイデアをとことん出し合っていったというか、
一度作ったものを現場で何度も見直して、
「これ、おもしろくないんちゃうか?」
という作業を、かなりくり返したんですね。
ですから、宮本さんがあとでダンジョンを触られたときは
「こうしろ」「ああしろ」っていうことはなくて、
どちらかというと、
「もうちょっとこうしたら見栄えがよくなる」とか、
「こうしたほうがルートがわかりやすい」とかいうふうに、
要は、ぼくらが作ってきたものを
土台からひっくり返すわけじゃなく、
プラスしてくれるという感じになったんじゃないかなと
ぼくは思ったんですが。

岩田 なるほどね。
いや、みなさんのそういったとらえ方が、
今後ほかのゲームを開発していくうえで
どう変わっていくかというのが
私はちょっと楽しみですけど(笑)。
はい、宮城さんはどうでしたか?

宮城 ぼくの担当した地形に関しても、
それほど変更されたということはないんです。
ただ、ぼくはみなさんとちょっと意見が違っていて、
宮本さんは、今回、ぼくらの作ったものを、
「少なくとも『ゼルダ』にする」ということに絞って
いろんな要求をされていたように見えるんです。
たとえば、E3に出展されていたときの『ゼルダ』には
弓矢で敵を撃つ仕様が入ってたんですが、
ぼくはその操作性にすごく疑問を感じていたんです。
端的にいうと、ゲームキューブのコントローラで
やるほうがずっと簡単に思えたんですね。
そういうときに、宮本さんが
序盤のチュートリアルにあたる部分に
「パチンコ」という、
それまでなかったアイテムを入れたんです。
それと同時に、何か、ものを撃つアクションのときに、
動きを止めて「ポインタを合わせる」という間を入れた。
この間が、緊張感をいったんリセットするような、
すごくいい間として機能していて、
ぼくは、それを経験した瞬間に自分の中で
このゲームの見方がガラッと変わってしまったんです。
そういう、微妙な修正によって、
あとあとゲームに登場することになる
不安な要素を払拭してくださったというか、
ずいぶん助けられたなあという印象があるんです。
とくに、序盤のイントロダクションというか、
「初めて触ったプレイヤーの導き方」みたいな部分は、
宮本さんの指示が入ったことによって
ものすごく『ゼルダ』らしくなった。
ですから、「ちゃぶ台」は、
大きくは返されてないですけど、
小さく小さくいろんなものを変えながら見事に
『ゼルダ』に変えていったという印象を持ってます。
ただ、それに感心するというよりは、
作り手としてはもうちょっと
がんばらないといけないという思いのほうが
個人的には強いんですけどね(笑)。

岩田 宮本さんが来る前に、
もうちょっとできている状態に
しておかなくてはいけない、と。

宮城 そうですね。
総合的な印象からいうと、今回、宮本さんは、
ぼくたちのプレッシャーの大きさとか、
開発が長期にわたっているストレスというものを
すごく感じてくださっていて、
だいぶ優しくされたように見えるんですけども、
じつのところは、だいぶ、
ひっくり返されてしまっているんではないか
というのがぼくの意見です。

岩田 いや、非常におもしろい分析ですね。

宮城 なので、もしもあと半年延びたとしたら、
もっとあからさまに変えられたんじゃないでしょうか。

岩田 それこそ星一徹ばりに、「ガチャーン!」と(笑)。

宮城 はい(笑)。
正直、宮本さんが触る前の段階では、
変えなければならないところが
そうとう多かったと思います。
でも、たぶん、ここで「ちゃぶ台」をひっくり返すと
収拾がつかなくなるくらいのボリュームだということが
宮本さんにはわかっていたんじゃないかと思うんです。
ですから、まずは確実にやれることから変えていって、
ちょっとずつ、ちょっとずつ、
『ゼルダ』らしくしていく。
それで、全体が『ゼルダ』になっていったら、
最後に「いまさらながら……」と言って、
気になるところをしっかり変えていく。
そういうやり方を選ばれたんじゃないかなあと。

岩田 なるほど。
冨永さんはどうですか?

冨永 ぼくも宮城さんと同じように手をつけられるところから
ひとつずつ変えていかれたという印象がありますが、
もうひとつ、別の見方としては、
「みんなが気にしながらも手をつけられていなかった」
というようなところを、きちんとイチから考えて
作られていたように思うんです。
たとえば、E3に出展されたバージョンでは、
いちばん最初の村で遊べるようになっていたんですけど、
E3用とはいえ、いったんはできてしまったものなので、
そのあと、本来のゲームに組み込むために
その場面全体を作りかえていく作業に、
なかなか手をつけられずにいたんです。
宮本さんが、まずそこを作ってくださって、
すごく助かったという思いがあるんですね。
だから、「ちゃぶ台返し」というよりは、
ないものを作ってもらったという感じで。
あと、ひとつ、衝撃的な変更として覚えているのは、
メインのストーリーとは関係のない
サブイベントがあったんですね。
それは、クリアーしてもしなくてもいい、
というつもりで作っていたんですけれども、
スケジュール的にだいぶ後半になって、
宮本さんがそれをメインのルートに
組み込もうと提案されたんです。
ちょっと、時期が時期だけに、
スタッフのあいだに衝撃が走ったんですけど(笑)、
実際に作ってみると、そこでもらえるアイテムが
その後の展開にうまく活きて、
「ああ、いいものになった」
という手応えがすごくあったんです。
何かを大きくひっくり返されたというのではないですが、
そういうところが宮本さんの
「ちゃぶ台返し」なのかなと思いました。

岩田 京極さんはどうですか?

京極 私は個人的にはすごく
ちゃぶ台を返されたんですけども(笑)。

一同 (笑)

京極 けっきょく、どうして変わったかというと、
いちばん最初には
ゲームキューブ版の名残がけっこうあって、
Wiiでやるときには、プレイヤーは、
リモコンにもゲームにも慣れていないという状態なのに
それをフォローできていないところが多かったんです。
なので、これも岩田さんがさきほどおっしゃった
「機能の面からの発想」と言えると思うのですが、
Wiiで快適にゲームを遊んでもらうためには
はじめにプレイヤーに伝えなければならないことが
まだまだたくさんあったんです。
それで、当初のストーリーでは、最初の村で
まず1日を過ごすという流れだったんですけれど、
いきなり「3日にしよう」ということになって、
「宮本さんの3日プラン」みたいな
仕様を書いた紙が出てきて……。

岩田 あ、「仕様の紙」、出た?
それは、大きく変えるときのパターンですね。

一同 (笑)

京極 しかもそれが本当に開発の後半というか、
言っちゃうと、E3の後のことだったんで……。

岩田 (笑)

京極 もう、ローカライズも始まってるような時期なんですよ。
それをいまからこんなに変えるのかと唖然として……。
プログラムも変わるし、アイテムも増えるし、
もちろんキャラクターの配置も変わるし、
地形もチューニングしなきゃいけないし……。
当然、セリフも全部変わるわけですから、
もう、慌ててアメリカとヨーロッパに連絡して、
「あの村は、ごっそり変わるので、
2週間くらい待ってください!
まだ訳さないでください!」って……。

一同 (笑)

京極 で、なんとかギリギリ間に合ったかなというところで、
また再び、さっき冨永さんがおっしゃった、
サブイベントをメインに組み込むという
「もうひと返し」があって、また世界中に連絡して、
「また変わります!」と言って、
個人的にはもう、ひっくり返されまくりだったんですが、
終わってみればなんとか発売に間に合ったので、
これが「『ゼルダ』の伝説」なのかと……。

一同 (爆笑)

北川 それが言いたかったんやな(笑)。

岩田 さすがスクリプトライター(笑)。
いや、たぶん、宮本さんはあれですよね、
京極さんがおっしゃったように
ゲームの最初の部分というのを
機能としてものすごく大事にされてるんですよね。
ですから、そこでプレイヤーに伝えるべきことが
なんなのかということがものすごく明確で、
だからこそ「これが足りない」とか
「こういう順序で見せないといけない」とかいう
指示をはっきりと出したんでしょう。
現場でずっと作っている開発者は
はじめての人がどこで戸惑うかということに対して
どんどん感度が鈍くなっていくので、
終盤になればなるほど、そこがわからなくなる。
ですから、宮本さんがあとから入ってきて
いわゆる「ちゃぶ台返し」的なことをやるというのは、
じつは必然的なことでもあるわけですよね。
その最初の村の大きな変更というのも、
いま冷静に振り返るとよかったわけでしょう?

京極 はい。変えたことによって、
初めて体験するWiiリモコンの扱いに
なじみやすくなっただけでなく、ストーリーの面からも
「ゼルダ」の世界にグッと入りやすくなったんです。
だから結果的には変えて本当によかったと思います。

岩田 ちなみに、私が昔教わった、宮本さんの定義によると、
「アイデアというのは、ひとつ変えることで
複数の問題が同時に解決すること」なんだそうです。
いまの話は、まさにそれを地でいくような話ですよね。
さて、それでは、最後の質問です。
『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』の中で、
自分がものすごくこだわったポイントというか、
ここをここまで作ったから、ぜひ見てほしい、
というようなところを挙げてもらえますか。
じゃあ、尾山さんからお願いします。

尾山 いっぱいありすぎるんですけど(笑)、
やっぱり、私が敵担当なので敵とのバトルでしょうか
戦うときの駆け引きの部分や、
敵が斬られたあと、吹っ飛んで消えていくまでの演出、
リンクがそのあいだに何をしているのかなど、
そういった細かいところも
味わってもらえるとうれしいですね。
あと、ゼルダシリーズでなじみのある敵も
数多く登場しますが、単に絵がきれいになっただけでなく、
今までと少し違った攻略法を用意していますので
初めて遊ばれる方も今までの作品を遊ばれている方も
新鮮な気持ちで楽しめるように思います。

岩田 西森さんは?

動画を見る
西森 まず、Wii版として大々的に宣伝されていますけど、
ゲームキューブ版もものすごく作り込んでますので
そちらも、ぜひ、遊んでほしいという気持ちがあります。
やはりWii版とは手触りがまったく違いますので。
こだわったところとしては、
今回の『トワイライトプリンセス』の売りでもある、
馬上戦のシーンですね

とくに、馬に乗って敵と戦うというのは
『オカリナ』以来、ずっとやりたかったことでしたので。
E3で馬上戦を遊んでもらったときも
すごく好評だったんですけど、
内部では「馬の表現がもう少し」という意見もあって、
宮本さんに言われて、馬に乗りに行ったりもしました。

岩田 実際に、馬に乗りに行ったんですか?

西森 はい。「乗ってこい!」と言われまして(笑)。
ぼくと馬を担当したデザイナーと、
リンクと馬のアニメーションを担当したスタッフの3人で
取材に行かせてもらったんです。
初心者ですので、乗りこなすまではいきませんでしたが、
そばに立ったときに感じる馬の大きさや、
大きな生き物に乗っている感覚、
いい意味での不自由さや、
乗っているときの視線の感じみたいなものを
すごくたくさん経験できて、実際に馬に乗らなかったら
ここまでこだわりをもって作れなかっただろうな
という部分がありますので、ぜひ注目してほしいですね。

岩田 北川さん、お願いします。



動画を見る
北川 ダンジョンの担当者としては、
ひとつひとつこだわって作った
バリエーション豊かなダンジョンを
ぜひ楽しみにしてほしいというところなんですが、
ピンポイントなおすすめとしては、
昔からの『ゼルダ』ファンが
思わずにやりとするような懐かしいネタが
3Dになって入ってますので、
そういうところも楽しんでほしいです。

岩田 はい、宮城さん。

宮城 おすすめやこだわりを言い出すと、
地形を作ったスタッフみんなのことを
言わなければならないのですごく難しいんですが、
まずは、やはり、馬に乗って
広大なハイラル平原を疾走する楽しみですね。
スピード感あふれる走りを存分に味わえると思います。
あと、ひそかにこだわったところとしては、
ある程度ゲームを進めたプレイヤーが
ハイラル平原からまわりを大きく見渡すと、
自分が旅してきた、山や湖、川、砂漠といったものが
どこに位置しているかというのが
きちんとわかるように作ってあります。
もちろんパーフェクトではないんですけど、
極力、つじつまが合うように作ってありますので
そこは、冒険の合間に楽しんでほしいですね。

岩田 冨永さん、どうぞ。

冨永 もう、全部をおすすめしたい気持ちなので、
寄り道しながら、この世界の全部を、
しっかり味わってほしいなと思います。
自分のこだわったところで
ちょっと変わったところを挙げると、
メインのストーリーから外れてほしくないところで
いかに自然にプレイヤーを誘導するか、
という部分に苦心したんですね。
自由に行動できるのが『ゼルダ』のいいところなんですが
やっぱり、どうしても
「いまはこっちに行ってほしくない」
という状況が出てきます。
そういうとき、実際に遊んでいる人に気づかれないように
ゲームの流れを導かなければならないのが
ものすごくたいへんで、こだわったところなので、
そういうところをアピールしたいんですけど……
ただ、ええと、気づかれちゃいけないところなので、
「ここはこだわって自然にしてるな」
と思われたらダメなわけですから……
やっぱり、ここを見てください、という
おすすめには、ならないですね(笑)。

岩田 京極さんはどうですか。

京極 はい。ゲームキューブ版とWii版では、
ゲームの中の世界が左右逆になっているんですが、
違うコントローラで逆の世界を経験するというだけで、
本当にまったく違うおもしろさがあるんです。
私たちはそれこそ毎日この世界を見ていたんですけど、
それでも、逆の世界に入ると、
いまでもすごく迷ったりするんですね。
ですから、ぜひ、両方を経験してほしいなと思います。
あと、個人的にこだわった部分というのは
ものすごくしょうもないところなので(笑)、
みなさんがゲームを遊んでいる中で、
「わ、こんなしょうもないことやってる!」
みたいな感じで笑ってもらえるようなところがあれば、
それがきっと、私が見てほしくてこだわったところです。

一同 (笑)

岩田 長時間、どうもありがとうございました。
史上最高の『ゼルダ』だと
言ってもらえるといいなと思ってます。
どうもありがとうございました。

一同 ありがとうございました。


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