社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.5 『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』編

岩田  聡 [取締役社長]
岩田  聡 [取締役社長]
宮本 茂 [専務取締役 情報開発本部長]
宮本 茂 [専務取締役 情報開発本部長]
青沼 英二 [情報開発本部 制作部]
青沼 英二 [情報開発本部 制作部]

第5回「120%の『ゼルダ』を」

宮本 スタッフの取材はどうでした?
とんでもない話が飛び出しました(笑)?

岩田 宮本さん、同席されてもよかったのに。
けっきょく、いらっしゃらなかったですね。

宮本 いや、いないほうがしゃべりやすいかなあと思って。
どんな話が出るやろうって楽しみにしてたんですけど。

岩田 おもしろかったですよ。
宮本さんの「ちゃぶ台返し」について
いろいろな見方があったりして(笑)。
「ちゃぶ台返しは今回はなかった」と言う人から、
「いや、小さく順番に茶碗が返っていって、
気がついたら全部変わっていた」という人まで(笑)。

宮本 今回はぼくはちゃぶ台返しはしてないと思う。
青沼さん、ちゃぶ台返し、してないよな?

青沼 うーん……そうですねぇ(笑)。

岩田 星一徹風にガーッとはやってないけど、
気がついたら全部裏返ってたという意見が
多かったですけどね(笑)。

青沼 うん。今回はわりと丁寧にひっくり返してましたね。

宮本 いや、今回は、もう立派にできてたんで、
並べ替えるだけでよかったので。

青沼 また、そういうことを言う(笑)。

岩田 ちゃぶ台を返したんじゃなくて、
茶碗を並び替えた(笑)?

宮本 そう、並び替えた。
「ご飯はこっちだろう、おかずはこっち」って。

青沼 ま、どうとらえるかは、人それぞれですよね。
ぼくみたいにもう慣れちゃってる人は
もう、抵抗がなかったりしますし。

岩田 「オセロ」と言ってる人もいました。
パタパタパタパタとこうひっくり返って……。

宮本 ああ、オセロ。そうそう、わりとね、そんな感じ。
でも、本当にひっくり返してないですよ。
ひっくり返すときは、ほんと、
「リンクは女でした!」
みたいなことを言うときですし(笑)。

青沼 そんなアホな(笑)。

宮本 「もう、これを解決させるには
リンクを女にしたほうが早い!」とかね(笑)。
それはなかったもんね。

青沼 うん、それはなかったですね。
(『トワイライトプリンセス』のデモ画面を見て)
あ、Wiiを触りながら取材したんですか?

岩田 ええ。開発者のお気に入りのシーンを
実際に見せてもらったんです。
でも、公開できない場面がほとんどでしたが(笑)。

青沼 これは、最終バージョンかな。
あ、そうですね。よかった。

宮本 ぎりぎりまで修正してたからね(笑)。

岩田 あ、いい機会だから、
最初に起動時間についてお話ししておきましょうか。
Wiiの電源を入れてから『ゼルダ』が遊べるまで、
最終バージョンでどのくらいの時間がかかるんですか?

宮本 ええと、Wiiを起動させると、
コントローラの持ち方の解説とか
そういう注意文を読んでもらう時間もあるので、
一概に何秒というのは言いにくいんですけど、
体感的には快適に始まると思います。
ちょっと試してみましょうか。

特に最近のゲーム機はメモリーが大きくなった分
ロードに時間がかかるのが当たり前になってきて
ますけど、それに甘えないように作ってるつもりです。


  動画をご覧ください


岩田 起動してからディスクを入れると
ディスクの認識に少し時間がかかりますが、
ディスクが入ったまま電源を切って
次回に続きを遊ぶための起動では、
より快適に起動しますよね。

宮本 ええ、さっきまで遊んでいたディスクのままで
次に遊び始める時は、フラッシュメモリを使って
少しでも起動を早くできるようにしたり、スタッフの
こだわりを見て欲しいですね。



動画を見る(ディスクを入れずに起動した場合)
  動画をご覧ください


岩田 快適に始まるというのは
私も実感しているんです。
でも、Wiiの開発コンセプトを決めたときから、
『3秒で起動することを目指そう』と
二人で開発陣に言い続けていましたけど、
まだまだ達成できてないですね。

宮本 そうですね。
チャンネルからWiiメニューに戻ったり
違うチャンネルと行き来するのに
思ったより時間がかかっていて
テレビのチャンネルを行き来するより遅いやないかって、
気になってるとこなんです。



動画を見る(ディスクを入れて起動した場合)
  動画をご覧ください


これからシステムをアップデートする機会に
もっと快適になるように、詰めていきたいとこですね。
今でもパソコンの起動を考えたらすごく快適ですけど
僕としてはまだ満足できてないですからね。
テレビのチャンネルを切り替えるようなスピードに
少しでも近づけていかないと。

岩田 はい、このWiiメニューに戻るときの時間は、
私も特に気になっているところです。
今回はインターネットやディスクソフトを通じて、
システムをアップデートする機能を用意しましたから、
先に買ってくださったみなさんも
常に更新してもらえると思います。

宮本 でも、実際、今の状態のままだとしても
電源を入れてからこのスピードで
ウェブブラウザが立ち上がるというのは
なかなかないことだとは思いますけどね。

岩田 ゲーム中の読み込み時間についてはどうですか?

宮本 場面にもよると思うんですが、
まあ、だいたい2秒から4秒くらいの時間で
どんどんつぎのシーンに移っていくんで、
ゲームを始めてしまうと非常に快適だと思います。
『Wii Sports』や『はじめてのWii』も
そういう点では非常に快適ですよ。

青沼 ゼルダの場合には、ローディングバーみたいなものが
必要だと思うようなシーンは一切ないです。
もしそういうものが必要であれば
出さなきゃいけないなと思ってましたけど、
けっきょく必要なかったですね。

岩田 ああ、それはなによりですね。
ファンの方々にも喜んでいただけるのではないかと思います。
さて、じゃあ本格的に取材を始めさせていただきます。
よろしくお願いします。

宮本 よろしくお願いします。

青沼 ちょっと緊張しますね(笑)。

岩田 いつもは最初に自己紹介していただくんですが、
おふたりの場合は必要もないですね(笑)。
『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』で
ディレクターを務めた青沼英二さんと
プロデューサーの宮本茂さんです。
じゃあ、まず、青沼さん。
今回の『トワイライトプリンセス』の
出発点はどこだったんですか?

動画を見る
青沼 まず、『時のオカリナ』以来となる
リアルな『ゼルダ』を作るというのは、
当然、最初にテーマとしてありました。
ただ、そこだけにがっちりと入り込むんじゃなくて
もうちょっと発想を揺さぶってみたかったんですね。
それで、いちばん最初に、
「今回のリンクは狼になるんだよ」という話をしました。
やっぱり何か新しいテーマが必要だと思ったんです。
で、なぜ狼なのかというところは、
もう本当に思いついたというだけのことで、
本当の目的は、それが、みんなが何かを発想するときの
材料のひとつになればいいと思ったんです。
どれくらいみんなが食いついてくるのかな、と
そういう気持ちで「今回は狼だ」って提案しました。
あとで宮本さんにずいぶん怒られましたけどね(笑)。
「四本足の動物を作るのは、
二本足の人間を作るよりもよっぽど大変だぞ」って(笑)。

岩田 そこから始まったものと、いまできあがったものと
比べてみると大きな違いってなんですか?

青沼 やっぱり、こんなに大きなプロジェクトになるとは
あまり想像していなかったですね。

岩田 こんなに大きくするはずじゃなかった?

青沼 少なくとも当初のぼくのイメージでは
これほどの規模になるとは思わなかったですね。
でも、スタッフの頭の中では、
かなり大きな『ゼルダ』になっていたみたいで、
実際、開発が進むにつれてプロジェクトは
どんどん大きくなっていったんですね。
だから、途中で「ちょっとまずいかな」と感じて
軌道修正するためにいろいろやったんですけど、
なんていうか、自然と大きくなっていくものって、
歯止めが利かないところがあるんですよね。
じゃあ、もう、とにかくそこに遊びを詰めていって
埋めていくしかないだろうということで
どんどんいろんな遊びを入れていったんですが、
最後までその大きさには苦労しましたね。
もちろん、それが悪いというわけではなくて、
結果的にスケール感のある『ゼルダ』になりましたし、
大きいことは大きいけれど、
その世界にしっかりと存在する
手応えのある大きさになったと思います。
いま、『ロード・オブ・ザ・リング』とか、
ああいう娯楽大作を見てふつうに過ごしている世代が
リアルな世界を描こうとしたときは、
やっぱりこのくらいのスケール感が必要なのかなと
終わってみて感じているところです。
ただ、まとめるのに苦労したというか、
自分の未熟さを感じたのも事実ですね。

岩田 それは最終的にまとまらなかったってことを
言いたいんじゃなくて──。

青沼 じゃないです。
自信を持ってお届けできるものに仕上がりました。
ただ、いろんな人に助けてもらったということですね。

岩田 青沼さんとしては、
また宮本さんの手をわずらわせてしまったな、と。

青沼 そういうことですね(笑)。
本当は、ちゃぶ台の上は
きれいにしておきたかった(笑)。
ただ、プロジェクトが大きくなっていって、
予期せぬ問題が予期せぬ形で起こっていくなかで
なかなか全部に対応することができなくて。
宮本さんが入ってきて、いろいろと直し始めたときに
「ああ、そこは直したかったんだけど……」
ということがけっこうあったんですね。
ただ、最終的にまとまってきたものは、
いろんな人の手助けがあってこそですけども
非常にいいものができたと思ってますので、
その部分ではとても満足しています。

岩田 『トワイライトプリンセス』は、
当初の予定よりも発売を1年延ばしましたよね。
じつはあれは、「1年延期しませんか?」と
私のほうから宮本さんに提案した
初めてのケースだったんですよ(笑)。
それくらい厳しい状況だなという
認識があったのも事実なんですけど、
なにより私は、つぎに出る『ゼルダ』は
史上最高傑作の『ゼルダ』に
しなければいけないと思っていたんです。

青沼 「120%の『ゼルダ』を」という
キーワードがありましたよね。

岩田 ああ、言ってましたね(笑)。
具体的に何が100%で何が120%なのかと
言われると困るんですが、
とにかく最高の『ゼルダ』にしてもらいたくて
『120%』なんて無茶も言ったうえで
私から1年発売を延ばしてもらう提案をしたんです。
青沼さんは、あの延期をどう受け止めていました?

青沼 待ってもらっているユーザーさんには
本当に申し訳なかったですけど、
正直、ありがたかったっていう気持ちがありましたね。
延期が決まった当時というのは、
おもしろそうな材料は豊富にあったんですが、
まとまりきっていなかったんですよね。
もちろんできている部分もありましたけど、
これじゃまだ遊べないぞ、というところも
たくさんあるような状態でしたから。

岩田 E3にプレイヤブルなものを出展したときに、
すごくいい材料がそろっていることはわかったんですが、
それらがまだバラバラでつながっていなくて、
どうまとめようか、という状態だったんですよね。

青沼 ですから、ぼくにとって1年はありがたかったです。
スタッフたちはどう受け止めてるかわかりません。
ここまでやったのに、まだ1年間やるのか、
みたいなことになったのかもしれないですけど、
彼らが作ってきたものをうまく活かすためにも、
それぐらいの期間は必要だったんだろうと
ぼくは思っていますけれど。

岩田 いや、これまで合計12人のスタッフから
話を聞きましたけれど、
全員「延びてよかった」でした。

青沼 あ、そうですか。よかった(笑)。

岩田 たしかに大変な時間が続くという
印象を持った人がいなかったわけではないし、
延ばすならもっと前からわかっていればって
感じてた人もいたようですが、
でも、よかったというニュアンスでしたね。

青沼 ああ、そうでしたか。
でも、ほんとうに難しいんですよね、
延ばすにしても、延ばさないにしても。
「120%の『ゼルダ』を!」というのも、
ユーザーの方からの期待を考えれば、
大げさではないと思いますし。
それだけの期待に応えなければならないとしたら、
単純に延びるということだけを喜んではいられない。

岩田 発売の延期が決まったころ、
宮本さんはそれまでにできあがっていた
『ゼルダ』をどんなふうに感じていましたか?

宮本 まあ、おもしろいけどぜんぜんダメだね、
という感じでしたね(笑)。
残された時間で、どこを重点的に仕上げようか?・・
と考えると、ちょっと気が遠くなる気分でした。

青沼 (苦笑)。
でも、まさにそういう状態で。

岩田 逆にそこから1年あまりで
よくもまとまったものだと驚くんですよ。
じつは私、今回のインタビューで
開発者のみなさんにきちんと話を聞くまでは、
さすがに『ゼルダ』クラスのゲームだと、
相当トップダウンで指示が下りるんだろうと
想像していたんです。そうじゃないと、
この規模のものはまとまらないだろう、と。
ところがみなさんの話を聞いてみると、
思いのほか、各自がそれぞれにネタを考えている。
どうやら、みんなの中に「『ゼルダ』っぽさ」という
言語化されていない概念のようなものがあって、
その未確定な概念をフィルターのように使って
個々のネタの最終的なすり合わせがなされて、
ひとつの形にまとまっていっているようなんですね。
しかし、20人30人という規模であればまだしも、
70人以上もの人が関わる大きなプロジェクトで
こういうことが行われているというのが
途方もないことのように思えるんですが、
青沼さんはそのあたりをどう思われますか。

青沼 うーん、まさにそういう感じだと思うんですが、
やっぱり重要なのは「『ゼルダ』らしさ」
ということになってくるんですね。
もう、それが唯一よりどころとなる基準になりますから。
ところがおっしゃったように
それってはっきりと決まっているものではないんです。
僕自身、『ゼルダ』らしさみたいなものって
はっきりと言葉にできてなくて、
それじゃダメだなと思いつつ、答えはなかなか出なくて。

岩田 いや、これまでの取材でも、
「『ゼルダ』らしさって、なんですか?」
という質問をみんなにしてみたんですけれど、
やっぱりみんなしどろもどろになって
全然言語化できないという状態だったんです。
でも、一方でやっぱり、全員が感じている
共通の価値観みたいなものが
ものすごくはっきりとあるようにも感じるんですね。

青沼 うん、そうですね。
そういうものがないと作れないですからね。
ただ、なんていうのかな、方程式じゃないけど、
「『ゼルダ』はこうやって作りなさい」という
ガイドのようなものがあれば
そのとおり作るんだろうと思いますけど、
そんなものは絶対ないし、作れない。

岩田 「『ゼルダ』化ガイドライン」
なんてのは作れるわけがない。

青沼 そんなものは作れるわけがないんです。
ぼくらがスタッフに何か言えるとすれば、
「まあ、これまでもいろんなことを悩みながら
『ゼルダ』を作ってきてるんで、
きみらも同じように悩んでよ」
みたいなことだったりするんです(笑)。
そういう意味では、自由に作ってもらってよくて、
もちろん任せっきりにするわけではないですけど、
そのときそのときの若いスタッフが
過去の『ゼルダ』にとらわれずに発想して、
ぼくらはそれをうまく吸い上げて、
ゲームの中に活かしていけばいいと思ってるんですけど。
ただやっぱり、最後にまとめるというときには、
手練れのスタッフがネジを締めていかないといけない。
どこまで自由にやってよくて、
どういうまとめ方をしたらユーザーが納得してくれるか、
みたいなところっていうのは、
やっぱり経験がないと難しいんですね。
アイデアを出して、ふくらますことはけっこうできる。
でも、それをきれいにまとめるというところは、
宮本さんがよく言う「センスが問われる」という部分で。

岩田 うーん、なるほど……。
宮本さんは、
「『ゼルダ』らしさとは何か?」と訊かれたら、
なんと答えることにしてるんですか。
なにか、はっきりと言えることがあるんですか?

宮本 うん、ぼくにとって「『ゼルダ』らしさ」というのは、
「『マリオ』らしさ」ということと
ほとんど変わらないんですけどね。

岩田 それは、なんですか?


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