社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第17回:『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D』

目次

2. ラスボスは“サービス”

岩田

犬塚さんは、もう20年も
堀井さんと仕事をされているということですが、
最初、堀井さんとはどのように出会ったんですか?

犬塚

そこはわりとシンプルな話なんです。
当時、わたしが新卒でエニックス(※11)に入って、
『ドラクエ』の部署に配属になったんです。
それで打ち合わせに参加したとき、
堀井さんがいました。

※11
エニックス=1975年設立。『ドラゴンクエスト』シリーズなどを発売し、2003年にスクウェアと合併し、現在のスクウェア・エニックスとなる。

岩田

すごくシンプルですね(笑)。
なぜエニックスに入ろうと思ったんですか?

犬塚

エニックスだけ、当時の会社案内が面白かったんです。
会社案内に「レベル1 スライム」とか書いてあって、
ちょっとふざけていたんですね(笑)。
それで興味をもって受けてみようと思いました。
それに『ドラクエ』は本当に大好きでしたし。

岩田

ただ、お客さんとしてゲームを遊ぶのと、
ゲームをつくるのとではまったく別のことですよね。

犬塚

そうですね。

岩田

つくる立場になって、自分の愛する『ドラクエ』が
できていく過程を見て、どう感じていましたか?

犬塚

そうですね・・・。
自分の愛する『ドラクエ』がどうこうというより、
堀井さん、すぎやま先生(※12)、鳥山先生、
プログラマーの山名(学)さん(※13)、中村(光一)さん(※14)・・・
みなさんと会って話をしていると、
その才能がビジュアル化されて感じられたんです。
当時の個人的な感覚ですが。

※12
すぎやま先生=作曲家のすぎやまこういちさん。『亜麻色の髪の乙女』『恋のフーガ』など数々の大ヒット曲を手がける。『ドラゴンクエスト』シリーズ全作の音楽を手がける。過去、社長が訊く『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』に登場。
※13
山名学さん=プログラマーとして『ドラクエ』シリーズの開発にかかわる。現在はジニアス・ソノリティ代表。主な作品に『バトル&ゲット! ポケモンタイピングDS』『電波人間のRPG』などがある。過去、社長が訊く『バトル&ゲット! ポケモンタイピングDS』に登場。
※14
中村光一さん=プログラマーとして『ドラクエIV』までの開発にかかわる。現在はスパイク・チュンソフト代表取締役会長。主な作品に『トルネコの冒険』『風来のシレン』シリーズなどがある。

岩田

才能のオーラが光り輝いて見えた感じですか?

犬塚

そうです。だからそれだけで
「ああ、もう楽しい!」と思って、
「この人たちの仕事の手伝いをしていれば、俺は幸せだ」
と、わりと最初から思っていました。

岩田

それは仕事人として、
むちゃくちゃ幸せなことですよね。

犬塚

そう思います。

堀井

でも彼ね、じつはすごく苦労しているんです。
当時、移植ソフトのスーファミ『I・II』(※15)
担当したんだよね?

犬塚

はい、入社2年目くらいのときです。

※15
『I・II』=『ドラゴンクエストI・II 』。1993年12月にスーパーファミコン用ソフトとして、『ドラゴンクエスト』(ファミコン用ソフト 1986年発売)と『ドラゴンクエストII悪霊の神々』(ファミコン用ソフト 1987年発売)を1本のソフトにして発売されたリメイク作。

堀井

入社したときにはけっこうイケメンで、
こう見えても、俳優の渡部篤郎さんに似ていたんです(笑)。

一同

(笑)

岩田

こう見えてもって(笑)。

堀井

でも『I・II』をつくるのに
数か月、缶詰になったんですよ。
で、開発がおわって帰ってきたら坊主になっていて、
「ええーっ!」って思ったの、ははは(笑)。

犬塚

楽しかったですけどね(笑)。

岩田

苦悩の末、このように変身したんですか?

堀井

そうそう、変身したんです(笑)。
それから彼はすごいゲーマーで、
『ポケモン』もやり込んでいるよね。

犬塚

はい。預かり所に全ポケモンを集めましたから。

岩田

151コンプリートですか?

犬塚

いや、違います。640以上です。
『ブラック・ホワイト』(※16)で。

岩田

640種類以上のポケモンを
全部コンプリートされたんですか!?
ああ、それは本物だ・・・(笑)。

※16
『ブラック・ホワイト』=『ポケットモンスターブラック』と『ポケットモンスターホワイト』。2010年9月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたRPG。最初『ポケットモンスター 赤・緑』(1996年2月発売)で151種類登場したポケモンも、『ポケットモンスターブラック・ホワイト』では、約640種類以上になっている。

堀井

育てるのも集めるのも、すごく好きだよねえ。

犬塚

そうですねえ(笑)。
だから自社のゲームの中でも
『モンスターズ』はいちばんやります。
でも堀井さんはそのへん、淡白ですもんね。

堀井

うん、淡白。けっこう淡白(笑)。
自分でプレイするときはね。

岩田

ああいうゲームって、
人によって遊びかたがぜんぜん違いますよね。
マス目を埋めるように
全部集めないと気が済まない方もいるし、
とりあえず最後までいけばそれで幸せっていう方もいるし。

堀井

ボクは、効率重視なんですよ。
いかに合理的に早くラクにクリアするか、みたいな。

犬塚

だから堀井さん、中盤の使いやすいモンスターを
けっこう知っていますもんね。

堀井

そうそう(笑)。

岩田

それで最初の『テリーのワンダーランド』を
世に出したときの手ごたえは、どうだったんですか?

犬塚

最初はぜんぜん、手ごたえがよくなかったんです。
でも発売後の翌月ぐらいに、
全国の店舗でプレイヤー同士の大会の予選をはじめたら、
だんだんお客さんのリアクションがよくなってきました。

岩田

面白さがわかる人が徐々に増えていったということですか?

堀井

やっぱり人と対戦するのが面白かったんだよね。
最終的に、ソフトの販売は200万本を超えたし、
「あそこまで対戦のパワーがあるなんてすごい」
と思いました。

岩田

『モンスターズ』の中に出てくる
モンスターのデザインや、個性や設定は
どうやって生まれているんですか?
もともとは本編に登場するモンスターなのに、
この世界にキレイにおさまっている感じがするんですけど。

犬塚

うまくおさめるために、
オリジナルのモンスターもつくっています。
本編のときは、堀井さんがまず絵コンテを描いて、
そこからモンスターを構築するんです。
その中から、よさそうなものを
こちらで抜いて再構築して、
足りない部分は新規モンスターで埋めていきます。

堀井

いつも、新規モンスターは2割ぐらいだよね。

犬塚

はい。それこそ本編に加えて、
『ソード』(※17)や『トルネコ』など外伝も含めると、
モンスターは1600を超えるので、
“選び放題”なんですよ。

※17
『ソード』=『ドラゴンクエストソード 仮面の女王と鏡の塔』。2007年7月、Wii用ソフトとして発売された体感アクションRPG。

岩田

ものすごく充実したライブラリーがあるんですね。
ただ、「シリーズ過去作に出てくる
ラスボスまで『モンスターズ』に出していいのか?」
みたいな議論はないんですか?

犬塚

堀井さんは最初、ちょっといやがっていましたよね。

堀井

ええ。でも強く要望されて、お祭りソフトだから、
「まあ、いっかー!」みたいな。
なんかねえ・・・サービスみたいなものです。

岩田

サービスなんですか!?(笑)

堀井

そう、サービスです(笑)。