社長が訊く
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社長が訊く『スーパーマリオ 3Dランド』

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社長が訊く『スーパーマリオ 3Dランド』

プロデューサー 篇

目次

4. 「踏む」ってなんだ?

岩田

では、そろそろ具体的な商品の話をしていきます。
おすすめの仕様などを教えてもらえますか?

林田

今回、アシストシステムで、
アシストブロックから出てくる「 無敵このは」は
手塚さんにすごく好評でした(笑)。

手塚

はい。僕、そんなにゲームがうまくないんですね。
それでどうしても進めないところは
「無敵このは」にだいぶ助けられました。
助けてくれるさじ加減がちょうどよくて、
それなりに頑張らないとクリアできないし、
「次は使わないでクリアしよう」
っていう気持ちになります。
あと、コース自体がコンパクトなので緊張感が保てるし、
「ここからここまで何とかしてほしい!」っていう要望に
応えてくれるアイテムが、「無敵このは」なんです。

岩田

「無敵このは」は、どうして生まれたんですか?

宮本

モニター中に気づいたんですよね。

林田

そうです。
モニターの方が、どうしても進めないところがあって、
パタパタの羽」でコース自体を飛ばしてもらおうとしたら、
「本当はこの進めないところがやりたかったんです・・・」
って言われてしまって。
その方はたまたまタヌキマリオのときは、そこを進めたんです。
それなら、できないところまで
無敵状態にしてタヌキマリオをずっと継続できていれば
進めるんじゃないか、と思ったんです。
手塚さんが「すごくよかった」と言ってくれたので、
これはいけると確信しました。

手塚

普通はこんな仕様はスーパーすぎるんですけど、
ゲームが苦手な人にとっては、
こういう大らかなものが案外いいんです。

岩田

どういう条件で出るんですか?

林田

5回ミスすると出てきます。
それも手塚さんとのやりとりで決まったんですが、
はじめは8回の予定でした。

手塚

自分でプレイして8回は多いなと感じたんです。
プレイヤーとしての自分を信じて、5回と提案しました。

岩田

『Newマリオ』(※8)の「おてほんプレイ」が何回で出るか
という熱い議論が思い出されますね。
8という数は『Newマリオ』が参考になっているんですか?

※8
『Newマリオ』=『New スーパーマリオブラザーズ Wii』。2009年12月に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

林田

そのとおりです。
最初は『Newマリオ』にならって、
「無敵このは」が8回、
「パタパタの羽」は16回だったんですが・・・。

岩田

16回の前に、あきらめてしまいそうですもんね(笑)。

林田

はい(笑)。
でも、手塚さんに「5回」と言ってもらえたので、
5回と10回というおさまりのいい感じになりました。
あと、「無敵このは」は、とにかく何でも壊していけるので、
DSの『Newマリオ』の「巨大マリオ」(※9)に近いものを感じます。

※9
DSの『Newマリオ』の「巨大マリオ」=2006年5月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたアクションゲーム、『Newスーパーマリオブラザーズ』で新しく登場した変身マリオ。巨大キノコを取ると巨大マリオに変身し、敵はもちろん、ブロックや土管などを体当たりで壊しながら進むことができる。

岩田

まさに手塚さんの「うれしいからええやん」ですね(笑)。

林田

そのあたりも、手塚さんの
琴線に触れることができたのかなと思います。

岩田

今回、ユーザー目線評価(※10)を行いましたが、
どんな意見が出ましたか?

※10
ユーザー目線評価=任天堂で行う新作ソフトの評価システム。製造本部のベテラン社員にお客さんの視点で遊んでもらい、評価レポートを書いてもらう。

林田

いろいろと意見を聞いたなかで、
初心者が、時間はかかるけれど挫折することなく
かなり進めた、という話を聞いて、
改めて「無敵このは」と「パタパタの羽」は有効だな、と思いました。
だからこれまでのシリーズが難しかった方でも、
最後まで進めるかたちになっていると思います。

宮本

ユーザー目線評価のレポートには、
すごく勇気づけられるんです。
決してゲームに慣れているわけではないベテラン社員から
「伝えよう」という意欲が伝わってくるレポートに感動します。

林田

ありがたかったですね。

岩田

宮本さんが手ごたえを感じたところはどこですか?

宮本

やっぱり「踏む」という動作です。
それまでの3Dマリオは
「3Dとして破綻をきたさない」ことを大切にしていたんです。
ところが今回はアクションゲームとして、
踏んで楽しめるようにしたくて、
意識的に動きに細工しました。

岩田

「踏む」とはどういうことかということを
改めて定義していましたよね。

宮本

はい。「踏むとは?」を本格的に定義すると
すごく大変なんですが、
本人がプレイして「踏んだ!」と感じるには
3Dのなかで本物らしい動きをするよりも、
ちょっとウソが入っているほうがいいんです。

岩田

お客さんにとっては、そのほうが
自然に遊んでいる感覚になるんですね。

宮本

そうなんです。
じつは今回の『3Dランド』では、
ジャンプ中にマリオが向きを変える仕様を入れています。
これは、実際ではありえない動作なんですが、
「踏む」という動作を、「踏んだ!」と
感じ取れるアクションにするためには重要でした。
昔は、そういった感覚的におかしい動作を入れることに
かたくなで、「空中でジャンプしたマリオが
くるくる向きを変えるのはご法度」って、
こだわっていたんですけどね。
でも、しばらく遊んでみると、
自分にとってプラスになるので
だんだんと許せるようになってきたんです。

林田

ひとつ、補足をすると
初代『マリオ』は、ジャンプ中に
逆方向にボタンを入れてもマリオの向きはそのままです。
けれども、『マリオ3』は
逆方向にボタンを入れたら向きが変わるんです。
それはたぶん、『マリオ3』にはタヌキマリオがあるからで、
タヌキマリオで空中を方向転換するときに
マリオが向きを変えずに一方向にしか飛ばないのはおかしいので、
そのような動きにせざるを得なかったと思うのですが、
今回の『3Dランド』でその仕様が入ったときに、
クリボーとかいろいろなものが
踏みやすくなったんじゃないかなと思います。

宮本

そうやってプレイヤー視点でマリオの動作を修正したら、
3Dマリオよりも2Dマリオの感じになってきた、
という手ごたえを感じました。
だから『3Dランド』は「2Dマリオ的3Dゲーム」なんですよ。
今後、それをテーマにすると
いろいろなものができるかもしれないですね。

岩田

宮本さんが、プログラムの深いところに
入っている様子が面白いですね。

宮本

それに、立体視のマリオということでも、
はじめてのことにたくさん挑戦する面白さがあります。

岩田

まさに、道なき道を走っていく面白さですね。

宮本

そうです。
そのなかで新たに編み出したことは
やっぱりうれしくて仕方がないわけですよ。
それを糧にして仕事をするようなところがあります。

岩田

いまの話を訊いていると、
若き日の小泉さんが『マリオ64』などを
宮本さんとつくっていたことを思い出しませんか?

小泉

ええ、そうですね。
新しいものについては、
そもそも誰もやっていないことに正解はないので
どれも正しく見えてしまうというジレンマはありますけれど、
宮本さんは「ここが正解だ」と決めてくれるので、
そこは頼らせてもらいました。

岩田

手塚さんの手ごたえはいかがでした?

手塚

じつは、最初に遊んだときは
「立体視でのクリアは無理かも?」って思ったんです。
プレイ中についニンテンドー3DS本体を動かしてしまうので、
立体視のマリオがブレてしまうんですよ。
でも、前回の「社長が訊く」にも出てきましたが
宮本さんの指摘で「おすすめビュー」が入って、
そこから立体視の手ごたえを感じました。

林田

あれは指摘してもらえて本当によかったです。
僕らはずっと開発していると、頭と本体の位置を固定して
画面がブレないように遊ぶことに慣れてしまっていたので、
指摘されるまで気づかなかったんです。
でもマリオがブレない3Dのアクションゲームとして、
最終的に答えが出せたので非常によかったです。

手塚

いやあ、やすやすとあきらめてしまうところでしたので
いい勉強になりました。

岩田

と、マリオの大ベテランが言いました(笑)。

宮本

情報開発本部制作部の部長なのに
「3DSのことがわかりました」と言う手塚さん・・・。
ま、手塚さんはこの距離感がいいんですけど。

一同

(笑)