アナザーストーリー

「紫の日記」にまつわるもう一つのストーリー

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  • プロローグ 放課後・旧会議室
  • 第一話 陰気な男
  • 第二話 顔の無い少年
  • 第三話 人形になった女
  • 第四話 呪文
  • 第五話 図書館の闇
  • エピローグ

WEBサイト限定 アナザーストーリーとは? 開発スタッフが書き下ろした、「紫の日記」に関わった人々の物語です。

陰気な男

『紫の日記』。 それは、私たちのような古い学校によくある、「都市伝説」に登場する一冊の本。私は依子の話のほとんどを聞き流すのが習慣だったが、その単語を聞き流すことはできなかった。その数日前、その「紫の日記」という言葉を、別の人物から聞いていたからだ。それも、とびきり奇妙な形で。

あの日、新聞部顧問の山本先生に呼び出された私は、そこである男を紹介された。 その男性は例の教育実習の先生の関係者だと紹介された。彼氏、いや、兄妹だろうか。 ぱっと見た目は悪くない、むしろイケメンの部類に入る顔立ちだけれど、その男が 纏っている空気を言葉にするなら、「陰気」という言葉しか思いつかなかった。 その陰気男(失礼な呼び方だが、女子高生が見ず知らずの男性につける あだ名にしては、まだマシだと思う)は私に幾つか質問をした。

この地方に伝わる伝承や民話、あと、民謡、音楽について。 それは、私が県の新聞で賞を頂いた記事のことだった。 この地方に伝わる民謡の幾つかに、共通のメロディがあることに気付いた私は、 その発祥と伝播について調べたのだ。海外の古いピアノ曲に似たものを見つけた 私は、遠い昔に海外から伝わったのではないか、という女子高生らしい夢のある オチをつけて纏め上げた。今思うと恥ずかしい文章だ。若さって怖い。 私の回答(どう答えたか正直覚えていないが)を一通りメモした彼は、 最後に一言、付け加えるようにこう言った。 『「紫の日記」という言葉に心当たりはないだろうか。』

都市伝説の?と、少し抜けた声で聞き返すと、陰気男は首を縦に振った。『イマドキの女子高生は、そういう話には興味はないかな…』陰気な印象は変わらなかったが、少し照れたようなその言葉が心に残った。オカルトならちょうど良い情報源がすぐ近くにいる。依子なら、こちらから聞かなくても勝手にぺらぺらと喋り続けるだろう。

『その「紫の日記」について、調べてご連絡差し上げればいいんですか?』女子高生らしい模範的な答えだと自負した私の言葉に、陰気男は意外な反応を示した。突然目を見開いたかと思うと、私にこう言ったのだ。まるで、何かを恐れるように。『あれを見て……、いや、調べてはいけない。すまない、忘れてくれ。』話はそれでおしまいだった。

その反応に少し頭の冷えた私は、ようやく目の前の陰気男の分析に入っていた。 質問のしかたといい、相手への気配りといい、手馴れたものだ。取材慣れしている。 少なくともうら若き女子高生相手に落ち着いたものだ。性格は顔立ちに出るが、その顔も悪くない。 陰気なのは持って生まれた性格ではなく、酷く疲れたような印象がそう見せるのだろう。「陰気男」なんてニックネームは失礼にあたるかも知れない。などと考えているうちに、私は応接室から追い出されてしまった。 「イケメン陰気男」の新しいニックネームを思いつく前に。 もう少し顔をじっくり見ておけば良かった。まあ、私がこのイケメン陰気男と会うこともないだろうけど。 …その時はそう思っていた。

ふと我に返ると、依子が何か話したそうな顔でこちらを見ている。ちょうど良い、「紫の日記」についての情報をべらべら喋ってもらおう。珍しく、私は依子の話に耳を傾けることにした。 第二話へ続く

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