社長が訊く
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社長が訊く『ファイアーエムブレム 覚醒』

社長が訊く『ファイアーエムブレム 覚醒』

目次

2. “超集大成”をつくっちゃった

岩田

それで、どうやって出口から抜け出せたんですか?

山上

じつは、出口を見つけられないまま、
『新・紋章の謎』の制作がおわりに近づいて、
次の話を決めなきゃいけない時期になってしまったんです。
そこで樋口さんと前田さんに、
「完全脱却を目指すんじゃなくて、
 これまでの『エムブレム』の“集大成”はどうですか?」
と提案したら、2人の目がキラーンって輝いたんです(笑)。
それで出てきた案が、今作のベースになったものです。

岩田

キラーンと目が輝いたのは、自覚されていますか?

樋口

そうですね(笑)。
“集大成”というテーマは考えやすいフィールドでしたので、
ほぼ1カ月で企画がまとまりました。

岩田

でも集大成と言ったら、
すべてが解決するわけじゃないですよね?
「あの作品のここがいい」という意見は
割れそうな気がするんですけど、どうでしたか?

前田

はい。やっぱりいろんな意見がありまして、
全社員に向けてアンケートをとったりもしました。
その結果、今回は『エムブレム』の面白さとして、
“キャラクターを好きになる要素”に集約して、
各作品のいいところを合わせることができました。

岩田

それをまとめていく過程から、
横田さんはけっこうかかわっていましたか?

横田

はい、いつの間にか・・・。

岩田

『エムブレム』ファンの横田さんが現れて、
みなさんは「話のわかるディレクターがきた!」と
思ったんでしょうか?(笑)

前田

非常にありがたかったです(笑)。

草木原

波長が合っていました。
動き出してからは歯車が噛み合った状態で、
最後まで回りきった感じがします。

前田

過去作を全部知っていただいているから、
たとえば「この要素とこの要素を組み合わせたらいい」
といった話もスムーズに共有できてよかったです。

横田

ポジティブな方向性で
意見を取り交わせたことが印象に残っていて
本当に楽しかったです(笑)。

山上

スタートしてからは、一気にできた気がしますね。

成広

きっと“超、集大成”をつくっちゃったからじゃないですかね。

岩田

“超集大成”とは、どういう意味ですか?

成広

先ほど岩田さんがおっしゃったように、
集大成をまとめるにはいろんな意見が出てきましたけど、
「テーマを達成するものは、なんでも入れましょう!」
って感じで、現場のパワーが
あらゆることを実現しちゃったというか、
ブレが少なかったので、“集大成”を超える
“超集大成”ができたんだと思います。

岩田

どんどん要素を足していくと、
いろんな矛盾と戦うことになるし、
システムをひとつ入れるだけで、
やらなきゃいけないことがかけ算で増えていきますね。
でも、それをものともしない現場のノリがあった、
ということなんですか。

成広

そうなんです。そのパワーがあったから、
いろんなものを柔軟に吸収していけたと思います。

樋口

たとえば、オンマップユニット(※5)ひとつとっても、
こちらは最低限、それがどの兵種かわかるだけでいい、
という想定だったんですが、現場のオンマップ担当班から
「せっかくいろいろな兵種になれるシステムが入ってるんだから、
 オンマップ上でもキャラクターに応じて顔を変えさせてほしい!」
と強い意見がありまして、それをやるだけで
作業量がものすごく跳ね上がるんですけど、
「よし、やっちゃおう!」みたいな話もありました。

※5
オンマップユニット=マップ上で各キャラクターを示すアイコンのこと。

岩田

みんなが仕事を爆発的に増やしながら、
前向きに進んでいった感じなんですね。

樋口

はい、仕事をボコボコ増やしながらも、
「全部吸収してやる!」ってパワーがありました。

岩田

それで、ちょっと離れて見ていた成広さんは、
これは集大成どころか“超集大成”だと思ったんですね。

成広

そうです(笑)。
客観的に見たときに、
これだけの量ができるか心配でしたけど、
ちゃんと乗り越えてくれて“超集大成”ができました。

前田

チームの誰もが、
「これ入れたい」「これやったらもっと面白い」
と言ってくれて、それを実際にやってくれたことで、
どんどん量も面白さも増えていった気がします。

横田

今回は“キャラクターへの愛”が大きなテーマなので
徹底してやってよかったと思います。
プレイされる方全員が見るとは限らないんですが、
「あ、ここもこの絵が用意されていたんだ」
と思ってもらえるだけで、
キャラへの愛着が高まると思うんです。

岩田

全員、見る場所じゃないところも徹底したんですね。

前田

はい。あと今回、“絆”がテーマのひとつでもあるので、
仲間同士の絆をシステム上でも表現しようということで、
近くの仲間と共闘する“デュアル”システム
新しく入れています。
最初のうち、2人でもそんなに強くないんですが、
仲間同士が仲良くなればなるほど強くなっていきます。

岩田

いままでにないものですから、
全体のバランスには悩ましい問題を生みますよね。

横田

はい。
「2対1は『エムブレム』的にタブーでは?」
みたいな話もあったんです。
でも、“絆”という概念がない敵は2人になれない、
ということから、プレイヤーにとって有利に働くので
入れることにしました。それに、
「仲がいいキャラ同士が共闘するのは単純にうれしい」とか、
「逆に離れて戦わせる」とか、
いろんなプレイの仕方が出てくると思います。

山上

それと、バトルのテンポもよくなるんですよね。
僕はさっさと攻め上がってしまうので、
いつも危なくなるタイプなんですけど、
隣りにキャラを置いておくと勝手に攻撃してくれるんで、
「仲良くさせよう」っていう気持ちになるんです。
絆を意識しながら遊べるので、
「非常にいい仕組みだな」と思いました。

岩田

ああ、そうか。
デュアルシステムによって
キャラクターへの感情移入もいっしょに強化されるんですね。

前田

それにバトル中もキャラクターがしゃべりますから、
ますます愛着が湧いてくれるんじゃないかと。

岩田

ああ、 ボイスがついているのも今作の特徴ですね。

横田

「声があったほうがキャラクターを
 よりイメージしやすいかな」と思って、
「ボイスは当然でしょう・・・」みたいな感じで
自然に決まったような気がします(笑)。
ただ、フルボイスにしてしまうと容量が膨大になりますし、
会話のテンポを重視したかったので、
今回は短いボイスで雰囲気を出す形で使っています。

樋口

新作だからこそ、入れられるものは全部入れてみました。
著名な方も割り当てているので、
「あ、このキャラクターはこの声優さんの声なんだ」
と気づいてもらえることもあるんじゃないかなと思います。

岩田

えっ、男女じゃなくても?

前田

まあ、愛ということで(笑)。

岩田

テーマは愛と絆、ですからね(笑)。