社長が訊く
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社長が訊く『ファイアーエムブレム 覚醒』

社長が訊く『ファイアーエムブレム 覚醒』

目次

5. 『ファイアーエムブレム』らしさとは?

岩田

あと、任天堂のパッケージタイトルとしてはじめて、
追加コンテンツの配信(※9)がありますね。
「超集大成と追加コンテンツって、じつは相性がいい面もあるかな」
と想像しているんです。というのも、本編だけでは
システムのポテンシャルを使いきれない気がしていて。

※9
追加コンテンツの配信=ソフトには収録されていない新たなマップとエピソードをセットで追加コンテンツとして有料配信。追加コンテンツ第一弾は、2012年4月19日から5月31日まで無料で配信される。

横田

そうですね。
じつは、追加コンテンツの話は
開発終盤に来まして、
追加データをダウンロードしてきて
動かす仕組みを入れるだけでも
スケジュール的にかなり不安でしたので
「やりましょう」ではなく、一応「どうします?」って
イズさんに相談したんですけど・・・。

樋口

ええっ!?
いやいや「もう、決まりました」って感じでしたよ。
「おおいっ!」ってなりましたけど、
でも・・・やっちゃいました(笑)。

横田

す、すみません(笑)。
でも、そのときも前田さんから
本当にポジティブな意見を出してもらいました。

前田

もともとお話をもらったその時点では、
ソフトに入るものはだいたいできていて、
それこそいままででいちばん多いボリュームだったんです。
でも「完結した本編に加えて、また別のエピソードを追加できたら、
新たな楽しみになるかな」と思いました。
それに・・・本編の制作はおわってしまうけれども
追加コンテンツならまだつくれますし。

岩田

あー、これだけつくっても、
まだつくりたかったんですね。

一同

(笑)

前田

はい(笑)。
まだまだ入れたかったものがありまして、
「そういうのを追加できるのはいいなぁ」と。

コザキ

「前田さん、もしかして本当にこれが最後だと
 思っているんじゃないかな」
くらいの気迫でしたよね(笑)。

前田

まあ、「追加コンテンツを買わないと中身が薄いのでは」
と思われる懸念があるので、大前提として
本編もちゃんとしたものでないといけないんです。

岩田

追加コンテンツ対応にするってことは、
「買わないと薄い」という批判を絶対に受けないぐらい、
本編を仕上げるという課題が、同時に生まれますからね。

山上

もっとも、追加コンテンツの話が来た時点で
本編の制作はほぼ完結していましたから、
そもそも本編から話を抜いたり、
いじったりはできなかったんです。
「追加コンテンツをダウンロードできるローダーさえつくれば、
 あとでいろいろつくれるね」ってノリでつくれました。

岩田

じゃあ、みんながもっとつくりたかったところに、
この話が理想的に舞い込んだんですね。
あえて訊きますが・・・
そのころ、みなさんは疲れていませんでしたか?

一同

・・・・・・(沈黙)

岩田

ええと、この沈黙は・・・(笑)。

前田

僕は正直、大喜びでした!

一同

(爆笑)

横田

さすがです!!(笑)

前田

じつは、いまも追加マップをつくっている最中なんです。
これからもさらに、いろいろつくれるという
仕組みはいいなあ、と・・・。
あれ? みなさんはどうでしたか?

横田

僕は・・・システム的にけっこう不安でした。

山上

「追加コンテンツを購入していない場合、
 未購入アイテムをどう表示するか」とか、
そういう矛盾にひやひやしたよね。

岩田

まだ対応事例の少ないチャレンジでしたからね。
こうやって超集大成をつくってみると、
“『エムブレム』らしさ”ってなんだったのかが
また一段、理解が変わってきませんか?

成広

個人的な見解かもしれないですけど、
今作ではとくによく表れていると思います。
『エムブレム』は昔から、
シミュレーションの緊張感とストーリー、
という二本立ての視点で話されていますけど、
とくにシミュレーションで言うところの
コマとコマのストーリーや関係性を楽しむ部分が
すごく大きかったんです。
今回、それが“デュアル”や“結婚”みたいに
システムにもダイレクトに入っているし、
ユニット同士の関係性がとてもよく描かれています。

岩田

膨大な組み合わせによる
作業量増大にもめげずに、ですよね。

成広

はい。やっぱりキャラクター同士の関係性が育まれるほど、
プレイした人の数だけ歴史が生まれていくので、
これだけゲームに入り込めるんだなと
『エムブレム』らしさを再認識できました。
だから“絆”という目に見えないものを感じてもらう
遊びに仕上がっていると思います。

岩田

樋口さんはどうですか?

樋口

キャラクターの会話劇や世界観、
友だちや恋人、親子などキャラクター同士の絆が
つながって大きな集団になっていって、
キャラクターみんなが生きてゲームに参加している、
と感じさせるところが『エムブレム』らしさだと思います。
キャラクター同士の絆が上がって会話が増えていくと、
もっともっと会話をしたくなるんです。
その一方で、シミュレーションで緊張感あるゲームを
楽しめるところが『エムブレム』らしさだと思います。

岩田

はい。前田さんはどうですか?

前田

今作についての『エムブレム』らしさは
“愛”だなと思います。
「キャラクターが好き」とか、「この絵が好き」とか、
「台詞が好き」「活躍してくれて好き」「強く育ってくれて好き」
「このキャラとこのキャラの友情、恋愛、親子愛の絆が好き」とか。
そういうところがすごく楽しいところだと再認識しました。
また、すれちがい通信(※10)の“すれちがいマイチーム”や、
ほかの人との協力プレイで自慢のキャラを見せ合うのも、
キャラに対するひとつの愛の形だと思います。

※10
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。今作『ファイアーエムブレム 覚醒』では、自分で育てたチームをすれちがい通信で送ることができる。

岩田

はい。草木原さんはどうですか?

草木原

僕自身、『エムブレム』シリーズは、
最初のタイトル(※11)と外伝(※12)
大好きでよく遊んでいたのですが、
初心を思い出すと「本当にファミコンの中に世界がある」
と思いながら遊んでいたんですね。
今回もその気持ちを思い出しつつ、遊んでいた当時、
自分の脳内でふくらませていた風景を具現化しながら、
いまの方たちに世界観を感じてもらえるよう
ビジュアルづくりを目指しました。
『エムブレム』らしさに関しては、
そういう厚みがある世界の中で、
ちゃんと人間が命をもって
生きているように感じられるところだと思います。
あとは、前田の野望をいかに叶えるかに尽力しました。

※11
最初のタイトル=『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』。1990年4月に、ファミコンソフトとして発売されたシミュレーションRPG。
※12
外伝=『ファイアーエムブレム 外伝』。1992年3月に、ファミコンソフトとして発売されたシミュレーションRPG。

岩田

はい。コザキさんは『エムブレム』らしさについて、
何か印象が変わりましたか?

コザキ

そうですね。
シミュレーションRPGってそもそも、
現実世界で人とのつながりや会話に気持ちよさを
感じる人ほど、夢中になりやすいものだと思っているんです。
プレイヤーの方はいろんなキャラクターに
感情移入すると思うんですが、
とにかくビジュアル的なつくりとしては、
“どのキャラもクラスにいたら好きになれそうなヤツ”
ということを肝に銘じて、デザインしたつもりです。

岩田

前田さんの話と通じるものがありますね。
では、ずっとファンだった横田さんは?

横田

僕の『エムブレム』らしさは、
「選択肢の多さ」かなと思っています。
たとえば、「どのキャラクターを育てよう」とか、
「この子とこの子を組み合わせよう」とか、
「この武器を持たせよう」とか、
「この章はこうクリアしよう」とか、とにかく選択肢が多い。

岩田

まさに自分だけの冒険になるんですよね。

横田

そうなんです。
冒険を友だちと語り合うのが楽しくて、
それこそが『エムブレム』の魅力なんです。
今回も変わらない魅力だと思いますし、
集大成ってことで「さらに強化できていたらいいなあ」
と思います。

岩田

山上さんは?

山上

通常のRPGは、主人公と数名の物語ですよね。
でも『エムブレム』は大勢のキャラクターに対して、
誰に感情を抱いても構わないんです。
その子を一生懸命育てることによって、
自分の物語を紡いでいくのが『エムブレム』です。
ただこれまでは、どこまでいっても
想像力で補わざるを得ない部分があったんです。

今回、いちばんうれしいところは、
システムと世界がより融合したところです。
つまり愛をもって育てたこの子とあの子を仲良くしたい場合、
“デュアル”システムでいっしょに戦ってくれるし、
絆が深まるほど共闘が有利になっていくし、
自分の期待にゲームが応えてくれるんです。

岩田

そうですね。

山上

つまり、感情を育めば育むほど、
そのキャラクターが思いどおりに育っていきます。
本当の意味で、感覚的な“情”の部分が、
はっきりとゲーム側から返ってくる。
そんな『エムブレム』らしさを
感じてもらえるんじゃないかと思います。

岩田

はい、ありがとうございます。
みなさん、表現は違いますが、
『エムブレム』らしさについて
非常に近いことを話してくれたような気がします。