前作の『覚醒』は、
いろんなところで高い評価をいただきながらも
シナリオに関しては、不満の声が聞かれたんですね？

そうなんです。
ゲーム内容やグラフィックなどの部分で、
高い評価をいただいたところもあったのですが、
その一方で、シナリオに関しては、
「もう一歩、がんばってほしい」
というような声もいただきまして・・・。

『覚醒』の物語は、それまでと路線を変えることで、
おもに、初めて遊んでいただいたお客様には
ご好評をいただきました。
一方で、おもに昔ながらのシリーズファンで、
より複雑で重厚な物語を求めるお客様には
物足りなさがあったように感じていました。

そういったご意見を真摯に受け止めまして、
「次はみなさんに満足していただけるような
　シナリオにしよう」ということで
準備をはじめたんです。
ところが、「３本を同時につくる」
という話になったものですから・・・。

シナリオの質を高めるだけでなく、
３本分も書かなければならなくなったと。
それはたいへんですね。

そうなんです。
ゲームを３本つくるだけでもたいへんなのに、
３本分のシナリオを、社内でまかなうのは無理だ、
という話になりまして、
まず、外部で原作を書いていただける人がいないか、
ゲーム業界で探しはじめたんですけど、
難航してしまいまして・・・。
そこで、ゲーム業界でなく、
出版や映画などの、ほかの業界に
原作をしっかり書ききれる方はいないだろうか
という話になったときに、
前田が突然言い出したんです。
「樹林伸さんはいかがでしょう？」と。

そうですね。僕が社内のスタッフの前で
「樹林伸さんという方がおられるんです」
と言ったんですけど、最初はみんな
ぽかーんとしていたんです。

作品と人がつながってないんですね。

そうなんです。

でも、樹林さん原作のエンターテインメントに、
一切ふれずに大人になった人って、
あまりいないと思うのですが・・・。

ですよね。なかには
「樹林さんって、『ＭＭＲ』^（※21）に出てくる
　キバヤシ隊長ですか？ あの人って実在したんですか？」
と言う人もいたりしまして（笑）。

あれは僕がモデルなんですけどね（笑）。

（笑）

そもそも樹林さんは、
たくさんのペンネームをお持ちで、
作品によって、それを使い分けておられるんですよね。
たとえば、『金田一少年の事件簿』では
天樹征丸さんの名義ですし。

そこで前田が、樹林さんのかかわってきた
作品の数々を説明したんですけど、
すると、みんながのけぞりながら、
「な・・・・なんだってー！！」^（※22）と（笑）。

（小声で）出た（笑）。

「とても有名な方じゃないですか！」と、
みんなはすごく驚いたんです。
で、ディレクターの前田が
「樹林さんといっしょにぜひ仕事をしたい」
と、強く言ってることだし、
自分としてもなんとかしようと思ったんですけど、
すごく困ったことが１点ありまして・・・。

はい？

樹林さんにどうやって会えばいいのか、
まったくわからなかったんです。

ゲーム業界におられる方ではないですし、
連載に次ぐ連載でお忙しいでしょうから、
コンタクトをとるのはやっぱり容易ではないですよね。

ですので、それこそ、いろんな方に
「樹林さんに会うことはできないでしょうか」
と、相談したんですけど
ルートをまったく見つけることができなかったんです。
それで途方に暮れてしまったときに、
今回のイラストも担当していただいているコザキさん・・・。

コザキユースケさん^（※23）ですね。

はい。コザキさんと打ち合わせをしているときに
「すごく有名な原作者とお話をしたいんですけど、
　なかなかつながらないんです」という話をしたんです。
すると、コザキさんは
「その原作者って樹林さんのことですか？」と。

言い当てられたんですね（笑）。

そうです。いきなり言い当てられたことに
とても驚いたんですけど、コザキさんは
「樹林さんだったら、編集者を通じて
　つながるかもしれないですよ」
とおっしゃったんです。

たまたまなんですけど、
コザキさんと僕の担当編集者が
同じ人だったんです。

ああ、そうだったんですね。

そこで、渡りに船とばかりに
その場でコザキさんに「ぜひつないでください！」
と頼み込んだんです。すると、
「樹林さんはかなり忙しい方なので、
　９０パーセントは断られると思ってください」と。

可能性は１０パーセントもないという話でしたね。

それで２０１２年の１２月に、
お会いする機会を設けていただいたんです。

場所はファミレスだったんですけど（笑）。

仕事の合間だったんですよね。
出版社で打ち合わせがあって、
その前にファミレスで会ったんです。

で、そのファミレスで
僕と前田はがちがちになりながら・・・。

あのとき、めちゃ緊張してましたよね？（笑）

はい（笑）。

まず最初に、前田さんから
企画書をいただいたんですけど、
その企画書を持った手がぶるぶる震えてましたから。
「大丈夫かなあ、この人」と思ったんです（笑）。

（笑）

前田さんは、自分でもシナリオを書く人なので、
とくに緊張したんだと思いますね。

わたしにとって樹林さんは
“神”のような存在なんです。
なので「ああ、目の前に神がいる・・・」と（笑）。

そのときの前田さんの頭のなかでは、
きっと文字が流れていたでしょうね。
「神降臨！キター！！！」^（※24）みたいに（笑）。

（笑）

さっき、前田さんは
「可能性は１０パーセントもない」
という話をしていましたよね。

はい。

でも、そのときの僕は
１００パーセント、断る気持ちだったんです。

それなのに、
どうして会うことにしたんですか？

せっかく仲介してくれた
編集者の顔を立てようということなんです。
それに、当時は連載を４、５本、抱えていましたし、
準備している企画もいっぱい動いていたんです。
なので「会うけど、仕事を受けるのは
スケジュール的に無理ですよ」と言うと、
「会うだけでも、ぜんぜんＯＫですから」
と、担当の編集者が言うので、会うことにしたんですね。
すると、すごく緊張はしているけれども・・・。

ええ（笑）。

「どうして僕のところに話を持ってきたの？」
と聞いたら、前田さんは僕の作品のほとんどを
読んだり、見たりしてくれていて
とても驚いたんです。

部分的に樹林さんの作品を知っている人は
世の中にはたくさんいると思いますが、
ほとんどの作品を読んだり見たりしている人となると
そんなにいないですよね。

はい。なので、この出会い自体に
とても意味があるかもしれないな、と思いまして
「ゲームをやってみないことには、
　答えを出しようがないので」ということで、
とりあえず『覚醒』を２本、あずかることにしたんです。
そのときも、もちろん
断ることが前提にあったんですけどね（笑）。