社長が訊く
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社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

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社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

オリジナルスタッフ 篇 その2

目次

2. キャラクターをつくる

岩田

春花さんはキャラクターのデザイン担当で、
滝澤さんは敵やボスを担当していたということですけど、
役割分担はどのように決まったんですか?

滝澤

えー・・・なんとなく、そうなったような・・・。

春花

じつは、最初にチームに入ったとき、
僕も数体の敵をつくったんです。
ところが、やってるうちに「オレ、向いてないな」と。

岩田

敵をつくるのが苦手だった、ということですか?

春花

いえ、苦手というか、
滝澤さんのほうが、はるかに上手なんです。
横で見ていたら、どんどんいいものがあがってくるので、
自然と腰がひけてしまったというか(笑)。

岩田

ちなみに、春花さんがつくった敵は何だったんですか?

春花

スタルチュラとリザルフォスに・・・。

滝澤

ガイコツとトカゲ系などですね。

岩田

そもそも『ゼルダ』のキャラクターというのは、
すごく個性的なものが多いですよね。

春花

はい。

岩田

あのような見たこともないキャラクターは、
どうやって生まれるんですか?

春花

僕はただ、無邪気に描いていただけなんですが・・・。

岩田

たとえば、「個性的にしてくれ」みたいに、
誰かがオーダーをしてくるんですか?

春花

いえ、そういう話はなかったんですが、
ときおり無茶なオーダーがあって。
たとえば「幽霊を買ってくれる人を描いてくれ」とか。
でも、そんな人、見たことないじゃないですか(笑)。
「幽霊を買う人ってなんだ?」と思いつつも、
そういうオーダーに対して
「どうこなしてやろうか・・・」と
いつもニヤニヤ考えながら絵を描いていました。
 
ただ、キャラクターというのは
見た目の部分がすごく注目されやすいんですけど、
彼らがしゃべるセリフや、
デモ映像などでどういうお芝居がつくのか
といったことが相まったうえで、
最終的に「個性的だ」という評価を
いただけているような気がするんです。

岩田

つまりその個性は、
春花さんがひとりで生み出したものではないということですか。

春花

そう思っています。
みんなとのセッションの産物なんです。

岩田

より強烈で個性的なキャラクターになるのは、
自分ひとりのアウトプットではなく、
たくさんの人がアイデアを足していった結果なんですね。

春花

はい。
僕の仕事は最初に“かたち”にすることなんですが、
大澤さんのシナリオのなかには
“タネ”のようなものしかないんです。

岩田

シナリオには、そのキャラクターに求められる、
ある種の機能みたいなものが
文字で書かれているだけなんですよね。

春花

そうなんです。
こういう役割をするキャラクターだから、
デザインはこうあるべきだろう、と
自分なりに解釈して、たとえば、
デスマウンテンに住むゴロンも好きなように描きました。

岩田

最初に“かたち”にするとき、
周りの人たちを「おおっ!」と言わせたい、
みたいな“イタズラ心”もあったんでしょう?

春花

それはありますね(笑)。
「まずはスタッフたちにウケたい!」と思います。
自分が無邪気に描いたものを
周りの人に「どう?」と見せて、
そのときにニコニコするかどうか、ということが
自分自身のひとつのフィルターになっていて、
そこでいい感触なら、その方向性でどんどんデフォルメして
仕上げていく・・・ということを繰り返していました。

岩田

その結果、個性的なキャラクターが
どんどん生まれていったわけですね。

春花

そうですね。
でも、いま思い出すと・・・
その「ウケたい!」という気持ちすら
当時は少なかったかもしれないです。
あの、というのも、あのときの僕は
ちょっと変だったのかもしれないですけど、
まるで自動書記をしているような感じで・・・。

岩田

え? 自動書記のように
次から次にキャラクターを描いていたんですか?

春花

恥ずかしながら、そうなんです。
頭のなかに浮かんだものを
僕はただ、次から次に描いていただけだったんです。

岩田

・・・春花さんは先ほどから
「無邪気に描いていた」と、繰り返し言っていますけど、
まさにそういうことでもあるんですね。

春花

はい。それくらい自然体でやっていた感じでした。
自分自身が、『時のオカリナ』の世界に
どっぷり浸かって、ひたすら絵を描いていた状態だったので、
ゴールも見えなかったんだと思います。

岩田

なるほど。

春花

ただ、そもそも『時のオカリナ』は、
たくさんの広大なフィールドがあって、
あちこちにキャラクターがいっぱい出てくるので、
どこにどんな人がいたか、ということは
しっかり印象づける必要があるだろう、と
若いなりにそんなことを考えてやっていました。

岩田

ああ、だから一度見たら忘れられないような
キャラクターをつくる必要があったんですね。

春花

そうです。たとえば、
「あの角を曲がったら、こういう人がいる」
ということを、ちゃんと思い出してもらえるように、
そこはすごく意識して描いていました。
それと、キャラクターって基本的に人なので
“顔”が大事というイメージがあると思うんですが、
僕はむしろ“フォルム”を気にしています。
フォルムを先に練って、あとで顔を考えることもあるんです。
顔のアップだけでゲームは進みませんし、
顔をあれこれ考えるよりも、
“キャラクターのかたち”そのものが印象的であるほうが、
見た人にとってフックになると思っているんです。

青沼

一度見たら忘れられないキャラクターといえば、
大妖精もそのひとりですよね。

岩田

超ドハデな大妖精ですね。

青沼

僕はあれを初めて見たとき、
ニコニコするどころか、のけぞってしまったんですよ(笑)。

一同

(笑)

青沼

「オーホッホッホッ」と言いながら登場してきたので、
夢に出てくるんじゃないかと思ったくらいで(笑)。
あのようなキャラクターは
この人じゃないと、描けないと思います。

春花

いや、ありがとうございます(笑)。

青沼

あのキャラクターについても
「超ドハデな妖精をつくってほしい」
というようなリクエストが
最初にあったわけじゃないんでしょ?

春花

そうですね、ありませんでした。
やっぱり、妖精らしいものを
素直に描いてもつまらないですから。
あの、さっき“フォルム”の話をしましたけど、
“イメージとのギャップ”も大事にしていて。
なので、最低でも「半歩はズラしたい」というか・・・。

森田

あれで半歩なんですか?(笑)

春花

え? ああ、あれは3歩くらい・・・
いや、4歩くらい・・・ズレていたかもしれないです(笑)。

一同

(笑)