社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第24回:『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』

目次

5. 小骨をくだいて、わざと残す

岩田

『ドラクエ』の冒険って、
自身を投影する度合いが高い理由のひとつに、
世界観にも『ドラクエ』らしさというものが
あると思うんですが、
眞島さんは、そこをどう思われていますか?

眞島

『ドラクエ』で描かれるエピソードって、
全体としては壮大ではあるけれど
どこかの国の絵空事ではなくて、
一つひとつは本当に自分の
身の回りくらいの身近なスケール感で想像できる
シリアスな内容なんですね。
それが『ドラクエ』らしさじゃないかと思います。
僕が印象的なのは、
「嫉妬で犬に毒を盛る女」とか・・・。
もちろんリアルな描写はないですけれど、
遊ぶ人の心に強くイメージが浮かぶんです。

岩田

それは、「ぜんぶ画面の上で描ききらなくても
お客さんには通じるんだ」っていうのを、
堀井さんは信じてらっしゃるからなんでしょうね。

眞島

そうですね。
あとは全体的な設定でいうと、
『ドラクエ』って、魔界に行っても
タンスがあれば開けるし、同時に宝箱も開けるという
両極端なバランスが成立している世界なんですね。
それは魔界であろうがなんであろうが、
そういうスケール観でできることは維持しつつ、
善と悪の究極の戦いを描くということを
シリーズを通じてずっと維持しているんです。

岩田

当たり前のように感じていますが、
じつはけっこう、マネのできないことですよね。

眞島

はい。そんな中でも
「あそこはどうなってるんだ?」と思うところに
すべて答えを用意しているのが、システムとしての
『ドラクエ』らしさなんじゃないかと思っています。
たとえばトビラがあれば絶対入れるし、
ツボがあったら割れるわけです。

岩田

「つくり手の都合によるウソはない」
ということですよね。

眞島

堀井さんがご自身で
どう思っているのかわからないですけれど、
そういうことでお客さんに
ウソをつかない暗黙のルールがあるんですね。

岩田

わたしから見ると堀井さんは、
それを意識的にされている部分と、
自然とされている部分とが両立していて、
そのふたつが地続きになっている感じがしています。
堀井さんのゲームのつくりかたが
構造的に言語化できないのも、
それが地続きで存在しているからなんです。
だから、わたしはこうやって何度かお話を訊いて、
そのたびに「なるほど」とは思うんですけど、
結局、いまだに本当の全容は、わかっていないんです。

眞島

地続きという言いかたは、すごくふさわしいですよね。
「魔王の城が最初の町のすぐ近くにある」
という距離感の表現ひとつとっても、
都合が悪いからそこをごまかしたりとか
うやむやにしてる部分って、一切ないんです。

岩田

「主人公が勝手にしゃべらないこと」とか、
「誰でも遊べる基本的な作法」とかも、
ぜんぶ現実と地続きの話なんですよね。
・・・ああ、すみません。
わたしが勝手に盛り上がってしまいました。

一同

(笑)

岩田

先ほど、今回リメイクするにあたって
「迷わない、不安にさせない、
 わかりやすい『VII』をつくろう」という
コンセプトとお訊きしたんですが、
「ゲームがヌルくなったのか?」と
感じられてしまうこともありますよね。
そこの葛藤はどうやって埋めたんですか?

堀井

いや、石版は
たしかに見つけやすくなっていますが、
それ以外の部分では、
まだかなり歯ごたえはあると思いますよ。
あんまり簡単にしすぎると、
つまらなくなってしまいますし。

岩田

いくら便利になっても、
導かれていることをやるだけになったら、
自分でやったという満足感がないですよね。
そのさじ加減は堀井さんの感覚で
調整されているんですか?

藤本

そうですね。たとえば、開発途中の段階では、
できるかぎりていねいに、やさしくつくろうと、
下画面に地図を表示するようにしたんですけど、
最初は宝箱のありかも見えていたんです。
でもそれは最終的に、
堀井さんの指示で表示をなくしました。
でもその一方で、石版は見せてるんですよ。

岩田

「答えをぜんぶ見せてはいけない」ということですよね。
たぶんそれをやるとお客さんは
「やらされている気持ちになるんじゃないか」という、
堀井さんのセンサーが動いたんですか?

堀井

うん、やっぱり見えている宝箱を取るというのは、
「作業になってしまう」と思うんです。
でも「行った先のほうに何かあるかもしれない」と思って
見つけるのは作業でなくなるんです。

岩田

そこに表示があるかないかのちがいですけれど、
それが作業になるか、自分の冒険になるかは
大きく意味がちがってきますよね。

眞島

そういう意味では、最初の島の構成は、
テストプレイをした堀井さんの意見で
開発の終盤にガーッと、変えたんですよね。

岩田

まあ、いわゆる「ちゃぶ台返し」ですね。

堀井

いや、アルテさんに自由にやってもらった部分も多いし
ちゃぶ台は、そんなにはひっくり返していないですよ(笑)。

一同

(笑)

眞島

でも、たしかにけっこう
大きな変更ではあったんですが、
そこを折れてしまうと、
『ドラクエ』がこれまで守ってきたものを
あきらめることになってしまうんですね。
だからそういった最後のさじ加減は重要で、
やり通すべきなんだと思っています。

岩田

「単純に難易度を下げた」わけではなくて
「いまの時代にいまのお客さんが
 ストレスに感じるかもしれない部分を
 徹底して、ていねいに調整しました」
というのが、正しい言いかたな気がしますね。
それはもちろん人によって多少個人差はあるけれど、
どの人から見ても理不尽と思わせないように、
「すごく普通の人」である堀井さんが、
小骨をひとつずつ、ていねいに、
抜いていくわけですよね。

眞島

そうですね。でもたぶん堀井さんは、
その小骨を抜きはするけれど、同時にそれをくだいて
ほんのちょっとだけ残したりもするんです。
「コリコリしたところがおいしいでしょ?」って。

岩田

ああ、なるほど。
わざと残して味わってもらうんですか(笑)。
「ここならちょっと苦労したほうがいいな」
という感じの、隠しのさじ加減があるんですね。

堀井

ありますね(笑)。
ボクがいつもいちばん気にしているのは、
“とっかかりの部分”なんです。
そこでやるべきことがわかって
すーっと入ってきてもらえると、
そのあとは多少難しくても
お客さんはついてきてくれるんじゃないかと。

岩田

多少歯ごたえを残しておかないと、
平坦になりますからね。
だから今回も、最初の島の部分は
だいぶわかりやすく変えたけれど、
「本編のほうは歯ごたえは残していますよ」
ということなんですね。

杉村

そこは、わたしが20年くらい前から
ずっとくり返し堀井先生から
お聞きしている言葉があるんです。
謎解きの難易度は、
「あそこは難しいから、
 みんなは解けないんじゃないかなあ。
 ・・・ボクはクリアできたけどね」
というのを、“誰もが”感じるようなものを、
目指すべきだと。

岩田

いや、『ドラクエ』のことをお訊きすると
毎回、堀井さんの話になってしまうんですよね(笑)。
でも堀井さんのものづくりの考えかたや
やってきたことの一つひとつが、
日本のゲーム業界をここまで引っ張ってくれた
大きな力のひとつなので、
いつも自然とそこに話が行きつくんです。

堀井

ゲームをつくってるときって、
たいていの人は無意識に
いろんな行間を自分で埋めてしまうんです。
でも「ここまでやれば大丈夫だろう」と思っても、
人によって行間はちがいますから
「どう操作していいかわからない」とか
「何をすればいいのかわからない」みたいなことが
起きてくると思うんですね。

岩田

はい。

堀井

だから、操作性でいえばできるだけ
行間をつくらないようにしています。
たとえば、『ドラクエ』をはじめてつくったときのコマンド、
「はなす」とか「つよさ」とか
「どうぐ」とか、誤解しようのない言葉ですよね。
徹底的にわかりやすく、
しかも余分なことは言わないんです。

岩田

けっして説明過剰じゃないんですよね。
そこが毎回すごくおもしろいところなんです。
たぶん「ていねいにしすぎる」ことは誰でもできるけど、
「説明すればいい」というわけではないんですよね。
「そんなことはわかってるよ」って
お客さんに思われたら、負けなわけですから。

眞島

そういう意味では『ドラクエ』って、
いままで一度もチュートリアルモード(※18)はないんです。

※18
チュートリアルモード=ゲームの導入部などで操作方法などを解説するシステム。

杉村

そうですね、たしかに。

堀井

わからないことがあると
不安に思うかもしれませんが、だからといって、
ぜんぶをわかってもらう必要はないわけです。
あまりに長いチュートリアルは見るほうも大変ですから、
もっと短時間で「わかったつもりになってもらう」ことが
重要なんですね。

岩田

堀井さんがおっしゃっている
便利さとかやさしさは、
一言では語れないんですよね。
でもきっと、最初に「わかった気になる」ことで
お客さんと信頼関係を結ぶことが
本当の目的なんでしょうね。